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キリエス脱出劇
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私はクレイヴより、苦手な船に乗り、死にかけながらレト大陸へと渡った。
そこから陸路で丸二日かけ、キリエス王都マビン・グラスへと入った。
そこは、以前とは大きく様変わりしていた。
都には活気がなく、人も少ない。
また、王都を覆うように空に広がった灰色の雲が、余計に街を薄暗くさせている印象だ。
キリエスでは、ついこの間、革命が起きたばかりだ。
領土の半分を失い、国としての存亡も危機にさらされている状況なのかもしれない。
私は急ぎ、ウィルソンとライアンの両師匠を見つけねば、ならないと本能的に感じた。
「まずは酒場だ。」
旬な情報は酒場にある、と思った私は、以前立ち寄ったタムタムへと、向かった。
目的の場所に到着した、私は自分の目を疑った。
酒場が、そこに無かったからである。
「そうか。あれはダミーだったのか。仕方あるまい、他を当たろう。」
私の考えでは、タムタムは革命家たちが集まり、話し合うためだけに用意された、見せかけだけの酒場ではなかったのか、ということだった。
私は、この街のことを、よく知らない。
行き当たりばったりで探すより他、なかった。
それから、しばらく歩いていると。
酒場らしき店を見つけた。
私は、恐る恐る店へと足を踏み入れた。
店内には人が殆んど見当たらない。
隅の方に四人組が、ひっそりと静かに酒を飲んでいた。
私は彼らの近くに腰を下ろした。
「俺……この国出ようかな。」
「実は、俺も考えてた。もう、ここに望みはないよな。」
「こう、次から次へと国民への規制が増えてしまったら、生活もままならない。その内、キリエスから簡単に出られない規制も、できるらしいしな。」
「この国は……もう駄目だ。」
酒の席の愚痴にしては、やや重い話だ。
いったいキリエスでは、何が起こっているのだろうか?
私は酒場を出て、王都マビン・グラスを散策しようと、街に出た。
外はもう日が落ち暗くなっていた。
街では、一般人をあまり見かけないものの、やたらとキリエス兵の姿が目についた。
「ただならぬ雰囲気だな。」と、私はなるべく目立たないよう、道の隅を歩いた。
すると建物の陰から、何やら聴こえてきた。
どうやら人の声のようだが、どことなく気色悪い。
「お~い。こっちだ。こっちだよ~。」と、かすれた声がする。
私は、青ざめた。
「も、もしや、これは霊的なものでは……。」
私は、その場を離れようと、声のする方とは反対へ一歩踏み出した。
すると、何かが私の肩を叩いた。
「ぎぃあああ!」
私がパニックに陥っていると、
「落ち着け。俺だ、ライアンだ。」
「……やはり、ライアン師匠でしたか。ええ、分かってましたとも。」と、言わんばかりに、私は冷静な振りをして。対処した。
「こっちだ、ついてこい。」
ライアンは、私を路地裏の方へと引き込み、暗闇を駆けた。
「よく来てくれた。ウィルソンも一緒だ。」
その、ライアン師匠の言葉に私は、ホッと胸を撫で下ろした。
ライアンが案内したのは、あのタムタムがあった場所だった。
辺りを警戒し、裏から中へと入った。
中は薄暗く、足元もよく見えない。
ライアンは、蝋燭に火を灯し、奥へと進んだ。
以前にオリバーとアクリアとで話していた小部屋に、ウィルソンは居た。
「君、どうしてキリエスへ?」
「心配だったんじゃないか。こいつなりにさ。」と、ライアンは私の気持ちを代弁してくれた。
ふと気づくと、ウィルソンの側には、横になっている人の姿。
「ああ、紹介しておくよ。彼女が、リズだ……といっても意識がないんだがね。」
私は、そっとリズの顔を見た。
その、顔は蝋燭の炎に照らされて、まるでスヤスヤと気持ちよく眠っているようであった。
「どうにかして、ここを脱出しなくては。」
ウィルソンは、リズの手を握りながら、呟くように言った。
「そうだな。だが、どうやってソルディウスまで行くんだ?」
ライアンも深刻な面持ちである。
私には二人が、いったい何の話をしているのか、まったく理解できないでいた。
「私たちは、ソルディウスへいく事にしたんだ。友人がいてね、ピーター王に話をつけてくれたんだ……だが、そこまでは自力で行かねばならない。」
「俺たちは追われている。外のキリエス兵を見ただろ?あれは、キリエスを裏切った、このウィルソンを捜しているんだ。」
「なるほど?そういうことか。」と、私は二人の師匠の話を、ようやく理解した。
「移動の手段がいるな……例えば馬車とか。」
「そうですね。リズを連れていくには、馬車がベストかもしれませんね。」
ウィルソンとライアンの距離は縮まっているように思えた。
二人で旅をしてきたのだから、当然といえば当然で、ある。
「どこかで馬車が、手に入らないか?」と、ライアンは私に訊ねた。
私は知恵を振り絞ってみた――「そうだ!」
「何かいい案が、あるのかい?」
ウィルソンの質問に、私は力強く、頷く。
「そうか。なら、お前に任せるぞ。」
私はライアンにも、頷いて応えた。
そして、私は三人を残して、外へ飛び出た。
三時間後。私は立派な馬車に乗り、三人を迎えに行った。
この、馬車を何処で手に入れたかって?
