『偏差値75の恋愛ゲーム』~年下は「対象外」の私を、5歳下の幼馴染が逃がしてくれません~

デルまりん

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第4話 あんたには関係ないでしょ!

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「ち、ちょっと……!何すんのよ!」

至近距離にある湊の顔。
シャンプーの香りと、濡れた髪から滴る水滴。
そして、獲物を狙うような熱っぽい瞳。

「……さっきの話」

「え?」

「いい感じの人がいるってやつ。……やめときなよ」

「はあ?あんたに関係ないでしょ!」

「関係あるよ。俺は凛ちゃんと結婚するんだから」

「寝言は寝て言いなさい!どいて!」

凛が湊の胸を押して抵抗しようとした瞬間。

湊の顔がすっと近づいてきた。
唇が触れる距離。

反射的に、凛はギュッと目を閉じて身を固くした。

(……されるっ!)

心臓が早鐘を打つ。
しかし、数秒経っても唇に感触はない。

「……ぷっ」

耳元で、吹き出すような笑い声が聞こえた。

凛が恐る恐る目を開けると、湊は顔を離し、意地悪くニヤニヤと笑っていた。

「凛ちゃん、顔真っ赤」

「は……?」

「何ギュッと目つぶってんの?もしかして、キスされるとでも思った?」

「っ……!」

カッと顔が熱くなる。
湊は楽しそうに目を細め、人差し指で凛の眉間をツンと突いた。

「言ったでしょ。『何もしない』って」

「……」

「俺のこと男として見てないなら、警戒する必要ないじゃん。……それとも、凛ちゃんの方が俺を意識しちゃってるの?」

「ち、違うわよ!あんたが顔近づけるから……!」

「はいはい。ドライヤー借りるねー」

湊はひらひらと手を振り、余裕綽々で洗面所へ戻っていった。

残された凛は、ソファに崩れ落ちるように座り込んだ。 心臓の音がうるさい。

(……何よ、あいつ)

「何もしない」と言われてホッとしたはずなのに。

どこか拍子抜けしている自分と、勝手にドキドキして馬鹿を見た恥ずかしさ。

(……完全に遊ばれてる……!)

凛はクッションに顔を埋め、足をバタバタさせて悶絶した。



その夜、凛は昔の夢を見ていた。

「凛ちゃーん」

背後から聞こえる、ぐすぐすと湿っぽい声。
振り返ると、通学帽の黄色が鮮やかな小学1年生の湊が、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしていた。

「湊、またあんた泣かされたの?」

小学6年生の凛は、背負った赤いランドセルを揺らして駆け寄った。

湊は実家の隣に住む5歳下の幼馴染。
泣き虫で、気が弱くて、放っておけない弟分だ。

「……顔が、女の子みたいだって言われて……」

「なによそれ。それはあんたが『イケメン』だからよ!10年後には評価変わるから大丈夫!」

「イケメン……?」

「そうそう。だから気にしなくていいの」

凛はハンカチで湊の顔を乱暴に拭くと、その小さな手をぎゅっと握った。

「ほら、一緒に帰ろうか」

「うん……ねぇ、凛ちゃん」

「何?」

繋いだ手から、体温が伝わってくる。
湊は涙に濡れた長いまつ毛を瞬かせ、真っ直ぐに凛を見上げた。

「10年後、俺がイケメンのままだったら、結婚してくれる?」

「……何言ってんの!10年後っていったら、あんたはまだ17歳。結婚なんてできないわよ!」

「じゃあ、もっと先でもいい。俺と結婚して」

真剣な眼差し。
けれど、凛はそれを笑って聞き流した。

「……あんたが私より賢くなったら、考えてあげる。私より賢い人が好きだから」

子供の頃の、夕日の中の思い出。
あの後、湊が返した言葉を、大人になった凛は覚えていなかった。



翌朝。火曜日。

(昔の夢、久しぶりに見たな……)

凛は欠伸をしながら車を運転し、湊を駅近くの不動産屋の前まで送った。

凛は冷たく言い放つ。
昨夜の屈辱は忘れていない。
一刻も早くこの嵐を追い払わなければ。

「うん、ありがと。行ってらっしゃい」

湊は爽やかに車を降りた。
凛もそのままアクセルを踏み、病院へ向かおうとする。

その時、ふと気づいた。

「……あれ? ちょっと待って」

凛は窓を開け、歩き出した湊を呼び止めた。

「湊!あんた、荷物は?キャリーケース持ってないじゃない」

不動産屋に行くだけとはいえ、今日で部屋を決めて出ていくなら、荷物も持っていくべきだ。

しかし、湊は手ぶらだった。

湊は振り返り、悪びれもせず言った。

「ああ、凛ちゃんの家に置いてあるよ」

「はあ!?なんで持ってこないのよ!今日出ていくんでしょ?」

「だって、今日契約してもすぐに入居できるわけじゃないし。それに、重いじゃん」

「重いじゃん、じゃないわよ!じゃあどうすんのよ!」

「だから、今日も帰るよ。凛ちゃんの家に」

「はあぁぁ!?」

湊は車の窓枠に肘をつき、困ったような、でも計算高い笑顔を向けた。

「鍵も持ってないし、俺の荷物、凛ちゃんの家にあるからさ。締め出さないでね?」

「あんたねぇ……!」

「じゃ、仕事頑張って。終わったら連絡ちょうだい。どこかで時間潰してるから」

「ちょっと!」

言うだけ言って、湊はさっさと不動産屋の方へ歩いていってしまった。

「……もうっ!!」

クラクションを鳴らしたい衝動を抑え、凛はハンドルを強く握りしめた。

また今夜も、あいつが家にいるのか。
昨夜の「寸止め」の悔しさが蘇る。

(……絶対、調子に乗らせないんだから!)

凛は乱暴にウインカーを出し、病院へと車を走らせた。



凛の車が交差点を曲がって完全に見えなくなる。

「……行ってらっしゃい、凛ちゃん」

そう呟いた湊の顔には、「爽やかな弟分」の仮面は微塵も残っていなかった。

湊はポケットからスマホを取り出すと、慣れた手つきでメッセージアプリを起動する。

『凛ちゃんの家に無事上がり込めたよ。引き続き、病院での凛ちゃんの見張り、よろしくね』

送信ボタンをタップ。
画面には「既読」のマークが一瞬でついた。

湊は満足げに口の端を上げると、スマホをポケットにしまい、再び歩き出した。

北風が吹きすさぶ中、湊の足取りは、これから始まる狩りを楽しむように軽やかだった。
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