禁じられた恋

郷 絵瑠夢

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禁じられた恋

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‥誕生‥

     オギャーオギャー8月31日18時40分
     病院の分娩室から産まれたばかりの赤ちゃん泣き声。
     難産の末、やっと産まれてきたのは有城家の娘。
    名前は産まれて3日後に父、有城一世(いっせい)が世梨香(せりか)と名付けた。
     お産の退院は5日~7日以内だが、母、世津子(せつこ)の体調と初産という事もあって10日間入院し自宅へと帰って来た。
     待っていたのは、両親の親たち祖父母だ。
     初孫の帰りを今か今かと待っていた。
     病院でミルクを飲み、お腹いっぱいになっていたのでスヤスヤと眠っている。
     ベビーベッドに寝かせられベッドの周りに祖父母達が、くいいるように世梨香を見ている。最初に両祖父がベッドから離れ、ベッドの置かれている部屋から続くリビングに戻って来た。両祖母は世梨香を見ながら、『これから楽しみねぇ』なんて話をしている。
    それから大人6人で出産·誕生·退院の祝いを始めた。
    この日は両祖父母は泊まり、次の日には父方の祖父母と母方の祖父が後ろ髪を引かれる思いで帰って行った。
    そして一週間、退院後の診察日まで母方の祖母が居てくれた。母子共に順調だと言われ病院から帰って来た。母方の祖母も安心して帰って行った。 

    
    次の日、夕方、ピンーポンと玄関の呼び鈴が鳴った。世梨香は気持ちよさそうに寝ている。
  「はい。」
  「こんにちは。世津子さん」と女性の声だ。
  「今、開けますね。」と言って玄関ドアを開けた。
  「世津子さん出産 おめでとうございます。」と挨拶した。
  「シアンさん、ありがとうございます。潤哉くんも一緒に来てくれたのね。どうぞ、お茶でも入れるので上がって」
  「少しだけ お邪魔しますね。」
    リビングまで来て、
  「ソファに座って」と言って、お茶を入れる為キッチンに入った。
    リビングの続きの部屋にベビーベッドを置いているのでソファに座っても、まる見えだ。
  「世津子さん、赤ちゃん見ても大丈夫ですか?」
    紅茶とオレンジジュースをトレーに乗せてリビングに戻って来た。
  「ええ、ぜひ顔を見ていって どうぞ···今、寝てるけど」
  「じゃあ静かに····ジュンも一緒に見る?」と母のシアンが聞くと、
  「うん。」と頷いた。
  「気持ちよさそうに眠ってますね。女の子も可愛いわぁ。あっ、世津子さん赤ちゃんの名前は?」
  「世梨香って名付けたの」
  「セリカちゃん···いい名前ですね。」
  「ありがとう。紅茶入れたので座りましょ。潤哉くんも ジュース飲んで」
  「はい。ごちそうになります。それと世津子さん、本当にご出産おめでとうございます。」と言って出産祝いを渡した。
  「ありがとうございます。遠慮なくお祝い 頂きますね。」
    色々な話をして帰りがけにもう一度、世梨香の顔を見て帰って行った。


    それから月日が経ち、世梨香が生まれて100日が来た。夏に産まれたが今は冬、12月9日で100日になった。
    皆の休みに合わせ12月12日(土曜日)、両祖父母と隣の蘇我さん一家を呼んでお祝いをした。

    両親や両祖父母の愛情の元、世梨香は すくすくと育って行った。





‥となりのお兄ちゃん··

     世梨香が生まれて4年が経った。8月31日満4歳になった。
     隣に住む 幼馴染みのお兄ちゃんである潤哉は偶然にも前日8月30日で12歳になった。小学6年生。小学4年から始めた同好会のバスケットボール部に所属している。小学6年男子の平均身長は145cmだが潤哉は成長期なのか平均より10cm高い155cmある。バスケ部でのポジションはチームの大黒柱と呼ばれる『センター』 ポイントガードと同じくらい勝敗に関わる重要なポジションだ。
    学校と部活で忙しい日々の潤哉だけど、時間の合い間に必ず世梨香に会いに来てくれる。お互いひとりっ子ということもあって潤哉は妹のように可愛くって仕方がなかった。