答えは――私が作ったのである。
近くの森に入り木を伐採し、剣と魔法を駆使して完成させた自信作である。
車輪部分を製作するのに、ちと時間は要したが、なかなか良い出来である。
私に木材の加工を一から教えてくれた、ダイク師匠には感謝するばかりである。
因みに馬二頭は……盗ん――いや、お借りしてきたのである。
さらに言えば、馬車を走らせてくれるのは、これまた盗ん――いや、お借りしてきた男、カルロスである。
カルロスには、金を握らせておいたので心配ないだろう。
私たちは目立たぬよう、急ぎ馬車に乗った。
「どうでもいいが、少しばかり目立ち過ぎじゃないのか、この馬車。」
「なにを言うか、ライアン師匠よ。私の素晴らしいセンスが光っておるでは、ありませんか。」と、私は誇らし気に、自作の馬車を眺めた。
「いたぞ!あの、ド派手で変なデザインの、あの馬車だ!」
キリエス兵に、あっけなく発見されてしまった。
「おのれ!私の自慢の馬車を馬鹿にしおって!」と、私はキリエス兵に向け低級魔法を唱え始めた。
「いいから、早く乗れ。」と、ライアンに急かされ、仕方なく馬車に乗り込んだ。
「出してくれ!」
ライアンの言葉に、カルロスは白い歯を剥き出して、親指を立てた。
王都マビン・グラスを脱した私たちは、ピーターの治めるソルディウスへ向け、ひた走る。
「リズ!」
そのウィルソンの叫び声に、私は驚き、彼女の方を見た。
……苦しそうだ。
ウィルソンは、すぐに医療魔法「生命維持ライフサポート」で、リズの容体を安定させようとした。
「こっちの方も、ちょっと厄介なことに、なってるぞ。」
今度は、ライアンが馬車の後方を眺めながら、言った。
どうやら、キリエス兵に発見されてしまったようだ。
こちらの馬車に凄い勢いで、馬に乗ったキリエス兵、数十騎が迫ってきている。
「くそ。あと少しでソルディウス領だというのに。」
私は、カルロスに飛ばすよう指示する。
カルロスは笑顔で白い歯を見せ、親指を立てた。
「宛にならん。」と、思った私は後方の騎馬隊を食い止めようと、馬車から降りようとした。
「だ、だめだ。リズの容体が戻らない……このままでは。君、手伝ってくれ!」
ウィルソンは、私に助けを求めた。
私は頷き、ウィルソンと共に「生命維持ライフサポート」を唱え、必死にリズを助けることに努めた。
「こっちは、俺がなんとかしよう。」
ライアンが、馬車から飛び降りようとした、その時だった。
突然、馬車は大きく揺れて、そして止まってしまったのだ。
「溝にはまって、しまいました。」と、カルロスは申し訳なさそうに、頭を掻いた。
そこへ、キリエス兵が難なく追いついてきた。
「ウィルソン!貴様はキリエスを裏切った上、無断で女を連れ出した。即座に出てきて、投降せよ。」
しかし、ウィルソンが、リズから離れることなど出来ようもない。
「よし、お前たち馬車の中へ突入せよ。」
「そうは、させねえよ。」と、ライアンは立ちはだかった。
「邪魔をするなら、死ね。」と、キリエス兵はライアンに斬りかかる。
ライアンは敵の攻撃を巧みに避け、一人また一人と始末してゆく。
私は馬車の中から、その様子を見ていた。
「……このままでは、まずい。」
ライアンは暗殺を生業とする男。
複数の人間を相手にするのは、不慣れである。
現にライアンは、少しづつキリエス兵に取り囲まれ始めていた。
しかも悪いことに、キリエス兵の援軍までもが、到着してしまった。
