16 / 23
16話「約束の日までのあれこれ」
しおりを挟む
ラムティクへ返事を出すことにした。
というのも、手紙を貰えたことが本当に嬉しかったのだ。加えて、彼が無事であることへの安堵を伝えたいという気持ちも大きかった。
ただただ今の心境を伝えたくて、私は便箋を取り出した。
すぐに会うことはできないけれど今はもう悲しくはない。理不尽な襲撃への怒りは完全には消えずとも、絶望は宙に散って消えた。
生きてさえいてくれればそれでいい、生きてさえいてくれれば、いつかはきっとまた会えるから……。
離れていても心は傍に在る。良い時も悪い時もすべて含めて、どんな時も連帯の意思を持っている。そのことを伝えたくて筆を手にした。
あれから十日ほど時が流れて。
「マリエさん、ですね」
「え。あ、はい、そうです」
「退院された殿下より伝言があり参りました」
遣いが我が家へやって来た。
「ラムティクさまからの伝言、ということですよね」
「はい、その通りです」
「お聞きしたいです」
「ではお伝えします。まず、手紙は受け取った、とのことです。喜んでいると伝えておくよう指示がありました」
それを聞いてほっとした。
あの手紙はきちんと彼のもとへ飛んでいってくれていたのだと知ることができて嬉しかった。
「そして次ですが」
「はい」
「近々マリエさんを城へ招きたい、とのことです」
城への招待の件についても返事として出した手紙に書いておいたのだ。前向きに考えたいと思っている、と。機会があれば行ってみたい、もう迷わない、と。だからこその改めてのお誘いなのだろう。
「返事をいただけますでしょうか」
「お招きありがとうございます、ぜひ行きたいと思っています」
「では殿下へそのように伝えておきます」
「お手数おかけしましてすみません、ありがとうございます」
「いえ、仕事ですから」
それから数日が経ち、改めて、城への招待を報せる手紙が届いた。
手紙と言っても前にラムティクがくれたようななんてことのない話も含んだものではない。どちらかといえば事務的なカラーの強いものである。ただ、それも当然なのだ。前回のものは個人的な手紙であったのだけれど、今回のものは城へ招くという意味を持った手紙であるわけだから。二通が持つ意味はそれぞれ異なるもの、ゆえに、その雰囲気が同一でなくてもおかしな話ではない。
城へ行く日はついに決まった。
緊張はするけれど楽しまなくては損だ。
ラムティクは善良な人だから、きっと、私を傷つけるようなことはしないだろう。
彼を信じて。
前を向いて。
今はただ与えられたチャンスを逃さずに歩もう。
その先にはまたきっと見たことのない世界が広がっているはずだから。
そしてそこには希望も光もあるはずだから。
服ってどんなの着ていけばいいんだろう――なんて思っていたことは、ここだけの秘密にしておこう。
そして約束の日。
前もって決まっていた時間に家の前へお迎えが来た。
「どうぞ、お乗りください」
「ありがとうございます」
母親とも相談して決めたワンピースは私が持っている中ではそこそこ高級な生地のもの。ただしデザイン自体は派手ではない。そして色みもラベンダーを想わせるような控えめなものだ。清潔感はほどよくあり目立ち過ぎない、そういうところを目指した結果このワンピースを着ることとなった。
「お荷物はこちらへ」
「あ、はい」
ラムティクは少し用事が入ってしまったそうで迎えには来れなかった。
なので城へと向かう道は一人となってしまった。
でもそのことについては気にしていない。ラムティクは高貴な人だし、それゆえの忙しさがあることは知っている。彼には彼のいろんな事情があるということはきちんと理解しているつもりだ。だから小さなことへ文句は言わない。
というのも、手紙を貰えたことが本当に嬉しかったのだ。加えて、彼が無事であることへの安堵を伝えたいという気持ちも大きかった。
ただただ今の心境を伝えたくて、私は便箋を取り出した。
すぐに会うことはできないけれど今はもう悲しくはない。理不尽な襲撃への怒りは完全には消えずとも、絶望は宙に散って消えた。
生きてさえいてくれればそれでいい、生きてさえいてくれれば、いつかはきっとまた会えるから……。
離れていても心は傍に在る。良い時も悪い時もすべて含めて、どんな時も連帯の意思を持っている。そのことを伝えたくて筆を手にした。
あれから十日ほど時が流れて。
「マリエさん、ですね」
「え。あ、はい、そうです」
「退院された殿下より伝言があり参りました」
遣いが我が家へやって来た。
「ラムティクさまからの伝言、ということですよね」
「はい、その通りです」
「お聞きしたいです」
「ではお伝えします。まず、手紙は受け取った、とのことです。喜んでいると伝えておくよう指示がありました」
