MELODIST!!

すなねこ

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#052 Mákina Ⅱ

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東京都・23歳男性「当たらんくてエエ読みほど見事的中するんよな。雨降ったら嫌やなー、トカ…あのお嬢ちゃんがまた菓子食い散らかしに来そうやなーとか…あっやっぱり噂したら来てもうた!家中の菓子隠さへんと」


…………………………………………………………………………………



 ニュー千代田区画に聳える高層ビルの屋上にミゲル達を乗せたヘリコプターが着陸した。偶然居合わせたミーアに威嚇された事によって、拠点へと蜻蛉返りする羽目になった3人。
 徐々に弱まっていく下降気流を背中に浴びながら、けたたましいプロペラ音に掻き消されないような大声でユリエルが尋ねた。

「あの建物は一体何だったんですか?貴方は神に会いに行くと仰ってましたが」

グレーのオールバックを乱しながら振り返ったミゲルは、口元に笑みを浮かべて踵を返した。

「まあまあ、先ずは私とあの雌犬の関係について話しておく必要がある。長くなりそうだし、下でコーヒーでも飲みながらゆっくりと」

 既に片脚の義足の使い方を熟知した様子で後ろ向きに歩きながらそう返してきた彼に、ユリエルとダンタニアンは訝しげに眉を顰めた。







 ミゲル…本名、ジョシュア・アンドレアスは生まれ育ったテキサス州ヒューストンを離れ、スイスに渡来していた。
 この国には1815年以降、他国との対立をせず中立の立場を維持する事を条約で定められた永世中立国として世界政府の本拠地が置かれていた。

 音楽肯定派と否定派の両方に干渉し、世界平和の為に両者の均衡を保つ役割を果たす世界政府の仕事に強く惹かれた彼は、この時から既にある野望を胸に秘めていた。
 それは、『真に争いの無い社会を作る』事であった。

 個人の持つ能力、生活環境の差が優越感、劣等感を産み、結果的に争いの火種になる。
 の人類が全く同じ営みをすることで完全なる平和が訪れるのだ、と。


 ジョシュアが世界政府の職員になったその年、ヨーロッパ支部長となったミーアはオーストリア警察の刑事局長であるニコラス・ジーンの口利きでスイスを訪れていた。

「ようこそ、世界政府のオフィスへ。貴女のご来訪を心より歓迎致します」

 当時の代表を勤めていたミューラーという男の案内で、数人の職員らと共に応接室に入る。
 今回、ミーアがこの場所を訪れた目的…それは、旋律師メロディストの能力を平和維持に役立てる為の提案をする事であった。

楽団ギルド…という組織に関しては、熟知しております。……大変失礼ながら、我々とは根本的な理念の違いがあるように思えるのですが…」
「…私も長年……心を痛めていました。我々の力は正しく使必要があります」

 揃えた膝の上に乗せた両手を強く握りしめると、ミーアは彼女が同胞狩り私刑によって組織内の秩序を保っている事を打ち明ける。

「…なるほど。あくまで貴女個人としては……正義の為にありたい…という訳ですか。それで、ご用件というのは…」
納得した様子で尋ねてきたミューラーに真正面で視線を合わせたミーアの表情は緊張に強張っていた。ふうっと一呼吸置いてから、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

 彼女が述べた要望に、その場にいた誰しもが耳を疑った。絵空事、夢物語ではないのか。冗談として捉えるには、あまりにも真剣な表情で淡々と語っていくミーアの姿に、恐怖を覚える者もいた。


…………………………………………………………………………………


「そ、それが事実だとして…我々は何をすべきなのでしょうか?」

ゴクリと生唾を飲んだミューラーの問いは、ミーアが待ち望んでいたものであった。

「……先程申し上げたを格納する為の施設の維持管理をお願いしたいのです」
「個人で出資するには余りにも規模の大きい話、という訳ですね。もし、その条件を飲んだとして……我々の活動にどう繋がるのでしょうか?」



 二人の会話を応接室の端で聞いていたジョシュアは、未だかつて無い高揚感に包まれていた。楽団ギルドという組織の存在をこの時初めて知った彼は、後に独学で楽器の演奏技術を修得し、旋律師メロディストと同様の力を得ている。

 そして、言葉だけの『世界平和』とは次元の違う、本当の意味での平等を人類が勝ち取る為に、ジョシュアは世界政府がミーアの提案に賛同すべきだと感じていた。
 それは、彼女がミューラーの問いに対して出した答えに酷く共感したからであった。