これで、キリエス兵は約百人。
ライアン一人で、どうこう出来る数では、なくなった。
私が相手をすれば、たかが百人くらい、すぐ片付けることができる。
しかし今、私が魔法を解き、リズの元を離れれば、彼女の風前の灯の命は間違いなく尽きてしまうだろう。
「どうすれば、よいのだ!?」と、私が苦しんでいる正に、その時であった。
「無事か!」
その声の主は、ソルディウスの黄金の剣士、ダマンであった。。
「間に合ってよかった、ウィルソン。」
「ダマン、心配かけて済まない。」
「ウィルソン師匠の友とは、ダマンで、あったか。」と、私は、この窮地に駆けつけたダマンが、ウィルソンの真の友だと、悟った。
「ダマン。来てすぐで悪いが、あそこで戦ってくれている、ライアン殿を救ってくれないか。彼には色々と世話になっているんだ。」
「なあに、心配はいらんさ。こちらも一人で来た訳ではない。」
その、ダマンの視線の先には一人の老人――剣聖ラルナだ。
「おお、師匠!」
「そこの、お人。下がっておりなされ。」と、ラルナはライアンに言った。
「おいおい、爺さん。危ないぞ――」と、ライアンが声をかけた時には、既にキリエス兵が数人、その場に倒れていた。
「あんた何者だ?」
「儂か?儂はラルナという老いぼれじゃ。」
そう言ったラルナの足元には、更に数人のキリエス兵。
「ラルナ!?なんてこった、俺は架空の生物に出会ってしまったって訳か。」
「架空の生物って――お前さん面白い男じゃのう。儂の弟子になるかい?」
ラルナはライアンと会話しながらも、キリエス兵たちを次々と倒していった。
「いいや。止めておくよ。まだ人間のままでいたいんでね。」
「そうか、そりゃ残念じゃ。」
キリエス兵は、何が起こっているのか、さっぱり分からなかった。
ただ、気づけば仲間たちが、やられているという事実以外は。
「駄目だ、こいつ化け物だ。」
「何人いても敵わねえよ!」
「俺は逃げるぜ。」
キリエス兵たちはラルナとの格の違いに恐れをなし、逃亡し始めた。
「ハハハ。あんた、化け物扱いされてるぞ。」
「まったく失礼な奴らじゃ。」
こうして難を逃れた私たちは、ソルディウスへと無事に到着することができた。
私はウィルソンと共にリズの回復に努めた。
その甲斐あってリズは、ウィルソンの問いかけに、軽く反応を示すほどになっていた。
「本当に、皆には世話になった。この借りは必ず返すから。」
「借りは、あんたが医者として診る患者に返しな。俺たちは、そんなもの望んじゃいない。なっ。」と、ライアンは私に同意を求めた。
「私は、できれば形のある物の方が……。」と、思ったが、仕方なく頷いた。
「ありがとう。リズが元気になったら、きちんと紹介するよ。」
ウィルソンは、希望に満ちた清々しい顔をしていた。
「ちょっといいか。」と、私の耳元でライアンがボソリと、囁いた。
私は、ライアンの後をついていった。
「実はな、キリエスで妙な噂を聞いたんだ。」
恐い話なら是非、ご遠慮したいところだ。
「キリエスには、どうも悪魔使いが居るらしい。」
「やはり恐い話ではないか!」と、私は耳を塞いだ。
しかし、ライアンは耳を塞ぐ私の手を外して、続けた。
「召喚士って聞いたことあるか?恐らくは、そいつが異世界から魔物を呼び寄せているんだろう……まあ、にわかには信じがたい話だが、近頃の各地での出来事と照らし合わせれば、なくもない話だ。」
「なるほど。そうなると辻褄が合う。」
