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グリフォンブルー 死闘編~the last battle~
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私は「ヘルファイア」を纏った剣で、アシュベル・グレーに攻撃をしかけた。
奴との距離を詰め、剣技を乱打した。
しかし、アシュベル・グレーは、私の剣を見極めたように寸前で攻撃を避けている。
それは、あくまでも剣本体だけを避けているように感じとれた。
「やはり魔法剣でも駄目か。」
私は「ヘルファイア」を解いた――というより解かざるを得なかった。
「なんだ、止めるのか。まあ、無意味ではあるからな。」
アシュベル・グレーは余裕綽々といった表情で言った。
私には、この時、一つのナイスアイデアが浮かんでいた。
そして油断している、アシュベル・グレーに隙を作るようにして、魔法剣を唱えた。
「また魔法剣か、懲りない奴だ、ククク。」
私がチョイスしたのは「ホーリー・ウイング・ソード」である。
これは、かつて魔王メフィスとの戦いで使用した、魔法剣の中でも最上位に位置するものである。
私は剣を自分の前に立てた。
すると、剣の束の両脇から真っ白い翼が生えてきた。
綺麗な翼は、まだ羽を閉じていた。
剣は私の手を離れ、フワフワと浮いている。
そして私が、攻撃の意思を剣に伝えると、翼は鮮やかに、その美しい両翼を広げた。
「あれは、あの時の――そうか!確かにあれなら。」
ハーブティーは、先の戦いを思い出し、レジェスの考えていることを察した。
「いけ!」
私の意思を感じた剣は、まるでテレポーテーションしたかのように、その場から姿を消した。
そして次の瞬間には、アシュベル・グレーの胸へと深く突き刺さっていた。
「なるほど。確かに魔法剣ではあるが、それはあくまでも補助的なもの。最終的にはシンプルに剣の力で我を突き刺したか――素晴らしい。」
そこにいた全ての者が驚愕し愕然とした。
確かにアシュベル・グレーの胸に剣は深く突き刺さっている。
だが、アシュベル・グレーは平然とした顔で、その剣を自力で抜き、そして投げ捨てた。
「貴様たち人間でいうところの心臓を潰したと、思っているのだろ?確かに我々にも似たような急所は、ある。だが私には、こちらにも同じものがあるのだ。」
そう言ってアシュベル・グレーは自分の右胸を指した。
「しかも片方が駄目になっても、もう片方があれば――ご覧の通りだ。」
傷ついていた左胸は、みるみるうちに回復していく。
「傷が消えた!?」
驚きと恐怖が入り交じったような声を上げたのは、ウェルだった。
「驚きましたか、ウェル王子。外側だけでは、ありませんぞ。中の臓器も完全に回復している。我らは貴方たち人間のように、脆くはないのでな。」
誰も言葉を発せられなかった。
もちろん、それは私とて同じこと。
私は次の手を模索して、焦っていた。
「黒の衝撃ブラックインパクト!」
その間にもアシュベル・グレーは次の手に出た。
奴の右手には黒い玉が出現していた。
そして、続いて左手には、
「白の衝撃ホワイトインパクト!」を出現させた。
アシュベル・グレーは、その二つの玉を自分の真正面で、一つに合わせる。
「ファジィ・グレイ・ボール!」
混じりあった二つの玉は大きさを増し、濁った灰色の玉が生まれた。
そして、その禍々しいオーラを放つ玉を、私に投じた。
「さあ、忘却の王子よ、どうする?避けるか?これを避ければ、城は破壊され、お前の仲間たちは瓦礫に埋もれてしまうだろう。ならば斬るか?――失敬失敬、先程の魔法剣で剣は、お持ちでなかったな、ワハハハ。」
私は、悩んでいた。
避けるという選択肢は、もうない。
剣もない。
魔法も効かない。
――何がある!?
私には何が――!
「もはや、やるしかない!」
私は素早く、ある上級魔法を唱えた。
「ハイエスト・グレイト・パンチャー!!」
これは、私の十八番であるパンチャーの最高傑作である。
右腕に全魔力と力を込めたパンチャーは唸りをあげた!