「……楽団ギルドはその残虐性や被人道的である行いの数々を“必要悪”として許されてきました。世界には悪を持ってしか打ち倒せない理不尽がのさばりすぎている…」

 フィクサーと呼ばれる存在によって予め書き綴られた台本のセオリー通りにしか世界の事象は大きく動かないように出来ていた。
 過去を変えてしまった主人公の未来が、世界の不思議な修正力によって元の軌道に戻される…そんなSF映画の結末のように。
 どう足掻こうとも決して好転することのない理不尽に一石を投じたのが、音エネルギーの武力化をその身一つで成し遂げる旋律師メロディスト的な存在を組織化した楽団ギルドであった。


「もうお気付きでしょうが……平和とは相対的に争いを産むものです。比較的平穏と呼ばれる時代の前には、必ず大きな戦争が勃発してきました。…平和を勝ち取る…その表現が既に、争いを内包している」
「あ、貴女は一体何を……」

ミーアは自ら文字を連ねた分厚いファイルを彼の前に差し出す。

は抑止力です」
「……我々に『核』を持たせようと言うのですか…」
「力は正義の名の下に正しく運用してこそ、意味があります」

 いつか、楽団ギルドは世界を捩じ伏せられるだけの戦力を有する事になるであろう。だからこそ、組織の一員として争いの芽を摘み続けてきたミーアは世界政府に『その力』を託そうと決めたのだ。




…………………………………………………………………………………



 水族館でジンベイザメの展示に使用されるような巨大な水槽が、地下施設の最奥にひっそりと設置されていた。
 無機質な機械音が等間隔に響く空間に足を踏み入れた二人は、言葉を交わす事なく分厚い強化ガラスの前に並ぶ。

「……大丈夫か、キョウヤ?」

 不意に声をかけられ、京哉は我に帰る。自分は両親に望まれて産まれた存在ではない。京哉がミーアの口から告げられたのはあまりにも残酷な事実であった。
 絶望が顔に出てしまっていたのか。両手で頬をパシパシと叩き、無理矢理取り繕った笑顔で彼女の方に向き直る。

「大丈夫です!大人なんで、そんな生まれの事で傷付いたりしてませんて!……いやぁ、あの親父…って言ったら良いのかどうかわかんないけど、僕があの人のクローンだったってのは、滅茶苦茶複雑な気分ですけど…」

後頭部を掻きながら気丈な態度で返す彼の姿に相対して、ミーアの表情は曇っていく。

「…話すべきではなかったのかもしれない。済まない……私は器用に相手の気持ちを汲み取れないんだ」
「え、あ……謝らないでくださいよ、支部長……。ええとー…此処は一体何の施設なんですか?」

キョロキョロと周囲を見回した京哉は、不気味な赤色灯の明かりに照らされた水槽に目を凝らす。そして、水槽の底に設置された巨大なハッチを指さす。

「もしかして、怪しい組織が開発したロボが出てきたりして。いやぁ、いくらなんでもそんなものは…」
「出てくる」

ミーアの短い返答に、京哉は硬直して言葉を詰まらせた。目の前の上司は、相変わらず冗談を言う顔をしているようには見えない。

「え…マジでロボ……?空飛んだり、ロケットパンチしたり?」
京哉の問い掛けに首を横に振ったミーアは、水槽正面に床から突き出ていた操作盤の近くに彼を案内した。
 厳重に鍵が掛けられており、操作盤と言えども押下できるボタンの類は見当たらない。


「オルバス・シェスカとタクトとの関係は先程話した通りだ。……タクトは最後までオルバスの要求を飲まなかったと聞く」

 シエナの死体を譲って欲しいと言う不可解なオルバスの発言は、京哉の中でも只管疑問として残っていた。

「私がオルバスと話をしたのは、彼が楽団ギルドを出禁になって数年経った後だ。無事にシエナを日本に逃し、5年が経過していた」

 つまり、京哉が5歳になる年……シエナが警察に銃殺された年である。





…………………………………………………………………………………




 楽団ギルド本社を出禁になった筈のオルバスに似た人物の目撃情報が寄せられるようになり、ミーアは自ら調査に乗り出した。
 結局、託斗への要求の意図はわからぬままであったが、彼女はシエナに纏わる周囲の人間についてはすべからく熟知しておきたかったのだ。
 オルバスが何を考え、死体を要求するという奇妙な行動に出たのか…それを当然知る必要があると考えていた。