    世梨香が2歳の頃、半年が過ぎたくらいから おしゃべりが上手に話せるようなって、そして、とにかく絵本を見るのが大好きで潤哉が遊びに来ると必ずお気に入りの絵本を潤哉に渡し読んでもらうのが日課になった。
    今年の誕生日は潤哉の8月30日が日曜日だったので午前中は潤哉の部活がある為、夕方から世梨香と潤哉の誕生会を蘇我家で開いた。
  「セリ、4さい おめでとう」
  「あ、り、が、とう」
  「プレゼントだよ」
    世梨香は母の顔を見た。
  「マ·マ」
  「あら、潤哉くん世梨香にプレゼント?」
  「はい」
  「潤哉くん、ありがとう。世梨香、手を出して」
    世梨香は腕を伸ばし両手を広げた。潤哉は世梨香の小さな手の上にプレゼントを乗せた。その時の世梨香の笑顔は、めちゃくちゃ可愛いかった。
   「マ·マ、セリカも···セリカも····」
   「世梨香も潤哉くんにプレゼント渡したいの?」
   「ウ·ン」
   「これなんだけど、持てるかな?」
     世梨香は立ち上がって、うんうんとうなずいた。
   「じゃあ持って!!」
   「ジュンお·にいちゃん おめでとう」
   「セリ、ありがとう」
     そのやりとりを周りの皆んなが、微笑(ほほえ)ましく見ている。
   「セリ、プレゼント開けて見ようか」
   「ウン、あけたーい」
     一緒にプレゼントを開けはじめた。
     潤哉のプレゼントはバスケットシューズだ。
    世梨香は、なかなか結んであるリボンがほどけていない。
  「セリ、リボンとってあげようか?」
    首を横に振り、
  「ガンバル!」

    やっと!リボンが取れて包装紙を止めているシールをはがし包装紙からプレゼントを出すと、はりねずみの絵本だった。世梨香は何の動物なのか判らなかった。首をかしげ、『????』
     潤哉は、
  「セリ、そのどうぶつは、はりねずみって言うんだよ」
  「はり······」
  「そう、はり·ねずみ」
  「ねずみ·····」
  「つづけて言ってごらん」
  「はり··ねずみ」
  「そうそう、言えたね」笑った。
    いつも優しく『セリ』と呼んでくれる『ジュン』お兄ちゃん。世梨香は、となりのお兄ちゃんが大好きだった。
    和やかで楽しい誕生会となった。でもこの誕生会が最初で最後の両家での誕生会となる。





‥別れ··

    8月の誕生会から、あっという間に3か月が過ぎた。
    夏から秋そして冬へ、11月そろそろ雪の季節となる。11月中旬、蘇我家に一本の電話が鳴った。シアンの実家からだった。潤哉の母シアンは韓国人。電話は韓国の実家からで、シアンの母が危篤との連絡が入った。急遽、韓国へと行く事になった。
    次の日、一家皆んなで千歳空港から韓国へと飛び立った。
    それから一週間、小康状態を保っていたが一度も意識が戻らぬまま帰らぬ人となってしまった。
    有城家の父と蘇我家の父とは大学時代からの親友で同じ食品物産の企業に勤めている。部署は違うが会社に一報が入り亡くなったことを知る。
    それから葬儀を終わらせ、シアンを韓国に残し父と潤哉が先に帰国した。
    シアンが戻って来るまでの間、潤哉を有城家で預かることにした。冬休みまでまだ一ヶ月がある。学校が終わるとバスケの部活もあり潤哉の日常は母がいないが、いつも通りの生活だ。父親同士はというと最近は一緒に帰宅する事が多くなり夕食を一緒に食卓を交えるようになった。父親同士は学生時代に戻ったようだと言いながら晩酌にビールを飲み楽しそうだ。大変なのは母の世津子だ!世梨香の子育てに家事全般。でも楽しそうに毎日動いている。

