最強の女戦士ここにあり

田仲真尋

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ベティルス宮殿

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ディミトリさん率いるキリエスの住人と、アイス率いるテルミナの化け物たちとの戦いが幕を開けようとしていました。

もちろん僕らも、その渦中にいます。

これは戦争です。

これだけの数の両者が衝突すれば、きっと甚大な被害を受けるのは免れないでしょう。

ここは、覚悟を決めるしかなさそうです。


「そこまでだ。」


そんな緊張感を破るように、その場に声が響き渡りました。

低く芯のある声は、僕らの体の芯に振動を与えるように通っていきました。


「――あ、兄上!?」


その男は、いつの間にかアイスの隣にいました。

黒い重厚な鎧に全身を包んでいて、その顔ですら隠されています。


「兄だと!?」


ディミトリさんは、アイスが発した言葉に引っ掛かっている様子でした。


「アイスよ。ここは一旦退くのだ。」


「な、なぜですか?ここで勝負を決めてしまえば、フルガイアの統一は果たされましょうぞ。」


「ならぬ。テルミナの者を無断で失う訳にはならんのだ。やつらが降伏すれば、それで良かったのだが、戦いとなれば話は別だ。よいな、弟よ。」


いったい何の話をしているのか、僕らにはさっぱり理解できません。


「分かりました。ここは、退きましょう。」


「うむ。それでよい。」


なんと!?

どうやら敵さんは、退却してくれるようです。

これはラッキーとしか言いようがありませんね。


「ま、待て!貴様はいったい何者だ?」


ディミトリさんは、アイスの兄らしき男に問いました。


「ふっ、お前は我らの会話を聞いていなかったのか?私はアイスの兄だ、ディミトリよ。」


「そんな話は聞いたことがない。アイスよ、お前に兄などいないだろう。どういうことなんだ。」


どうやら、ディミトリさんもアイスの兄については、何も知らないようです。

しかも二人の会話を聞いていると、真の黒幕はアイスではなく、この兄と名乗る男の方かもしれませんね。


「お前には関係のないこと。」


アイスは、多くを語ろうとはしませんでした。


「我らのことを詳しく知りたいのならば明日、ベティルス宮殿まで来たまえ、ディミトリ。」


「……ベティルス宮殿だと。」


「ああ。何人連れてこようが構わん。待っているぞ。」



こうして、大規模な戦いは何とか避けることができました。

しかし、想定外の事態になってしまったことには変わりありません。


「お父さん、ベティルス宮殿っていったい?」


「サーシャよ、他の者も聞いてくれ。ベティルス宮殿とは、このフルガイアとテルミナの境に位置する場所にある古代の宮殿の遺跡だ。そこは、パンドラへの入り口とも言われている。」


パンドラといえば、未知の地であり、昔ディミトリさんが行って、力を奪われた場所。

そんな所に呼び出されて、わざわざ出向く必要はないでしょう。

ここは、無視してキリエスの防衛に時間を割いたほうが得策でしょうね。


「行くのね、そのベティルス宮殿へ。」


サーシャ様の言葉にディミトリさんは無言で頷きました。


「どうしても納得いかないのだ。あのアイスに兄がいるなんて初耳だ。私は長い時間をアイスと過ごしてきた。この私を信頼してくれていた時も確かにあったはずだ。しかし、兄の話なんて一度たりとも聞いたことがない。もしかしたら、アイスはあいつに操られているのかもしれん。だとすれば、私はアイスを救ってやりたい。」


ディミトリさん、それは余りにもお人好し過ぎます。

もしも操られていたとしても、アイスは充分に万死に値する事をやってきたのですよ。

まあ、僕たちには関係のないことなので、どうでもいいんですがね。


「だったら、私も行くわ。きっと罠だろうから、お父さん一人を行かせられないわ。」


サ、サーシャ様?

本気でしょうか。

いや、本気でないことを祈るしかありません。


「私も共に行こう。あの男、かなりの強者と見た。腕が鳴るな。」


サーシャ様とレジェスの発言に他の皆も同意しました。

僕以外はね。

しかし、サーシャ様が行くと仰るのなら行かざるを得ません。

まったく面倒なことです。


「皆、すまん。私一人では心もとなかったというのが本音だ。助かる。」


確かに今のディミトリさんでは、まともにアイスとも戦えないでしょう。

仕方ありませんね。


「キリエスの民よ。我らはベティルス宮殿へ行ってくる。その間、ここを頼んだぞ。」


ディミトリさんに同行することになったのは、

サーシャ様、レジェス、ジャクリンさん、シエルさん、ローラス、ダマン、フォックス、そして僕の八人です。


きっとただでは済まないような戦いが待ち受けていることでしょう。

しかし、行くからには何としてもアイスの首を持ち帰るくらいの気持ちが必須です。


「はぁ、気が重い。」と、思わず本音が漏れてしまう、僕なのでした。





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