『偏差値75の恋愛ゲーム』~年下は「対象外」の私を、5歳下の幼馴染が逃がしてくれません~

デルまりん

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第1話 ……ああ、湊のこと?

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1月下旬。北風が吹き荒れる金曜日の夜。

駅前の個室居酒屋は、週末を楽しむ女性客たちの笑い声で満ちていた。

「見て!これ!」

霜田 凛しもだ りんは、スマホの画面をテーブルの中央に突き出した。
画面には、白衣を着た知的で爽やかな男性の写真。

後藤 宗介ごとう そうすけ(31)』 
職業:医師(在宅医療)

「マッチング成立!市内で訪問診療のクリニックをやってる先生なの!」

「えっ、開業医!?すごいじゃん凛!」 

目を丸くしたのは、間宮 遥まみや はるか
地元の銀行員と結婚し、今は2歳の娘を育てているママだ。
スマホの待ち受けはもちろん愛娘である。

「でも、訪問診療って大変そう……。夜中も呼ばれるんでしょ?」 

中沢 桃香なかざわ ももかは心配そうに言う。
彼女は公務員の夫を持ち、現在妊娠中。
手元のグラスはノンアルコールだ。

凛は首を振った。

「そこがいいのよ!『最期まで家で過ごしたい』っていう患者さんの想いに寄り添うなんて、生半可な覚悟じゃできないわ。私より賢くて、志が高くて、尊敬できる大人の男性……やっと見つけたって感じ!」

凛はうっとりと語った。

(……これが、私が求めていた「正解」よ)

凛たちは同じ小中の同級生で、ときどき三人で飲みに行く仲だ。
凛は二人の前では、いつも肩身が狭かった。
遥は子育ての話、桃香はベビーグッズの話。
ライフステージが着々と進んでいる二人に対し、凛はまだ「彼氏探し」のスタートライン。

「凛は美人だし医者なのに、なんで?」という悪気のない言葉に傷つくのも、もう終わりだ。

この宗介さんとなら、二人に並べる。

「へぇ、よかったねぇ。凛、ずっと『年下は無理』とか『バカな男は嫌』とか言ってたもんね」 

遥がお通しのサラダを取り分けながら笑う。

「そうそう。昔から理想高かったもんね~。……あ、そういえば」

桃香がお腹を優しく撫でながら、ふと思い出したように言った。

「こないだ実家帰った時、昔のアルバム見てたんだけどさ。小学校の卒業式のときの写真が出てきて」

「卒業式?全然覚えてない!」

遥が反応する。

「うちら三人で撮った写真に、凛にべったりの男の子も写っててさー。ほら、凛の隣の家の……」

凛の手が、枝豆に伸びかけたところで止まった。

「……ああ、みなとのこと?」

「そう、湊くん!よく『凛ちゃん、待ってぇ』って泣きながらついてきてたよねぇ。可愛かったなぁ」

「あの子、どうしてるんだろうね?凛が中学生の時までは凛に積極的だったじゃない?凛はバッサリだったけど……」

二人の問いに、凛はジョッキを置いて、冷めた口調で答えた。

「東京の国立大学医学部に通ってるわよ」

「えっ、東京の国立医学部!?あの泣き虫だった湊くんが!?」 

遥が素っ頓狂な声を上げる。

「すご……国内トップクラスじゃん。あいつも出世したなぁ」

「まあね。一応、頭だけは良かったみたい」

凛は言葉を濁した。

『凛ちゃん、好きだよ』

『大人になったら結婚して』 

幼い頃の湊の言葉が脳裏をよぎるが、すぐに振り払う。

私は彼にとって、ただの「近所の頼れるお姉さん」。
世界が狭かった頃の、淡い刷り込みに過ぎない。

それに、5歳下の弟分なんて、ママになった遥やプレママの桃香の話についてこれるわけがない。

私が求めているのは、今の私と同じ景色を見てくれる「大人のパートナー」なのだ。

「ま、あの子も今頃、東京の女子大生と青春してるわよ。……それより今は宗介さん!今度の日曜、初デートなんだから!」

「はいはい、応援してるよ」 

「結婚式呼んでねー」

幸せそうな二人を尻目に、凛は高らかに笑った。



そして、2月上旬の日曜日。

凛は、駅前の落ち着いたイタリアンレストランにいた。

「実は最近、こっちに戻ってきたばかりなんです。それまではへき地医療の支援に行っていて」

穏やかな口調で語る宗介。
飾らない人柄と、医療への真摯な眼差し。

「患者さんの生活背景まで診るのが、僕の仕事ですから」

その言葉に、凛は完全に心を掴まれた。

(……素敵。なんて誠実な人なんだろう)

「凛さんは皮膚科医なんですよね。皮膚科って確か専門医取得までの期間が長かったような」

「はい。5年間の研修が必要で、私は3年目なのでまだまだです」

「大変ですね。訪問診療やってると、褥瘡とこずれの人が多くて。なかなか治療が難しいんですよね。凛先生に今度診てもらおうかな」

「私なんてまだまだですよ」

専門的な会話もスムーズに通じる知性。
決して知識をひけらかさず、こちらの意見を尊重してくれる大人の余裕。
穏やかで、洗練された時間。

(……これよ!これを求めていたの!)

凛の心は震えていた。
訪問診療医で激務でありながら、目の前の彼には疲れた様子もない。

「そろそろ帰りましょうか」

腕時計を見た宗介が言った。

「はい。あ、お金……」

凛は財布を出す。

「先程払っておきました」

「え?あ、ありがとうございます……ごちそうさまです……」

スマートなエスコート。
完璧だ。この人しかいない。
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