   韓国にいるシアンから連絡が入り、12月10日に帰国する。
   世梨香も毎日が楽しい。大好きな潤哉が本当のお兄ちゃんに思えてきてる。部活が終わって帰って来るのは19時、時計の見方もあまりわからない世梨香だけどなぜか潤哉の帰って来る頃には玄関で待っている。
    一度だけ父親達が同じ頃に帰って来た事があり、ドアを開けると目の前に世梨香が座っていたので驚いた。世梨香も驚く。いつもなら大好きな潤哉が『セリ、ただいま』と言って帰って来るからだ。世梨香は思いっきりほっぺを膨らませ怒った顔を作り、
  「パパ····キライ!」と言った。
    その言葉に父の一世はショックを隠しきれなかった。
  「俺が·····潤哉君に負けるとは······」
  「一世、俺が代わりに謝るよ。すまん。」
  「正哉····お前に謝られてもな·······」
    それからいつもより10分程遅れてから潤哉は帰って来た。その時の世梨香の笑顔ときゃっきゃっと喜ぶ声が玄関から響いて、潤哉と手を繋いでリビングに入って来た。そしてその姿を見て 父、一世はまた落ち込んだのだった。

    12月10日千歳空港  韓国からシアンが帰国した。正哉と潤哉、そして世津子と世梨香が今か今かと到着ロビーでシアンの出て来るのを待っている。飛行機は満席だったらしい。潤哉が母の姿を見つけた。
  「父さん、あれ今 出て来たよ!」
    母のシアンも潤哉に気づき手を振った。これからコンベアーで荷物の出てくるのを待つので、もう少し時間がかかる。5分くらいで荷物を受け取りロビーに出て来た。
  「おかえり、シアン」と正哉。
  「お母さん、おかえり」と潤哉。
  「シアンさん、おかえりなさい」と世津子。
  「お·かえ·りなさ···い」と世梨香。
  「ただいま。世津子さんもセリカちゃんも一緒に来てくれてありがとう。」とシアン。

    札幌の自宅へと戻って来て車を降りて、お互い挨拶し それぞれの家へと入った。
    家の中に入ったが、世梨香の様子がおかしい。急に元気がなくなった。車の中では潤哉の膝の上に座り、お気に入りのはりねずみの絵本をニコニコして見ていたのに·············
  「世梨香?どうしたの?」
  「マ··マ····クスンクスン······」と泣き出した。
  「世梨香·····?」膝の上に座らせ抱きしめて背中をさすった。
  「世梨香····?どうして泣いてるのかな?ママにお話しして?」
  「マ·マ、ジュンおにいちゃん···ヒック···ただいま···ヒック··こない?」
  「世梨香!!そうね。潤哉くんのママが帰って来たから本当の家に帰ったから、ただいまは言わないかな。」
  「うぅ~うぅ~ん·······」
  「世梨香、泣かないで!でも、セリ遊ぼうって言って来てくれるよ!」
  「マ·マ」顔を上げた。
  「うん。だから泣きやんで」
    世梨香はいっしょうけんめい、手の甲でなみだをぬぐった。
  「エ·へへ······」わらった。

    クリスマスが過ぎ、あっという間に年越し年が明けお正月休みも終わりサラリーマンの父達も仕事始めだ。
    そして、異例の人事異動が発表された。
    
    4月1日付  蘇我正哉   韓国支社転勤
    肩書きとして、韓国副支社長として発表された。
    それから二か月、蘇我家は大変な忙しさだった。
    潤哉も4月で中学生だ。ぎりぎり小学校の卒業式は参加する事ができる。
    でも、一番の悩みは潤哉と会えなくなる事を世梨香に言わなければならない。

