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前編
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「私、その、フルレリアといいます……! ロイド様! あの……もしよければ相談に乗っていただきたいのですけれど……!」
「相談? いいよ。何だい」
「あっ、あの……実は、ここでは言いづらくって……」
「じゃあどこかへ行って話すかい?」
思えば、始まりはそんなだった。
私と彼の終わりの始まりは。
領地持ちの家に生まれた私、セルジュ。最近領地持ちになったばかりの家の子息であるロイド。私たちは、家と家の契約によって、婚約者となった。しかし、いざ関わるようになると相性は案外悪くなく、恋愛感情は湧かないものの親しい友のようにはなれた。
私たちの婚約はきっと上手くいく。
たとえ恋愛感情からの始まりでなくとも、きっと温かい家庭を築けるはず。
私はらしくなくそんな希望を抱いていた。いつも笑顔で接してくれるロイドのことは嫌いではなかったし、それなりに信頼していた。
だがある時、ロイドに関わってくる女性が現れる。
名はフルレリア。私より五つ年下で、ロイドより三つ年下、わざとらしいくらい可憐な雰囲気をまとっている人物だ。可愛い容姿であることは確かだが、完全にぶりっこ女というやつである。常にか弱いふりをすることで男を狙う、生まれながらのハンター。
彼女が目の前に現れて、ロイドはすっかり狩られてしまったようだ。
それ以来、私とロイドの関係性は徐々に変わっていった。
ロイドはことあるごとにフルレリアを出してくる。
私が風邪を引いてしまって頼みごとをしようとしても、彼は「フルレリアから相談されていてそちらに行かないわけにはいかない」と言ってまったくもって対応してくれない。
私が彼の誕生日に贈り物を渡すと、彼は「フルレリアはもっと高級なものをくれた。しかも、そんなに裕福でないのに、物凄く頑張って」と嫌みを言われる。
そんなことばかりが繰り返されるうちに、段々、彼と関わるのが嫌になってきた。
フルレリアを気に入っているならそちらへ行けば良いではないか。わざわざ私に嫌みを言う必要なんてないはずだ。はっきり本当のことを言って、婚約を破棄すれば良い。もちろん契約違反の償いはしてもらうことになるが、フルレリアのことしか考えられないならそうした方が早いだろう。
しかし彼は婚約破棄はしなかった。
家と家の契約だから簡単に無かったことにはできなかったのかもしれない。そこは理解できないわけではないけれど、それでも、何事にもやり方というものがあるだろう。明るみに出なければ何をしても問題ない、というわけではない。
表では何も起きていないかのように振る舞いつつフルレリアと会い続けるロイドの卑怯さに、私は苛立つばかりだった。
いつしか彼への信頼は消え去った。
最初は「慕われて浮かれているのだろう」と見逃そうとしている部分もあったのだが、それも消え去ってしまった。
私はもう彼と共に行くことはできない。そう理解したちょうどその頃に、ロイドに旅行の予定が入った。何でも、領地持ちとして生きてゆくための研修だとか。だがそんな話はこれまで一度も聞いたことがない。唐突なことで、怪しさしかなかった。
これで終わるためのきっかけを掴めるかもしれない。そう考え、調査員を送り込むことにした。
「相談? いいよ。何だい」
「あっ、あの……実は、ここでは言いづらくって……」
「じゃあどこかへ行って話すかい?」
思えば、始まりはそんなだった。
私と彼の終わりの始まりは。
領地持ちの家に生まれた私、セルジュ。最近領地持ちになったばかりの家の子息であるロイド。私たちは、家と家の契約によって、婚約者となった。しかし、いざ関わるようになると相性は案外悪くなく、恋愛感情は湧かないものの親しい友のようにはなれた。
私たちの婚約はきっと上手くいく。
たとえ恋愛感情からの始まりでなくとも、きっと温かい家庭を築けるはず。
私はらしくなくそんな希望を抱いていた。いつも笑顔で接してくれるロイドのことは嫌いではなかったし、それなりに信頼していた。
だがある時、ロイドに関わってくる女性が現れる。
名はフルレリア。私より五つ年下で、ロイドより三つ年下、わざとらしいくらい可憐な雰囲気をまとっている人物だ。可愛い容姿であることは確かだが、完全にぶりっこ女というやつである。常にか弱いふりをすることで男を狙う、生まれながらのハンター。
彼女が目の前に現れて、ロイドはすっかり狩られてしまったようだ。
それ以来、私とロイドの関係性は徐々に変わっていった。
ロイドはことあるごとにフルレリアを出してくる。
私が風邪を引いてしまって頼みごとをしようとしても、彼は「フルレリアから相談されていてそちらに行かないわけにはいかない」と言ってまったくもって対応してくれない。
私が彼の誕生日に贈り物を渡すと、彼は「フルレリアはもっと高級なものをくれた。しかも、そんなに裕福でないのに、物凄く頑張って」と嫌みを言われる。
そんなことばかりが繰り返されるうちに、段々、彼と関わるのが嫌になってきた。
フルレリアを気に入っているならそちらへ行けば良いではないか。わざわざ私に嫌みを言う必要なんてないはずだ。はっきり本当のことを言って、婚約を破棄すれば良い。もちろん契約違反の償いはしてもらうことになるが、フルレリアのことしか考えられないならそうした方が早いだろう。
しかし彼は婚約破棄はしなかった。
家と家の契約だから簡単に無かったことにはできなかったのかもしれない。そこは理解できないわけではないけれど、それでも、何事にもやり方というものがあるだろう。明るみに出なければ何をしても問題ない、というわけではない。
表では何も起きていないかのように振る舞いつつフルレリアと会い続けるロイドの卑怯さに、私は苛立つばかりだった。
いつしか彼への信頼は消え去った。
最初は「慕われて浮かれているのだろう」と見逃そうとしている部分もあったのだが、それも消え去ってしまった。
私はもう彼と共に行くことはできない。そう理解したちょうどその頃に、ロイドに旅行の予定が入った。何でも、領地持ちとして生きてゆくための研修だとか。だがそんな話はこれまで一度も聞いたことがない。唐突なことで、怪しさしかなかった。
これで終わるためのきっかけを掴めるかもしれない。そう考え、調査員を送り込むことにした。
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