それを聞いてほっとした。
あの手紙はきちんと彼のもとへ飛んでいってくれていたのだと知ることができて嬉しかった。
「そして次ですが」
「はい」
「近々マリエさんを城へ招きたい、とのことです」
城への招待の件についても返事として出した手紙に書いておいたのだ。前向きに考えたいと思っている、と。機会があれば行ってみたい、もう迷わない、と。だからこその改めてのお誘いなのだろう。
「返事をいただけますでしょうか」
「お招きありがとうございます、ぜひ行きたいと思っています」
「では殿下へそのように伝えておきます」
「お手数おかけしましてすみません、ありがとうございます」
「いえ、仕事ですから」
それから数日が経ち、改めて、城への招待を報せる手紙が届いた。
手紙と言っても前にラムティクがくれたようななんてことのない話も含んだものではない。どちらかといえば事務的なカラーの強いものである。ただ、それも当然なのだ。前回のものは個人的な手紙であったのだけれど、今回のものは城へ招くという意味を持った手紙であるわけだから。二通が持つ意味はそれぞれ異なるもの、ゆえに、その雰囲気が同一でなくてもおかしな話ではない。
城へ行く日はついに決まった。
緊張はするけれど楽しまなくては損だ。
ラムティクは善良な人だから、きっと、私を傷つけるようなことはしないだろう。
彼を信じて。
前を向いて。
今はただ与えられたチャンスを逃さずに歩もう。
その先にはまたきっと見たことのない世界が広がっているはずだから。
そしてそこには希望も光もあるはずだから。
服ってどんなの着ていけばいいんだろう――なんて思っていたことは、ここだけの秘密にしておこう。
そして約束の日。
前もって決まっていた時間に家の前へお迎えが来た。
「どうぞ、お乗りください」
「ありがとうございます」
母親とも相談して決めたワンピースは私が持っている中ではそこそこ高級な生地のもの。ただしデザイン自体は派手ではない。そして色みもラベンダーを想わせるような控えめなものだ。清潔感はほどよくあり目立ち過ぎない、そういうところを目指した結果このワンピースを着ることとなった。
「お荷物はこちらへ」
「あ、はい」
ラムティクは少し用事が入ってしまったそうで迎えには来れなかった。
なので城へと向かう道は一人となってしまった。
でもそのことについては気にしていない。ラムティクは高貴な人だし、それゆえの忙しさがあることは知っている。彼には彼のいろんな事情があるということはきちんと理解しているつもりだ。だから小さなことへ文句は言わない。
41
あなたにおすすめの小説
「愛される価値がない」と言われ続けた伯爵令嬢、無口な騎士団長に拾われて初めて「おかえり」を知る
歩人
ファンタジー
伯爵令嬢フリーダは、婚約者の子爵に「お前は愛される価値がない」と
公の場で婚約を破棄された。家族にも「お前が至らないから」と責められ、
居場所を失った彼女は、雨の中を一人で歩いていた。
声をかけたのは、"鉄面皮"と呼ばれる騎士団長グスタフだった。
「屋根がある。来い」——たった一言で、彼女を騎士団の官舎に迎え入れた。
無口で不器用な男は、毎朝スープを温め、毎晩「おかえり」と言い、
フリーダが泣くと黙って隣に座った。それだけだった。
それだけで、フリーダの凍りついた心が溶けていった。
半年後、落ちぶれた元婚約者が「やり直そう」と現れたとき、
フリーダは初めて自分の言葉で言えた。
「私にはもう、帰る場所がありますので」
【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです
果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。
幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。
ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。
月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。
パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。
これでは、結婚した後は別居かしら。
お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。
だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。
わたしと婚約破棄? では、一族の力を使って復讐させていただきますね
ともボン