     3月20日小学校の卒業式後、卒業祝いをするので蘇我家に呼ばれた。美味しい料理をご馳走になりながら父親同士は仕事の話し、母親同士は淋しさを隠しきれない思いでいる。潤哉と世梨香が楽しそうに遊んでいる姿を見ると余計に複雑な思いだ。
  「ジュン」とシアンが声をかけた。
    潤哉は黙って頷いた。
  「セリ、2階に行こうか?」
  「2···かい?」
  「うん。おいで!抱っこしてあげる」と言って4歳でやっと100cm超えた身長の小さな世梨香を軽々と抱きあげた。
  「あんなに小さかったのにセリも大きくなったな」
  「お·おきく···なった?」
  「うん。なったなった!」2階への階段を上った。
    潤哉は、自分の部屋のドアを開け中へ入った。
    世梨香は辺りをキョロキョロして、
  「ジュンおにいちゃん·····ない····?」
  「うん。」
    世梨香を抱いたまま、その場に座り向き合うように膝の上に座らせた。
  「セリ····セリとバイバイしないとならない」
  「バイ·バイ?」
  「うん。パパの仕事で、かんこくっていう所に行かなきゃならないんだ」
  「か·ん?とおい?」
  「うん。遠い。」
  「かえってくる····うぅぅぅ······え~んぇーん」とうとう世梨香は泣き出した。
  「セリ、泣かないで········」と世梨香の背中を上下になでた。
    泣いて泣いて、泣き疲れて世梨香は潤哉の膝の上で とうとう眠ってしまった。眠った世梨香を抱いて下におりて行った。
  「せつおばさん、セリ寝ちゃった」
  「ジュンくんありがとう」
  「俺が抱くよ」と父の一世が寝ている世梨香を受け取った。
  「世津子 そろそろ帰ろう。正哉、見送りに行けないけど·····」
  「ああ、セリちゃん連れて遊びに来てくれ」
  「そうだな」
  「シアンさん、お元気でね」
  「世津子さんも、お元気でね」

    有城家が帰った後、千歳市内のホテルへと向かい一泊して次の日、夕方の便で韓国へと旅立った。





‥悲劇··

     蘇我家と別れ8年が経った。
     潤哉と別れた年令と同じ、世梨香は8月31日で12歳になる。
    5歳の時に弟の和世(かずせ)が産まれた。
    そして次の年に父の一世に人事異動があり本社である横浜に転勤が決まった。
     世梨香は札幌の幼稚園を卒園し横浜の小学校に入学した。
    会社で探してくれたマンション、横浜市戸塚区吉田町の5階で有城家が住んでいる。世梨香の通学している小学校も近く生活環境が良かった。
    9月、修学旅行がある。行き先は栃木県日光市に行く。日光は最も有名なのが徳川家康公が祀られている東照宮があり世界遺産にも登録されている。

    夏休み最後の日 8月31日、世梨香は12歳になった。そして9月5日、弟の和世も7歳になった。
  
   9月17·18日が修学旅行だ。
   まだまだ夏の名残がある横浜の9月中旬

   修学旅行日和となった朝、最高の天気になった。
   朝8時までに学校グランドに集合、正門前には乗るバスが3台横付けされて待機している。
    簡単に校長先生から挨拶がありクラス毎にバスに乗り込む。見送りに来ている父母たちも皆、笑顔で手を振って見送った。

    1日目、途中トイレ休憩を取りながら日光市へ来た。
    観光道路となる、いろは坂は悲鳴があがるほど、すごかった。紅葉にはまだ早いが北海道出身の世梨香には初めて見る景色だった。窓から食い入るように外の景色を見ていると隣に座っていた同じグループの咲ちゃんに、
  「世梨香、窓に鼻がくっつきそうだよ」と笑われた。