「…オルバス・シェスカか?」

 ミーアが狭い路地裏で発見したのは、聞き及んでいた要望よりもかなり老け込んだ様子の彼の姿であった。

「おや……あの日、カフェテリアでシエナ・シルヴェスターと抱き合っていた人か」

オルバスの寄越した返答に、ミーアは『あの日』を一瞬で特定する。

「ちょうど良い。君なら話が通じそうだ」
「……ちょうど良い?私は楽団ギルドの人間だ。接近禁止の命令が出されている身の上で良く言えたものだな」

ああ、そうだった…とまるでこの瞬間までそんな事は忘れてしまっていたかのような反応を見せたオルバスは、くつくつと含み笑いを見せる。


「音楽家の命とは何だ?」

 5年前、託斗に尋ねたのと全く同じ内容の問いをミーアに投げ掛けるオルバス。

「……その命が音楽家たる為に必要な物は何かという質問なら、答えは脳だ。演奏し、歌を歌う為に、身体を緻密に動かす命令は脳から発生する電気信号であろう。『心』などという曖昧な回答を望んでいたのなら期待外れで済まなかったな」

突如乾いた破裂音が路地に響き、オルバスの拍手がミーアの鼓膜を劈く。

「素晴らしい……期待通りだ。これなら、シエナ・シルヴェスターも喜ぶだろう」
「…何を言っているんだ?」

訝しげに睨み付けてきたミーアに、オルバスは単調な声色で続ける。

「脳がこの世に存在し続ける限り……音楽家は生き続けられる。私も全くの同意見だ。肉体は滅びようとも、薬液に浸された脳を人工の手足と連動させる回路で結ぶ事ではこの世に在り続ける事が出来る」



 夢がある……オルバスはそう語り始めた。しかし、彼の表情はとても理想を語るに相応しくない後ろ暗い感情を孕んでいるものであった、とこの時のミーアは感じている。

 半永久的に音を奏で続けるオルゴール。その造形師として人気を得始めていたオルバスであったが、自身の作品がいくら称賛を浴びようとも、名だたる賞を獲得しようとも、彼の心が満たされる事は無かった。
 
 一方で妻が病気で衰えていく姿に心を病んだオルバスは、『人の命』とオルゴールとの融合について研究し始めた。
 物に魂を宿すオカルト染みた発想ではなく、人とオルゴールが共存する事でその命を半永久的な存在に昇華させる事を目標としていたのだ。

 オルゴールの外殻に人間の脳を繋ぐという狂気に満ちた彼の設計に賛同する者は一人もいなかった。
 彼がやろうとしている事は、間違いなく人体実験の類いであるからだ。
 オルバス自身も彼自身の編み出した究極のオルゴールの製作に踏み切る事はできていなかった。を与えられたその日までは…。


「私が調律師チューナーとして所属していた工房に彼女が訪れた時、ブレゲンツで出会った見世物一家のフルーティストだと直感した。あの演奏を聴いて彼女の才能に心を震わせない人間はモグリだろう」

ブレゲンツはシエナの故郷である。オルバスはかつてその場所で彼女の演奏を聴いたことがあるという。

「……楽団ギルドが切り捨て、葬り去ろうとする理由は旋律師メロディストでない私でも想像はつく」

 シエナは間違いなく一流のフルーティストである。旋律師メロディストの適性があれば、必ずや膨大な音エネルギーの武力化を叶える逸材になり得るだろう。
 彼女が背負ったものの重みを考えれば、楽団ギルドが報復を恐れるのも無理は無かった。託斗のクローンとシエナの命を奪うまで、楽団ギルドは地獄の底までも彼女を探して追い回すだろう。
 楽団ギルドは必ずシエナを殺す。オルバスの言わんとする事がわかると、ミーアはその提案を蔑ろにする訳にはいかなかった。


「……シエナの脳を………しかし、本当にそのような事が可能なのか?それに、彼女が殺されたとして、日本までどのように…」
「そう…遺体の回収からオルゴールの維持管理まで……国家レベルの予算をかけなければ実現しないという所が、私の芸術の粋において唯一の欠点です」

そこまで語ったオルバスの腕がスゥッと静かに持ち上がり、ミーアを真っ直ぐに指さす。

「貴女の力で…この5年で得たコネクションで…シエナ・シルヴェスターとの約束を果たす時だ。楽団ギルドのヨーロッパ支部長ともなれば、外部にも顔がきく」

 この年、その実力を認められたミーアは最年少でヨーロッパ支部長に就任する予定となっていた。何処でその情報を仕入れたのだろうか、得体の知れないオルバスの諜報網は侮れない。