「それで弾くつもりか!?馬鹿な!出来るはずがない!」
灰玉を、私は渾身の力で殴り、そして押し戻し、跳ね返した。
「ぬぉぉぉぉおおおお!!!」
「頑張れレジェス!」
「いけぇ、レジェス兄さん!」
プライトとウェルの声が聞こえた。
「お前ならやれる!お前は――」
ハーブティー達の声も聞こえた。
そして、私は叫んだ。
「私は――最強の戦士だぁぁあ!」
灰玉は猛スピードでアシュベル・グレーへと跳ね返った。
「な、なんということだ――グワァア!」
アシュベル・グレーは己の技で、消滅した。
私はフラフラとした足取りで歩き、サフィアの剣を拾い上げた。
一瞬の静寂が訪れた。
そして、
「……やった!」と、ウェルが呟くように言った。
「やったよレジェス兄さん!」
「よくやってくれた、レジェスよ。」
ウェルとプライトの声に、私は振り返った。
――だが、
「おのれ、忘却の王子め!」
「このような屈辱、耐えがたし!」と、背後から声がした。
そこには、また二人に別れていた、コーエン兄弟の姿があった。
「うそ、そんな……。」
「ひぇえ、化け物だ。」
「まったく魔族というやつは、しぶといのばかりだ。」
ハーブティー、クッキー、クレアは落胆の色を隠せない。
そんな中、私は――私だけは違った見方をしていた。
「やはり生きていたか。」
「ほう。我らが生きていること。」
「気づいていたのか。」
私は頷き、
「この手の輩は、だいたい、もう一度甦ってくるものである。」と、答えた。
「ふっ、やはり面白い男だ。」
「続きをやろうか。」
ブラックとホワイトは剣を抜いた。
「いや、もう終わりだ。」
私の言葉に、アシュベル・グレーだけではなく、他の者たちも驚いた。
「まさか、もう戦う力も、ないとうことか?」
「失望させるな、忘却の王子よ。」
私の剣技、魔法、そして魔法剣。
これらは全て、師匠たちから教わった業である。
いわば受け継いだものである。
そんな中、唯一、私のオリジナルの剣技がある。
それは、誰にも教わらず、一心不乱に修行し会得した剣技。
「初披露だ、よく見ておけ。」
私は剣をブラックとホワイトの間に思い切り、投げた。
「なんだそれは?」
「気が触れたか。」
私は飛んでいく剣に追いつくため、低級魔法を唱えた、
「ジャンプ・スプリング!」
私の下半身は強力なバネのように沈み、そして弾き飛んだ。
一瞬で剣に追いつき、そして剣を掴んだ。
「ブレードタイプ・ゼット!」
その勢いのまま、私はブラックとホワイトの間に滑りこみ、一回転しながら、「Z」の文字を空に描くように、切り裂いた。
「それは何なんだ!――」
「ふざけやがって!――」
コーエン兄弟は気づくのが遅かった。
彼らは既に頭部、胴体、下半身を切り刻まれて切断されていた。
「な、なんということだ。」
「し、信じられん。」
「お前たちの居場所は、ここには無い。消えろ。」
コーエン兄弟の体は燃え尽きた灰のようになり、風に飛ばされた。
そして、不気味な声だけが、最後の最後まで人間たちに憂いを残すこととなる。
「我らは死なぬ。また貴様らの前に現れてやろうぞ。」
「必ずや、この屈辱晴らしてみせる。」
私はサフィアの剣を高々と掲げた――勝利宣言である。
しかし、その瞬間、体から力がフッと抜け、私は意識を失った。
――目が覚めると、私は真っ白な壁に囲まれていた。
「……ここは?」
「お目覚めだな、レジェス。」
聞き慣れた声だった。
「――師匠。」
「私だけではないぞ。」
私はハーブティーに手伝ってもらい、ゆっくり身体を起こした。
そこには、クレア、クッキーは勿論のこと、プライト国王やウェル王子、ディルク、ギャツビー、四大剣士にラルナにダマン、ムーンにトンボと勢揃いであった。
そしてそこへ、杖をついた一人の女性が入ってきた。
「母上!」
ウェル王子が、そう呼んだのはメルバ王妃である。
広い部屋の中にいた私の仲間たちは、察したのか笑みを投げかけて、ぞろぞろと部屋を後にした。
残ったのはプライト国王、ウェル王子、メルバ王妃、そして私の四人だけとなった。