最近の魔王等の出現には、キリエスが絡んでいるという噂であった。
確かにキリエスには動機がある。だが、キリエスと魔物の接点だけが、どうもはっきりしなかった。
パイプ役の何者かの存在を疑っていた私だけに、ライアンの話は信憑性が高いと判断した。
「それと、もう一つ。キリエスはギアンの大国、ブレイズと正式に同盟を組んだ。相当、焦っているんだろう、キリエスは。そしてブレイズも、それを踏まえた上で要請に応じた。きっと、逆にキリエスを利用してやろう、くらいの腹づもりなのだろうな。まったく混沌とした、世の中だ。」
ライアンの言っていることに、私も同感である。
この世界の速度は徐々にスピードを上げ、動いていく。
私には、そんな気がして、ならなかった。
「俺は、ここに残るつもりだが、お前は、やはりキリエスへ行く気なのか?」
私は、ライアンに向かって頷いた。
もちろん、そのつもりである。
その為に、嫌いな船に乗り、レト大陸へと渡ってきたのだから。
「そうか、気をつけな。相手は得体の知れない、人の皮を被った化け物に違いない。そうだ、これを持っていけ。」と、ライアンは、自分が大事に使っていたナイフを手渡した。
「これは俺の故郷、フェイトフル・リアルムに古くからある、『ガルバラ』と呼ばれるナイフだ。多少の魔力が込められているから、いざという時にでも使ってくれ――それじゃあ、またな。」
私はライアン師匠に一礼し、その場を後にした。
ソルディウスの皆とも、別れを告げた私は一路キリエス王都、マビン・グラスへ向け出立したのであった。
上空には、これまで広がっていた灰色の薄汚れた雲が、すっきりと消え去り、まるで洗い立ての様な、真っ白い雲が流れていた。
そこから陸路で丸二日かけ、キリエス王都マビン・グラスへと入った。
そこは、以前とは大きく様変わりしていた。
都には活気がなく、人も少ない。
また、王都を覆うように空に広がった灰色の雲が、余計に街を薄暗くさせている印象だ。
キリエスでは、ついこの間、革命が起きたばかりだ。
領土の半分を失い、国としての存亡も危機にさらされている状況なのかもしれない。
私は急ぎ、ウィルソンとライアンの両師匠を見つけねば、ならないと本能的に感じた。
「まずは酒場だ。」
旬な情報は酒場にある、と思った私は、以前立ち寄ったタムタムへと、向かった。
目的の場所に到着した、私は自分の目を疑った。
酒場が、そこに無かったからである。
「そうか。あれはダミーだったのか。仕方あるまい、他を当たろう。」
私の考えでは、タムタムは革命家たちが集まり、話し合うためだけに用意された、見せかけだけの酒場ではなかったのか、ということだった。
私は、この街のことを、よく知らない。
行き当たりばったりで探すより他、なかった。
それから、しばらく歩いていると。
酒場らしき店を見つけた。
私は、恐る恐る店へと足を踏み入れた。
店内には人が殆んど見当たらない。
隅の方に四人組が、ひっそりと静かに酒を飲んでいた。
私は彼らの近くに腰を下ろした。
「俺……この国出ようかな。」
「実は、俺も考えてた。もう、ここに望みはないよな。」
「こう、次から次へと国民への規制が増えてしまったら、生活もままならない。その内、キリエスから簡単に出られない規制も、できるらしいしな。」
「この国は……もう駄目だ。」
酒の席の愚痴にしては、やや重い話だ。
いったいキリエスでは、何が起こっているのだろうか?
