6 / 7
王弟夫妻襲来3 side エリック
しおりを挟む
僕が倒した椅子は、ホレスの従者が直してくれていた。
扉を閉めて、ホレスに視線を向けた。きっと、今の僕の視線は凶器だろう。これでも武家の生まれだ。人を威圧する術の一つや二つ知っている。
「……ホレス、なんてことをしてくれたんだ?もしも、彼女が僕の元を去ったらどうしてくれる。」
地の底を這うような声だと、自分でも思った。
彼女と出会ってからは、出したことのない声だ。彼女は、僕の気分を害するようなことはしないから。職務と言ってしまえばそれまでだけど、いつも彼女からは僕を気遣う気持ちが感じられた。
……今日のことだって、突然のことだったのにここまできちんと準備をしてくれた。僕の希望を聞いて前髪を切らないでいてくれたし、丁寧に磨き上げた僕を見ても何かを言うことはなかったし、顔にも出さなかった。
人嫌いの僕にとって、近くにいても不快に感じない彼女がどれほど貴重な存在なのか、きっと彼らは分かっていない。
半年程度の付き合いで何をと、思うのかもしれない。それでも、彼女が来てからの日々は、モノクロだった僕のそれに色がついたようだったし、とても呼吸が楽になったんだ。
……もう僕は、彼女のいない生活には戻れない。一人でやり過ごすような、呼吸の仕方は忘れてしまった。彼女を失えば、僕はもう息が出来なくなるだろう。
僕は、この気持ちが依存であると分かっている。でも、それだけではない。愛してもいるのだ。無理に関係を変えるつもりもなかった。
それなのに、さっきは口が滑ってしまった。彼女が遮ってくれたから、なにもなかったけど。
「すまないと思ってる。……それでも、私は国のために動かなければならない。」
「……国のため、ね。君も、王家に連なる者だから分かっているとは思うけど、『僕』を敵に回すことが国のためになると本気で思ってる?」
「……あなたは、王家に忠誠を誓っているはずだ。」
ホレスは硬い声で言った。
確かに、この家は王家に忠誠を誓っている。代々続く武家の中でも、この家は飛び抜けて優秀だ。……でも、従順なだけが忠臣ではない。
「……ああ、確かにそうだ。でも、誰だって、『大切な人』を害されれば腹がたつだろう?……それから、王に代わりはいても僕の『大切な人』の代わりはいない。そのことをよく覚えておくんだな。」
そう、僕はホレスのように、『大切な人』の代わりがいない。
ホレスは僕の言いたいことが分かったのか、苦虫を噛み潰したような顔で悲しげに目を伏せた。姉上はそんなホレスを射殺さんばかりに見つめていた。……この夫婦の仲は、昔から何も変わっていないようだ。
「……晩餐は勝手にしろ。客間はいつもの部屋を使うといい。明日には帰ってくれ。夜会には出ると約束しよう。」
面倒臭くなって、食堂を出た。背後からは、姉上のヒステリックな声が聞こえる。癇癪を起こすのはいいが、あまり汚してくれるなよと思った。
地下室に戻ろうかとも思ったが、胸騒ぎがして、何とかして今日のうちにもう一度彼女と話をしなければと思った。
首から下げている指輪に意識を集中させ、彼女の居場所を探った。
扉を閉めて、ホレスに視線を向けた。きっと、今の僕の視線は凶器だろう。これでも武家の生まれだ。人を威圧する術の一つや二つ知っている。
「……ホレス、なんてことをしてくれたんだ?もしも、彼女が僕の元を去ったらどうしてくれる。」
地の底を這うような声だと、自分でも思った。
彼女と出会ってからは、出したことのない声だ。彼女は、僕の気分を害するようなことはしないから。職務と言ってしまえばそれまでだけど、いつも彼女からは僕を気遣う気持ちが感じられた。
……今日のことだって、突然のことだったのにここまできちんと準備をしてくれた。僕の希望を聞いて前髪を切らないでいてくれたし、丁寧に磨き上げた僕を見ても何かを言うことはなかったし、顔にも出さなかった。
人嫌いの僕にとって、近くにいても不快に感じない彼女がどれほど貴重な存在なのか、きっと彼らは分かっていない。
半年程度の付き合いで何をと、思うのかもしれない。それでも、彼女が来てからの日々は、モノクロだった僕のそれに色がついたようだったし、とても呼吸が楽になったんだ。
……もう僕は、彼女のいない生活には戻れない。一人でやり過ごすような、呼吸の仕方は忘れてしまった。彼女を失えば、僕はもう息が出来なくなるだろう。
僕は、この気持ちが依存であると分かっている。でも、それだけではない。愛してもいるのだ。無理に関係を変えるつもりもなかった。
それなのに、さっきは口が滑ってしまった。彼女が遮ってくれたから、なにもなかったけど。
「すまないと思ってる。……それでも、私は国のために動かなければならない。」
「……国のため、ね。君も、王家に連なる者だから分かっているとは思うけど、『僕』を敵に回すことが国のためになると本気で思ってる?」
「……あなたは、王家に忠誠を誓っているはずだ。」
ホレスは硬い声で言った。
確かに、この家は王家に忠誠を誓っている。代々続く武家の中でも、この家は飛び抜けて優秀だ。……でも、従順なだけが忠臣ではない。
「……ああ、確かにそうだ。でも、誰だって、『大切な人』を害されれば腹がたつだろう?……それから、王に代わりはいても僕の『大切な人』の代わりはいない。そのことをよく覚えておくんだな。」
そう、僕はホレスのように、『大切な人』の代わりがいない。
ホレスは僕の言いたいことが分かったのか、苦虫を噛み潰したような顔で悲しげに目を伏せた。姉上はそんなホレスを射殺さんばかりに見つめていた。……この夫婦の仲は、昔から何も変わっていないようだ。
「……晩餐は勝手にしろ。客間はいつもの部屋を使うといい。明日には帰ってくれ。夜会には出ると約束しよう。」
面倒臭くなって、食堂を出た。背後からは、姉上のヒステリックな声が聞こえる。癇癪を起こすのはいいが、あまり汚してくれるなよと思った。
地下室に戻ろうかとも思ったが、胸騒ぎがして、何とかして今日のうちにもう一度彼女と話をしなければと思った。
首から下げている指輪に意識を集中させ、彼女の居場所を探った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
虫ケラ扱いの男爵令嬢でしたが、牧草風呂に入って人生が変わりました〜公爵令息とはじめる人生の調香〜
もちもちしっぽ
恋愛
男爵令嬢フレッチェは、父を亡くして以来、継母と義妹に粗末に扱われてきた。
ろくな食事も与えられず、裏庭の木の実を摘み、花の蜜を吸って飢えをしのぐ日々。
そんな彼女を、継母たちは虫ケラと嘲る。
それでもフレッチェの慰めは、母が遺してくれた香水瓶の蓋を開け、微かに残る香りを嗅ぐことだった。
「あなただけの幸せを感じる香りを見つけなさい」
その言葉を胸に生きていた彼女に、転機は突然訪れる。
公爵家が四人の子息の花嫁探しのために催した夜会で、フレッチェは一人の青年に出会い、一夜をともにするが――。
※香水の作り方は中世ヨーロッパをモデルにした魔法ありのふんわり設定です。
※登場する植物の名称には、一部創作が含まれます。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜
侑子
恋愛
小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。
父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。
まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。
クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。
その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……?
※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる