My Angel -マイ・エンジェル-

甲斐てつろう

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#15

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 現れた麗奈の父親。
 その隣には母親の姿もあった。

「君、貸してくれないか」

 丈二と通話をしている直樹のスマホを借りる麗奈の父。
 少々不安だったが直樹も了承した。

「もしもし、君は岬 丈二だね?」

「そうです……」

「悪い事は言わない、娘を返してくれないか? これ以上罪を重くしてもどうしようもないだろう」

 無言になり考え込む丈二。
 正直まだ麗奈自身が帰りたくないと思っているだろう。

「はぁ……」

 考えた結果丈二は麗奈にスマホを渡す。

「お前の親父さんだ、話すか?」

「……うん」

 丈二が母親に向き合ったのを目の当たりにした麗奈は内心自分もそうすべきなのではと思っていた。
 スマホを受け取り恐る恐る応答した。

「もしもし……?」

「麗奈! 無事か⁈」

「私は大丈夫だよ」

 正直何を話せばいいか分からない。
 何せ“出ていけ”と言った相手なのだから。

「すぐ警察が何とかしてくれるからもう少しの辛抱だぞ」

「うん……」

 あんな事を言ったのになんて無責任なのだろう。
 今更優しくした所で気持ちは変わらない、むしろ余計に腹が立ってきた。

「あぁ、待ってろ……!」

 そう言って麗奈の父は電話を直樹に返そうとするが麗奈が呼び止めた。

「ねぇ!」

「何だ?」

「あのさ……」

 少し言葉を躊躇ってしまうが勇気を出して聞いてみた。

「無事に帰れたらまた元の生活に戻るの……?」

 麗奈は恐れていた、元の生活に戻ってしまうのを。
 しかし麗奈の父は一瞬質問の意味を理解できなかったがすぐに娘を哀れに思い答えた。

「確かに精神的なショックですぐには戻れないかも知れない。でもなるべく早く塾には戻りたいよな、ただでさえ赤点だったんだから」

 真っ先に勉強を意味する言葉が出て来る。
 それに麗奈はショックを受けた。

「お父さん、やっぱり何も分かってないよ……」

「何だって?」

 震えた声で麗奈は伝える。
 丈二と同じように親に正直に言うのだ。

「私は自分の意志でお兄さんについて行ってるのっ、家に帰りたくないから……っ!」

 しかし丈二とは違い向き合うためではなく更なる逃避のため。
 正直の意味が違ったのだ。

「おい麗奈……っ⁈」

 震えながら電話を切る麗奈。
 丈二にスマホを返した後、彼に寄り添った。

「私、帰りたくない……っ」

 ここで丈二が捕まれば、逃げられなければ麗奈は家に帰されまた辛い現実に戻されてしまう。
 それだけは絶対に避けたかった。

「お前……」

 丈二もどうすれば良いか分からずただ麗奈に胸を貸してやる事しか出来なかった。

 ☆

 電話を突然切られた麗奈の父は焦った。
 娘が最後に言った事の意味が分からない。

「どういう事だ麗奈⁈」

 スマホを直樹に返しながらグループホーム内に向かって直接叫ぶ。
 それは怒りと失望を露わにしているようだった。

「麗奈は何て……?」

 隣で心配そうにしている麗奈の母が問い、父は取り乱しながら答えた。

「自分の意志で彼に着いて行ったと、家に帰りたくないだと……⁈」

 それを聞いた麗奈の母は何か思うような表情を浮かべる。

「やっぱり……」

「何だと?」

 そして呆れたように父に言葉を投げかけた。

「あなた少しでも麗奈の気持ち考えた事ある?」

「何言ってるんだ、俺は常に麗奈のためを想って……」

「でも麗奈はそれが辛かったのよ。私も最低、助けてあげられなかった……!」

 手を差し伸べられなかった事を麗奈の母は悔いる。
 しかし父はまだ受け入れられないようだった。

「何でだ、娘のためを想って何が悪い……?」

 彼の頭は困惑してその場に立ち尽くしてしまった。

 ☆

 父の声はグループホーム内に届いていた。
 当の麗奈は丈二の胸に顔を埋めながら耳を塞いでいる。

「大丈夫だ、もう声はしない」

 丈二の語り掛けで麗奈はようやく自分の足で立ち耳から手を離す。
 しかし表情は崩れたままだ。

「分かるでしょ、私の気持ち……」

「あぁ、余計に実感した」

 麗奈は苦しそうに父親との話を語り出す。

「お父さんは私を自分に相応しい娘にしようとしてる、私のためとか言いながら本当は自分が恥ずかしくないようにね……」
 
 声の雰囲気で丈二もそれは何となく察していた。
 やはり麗奈も自分と同様の辛さを味わっている。

「私、逃れられないのかな? これが運命なの……?」

 その言葉で丈二は気付く。
 麗奈は自分と一見同じで親の被害者のようだが決定的に違う点がある。
 それは依存の仕方だ。
 丈二は母親に依存してしまっているが麗奈は逆に父親に依存されている。
 彼女は父親から逃れたいと言うのに。

「俺、本当は……」

 どうすべきか考える丈二。
 本当の自分の気持ちを今一度見直してみる。
 いくら依存してしまっているとはいえ親に理想を押し付けられる形は同じである。
 ならば逃れるべきはどちらか、単にしてる側されてる側の問題ではない気がしてきた。

「ん……?」

 すると建物の外から音が聞こえる。
 何か大型の車両がこちらへ向かって来ているような。

「まさか……」

 丈二の嫌な予感が加速する。
 外にやって来たのは一体何か。

 ☆

 一方外の警察側に丈二の予感通り大型の車両が到着した、そこから出て来たのは重装備の特殊部隊である。

「到着いたしました!」

 警察に敬礼をしてみせる特殊部隊の一同。
 銃を持っているとされる丈二の対策をしに来たのだ。

「丈二……!」

 逆に直樹は恐怖心を抱く。
 丈二が起こした事件がここまで規模が大きなものになってしまうなんて。





 つづく
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