私は酒場を出て、王都マビン・グラスを散策しようと、街に出た。
外はもう日が落ち暗くなっていた。
街では、一般人をあまり見かけないものの、やたらとキリエス兵の姿が目についた。
「ただならぬ雰囲気だな。」と、私はなるべく目立たないよう、道の隅を歩いた。
すると建物の陰から、何やら聴こえてきた。
どうやら人の声のようだが、どことなく気色悪い。
「お~い。こっちだ。こっちだよ~。」と、かすれた声がする。
私は、青ざめた。
「も、もしや、これは霊的なものでは……。」
私は、その場を離れようと、声のする方とは反対へ一歩踏み出した。
すると、何かが私の肩を叩いた。
「ぎぃあああ!」
私がパニックに陥っていると、
「落ち着け。俺だ、ライアンだ。」
「……やはり、ライアン師匠でしたか。ええ、分かってましたとも。」と、言わんばかりに、私は冷静な振りをして。対処した。
「こっちだ、ついてこい。」
ライアンは、私を路地裏の方へと引き込み、暗闇を駆けた。
「よく来てくれた。ウィルソンも一緒だ。」
その、ライアン師匠の言葉に私は、ホッと胸を撫で下ろした。
ライアンが案内したのは、あのタムタムがあった場所だった。
辺りを警戒し、裏から中へと入った。
中は薄暗く、足元もよく見えない。
ライアンは、蝋燭に火を灯し、奥へと進んだ。
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「君、どうしてキリエスへ?」
「心配だったんじゃないか。こいつなりにさ。」と、ライアンは私の気持ちを代弁してくれた。
ふと気づくと、ウィルソンの側には、横になっている人の姿。
「ああ、紹介しておくよ。彼女が、リズだ……といっても意識がないんだがね。」
私は、そっとリズの顔を見た。
その、顔は蝋燭の炎に照らされて、まるでスヤスヤと気持ちよく眠っているようであった。
「どうにかして、ここを脱出しなくては。」
ウィルソンは、リズの手を握りながら、呟くように言った。
「そうだな。だが、どうやってソルディウスまで行くんだ?」
ライアンも深刻な面持ちである。
私には二人が、いったい何の話をしているのか、まったく理解できないでいた。
「私たちは、ソルディウスへいく事にしたんだ。友人がいてね、ピーター王に話をつけてくれたんだ……だが、そこまでは自力で行かねばならない。」
「俺たちは追われている。外のキリエス兵を見ただろ?あれは、キリエスを裏切った、このウィルソンを捜しているんだ。」
「なるほど?そういうことか。」と、私は二人の師匠の話を、ようやく理解した。
「移動の手段がいるな……例えば馬車とか。」
「そうですね。リズを連れていくには、馬車がベストかもしれませんね。」
ウィルソンとライアンの距離は縮まっているように思えた。
二人で旅をしてきたのだから、当然といえば当然で、ある。
「どこかで馬車が、手に入らないか?」と、ライアンは私に訊ねた。
私は知恵を振り絞ってみた――「そうだ!」
「何かいい案が、あるのかい?」
ウィルソンの質問に、私は力強く、頷く。
「そうか。なら、お前に任せるぞ。」
私はライアンにも、頷いて応えた。
そして、私は三人を残して、外へ飛び出た。
三時間後。私は立派な馬車に乗り、三人を迎えに行った。
この、馬車を何処で手に入れたかって?
答えは――私が作ったのである。
近くの森に入り木を伐採し、剣と魔法を駆使して完成させた自信作である。
車輪部分を製作するのに、ちと時間は要したが、なかなか良い出来である。
私に木材の加工を一から教えてくれた、ダイク師匠には感謝するばかりである。
因みに馬二頭は……盗ん――いや、お借りしてきたのである。
さらに言えば、馬車を走らせてくれるのは、これまた盗ん――いや、お借りしてきた男、カルロスである。
カルロスには、金を握らせておいたので心配ないだろう。
私たちは目立たぬよう、急ぎ馬車に乗った。
「どうでもいいが、少しばかり目立ち過ぎじゃないのか、この馬車。」
「なにを言うか、ライアン師匠よ。私の素晴らしいセンスが光っておるでは、ありませんか。」と、私は誇らし気に、自作の馬車を眺めた。
「いたぞ!あの、ド派手で変なデザインの、あの馬車だ!」
キリエス兵に、あっけなく発見されてしまった。
「おのれ!私の自慢の馬車を馬鹿にしおって!」と、私はキリエス兵に向け低級魔法を唱え始めた。
「いいから、早く乗れ。」と、ライアンに急かされ、仕方なく馬車に乗り込んだ。
「出してくれ!」
ライアンの言葉に、カルロスは白い歯を剥き出して、親指を立てた。
王都マビン・グラスを脱した私たちは、ピーターの治めるソルディウスへ向け、ひた走る。
「リズ!」
そのウィルソンの叫び声に、私は驚き、彼女の方を見た。
……苦しそうだ。
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カルロスは笑顔で白い歯を見せ、親指を立てた。
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「だ、だめだ。リズの容体が戻らない……このままでは。君、手伝ってくれ!」
