最強の戦士ここにあり

田仲真尋

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クレア再会編

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私は、只今走っている――というより追われている。

なにも悪い事は、やっていない。

いや、正確には隣で一緒に逃げている、この女の巻き添えをくらっているのだ。



遡ること、数時間前の出来事だ。

とある王国の城下町のパブで私は、一人酒を飲んでいた。

縁も所縁もない、この街にやって来たのは偶然だった。

酒場には色々な、お得情報が落ちている。

見知らぬ街に来たら、まず酒を飲め、である。

今宵は、酔った男達が何やら旬の話題で盛り上がっている、御様子だ。

私は、いつもの地獄耳を発動しようとした、その時だった。

パブの入り口から入って来た、ある女に目が止まった。

「クレアだ!」

そう!それは紛れもなく、あのクレアだった。

一話目参照であります。

私は、懐かしさから彼女に近づこうとして、踏みとどまった。

「いや待て。ムーンの時みたいに無視されたら……」

五話参照であります。

「よし、ここは知らぬ振りを決め込もう。」

そう思った矢先であった。

「おい、お前久し振りだな。元気してたか?」

まさかの事態に私は、あたふたした。

まだ心の準備が整ってなかったのだ。

「色々と懐かしい話しもあるが、今はちょっと急ぎでな。そうだ、お前ちょっと付き合え。」

そう言って、クレアは私の首根っこを掴み表へ出た。

「おい、いたぞ!」

外に一歩踏み出すと同時に数名の男達が駆け寄ってきた。

「あら、もう見つかったか。いくぞ。」

クレアは私を巻き込み逃走した。

追ってくるのは、この国の兵士らしき者だ。

そもそも、なぜクレアは逃げるのだろうか?

この女も、それなりに強いはず。

あの程度の兵士なら簡単に倒せるだろう。

相手が悪であるなら、なんの遠慮も要らないだろう。

「こいつ、何かやりやがったな。」

そう考えるのが妥当だろう。

しばらく走り回り、やっと追っ手を撒いた。

「いやー悪いな。取り込み中で。」

その後、クレアは事の真相を話してくれた。


魔王を倒した、あの日からクレアは人々を救った英雄と、もてはやされた。

そしてその噂を聞いた、この国の王子がクレアに求婚した。

それをクレアは快諾したのだ。

「玉の輿だろ。そりゃあ結婚するだろ。」

そこまでは良い――そこまでは。

その先が肝心だ。

「まさか不倫でもしたのか!」と、私は変に勘ぐってしまったりする。

だが、その後の話しは悲惨なものだった……王子がである。

毎日毎日、罵られ、殴られ、蹴飛ばされた日々。

どんな、お気持ちだったろうか。

「だってあの王子マザコンたぞ。そのくせ私には逆らったりするんだから。自業自得だろ。ハハハ。」

恐ろしい女である。

「もういい加減、お城の暮らしも飽きたからな。逃げ出してきたんだ――お宝頂いてな。」

それは、泥棒だぞ!

かつての英雄も地に堕ちたものだ。

ならば、この私が……私は低級魔法を唱え始めた。

「はっ!いかん、いかん。仮にも仲間だった女だ。」

冷静になれ、冷静になれ、と自分に言い聞かせた。

その時、又しても追っ手の兵士が現れた。

「またか、しつこいな。」

クレアは逃げる態勢にはいった。

だが、私は動かない。

道の真ん中に立ち、追っての兵士達に立ち塞がった。

「お、おまえ。すまない、この借りは今度必ずや返す。」

兵士達は私に一直線に向かってくる。

私は、追ってが到達する前に脇の路地裏に入り、猛ダッシュで逃げた。

当然、追ってはクレアを追う――よし。

「てめぇ、裏切ったな。覚えとけ!」

クレアは捨て台詞を吐き、行ってしまった。

冗談ではない。

私まで、泥棒の片棒を担がされてたまるか。

見逃してやっただけ感謝してほしいものだ。


すっかり酔いが醒めてしまった私は、飲み直しのため再びパブへと戻った。

そこでは客達が噂話しで騒いでいた。

「おい聞いたか!クレアが捕まったらしいぞ」

「ああ聞いた。くそ!メイスめ」

「かわいそうに、あの極悪非道な王家にどんな目に遭わされるのやら……」

「きっとクレアは俺たち国民が重税に苦しんでいるのを見かねて行動にでたんだ。」

「きっとそうだ。長いことメイス家に虐げられてきたが、もう我慢の限界だ。」

「俺らも革命軍に加わり、この国を善くする為、クレアの為に戦おう。」

男達は、酒の力もあって勢いづいていた。

「クレアが民の為に……か。」

それはきっと間違った解釈だと思う。

だが、この国の王家が腐っているのは事実だろう。

「仕方ない……元仲間だからな。」

私は残った酒を飲み干し、店を出た。

少し小高い丘の上に王宮がある。

夜も深まり、人通りは疎らだ。

私は大きく深呼吸をして、走り出した。



王宮へ続く道は門によって閉ざされていた。

私は、素早く手際よく門番を殴り倒し、鍵を奪い脇にある小さな扉を抜けた。

暗闇を狼のように駆け、見張り番を獅子のように倒し、突き進んだ。

広い庭を越え、王宮へと辿り着き、息を潜めて地獄耳を発動した。

「しかし、あの女を捕らえるのは苦労したな。」

「ああ、巷では魔王を倒したとか、嘘を吐いてるらしいからな。嘘つきは泥棒の始まりとは、よく言ったもんだ、ハハハ。」

衛兵の話しで、クレアが捕らえているのは間違いない。

私はその衛兵の居所を地獄耳で追いかけて、背後から低級魔法をお見舞いしてやった。

「魔王を倒したのは、私だ!」と、言ってやりたかったが、二人は完全に意識を失ってしまっていた。

王宮の中は想像以上に広く、装飾品や美術品などが無数飾られている。

豪華絢爛とは、このことだ。

私は、手頃なサイズの装飾品を、そっと懐にしまった。

「さて、クレアはどこに――」

足音が近づいてくる!