恋愛
伯爵令嬢カスミ・リンドバーグは、第二王太子シグマとの婚約お披露目パーティーで衝撃的な告白をされる。
「カスミ・リンドバーグ! やはりお前とは結婚できない! なのでこの場において、この僕――ガルディア王国の第二王太子であるシグマ・ガルディアによって婚約を破棄する!」
理由は、カスミが東方の血を引く“蛮族女”だから。
さらにシグマは侯爵令嬢シルビアを抱き寄せ、彼女と新たに婚約すると貴族諸侯たちに宣言した。
屈辱に染まる大広間――だが、カスミの黒瞳は涙ではなく、冷ややかな光を宿していた。
「承知しました……それではただいまより伯爵令嬢カスミ・リンドバーグではなく、ガルディア王国お庭番衆の統領の娘――カスミ・クレナイとして応対させていただきます」
カスミが指を鳴らした瞬間、ホール内に潜んでいたカスミの隠密護衛衆が一斉に動き出す。
気がつけばシグマは王城地下牢の中だった。
そこに現れたのは、国王バラモンと第一王太子キース――。
二人はカスミこそ隣国との戦争で王国を勝利へ導いたクレナイ一族の姫であり、シグマの暴挙は王家にとっても許されぬ大罪だとしてシグマとの縁を切った。
それだけではなく、シグマには想像を絶する処罰が下される。
これは婚約破棄から生まれる痛快な逆転劇と新たなラブストーリー。
遊び人の侯爵嫡男がお茶会で婚約者に言われた意外なひと言
夢見楽土
恋愛
侯爵嫡男のエドワードは、何かと悪ぶる遊び人。勢いで、今後も女遊びをする旨を婚約者に言ってしまいます。それに対する婚約者の反応は意外なもので……
短く拙いお話ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
このお話は小説家になろう様にも掲載しています。
つかぬことを伺いますが ~伯爵令嬢には当て馬されてる時間はない~
有沢楓花
恋愛
「フランシス、俺はお前との婚約を解消したい!」
魔法学院の大学・魔法医学部に通う伯爵家の令嬢フランシスは、幼馴染で侯爵家の婚約者・ヘクターの度重なるストーキング行為に悩まされていた。
「真実の愛」を実らせるためとかで、高等部時代から度々「恋のスパイス」として当て馬にされてきたのだ。
静かに学生生活を送りたいのに、待ち伏せに尾行、濡れ衣、目の前でのいちゃいちゃ。
忍耐の限界を迎えたフランシスは、ついに反撃に出る。
「本気で婚約解消してくださらないなら、次は法廷でお会いしましょう!」
そして法学部のモブ系男子・レイモンドに、つきまといの証拠を集めて婚約解消をしたいと相談したのだが。
「高貴な血筋なし、特殊設定なし、成績優秀、理想的ですね。……ということで、結婚していただけませんか?」
「……ちょっと意味が分からないんだけど」
しかし、フランシスが医学の道を選んだのは濡れ衣を晴らしたり証拠を集めるためでもあったように、法学部を選び検事を目指していたレイモンドにもまた、特殊設定でなくとも、人には言えない事情があって……。
※次作『つかぬことを伺いますが ~絵画の乙女は炎上しました~』(8/3公開予定)はミステリー+恋愛となっております。
妹を選んで婚約破棄した婚約者は、平民になる現実を理解していなかったようです
藤原遊
恋愛
跡継ぎとして育てられた私には、将来を約束された婚約者がいた。
――けれど彼は、私ではなく「妹」を選んだ。
妹は父の愛人の子。
身分も立場も分かったうえでの選択だと思っていたのに、
彼はどうやら、何も理解していなかったらしい。
婚約を破棄し、妹と結ばれた彼は、
当然のように貴族の立場を失い、平民として生きることになる。
一方で、妹は覚悟を決めて現実に向き合っていく。
だが彼だけが、最後まで「元に戻れる」と信じ続けていた。
これは、誰かが罰した物語ではない。
ただ、選んだ道の先にあった現実の話。
覚悟のなかった婚約者が、
自分の選択と向き合うまでを描いた、静かなざまぁ物語。
遊び人の婚約者から面白くないと言われたうえ婚約破棄されました――が、彼から解放されて前向きになれ、また、幸せにも出会えました。
四季
恋愛
遊び人の婚約者から面白くないと言われたうえ婚約破棄されました――が、彼から解放されて前向きになれ、また、幸せにも出会えました!
「貴女、いい加減コンロコ様から離れてくださらないかしら」婚約者の幼馴染み女からそんなことを言われたのですが……?
四季
恋愛
「貴女、いい加減コンロコ様から離れてくださらないかしら」
婚約者の幼馴染み女からそんなことを言われたのですが……?
※一部修正しました。そのため、見づらい等ありましたらすみません。(>_<)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる