最強の女戦士ここにあり

田仲真尋

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十字架と翼

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サーシャ様の魔力の解明へ向けて、偉大な魔法使いのパラドール・ジグマによる聞き取り調査が開始されました。


「では、いくつか質問させてもらうぞ、サーシャ。」


サーシャ様は少し緊張した面持ちで、こくりと頷きました。


「まず――バストのサイズは?」


バシ!


間髪入れずグラノールさんの鉄拳がパラドール・ジグマの頭にめり込んでいきます。


「じ、冗談じゃ。」


やはりさっき感じた大魔導師のオーラは気のせいだったのかもしれません。


「まず、その瞳についてじゃが、それは生まれつきか?」


「たぶん、そうだと。」


「なるほど、そなたの父はディミトリか。」


サーシャ様も父上の質問には随分慣れてきた様子で、無言で頷きました。


「じゃろうな――では母は?」


おっと!この質問は意外でした。これまで父上の事を聞かれたことは幾度とありましたが、母上の事を聞かれたサーシャ様を僕は見たことがありません。

実を言いますと僕自身もサーシャ様に母上様のことを訊ねたことが一度もありません。これは実に興味深いですね。


「母は……母のことは何も知らない。」


「なるほど――。」と、言ってパラドール・ジグマはしばらく黙って宙を見つめて、なにやら考えている様子でした。

しかし、やはりサーシャ様は母上の事は知らなかったのですね。僕にもそれは何となく分かっていました。なので僕からは、あえて何も聞かずにいたのです。


「結論から言おう。」


パラドール・ジグマは、おもむろに立ち上がり、コーヒーカップからコーヒーを一口啜って話し始めました。


「まず魔力に関してじゃが、サーシャの魔力が弱いためというのは一切ない。むしろ彼女の魔力は強い方じゃろ。しかもまだ底が見えないほどの強さを秘めておる。」


確かにそれは、グラノールさんも仰っていましたね。問題は、そこから先ですね。


「原因があるとすれば、それは恐らく魔力を何者かに抑えこまれているからじゃろう。」


「何者って、一体誰に?」


サーシャ様も不安そうです。

これではまるでストーカー被害に遭っているよなものですからね。


「何者かは定かではないが、方法はわかるから対処もできる、安心せい。」


流石は歴史に名を残す魔法使い、といったところですね。


「それではサーシャよ――服を脱ぎたまえ。」


バシ!


本日二度目のグラノールさんの鉄槌が下りました。まあ、当然でしょう。ふざけるのもいい加減にしないと次は殺されちゃいますよ。


「ま、まてグラちゃん。サーシャの身体のいずこかに刺青タトゥーがあるはずなんじゃ。」


一同がサーシャ様へと視線をおくりました。


「――ある。私には物心ついた時から背中に翼の生えた十字架を背負っているわ。」


何ということでしょう。僕でさえ知らなかったことがあったとは。

これまで何度となくサーシャ様の入浴シーンや着替えを覗き見ようと試みてきましたが、思いのほかガードが堅かったため、僕はその事実を知りませんでした。従者としてまだまだ、だと反省しました。付き人としてサーシャ様の全てを知っておかねば、と決意を新たに致しました。


「ほ、ほら、俺が言ったじゃったろ。」


パラドール・ジグマの言い分に、疑いの眼差しで見つめるグラノールさん。よほど信用されていないのですね。


「サーシャよ。その背のどこかに見慣れぬ文字が彫ってはいまいか?」


「そういえば、十字架の中に何か文字があったわ。いつも鏡でしか見たことがなかったから読みにくいし、読もうともしなかったけど。」


「ちと、見せてみてくれんか。」


パラドール・ジグマは恐る恐るグラノールさんを見ながらサーシャ様に訊ねました。

グラノールさんはサーシャ様に頷いて、それに応えました。


ゆっくりと後ろを向き、服を脱ぎます。

勿論前は見せてはくれませんでしたが、その綺麗で華奢な後ろ姿に僕とローラス、それにパラドール・ジグマは興奮を隠しきれませんでした。


「ふむ。これじゃな。」


パラドール・ジグマがサーシャ様の肌に触れるか触れないかのところで指先した箇所に皆の視線が集まりました。


「あの、これは――文字でしょうか?」


ローラスの台詞に僕も同意見でした。

そこには、これまで見たこともない文字らしきものが十字架の中央あたりに上から下へと、およそ十文字程度並んでいます。


「これは、魔族の使う文字じゃ。恐らくはこれがサーシャの魔力を不安定にさせておるのだろう。」


「なんで魔族の文字が私に?」


「なぜかは分からん。じゃが魔法の発祥は魔族なのじゃからな、その術式に魔族の文字が使われていても何ら不思議はない。」


「ええ!そうなの?」


サーシャ様……それは周知の事実ですよ。そんなことも知らずに魔法剣を習っていたなんて、グラノールさんが不憫に思えてきました。


「ときにサーシャよ。お前さんさっき物心ついた時から、その刺青があったと申していたが、それはお前さんが自分で入れたものではないということと解釈してよいのか?」


サーシャ様は一瞬返答に困ったような顔をしてから小さく頷きました。


「これのことは父に訪ねたことがあったけど、父にも分からないと言われたわ。」


「ということは恐らく身内の誰かが、そなたの父にも内緒で幼少期のサーシャの背に彫ったということか……。」


パラドール・ジグマは顎に手を当てしばらく無言になった。そして考える素振りのまま、口を開いた。


「考えられるのは、お前さんの母親しかおらんだろうな。お前さんの魔力に何か異変を察して術式を施したのかもしれんが、明確な目的は不明じゃ。」


僕も同意見ですね。というより、この場にいる全員がそう思っていたと思われます。

しかし、サーシャ様の母上は何故――いえ、その前に何者なのでしょう?魔法使いだったのでしょうか?

僕の記憶が、正しければ魔法の封印術は相当に高度な魔法使いしか使えないはず。

彼女の過去に何があったのか、興味しか湧いてきませんね。


パラドール・ジグマの小さな家の小さな部屋には、これまでとは違った空気が充満していました。



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