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前編

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 婚約者ティーリスに婚約破棄を告げられたのは、今から一ヶ月ほど前のことだ。

 ティーリスは裏でこっそり寄っていっていた私の義妹にあたる人と生きることを選んだ――それで婚約破棄してきたという話なのだが――それから間もなく義妹のわがままに振り回されることに疲れ、その婚約も驚くほど短期間で破棄に。

 そしてティーリスはまた私の前に現れた。

「やり直そう、俺と」

 彼は平然とそんなことを言ってきた。

 あの婚約破棄宣言の時、彼は、いくつもの心ない言葉を並べた。それも罪悪感など一切ない感じで、である。容姿を侮辱し、性格をも悪く言って。しまいには義妹への接し方に関して彼女を嘘を信じ込んで心ない批判までした。

 少々の嫌みや悪口ではない。
 日常で出会うような失礼な言葉でもない。

 彼が発した言葉の中には、私の生き方及び人格そのものを否定するようなものが多く含まれていた。

「すみませんがお断りします」

 そんなことを言われて、それからまだ半年も経っていないのに、彼とやり直すなんて――そんなのは心理的に不可能だ。

「何だって?」
「あのような人格否定発言をされて、それからまだ少ししか経っていないのですよ。それでやり直すなど、心情として不可能です」
「だ、だが」
「それに、貴方とて、あそこまで言った女と結婚するなんて嫌でしょう? 他の女性をお探しになってください」

 私は丁重にお断りした。

 本当は彼の顔なんて一生見たくなかった。
 今だって、自分なりに頑張って隠してはいるけれど、その顔を見ただけで吐きそうなのだ。

 何とかこらえられてはいるけれど。

 胃は気持ち悪いし胸周りにも違和感がある、喉はいがいがするし、脳内には不快の文字がびっしり詰まっている――そんな状態だ。

「さようなら、もう二度とお会いすることはないでしょう」

 その後少しして私は幼馴染みの紹介で知り合った青年と結婚した。

 とにかく早くくっつきたかったのだ。
 そうすれば彼に近寄られずに済むような気がしていたから。
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