    東照宮·華厳の滝·中禅寺湖などを見学しホテルに入って、今日の日程が終わった。

     2日目、朝ホテルを出て各自手作り体験へと行く。
    世梨香のグループはプラネットキャンドル作りをした。
    コロンとしたフォルムがカワイイ球体のキャンドルだ。名前の通り小さな惑星のようなキャンドルなのだ。乾燥までに1時間くらいかかるそうだ。後日、他のグループの分とまとめて学校へ配送してくれる。
    それから屋内型のテーマパークで不思議体験ミュージアムのとりっくあーとぴあ日光へ来た。
    人間の錯覚を利用して絵が立体的に見えたり見る角度によって見え方が変わったりと仕掛けが沢山あった。
    そして昼食を取り、一路横浜へと帰路となる。
    雲行きがあやしい天気になって来て、とうとう雨が降り出してきた。
    横浜に入り東海道1号線をバスが走っている。雨足が激しく降り視界が見えにくい。そして信号待ちで世梨香の乗っているバスが止まっている時に事故が起きた。
    対向車の乗用車が赤信号にもかかわらず交差点に入ってきた。横断歩道を渡る人がいなかったが、ハンドル操作とスピードでスリップしバスの側面に突っ込んできた。かなりの衝撃でバスが横転した。バスの中は寝ている子がいたり、隣の席同士で話しをしている子、おやつを食べている子もいた。
    一瞬、何が起こったのか分からない状態になった。バスの中は まさに地獄絵図のようだった。
   世梨香も『えっ!』と思った時には隣の咲ちゃんが覆い被さるように寄ってきた。
    横転したひょうしに世梨香はおもいっきり頭を強打し、そのまま意識がなくなった。
    シートベルトをしていたので、腕や手をケガした子は何人もいたが意識をなくしたのは世梨香だけだった。
    隣の咲ちゃんが声をかけたが全然返事をしない世梨香を不思議に思い『先生 先生』と何度も呼んだ。
    救急車·警察が駆け付け、重体な世梨香をすぐに救急車に乗せ横浜市立病院へと運んだ。
    事故を起こした乗用車は大破し運転手は即死だった事は、その日の夜にニュースで発表された。

    小学校前では子供達のバスが到着する父母達が傘をさし待っていた。
    1台目·2台目は到着したが最後のもう1台が到着しない。
    事故車に乗っていた先生から学校にやっと連絡が入った。
    慌てて、校長先生が待っている父母の元にやって来た。
  「父母の皆様、今、連絡が入りましてバスが事故に巻き込まれたとの事です」
    校長先生の話しで周りがざわめきだした。
    咲ちゃん父が、
  「校長先生どういう事ですか?子供達は大丈夫なんですか?」
  「状況はまだ、はっきりしていませんがバスが横転したらしいですが、子供達はシートベルトをしていたので腕や手のケガはあるようですが、ケガの具合いは はっきりしていません。各子供達が何処の病院に運ばれたか、わかり次第報告しますので3台目のバスに乗っている父母の皆様は教室に入ってもらえますか?空いている先生達を現場に向かわせましたので」頭を下げた。
  「世梨香ちゃん ママ」
  「咲ちゃんママ、教室へ行きましょうか」
  「そうですね」
    教室へ入ってから5分程で校長先生が入って来た。
    一番最初に、
  「有城世梨香ちゃんの父母の方、いらっしゃいますか?」
  「はい。世梨香の母ですが······」
  「世梨香ちゃんですが、横浜市立病院に救急車で運ばれていますので病院の方へ行って下さい。」
  「·····わかりました」と言って隣の咲ちゃんママに一声かけ、そして頭をさげ教室を出た。
    校門の前には何台かのタクシーが控えて待っていた。何人か先生達がいてタクシーに乗せてくれたのだ。
    世津子はタクシーの中で一世に連絡を入れた。
    一世は、ちょうど会議が終わり会議室から出た処で胸ポケットに入れてあった会社使用のスマホが鳴った。
  「もしもし、どうした?会社用のスマホに電話してくるなんて初めてだな」
  「一世さん、世梨香の乗ってたバスが··············」
  「ん?バスがどうした?·····世津子!?」
  「事故に巻き込まれて病院にはこばれたって·····」
  「えっ?事故って!!····世梨香は?」
  「救急車で横浜市立病院に····今、タクシーで向かってるの」
  「わかった、、俺もすぐ行く。病院のロビーで待っててくれ」
  「はい」

    世梨香の両親は、脳外科の看護師に案内され、今まだ処置中ということで処置室前で待っている。

    それからしばらくしてからドアが大きく開かれた。呼吸器に点滴等を付けたまま看護師と一緒に出て来た。先生から説明があると中へ案内された。その間、世梨香はICUに移されて行った。