「最初に一つだけ言わせてちょうだい。」
メルバの言葉に私は無言で頷き、唾を飲んだ。
「レジェス王子様。本当に申し訳ありませんでした。この罪は私が一人でやったこと、どうかウェルだけは許してあげてください。」
メルバ王妃は泣き崩れながら、私に懇願した。
「どうか私からも頼む、レジェス。私が至らなかったばかりに、メルバにも要らぬ心配を与えてしまった。」
「……私は不幸だと思ったことは……何度かありますが、それで誰かを憎んだ事はありません。私に家族はいなかった。だが代わりに、欠けがえのない仲間たちと巡り合いました。私はつくづく、こう思います。色々な人生が人間には、あるのだな、と。私は貴女を許します。そして、こんな形で再会することになった私をどうか、皆さん、お許しください。」
私は満面の笑みを浮かべ、そう言った。
「――ありがとう。」
メルバは心底、レジェスに感謝していた。
「レジェス兄さん。それでは、グリフォンブルーの国王になっていただけるのですね。」
ウェル王子は嬉しそうに言った。
彼にとっては、腹違いではあるが、残された唯一の兄弟である。
目の前で、その強さを見せられては、ウェルもレジェスに対して尊敬の念を抱くに決まっていた。
ウェルは、この時、本当にレジェスに国王の座を譲り受けて欲しいと、そう思っていた。
「私も、お前が望むのなら、そうしたいと思う。どうじゃ、レジェス。」
プライト国王もウェルと同じ気持ちであった。
そして、メルバ王妃も静かに頷いた。
「私の望みを申しても宜しいでしょうか。」
「何なりと申せ。」
「私は国王の座に就くことを――拒否致します。」
「訳を聞かせてくれぬか、レジェス。」
「はい。私は、これまでも、これからも世界を旅してゆきたいと思っております。どうか私の我が儘を、お許しください。」
「――そうか。分かった、お前の望み入れよう――だが一つだけ約束してくれ。」
私は、何を言われようとも受け入れる覚悟があった。
「レジェス。たまにはグリフォンブルーへ帰ってこい。そして、家族、皆で食事でも致そうぞ。」
私は思わず面食らった。
どんな無理難題でも、断るつもりがなかった私は、緊張の糸がプツリと切れたように涙を流した。
「承知しました――父上。」と、言った。
――後日。
私の体力も回復し、いよいよグリフォンブルーから旅立つ日が、やってきた。
私は父上、ウェル、そして母上に別れを告げた。
そして、サフィアの墓に花を手向けた。
「サフィア。君とは、もっと話をしたかった――兄弟として。」
そして、私の為に集まってくれた仲間たちも、それぞれ自分の帰るべき場所へと帰っていった。
「さて、それじゃあ私たちも行くとするか。」
「私も姉さんについていこう。ミントちゃんにも会いたいし。」
「僕も早く帰らないと。街の皆がまってるからね……何?皆のその疑いの目は!?」
ハーブティー、クレア、クッキーとも、これで暫くは、お別れである。
「あんたは幸せだよ、レジェス。」
突然のハーブティーの発言に、私は目を丸くした。
「このグリフォンブルーという国に、お前の帰る場所がある――いや、お前には沢山の帰る場所がある。私の所だってその一つだ。いいかい、助けが必要な時は誰かを頼るんだよ。あんたには支えてくれる人が、こんなにいるんだからね、いいな。」
確かに、そう言われれば、私は幸福者なのかもしれない。
どこへ行っても、誰かが手を差し伸べてくれる。
そうだ!私は最強の戦士であり、最高の幸運の持ち主なのだ。
私は、これから新たに出会うであろう見知らぬ土地や人々との、出会いを考えて、気分が高揚した。
「それじゃあな、また。」
「元気でね、また会おう。」
「じゃあ――ああ、そうそう、これは貸しだからね。いつかきちんと返してね。」
こうして私は、皆と別れたのであった。
最後のクッキーの言葉からは悪意を感じとったものの、今日の私は調子がよい。
見逃してやることにした。
私は、吹き抜ける心地のよい風に吹かれ、グリフォンブルーを後にする。
空は、どこまでも青く広がり、どこまでも続いていた。
きっと、この空を辿って行くと、まだ知らぬ土地や食べ物、そして人々が存在しているのだろう。
もちろん、楽しいことばかりではないかもしれない。
だが、心配はご無用。
どんな火の粉が降りかかろうと、問題はない。
なぜなら私は――最強の戦士だから。
奴との距離を詰め、剣技を乱打した。
しかし、アシュベル・グレーは、私の剣を見極めたように寸前で攻撃を避けている。
それは、あくまでも剣本体だけを避けているように感じとれた。
「やはり魔法剣でも駄目か。」
私は「ヘルファイア」を解いた――というより解かざるを得なかった。
「なんだ、止めるのか。まあ、無意味ではあるからな。」
アシュベル・グレーは余裕綽々といった表情で言った。
私には、この時、一つのナイスアイデアが浮かんでいた。
そして油断している、アシュベル・グレーに隙を作るようにして、魔法剣を唱えた。
「また魔法剣か、懲りない奴だ、ククク。」
私がチョイスしたのは「ホーリー・ウイング・ソード」である。
これは、かつて魔王メフィスとの戦いで使用した、魔法剣の中でも最上位に位置するものである。
私は剣を自分の前に立てた。
すると、剣の束の両脇から真っ白い翼が生えてきた。
綺麗な翼は、まだ羽を閉じていた。
剣は私の手を離れ、フワフワと浮いている。
そして私が、攻撃の意思を剣に伝えると、翼は鮮やかに、その美しい両翼を広げた。
「あれは、あの時の――そうか!確かにあれなら。」
ハーブティーは、先の戦いを思い出し、レジェスの考えていることを察した。
「いけ!」
私の意思を感じた剣は、まるでテレポーテーションしたかのように、その場から姿を消した。
そして次の瞬間には、アシュベル・グレーの胸へと深く突き刺さっていた。
「なるほど。確かに魔法剣ではあるが、それはあくまでも補助的なもの。最終的にはシンプルに剣の力で我を突き刺したか――素晴らしい。」
そこにいた全ての者が驚愕し愕然とした。
確かにアシュベル・グレーの胸に剣は深く突き刺さっている。
だが、アシュベル・グレーは平然とした顔で、その剣を自力で抜き、そして投げ捨てた。
「貴様たち人間でいうところの心臓を潰したと、思っているのだろ?確かに我々にも似たような急所は、ある。だが私には、こちらにも同じものがあるのだ。」
そう言ってアシュベル・グレーは自分の右胸を指した。
「しかも片方が駄目になっても、もう片方があれば――ご覧の通りだ。」
傷ついていた左胸は、みるみるうちに回復していく。
「傷が消えた!?」
驚きと恐怖が入り交じったような声を上げたのは、ウェルだった。
「驚きましたか、ウェル王子。外側だけでは、ありませんぞ。中の臓器も完全に回復している。我らは貴方たち人間のように、脆くはないのでな。」
誰も言葉を発せられなかった。
もちろん、それは私とて同じこと。
私は次の手を模索して、焦っていた。
「黒の衝撃ブラックインパクト!」
その間にもアシュベル・グレーは次の手に出た。
奴の右手には黒い玉が出現していた。
そして、続いて左手には、
「白の衝撃ホワイトインパクト!」を出現させた。
アシュベル・グレーは、その二つの玉を自分の真正面で、一つに合わせる。
「ファジィ・グレイ・ボール!」
混じりあった二つの玉は大きさを増し、濁った灰色の玉が生まれた。
そして、その禍々しいオーラを放つ玉を、私に投じた。
「さあ、忘却の王子よ、どうする?避けるか?これを避ければ、城は破壊され、お前の仲間たちは瓦礫に埋もれてしまうだろう。ならば斬るか?――失敬失敬、先程の魔法剣で剣は、お持ちでなかったな、ワハハハ。」
私は、悩んでいた。
避けるという選択肢は、もうない。
剣もない。
魔法も効かない。
――何がある!?
私には何が――!
「もはや、やるしかない!」
私は素早く、ある上級魔法を唱えた。
「ハイエスト・グレイト・パンチャー!!」
これは、私の十八番であるパンチャーの最高傑作である。
右腕に全魔力と力を込めたパンチャーは唸りをあげた!