「……お前が私を裏切らない保証は?抵当を確保する為に提示できるものはあるのか?」
「ああ…私には娘がいる。まだ幼いが……あの子に全てを託そう。此処で全てを打ち明ける必要は無いな…秘密を守る為にも…」

 急に闇の中に消えてしまったオルバスを追い掛けようと一歩踏み出した時、背後から複数名の足音が駆け寄る音が聞こえてきた。



…………………………………………………………………………………


「私が社屋の周囲を徘徊する不審者と接触したと聞いて、運悪く同僚が心配して駆け付けてしまった。私はその時以降、オルバスと顔を合わせた事は無い」

 操作盤の至る箇所に設けられた南京錠を1つずつ手に取るミーアは、再度水槽の方へと視線を移す。

「奴がならば、シエナは…君の母親はこの中に眠っている。オルゴールの外殻の中で…」


 京哉は戦慄していた。
 人間の脳だけを残し、人工物の中に閉じ込める。それを果たして、『命』と呼べるのであろうか。

「……そんな…でも……それって……」
「シエナが望んだかはわからない。このような人体実験に加担した私を、彼女は恨んでいるのかもしれない」

 ミーアの声は震えていた。
 オルバスに協力し、シエナの脳をオルゴールに繋ぎ止めてこの場所に保管する事を決めたのは彼女自身であった。
 死体と言えど、彼女の身体を切り刻む行為を拒絶した託斗の方が倫理観的には正しい。しかし、ミーアにはの約束を叶える必要があったのだ。

「私は子供を産めない体だが、もし……もし私が母親なら…」

鼻を啜りながら水槽の壁を掌で撫でる。



「最愛の息子に会いたいと願っただろうから……」



 正義の為に、組織の為に、身を粉にしてきた彼女が今この場所で一筋の涙を流した理由。それは、子を愛するシエナの母性を汲んでの“情け”であった。
 死人に口は無い。しかし、成長を見届ける事の叶わなかった息子に、一度で良いから会いたい…そう願うのは親として至極当然ではないのだろうか。

 



 踵を返したミーアは、黒いコートのポケットから自身のPHSを取り出す。インカメによる顔認証画面がエラー表示となっており、使用できなくなっていた。
 その画面を京哉の方に見せると、端末を床に叩きつけて目にも止まらぬ速さで変形したサーベルの先端で貫く。

「これが上層部の決定らしい。まぁ…当然の判断だな。こうなってしまえば、楽団ギルドは愚かこの世界の何処にも私の居場所は存在しない」

彼女の目に、先程京哉に見せた涙の片鱗は無かった。

「支部長…これからどうするんですか…?」
「姿を消すしかない…この場所が楽団ギルドに知られてはまずいからな」

 楽団ギルドに捕えられれば、隠し事は全て暴露させられる。そして、処刑される運命が待っているのだ。

「君の拠点を出る前にタクトとハジメを負傷させて時間を稼いだが、そろそろ彼らも駆け付ける頃だろう。奴はどういう訳か嫌な時に限って鼻が効く」

苦笑いを見せたミーアは、サーベルをフルートの形に戻しながら右手を差し出した。

「私が君に伝えられる真実は以上だ。オルバスが死に、シエナと再会する為の方法は土の中に葬られてしまったが……きっと、シェリアーナ・シェスカがその鍵を握っている筈だ」
「シェリーが……」

握手に応えた京哉は、もう一方の手でミーアの右手の甲を包み込んで強く握った。






…………………………………………………………………………………



 GPSの反応が途絶した旧虎ノ門ヒルズ前に到着した黒塗りのワゴン車。パワースライドドアがゆっくりと駆動し、車内から外へと白い燕尾服を纏った双子が飛び出していく。
 路地の影に隠れて周囲を警戒し、お互いにハンドサインを送り合っている。

「最後に位置情報を拾ったのはこの辺りか…」
フロントガラス越しに周囲を見渡す託斗の隣で、革張りのハンドルをトントン指で叩いている鬼頭が尋ねた。
「発信器を壊された可能性はねぇのか?」
「ジュラルミンケースごと破壊されない限り無理だね。緩衝材の中に仕込んである。あと、考えられる原因としたら……電波の届かない場所に連れ去られた、とか?」
託斗が真下を指差し、鬼頭はそれに納得した様にコクリと頷く。

