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STANDBY
プロローグ じゃあ『ゲーム』しようか
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「じゃあ、『ゲーム』しようか」
「……ゲーム?」
彼女の目の前に座る、黒髪の美しい青年。
その瞳に宿った、獲物を追い詰めるような怪しい光。
かつての泣き虫だった弟分の面影は、そこには微塵もない。
「俺が正式に医者になるまでの期間。つまり4月1日までに、その宗介とかいう男を完全に落として、正式に『彼氏』にできてたら凛ちゃんの勝ち」
冷たいようでいて、熱を孕んだ視線。
「逆に、それまでに付き合えなかったり、別れたりしたら……俺の勝ちね。負けた方は『罰ゲーム』だから」
「……いいわよ」
凛は震える声を隠して、受けて立った。
最悪な年下男に、完膚なきまでの「敗北」を味合わせるために。
そして、運命の相手・宗介と結婚するために。
デートの手応えはあった。
この勝負、絶対に負けるはずがない。
「その代わり!デートの妨害はしないでね。私のスマホを勝手に見たり、デート先に現れたりするのは禁止よ」
「うん。俺はそんなことしないよ。約束する」
青年ーー湊は爽やかな笑顔で頷く。
この時の凛は、湊が笑顔の裏でとんでもない策略を巡らせていることに、全く気づいていなかった。
(……そう。どうして、こんなことになったんだっけ)
話は、この『ゲーム』が始まる少し前。
凛が『運命の王子様』とマッチングした、1月のあの夜まで遡る。
*
1月下旬。 北風が窓を叩く夜。
霜田 凛(29)は、暖房の効いた自室のベッドで頭を抱えていた。
『女医の1/3は結婚生活が続き、1/3は離婚し、そして残りの1/3は一生独身である』
医学界でまことしやかに囁かれる、呪いのようなジンクス。
仕事に邁進している間に、周りの同期や後輩たちは次々と「結婚」枠へと勝ち抜けていった。
一方の私は、浮いた話ひとつない。
このままでは着実に「一生独身」コースだ。
本気でやばい。
年末年始の実家帰省も地獄だった。
「結婚はまだか?」という両親のプレッシャー。
2歳下の従兄弟の結婚報告。
「婚活とかした方がいいんじゃないの?」と言う母に、「もうしてるわよ!」と喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ屈辱。
その時、枕元のスマホがブルっと震えた。
(……どうせまた、お母さんからの催促メッセージでしょ)
不貞腐れながら画面を覗き込む。
だが、そこに表示されていたのは、母の小言ではなかった。
『いいねが来ました!』
マッチングアプリの通知だ。
凛が弾かれたように通知をタップすると、一人の男性のプロフィール画面が開いた。
『後藤 宗介(31)』
職業:医師(在宅医療)
趣味:登山、カフェ巡り
写真の彼は、知的で優しそうな笑顔を浮かべている。
同業者の医師。しかも年上。
凛の目が、獲物を狙う猛獣のように光った。
(きた!ようやく私の時代が!)
凛は震える指で「いいね」を押し返す。
これでマッチング成立だ。
年末、職場の後輩たちにアドバイスを貰い、プロフィールを「優しげな家庭的女医」風に詐称……修正した甲斐があったというものだ。
凛の結婚相手の希望は、「年上で、自分より賢い人」。
宗介のプロフィールは、それらを完璧に満たしていた。
(この人が、私の運命の相手かもしれない!)