私はとっさに彫刻品の横に同じポーズをとった。

「クレアは、間違いなく牢に入れたのか」

「はっ!二階の角の牢に入れてあります。」

「そうか、ところで……こいつは?」

その将兵らしき人物は確実に私と目が合っている……気がする。

「まだだ。まだ、ばれたと決めつけるのは早い。」

私は全身に脂汗をながしながら、じっと耐え彫刻品に成りすまそうとした。

「なんだ!貴様は!」

衛兵が剣を抜き、私に?斬りかかってきた。

やはり、見つかっていた。

衛兵の剣先が私の顔まで、あと数センチのところだった。

私は真剣白羽取りで、辛うじて難を逃れ。

低級魔法「パンチャー」を素早く唱えた。

一応説明しておこう。

パンチャーとは己の腕を鋼の様に硬くする、強化魔法である。

「このやろう!」

私は強化された腕で将兵と、その手下をラリアットで仕留めた。

「急がねば。」



二階の角には、またしても見張りの兵がいた。

四人の兵士を、またしてもラリアットで倒し、牢獄へ入ると、中には十室ばかりの牢があった。

どの部屋からも、

「出せ!」

「出してくれ!」と、悪党顔が五月蝿いので、私は低級魔法で奴等を眠らせながらクレアを探した。

そして一番奥の牢屋にクレアの姿があった。

「おまえ、どうしてここに?」

私は剣を抜き、鉄の檻を鮮やかに斬り、クレアを救出した。

「助けに来てくれたのか。ありがとう――そして、あの時のお返しだ!」

「はうっ!」

クレアは私の股間を容赦なく蹴り上げた。

クレアは根にもっていたのだ。

私が、街で囮にならず逃げたことにたいして。

「よし。これでお互い様だ。」

私はクレアの後方から低級魔法を浴びせてやろうと思った時だった。

「さあ、逃げるぞ……と、思ったが、やはりお前一人で逃げてくれ。」

クレアは、立ち止まり言った。

「私は、ここに残り――王家を討つ。」

突拍子もないことを言い出すクレアに私は、ため息を吐いた。

「この王国には新しい血が必要だ。昔ながらの悪しき風習で、民は苦しんでいる。」

私は、ふと酒場の男達の話しを思い出した。

「協力してくれないか。」

確かに、この国の現状は変えねばなるまい。

私は力強く首を縦に振った。

「すまないな。やはり持つべきものは仲間だな。」

仲間――いい響きだ。

「よし、この国は私が貰おう。王家を倒し私が面倒をみてやるか。」

いや、それは駄目だろう――と、言う間もなくクレアは走り出した。

その後の私たちは、凄まじかった。

押し寄せる敵を次から次に倒していく。

だが敵は無限に湧いてくる。

そして、二人は大勢の兵士に囲まれた。

「はぁはぁ、きりがないな。」

クレアは相当、お疲れの様である。

無論、私は余裕のよっちゃんだ。

「さあ、どんどん来なさい!」と、ばかりに私は張り切った。

すると、どういうわけか兵士達は武器を降ろし始めた。

「クレア様。私たちは貴女に従います。王家を裏切ってしまうのは心苦しいですが、やはり民の為には王が変わらなければなりません。貴女には、その覚悟がありますか?」

クレアは考える間もなく即答した。

「当たり前だ!私が変えてみせる。」

兵士達は歓声を上げた。

こうして、クレアと私は王家の連中が隠れている部屋へと辿り着いた。

私たちの後ろには、クレアに忠誠を誓った連中が、うようよ居た。

皆、希望に満ち溢れた顔をしている。

そんな中。私一人は浮かない顔をしていたことだろう。

「物足りん」と、いうことである。

クレアは扉を破り中に入る。

部屋には王や王妃、それからクレアの旦那である王子らしき人物も居た。

「クレア貴様!――何をしておる、お前達。早くクレアを捕らえねか!」

王の言葉に兵士は誰一人動こうとは、しない。

「お、おまえたちまで……」

「王よ。あなた達が、この国を放棄し私に全権を委ねるというなら命だけは助けよう。」

クレアの提案に王家の人々は、なす術があるはずもない。

項垂れた王家の人々の中から、クレアは一人の胸ぐらを掴み、引きづり出した。

「あんたには、すこーし貸しがあるからね。」

「ひっ!ひぃぃ!」

哀れな王子様。

私には、その痛みが分かる。

私は自分の股間を無意識のうちに押さえていた。



こうして、クレアは魔王退治の英雄から、一国の王になった。

きっと無茶苦茶な国になるだろう。

だが、民たちは楽しく暮らせるだろう。

「お前も、ここに残ったらどうだ。楽させてやるぞ。」と、クレアの言葉に少し心が揺れたが、私は首を横に二度振った。

「そうか……残念だ。また遊びにこい。」

その言葉に私は興奮して、高速で首を縦に五度振った。

「それじゃあ、またな……えっと……最強の戦士よ。」

私はクレアの方を振り返らず、右手を高く挙げ、それに応えた。



夜は明け、青い空には風に流される雲、雲、雲。

私は気の向くまま、風に流され生きていく。

次は何処に行こうか。

そして、誰と逢うのだろう。

想像しただけで心が踊る。

まだ、旅は始まったばかりなのだから。


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