 ナツキとフユキからの連絡を受けて車外に出た面々は、京哉が地下に連れ去られたのではないかとあたりをつけ、旧虎ノ門ヒルズ内へと侵入した。
 瓦礫の散乱した広いエントランスを進む最中、一番前を歩く巳継と双子が異変を察知して瞬時に身構える。正面から近付いて来る人の気配に、各々楽器を構えた。

「誰か来る。下がってて」

じっと正面を見据えながら注意を促してきた託斗に、シェリーはコクリと頷いて一歩後ずさる。


 暗がりに目を凝らし、相手が姿を現す瞬間を待つ。視線を合わせた巳継、ナツキ、フユキの3人が一斉に走り出すものの、奥からこちらに接近してきた人影が持つ金属製の長物に気付いて瞬時に左右に回避した。


 緊張感の走るエントランスに散らばる4つの白い点。


「一番遭遇したくなかった奴に出くわしちまったな…」
ナツキがホルンを構える先でゆっくりと姿勢を戻したのは、太刀を右手に持った京哉であった。
「京哉クン……そんな………戦いたく無かったのに…」
グレネードランチャーを構えたフユキが悲しげな表情で呟く。

 最初にエンカウントしたのがミーアでは無かった事に安堵しつつも、京哉がについたとなればこれ程厄介な事はない。
 ジリジリと距離を詰めてくる京哉を注視する3人は、唐突に放たれた青白い閃光に視界を完全に奪われないよう目を細めた。


「あーっ!ビックリさせんなって!いきなり襲ってくるから敵かと思ったじゃん!」

太刀をフルートの形に戻した京哉は、ホッとした表情でツカツカとシェリー達の方に歩み寄る。
 顔を見合わせた双子が託斗の方を振り返ると、彼はまだ油断するなとハンドサインを出してきた。

「京ちゃん、無事だったんだ。ミーアに何もされなかった?」
ニッコリと笑い掛けてきた託斗を見て、京哉は嫌でも先程ミーアから聞かされた情報を思い出してしまう。
「何もって?目覚めたらココに居たんだけど……」
気まずさが表情に出てしまっていたのだろうか。託斗は訝しげに眉を顰めながら京哉の顔を覗き込んだ。
 この男に嘘は通用しない。下手に怪しまれて他の仲間にも誤解を産むぐらいなら、と考えた京哉は咄嗟に彼に耳打ちした。
「……何もされてないけど、話は聞いた。全部……お母さんの事も、僕がアンタの……」
目を見開いた託斗は、それ以上は聞かなくても良いと彼の肩を叩く。

…………………………………………………………………………………


「どうした、託斗?」

ジッと黙っていた託斗の背後から鬼頭が問い掛けると、何事も無かったかのようにいつもの胡散臭い笑顔を作る。
「何でもない……いやぁ…てっきり、ミーアに唆されて悪の道に走ったとばかり思ってたからさぁ。いつもの京ちゃんでホッとしたというか、拍子抜けと言うか」
明るい声色で笑い飛ばした託斗の言葉に、その場にいた全員が安堵した。
 京哉と戦う必要はないとわかると、双子はヘナヘナと腰が抜けたように床に座り込んでしまう。

「キョウヤ……大丈夫なの?何もされてない?」
鬼頭の影からそっと顔を覗かせたシェリーが心配そうな表情で尋ねると、京哉は顔をしかめて不満げに返した。
「お前に心配される程落ちぶれてねーっての」
折角その身を案じてやったというのに…と、唇を尖らせたシェリーは京哉の正面に飛び出して腹にグーパンを一発お見舞いした。
「いった…!何すんだメスガキ!」
咄嗟に彼女の白いツインテールの根本を掴んだ京哉は、仕返しと言わんばかりにそれをブンブン振り回し始める。
 ギャーギャーと騒がしい二人の様子を背に、託斗はビーチサンダルの底を鳴らしながら鬼頭に話し掛けた。

「…離れよう。あまり長居して良い場所ではなさそうだ」

 京哉が彼だけに伝えた言葉から事情を察したのか、すぐにビルを離れようと提案する。普段ならば好奇心の赴くままに前進しようとする彼の様子が明らかに普通では無い事に気が付いた鬼頭は、特に事情を聞くまでもなく元来た方向へと歩き始めた。




[52] Mákina Ⅱ 完
 
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