ウィルソンは、私に助けを求めた。
私は頷き、ウィルソンと共に「生命維持ライフサポート」を唱え、必死にリズを助けることに努めた。
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しかし、ウィルソンが、リズから離れることなど出来ようもない。
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「邪魔をするなら、死ね。」と、キリエス兵はライアンに斬りかかる。
ライアンは敵の攻撃を巧みに避け、一人また一人と始末してゆく。
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「……このままでは、まずい。」
ライアンは暗殺を生業とする男。
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しかも悪いことに、キリエス兵の援軍までもが、到着してしまった。
これで、キリエス兵は約百人。
ライアン一人で、どうこう出来る数では、なくなった。
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しかし今、私が魔法を解き、リズの元を離れれば、彼女の風前の灯の命は間違いなく尽きてしまうだろう。
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「無事か!」
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「ラルナ!?なんてこった、俺は架空の生物に出会ってしまったって訳か。」
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「そうか、そりゃ残念じゃ。」
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ただ、気づけば仲間たちが、やられているという事実以外は。
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「借りは、あんたが医者として診る患者に返しな。俺たちは、そんなもの望んじゃいない。なっ。」と、ライアンは私に同意を求めた。
「私は、できれば形のある物の方が……。」と、思ったが、仕方なく頷いた。
「ありがとう。リズが元気になったら、きちんと紹介するよ。」
ウィルソンは、希望に満ちた清々しい顔をしていた。
「ちょっといいか。」と、私の耳元でライアンがボソリと、囁いた。
私は、ライアンの後をついていった。
「実はな、キリエスで妙な噂を聞いたんだ。」
恐い話なら是非、ご遠慮したいところだ。
「キリエスには、どうも悪魔使いが居るらしい。」
「やはり恐い話ではないか!」と、私は耳を塞いだ。
しかし、ライアンは耳を塞ぐ私の手を外して、続けた。
「召喚士って聞いたことあるか?恐らくは、そいつが異世界から魔物を呼び寄せているんだろう……まあ、にわかには信じがたい話だが、近頃の各地での出来事と照らし合わせれば、なくもない話だ。」
「なるほど。そうなると辻褄が合う。」
最近の魔王等の出現には、キリエスが絡んでいるという噂であった。
確かにキリエスには動機がある。だが、キリエスと魔物の接点だけが、どうもはっきりしなかった。
パイプ役の何者かの存在を疑っていた私だけに、ライアンの話は信憑性が高いと判断した。
「それと、もう一つ。キリエスはギアンの大国、ブレイズと正式に同盟を組んだ。相当、焦っているんだろう、キリエスは。そしてブレイズも、それを踏まえた上で要請に応じた。きっと、逆にキリエスを利用してやろう、くらいの腹づもりなのだろうな。まったく混沌とした、世の中だ。」
ライアンの言っていることに、私も同感である。
この世界の速度は徐々にスピードを上げ、動いていく。
私には、そんな気がして、ならなかった。
「俺は、ここに残るつもりだが、お前は、やはりキリエスへ行く気なのか?」
私は、ライアンに向かって頷いた。
もちろん、そのつもりである。
その為に、嫌いな船に乗り、レト大陸へと渡ってきたのだから。
「そうか、気をつけな。相手は得体の知れない、人の皮を被った化け物に違いない。そうだ、これを持っていけ。」と、ライアンは、自分が大事に使っていたナイフを手渡した。
「これは俺の故郷、フェイトフル・リアルムに古くからある、『ガルバラ』と呼ばれるナイフだ。多少の魔力が込められているから、いざという時にでも使ってくれ――それじゃあ、またな。」
私はライアン師匠に一礼し、その場を後にした。
ソルディウスの皆とも、別れを告げた私は一路キリエス王都、マビン・グラスへ向け出立したのであった。
上空には、これまで広がっていた灰色の薄汚れた雲が、すっきりと消え去り、まるで洗い立ての様な、真っ白い雲が流れていた。
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