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後編

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 ◆


 早いもので、あれからもう二年半が経った。

 思いきって勢いよく結婚した私だったが、今も夫と共に穏やかに楽しく生活できている。

「朝ごはん作ったから、ここに置いておくね」
「ありがとう!」

 夫はとても良い人だ。
 結婚までの期間は短かったけれど一緒に暮らしていく中で彼の良いところをたくさん知ることができて今日に至っている。

「ああ、美味しいなぁ、今日も」
「ありがとう」
「本当にいつもありがとうね、美味しい料理作ってくれて」
「いえいえ」

 彼には感謝の心というものが存在している。それが何よりも大きい。人とは感謝して生きてゆくべきなのだ、改めてそう感じた。感謝を忘れないことで思いやりが生まれる、そして、思いやりを持って関われば人と人は大抵穏やかに過ごしてゆけるものなのだ。

 夫にはたくさんのことを教えてもらった。

「食べてもらえると嬉しい!」
「そんな。僕はただ食べてるだけで……ちょっと、申し訳ないんだけど」
「感想言ってくれるでしょ? それが嬉しいの。美味しいって言ってもらえることが何よりも幸せで」

 だから私も彼に何かを少しでも返していきたい。

 ああそうだ、そういえば。

 ティーリスはあの後複数の馬車が追突する事故に巻き込まれたそうで、何一つ遺らない状態であの世へ逝ってしまったそうだ。

 彼が生きた証は一切遺らなかった。
 本来あるものであろう亡骸さえも。

 ちなみに義妹はというと。
 ティーリスと離れた後に顔がとても好きな人と結婚したようだが、その相手が凄まじく悪質なモラハラ男だったそうで、その人と一緒に暮らしていたために心を病んでしまったようだ。


◆終わり◆
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