「それで弾くつもりか!?馬鹿な!出来るはずがない!」
灰玉を、私は渾身の力で殴り、そして押し戻し、跳ね返した。
「ぬぉぉぉぉおおおお!!!」
「頑張れレジェス!」
「いけぇ、レジェス兄さん!」
プライトとウェルの声が聞こえた。
「お前ならやれる!お前は――」
ハーブティー達の声も聞こえた。
そして、私は叫んだ。
「私は――最強の戦士だぁぁあ!」
灰玉は猛スピードでアシュベル・グレーへと跳ね返った。
「な、なんということだ――グワァア!」
アシュベル・グレーは己の技で、消滅した。
私はフラフラとした足取りで歩き、サフィアの剣を拾い上げた。
一瞬の静寂が訪れた。
そして、
「……やった!」と、ウェルが呟くように言った。
「やったよレジェス兄さん!」
「よくやってくれた、レジェスよ。」
ウェルとプライトの声に、私は振り返った。
――だが、
「おのれ、忘却の王子め!」
「このような屈辱、耐えがたし!」と、背後から声がした。
そこには、また二人に別れていた、コーエン兄弟の姿があった。
「うそ、そんな……。」
「ひぇえ、化け物だ。」
「まったく魔族というやつは、しぶといのばかりだ。」
ハーブティー、クッキー、クレアは落胆の色を隠せない。
そんな中、私は――私だけは違った見方をしていた。
「やはり生きていたか。」
「ほう。我らが生きていること。」
「気づいていたのか。」
私は頷き、
「この手の輩は、だいたい、もう一度甦ってくるものである。」と、答えた。
「ふっ、やはり面白い男だ。」
「続きをやろうか。」
ブラックとホワイトは剣を抜いた。
「いや、もう終わりだ。」
私の言葉に、アシュベル・グレーだけではなく、他の者たちも驚いた。
「まさか、もう戦う力も、ないとうことか?」
「失望させるな、忘却の王子よ。」
私の剣技、魔法、そして魔法剣。
これらは全て、師匠たちから教わった業である。
いわば受け継いだものである。
そんな中、唯一、私のオリジナルの剣技がある。
それは、誰にも教わらず、一心不乱に修行し会得した剣技。
「初披露だ、よく見ておけ。」
私は剣をブラックとホワイトの間に思い切り、投げた。
「なんだそれは?」
「気が触れたか。」
私は飛んでいく剣に追いつくため、低級魔法を唱えた、
「ジャンプ・スプリング!」
私の下半身は強力なバネのように沈み、そして弾き飛んだ。
一瞬で剣に追いつき、そして剣を掴んだ。
「ブレードタイプ・ゼット!」
その勢いのまま、私はブラックとホワイトの間に滑りこみ、一回転しながら、「Z」の文字を空に描くように、切り裂いた。
「それは何なんだ!――」
「ふざけやがって!――」
コーエン兄弟は気づくのが遅かった。
彼らは既に頭部、胴体、下半身を切り刻まれて切断されていた。
「な、なんということだ。」
「し、信じられん。」
「お前たちの居場所は、ここには無い。消えろ。」
コーエン兄弟の体は燃え尽きた灰のようになり、風に飛ばされた。
そして、不気味な声だけが、最後の最後まで人間たちに憂いを残すこととなる。
「我らは死なぬ。また貴様らの前に現れてやろうぞ。」
「必ずや、この屈辱晴らしてみせる。」
私はサフィアの剣を高々と掲げた――勝利宣言である。
しかし、その瞬間、体から力がフッと抜け、私は意識を失った。
――目が覚めると、私は真っ白な壁に囲まれていた。
「……ここは?」
「お目覚めだな、レジェス。」
聞き慣れた声だった。
「――師匠。」
「私だけではないぞ。」
私はハーブティーに手伝ってもらい、ゆっくり身体を起こした。
そこには、クレア、クッキーは勿論のこと、プライト国王やウェル王子、ディルク、ギャツビー、四大剣士にラルナにダマン、ムーンにトンボと勢揃いであった。
そしてそこへ、杖をついた一人の女性が入ってきた。
「母上!」
ウェル王子が、そう呼んだのはメルバ王妃である。
広い部屋の中にいた私の仲間たちは、察したのか笑みを投げかけて、ぞろぞろと部屋を後にした。
残ったのはプライト国王、ウェル王子、メルバ王妃、そして私の四人だけとなった。
「最初に一つだけ言わせてちょうだい。」
メルバの言葉に私は無言で頷き、唾を飲んだ。
「レジェス王子様。本当に申し訳ありませんでした。この罪は私が一人でやったこと、どうかウェルだけは許してあげてください。」