凛はデスクの引き出しを開け、初詣で引いたおみくじを取り出した。
結果は『大吉』。
そこに書かれていた言葉を、もう一度読み返す。
【恋愛】この人となら幸福あり。向こうから来る。
「やっぱり……!向こうから『いいね』が来たもんね!」
おみくじは正しかった。
神様は私を見捨てていなかったのだ。
凛はこれから始まる運命の恋に、胸を高鳴らせていた。
しかし、凛は気づいていない。
そのおみくじの、もう一つの項目に。
【待ち人】遅けれど、戻ってくる。
「向こうから来る」理想の相手か。
「戻ってくる」過去からの執着か。
これから彼女に訪れるのは、甘い運命の恋などではない。
これから幕を開けるのは、逃げ場のない、狂気的で甘い『恋愛ゲーム』だ。
「……ゲーム?」
彼女の目の前に座る、黒髪の美しい青年。
その瞳に宿った、獲物を追い詰めるような怪しい光。
かつての泣き虫だった弟分の面影は、そこには微塵もない。
「俺が正式に医者になるまでの期間。つまり4月1日までに、その宗介とかいう男を完全に落として、正式に『彼氏』にできてたら凛ちゃんの勝ち」
冷たいようでいて、熱を孕んだ視線。
「逆に、それまでに付き合えなかったり、別れたりしたら……俺の勝ちね。負けた方は『罰ゲーム』だから」
「……いいわよ」
凛は震える声を隠して、受けて立った。
最悪な年下男に、完膚なきまでの「敗北」を味合わせるために。
そして、運命の相手・宗介と結婚するために。
デートの手応えはあった。
この勝負、絶対に負けるはずがない。
「その代わり!デートの妨害はしないでね。私のスマホを勝手に見たり、デート先に現れたりするのは禁止よ」
「うん。俺はそんなことしないよ。約束する」
青年ーー湊は爽やかな笑顔で頷く。
この時の凛は、湊が笑顔の裏でとんでもない策略を巡らせていることに、全く気づいていなかった。
(……そう。どうして、こんなことになったんだっけ)
話は、この『ゲーム』が始まる少し前。
凛が『運命の王子様』とマッチングした、1月のあの夜まで遡る。
*
1月下旬。 北風が窓を叩く夜。
霜田 凛(29)は、暖房の効いた自室のベッドで頭を抱えていた。
『女医の1/3は結婚生活が続き、1/3は離婚し、そして残りの1/3は一生独身である』
医学界でまことしやかに囁かれる、呪いのようなジンクス。
仕事に邁進している間に、周りの同期や後輩たちは次々と「結婚」枠へと勝ち抜けていった。
一方の私は、浮いた話ひとつない。
このままでは着実に「一生独身」コースだ。
本気でやばい。
年末年始の実家帰省も地獄だった。
「結婚はまだか?」という両親のプレッシャー。
2歳下の従兄弟の結婚報告。
「婚活とかした方がいいんじゃないの?」と言う母に、「もうしてるわよ!」と喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ屈辱。
その時、枕元のスマホがブルっと震えた。
(……どうせまた、お母さんからの催促メッセージでしょ)
不貞腐れながら画面を覗き込む。
だが、そこに表示されていたのは、母の小言ではなかった。
『いいねが来ました!』
マッチングアプリの通知だ。
凛が弾かれたように通知をタップすると、一人の男性のプロフィール画面が開いた。
『後藤 宗介(31)』
職業:医師(在宅医療)
趣味:登山、カフェ巡り
写真の彼は、知的で優しそうな笑顔を浮かべている。
同業者の医師。しかも年上。
凛の目が、獲物を狙う猛獣のように光った。
(きた!ようやく私の時代が!)
凛は震える指で「いいね」を押し返す。
これでマッチング成立だ。
年末、職場の後輩たちにアドバイスを貰い、プロフィールを「優しげな家庭的女医」風に詐称……修正した甲斐があったというものだ。
凛の結婚相手の希望は、「年上で、自分より賢い人」。
宗介のプロフィールは、それらを完璧に満たしていた。
(この人が、私の運命の相手かもしれない!)
凛はデスクの引き出しを開け、初詣で引いたおみくじを取り出した。
結果は『大吉』。
そこに書かれていた言葉を、もう一度読み返す。
【恋愛】この人となら幸福あり。向こうから来る。
「やっぱり……!向こうから『いいね』が来たもんね!」
おみくじは正しかった。
神様は私を見捨てていなかったのだ。
凛はこれから始まる運命の恋に、胸を高鳴らせていた。
しかし、凛は気づいていない。
そのおみくじの、もう一つの項目に。
【待ち人】遅けれど、戻ってくる。
「向こうから来る」理想の相手か。
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