メルバ王妃は泣き崩れながら、私に懇願した。
「どうか私からも頼む、レジェス。私が至らなかったばかりに、メルバにも要らぬ心配を与えてしまった。」
「……私は不幸だと思ったことは……何度かありますが、それで誰かを憎んだ事はありません。私に家族はいなかった。だが代わりに、欠けがえのない仲間たちと巡り合いました。私はつくづく、こう思います。色々な人生が人間には、あるのだな、と。私は貴女を許します。そして、こんな形で再会することになった私をどうか、皆さん、お許しください。」
私は満面の笑みを浮かべ、そう言った。
「――ありがとう。」
メルバは心底、レジェスに感謝していた。
「レジェス兄さん。それでは、グリフォンブルーの国王になっていただけるのですね。」
ウェル王子は嬉しそうに言った。
彼にとっては、腹違いではあるが、残された唯一の兄弟である。
目の前で、その強さを見せられては、ウェルもレジェスに対して尊敬の念を抱くに決まっていた。
ウェルは、この時、本当にレジェスに国王の座を譲り受けて欲しいと、そう思っていた。
「私も、お前が望むのなら、そうしたいと思う。どうじゃ、レジェス。」
プライト国王もウェルと同じ気持ちであった。
そして、メルバ王妃も静かに頷いた。
「私の望みを申しても宜しいでしょうか。」
「何なりと申せ。」
「私は国王の座に就くことを――拒否致します。」
「訳を聞かせてくれぬか、レジェス。」
「はい。私は、これまでも、これからも世界を旅してゆきたいと思っております。どうか私の我が儘を、お許しください。」
「――そうか。分かった、お前の望み入れよう――だが一つだけ約束してくれ。」
私は、何を言われようとも受け入れる覚悟があった。
「レジェス。たまにはグリフォンブルーへ帰ってこい。そして、家族、皆で食事でも致そうぞ。」
私は思わず面食らった。
どんな無理難題でも、断るつもりがなかった私は、緊張の糸がプツリと切れたように涙を流した。
「承知しました――父上。」と、言った。
――後日。
私の体力も回復し、いよいよグリフォンブルーから旅立つ日が、やってきた。
私は父上、ウェル、そして母上に別れを告げた。
そして、サフィアの墓に花を手向けた。
「サフィア。君とは、もっと話をしたかった――兄弟として。」
そして、私の為に集まってくれた仲間たちも、それぞれ自分の帰るべき場所へと帰っていった。
「さて、それじゃあ私たちも行くとするか。」
「私も姉さんについていこう。ミントちゃんにも会いたいし。」
「僕も早く帰らないと。街の皆がまってるからね……何?皆のその疑いの目は!?」
ハーブティー、クレア、クッキーとも、これで暫くは、お別れである。
「あんたは幸せだよ、レジェス。」
突然のハーブティーの発言に、私は目を丸くした。
「このグリフォンブルーという国に、お前の帰る場所がある――いや、お前には沢山の帰る場所がある。私の所だってその一つだ。いいかい、助けが必要な時は誰かを頼るんだよ。あんたには支えてくれる人が、こんなにいるんだからね、いいな。」
確かに、そう言われれば、私は幸福者なのかもしれない。
どこへ行っても、誰かが手を差し伸べてくれる。
そうだ!私は最強の戦士であり、最高の幸運の持ち主なのだ。
私は、これから新たに出会うであろう見知らぬ土地や人々との、出会いを考えて、気分が高揚した。
「それじゃあな、また。」
「元気でね、また会おう。」
「じゃあ――ああ、そうそう、これは貸しだからね。いつかきちんと返してね。」
こうして私は、皆と別れたのであった。
最後のクッキーの言葉からは悪意を感じとったものの、今日の私は調子がよい。
見逃してやることにした。
私は、吹き抜ける心地のよい風に吹かれ、グリフォンブルーを後にする。
空は、どこまでも青く広がり、どこまでも続いていた。
きっと、この空を辿って行くと、まだ知らぬ土地や食べ物、そして人々が存在しているのだろう。
もちろん、楽しいことばかりではないかもしれない。
だが、心配はご無用。
どんな火の粉が降りかかろうと、問題はない。
なぜなら私は――最強の戦士だから。
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