    バスが横転した時、世梨香は左側頭部を強打し意識障害を起こしていて目が覚めていない。ICUで様子を見る事になった。担当した医師によると外傷による出血は今のところ見られないとの事。1~2時間で目が覚めると言われた。息子の和世の事も心配なので一度入院の準備の為、自宅に戻る事にした。

    ······先生の話しに反し、世梨香は目覚めることはなかった···············





‥韓国··

     日本を離れて8年、潤哉は20歳になった。KAIST【カイストゥ】(科学技術大学)情報理論通信。韓国でも有名なK大(国立)2年生になっている。
     そして高校生の時に、ショッピングモールに友人と来た時、スカウトされた。が、その時は断った。芸能界には全然興味がないからだ。なんと言っても一番の目標はK大に入学することで頭がいっぱいだった。
    スカウトマンもなかなか執拗(しつこ)い。諦めようとしないのだ。親とも相談の上、『大学受験が終わったら考えさせてもらいたい』と言って帰ってもらった。
    潤哉自身、自分の容姿についてさほど気にはしていないが、周りの女子が放っておかなかった。身長は伸びて伸びて現在181cm中肉中背で甘いマスクだ。中学·高校までバスケは続け、モテる素材が有りすぎのイケメンだ。

    K大に合格し、大学1年で俳優デビューした。今、デビューして2年目となる。
    大学在学中は仕事を押さえ気味に活動している。単位を落としたくないと正直に思っているからだ。そして楽しいのだ。だから活動を控えたいのだ。

    日本人と韓国人のハーフということもあり、背が高くイケメン。美形なのだ。マスコミも放っていてはくれないのが現状である。

     潤哉の韓国名は、ソ·ジュンヨン『正直まだ馴染めてない』と思ってた。
    来月10月から映画の撮影が始まる。青春恋愛の映画で主人公の親友役で出演が決まった。昨年はテレビのドラマに出演、骨折して入院している高校生役で主人公と同じ部活動をしている仲間で出た。
    潤哉の中で少しずつ俳優という仕事に興味がわいてきて変わりつつあった。
    テレビドラマのロケでは同年代の俳優との絡みが殆(ほとん)どだったので素で演じる事ができた。同じ新人俳優も何人もいて同じ心境の気持ちを抱えていて励ましあいながらドラマ作りに関われたのが嬉しかったのだ。正直、全員がライバルだ。厳しい世界に入り生き残りをかけて仕事をしなければならないのも事実だ。でも大学生活も中途半端にはしたくないと強く思っている。自分自身でこの大学を選んだから!
    まだまだ発展していく情報通信の勉強はすごく楽しい。この分野の仕事に携わって行きたい気持ちもある。だから大学院へと進む道も視野に入れている。尊敬する教授の元で学びたいと思っている。

    正直、所属の事務所には迷惑をかけている。という自負は、潤哉自身いつも感じている。
    だが!思わぬところで潤哉の人気が来る時が来たのだ。
   母シアンの友人がファッション雑誌の編集長をしている。潤哉も良く知る人だ。
  「ジュンくん、今日はお願いしたい事があって来たの」
  「改まって どうしたんですか?」
  「うちの雑誌でインタビュー記事を載せたいと思っているの。ジュンくん引き受けてくれないかしら」
  「·······インタビュー···ですか?」
  「そう。所属事務所の社長さんとは話しをさせてもらった。受けるかどうかはジュンくんに任せるって言われたの。お願いします。どうか引き受けて下さい。」と頭を下げた。
  「ハユンさん·········」と困り顔だ。
  「ハユン、少し考える時間くれないかしら」と母が言った。
  「そうね。シアンの言う通りだわ。急な話しだもの  ジュンくん、考えて返事して 待ってるから」
     
    結局、母シアンの後押しもあり、雑誌の取材を引き受けた。
    インタビューと日本人デザイナーが作った洋服を着こなし同時に撮影も一緒にした。年明けの春号の雑誌に載せる事になった。
    元々が10代後半~30代前半の女性に人気の雑誌だった為、またたくまにソ·ジュンヨンの名が知れ渡る事となる。





‥記憶··

     事故では、乗用車がバスに接触し、はずみでバスが横転した。運転手は19歳の男の子で免許を取って1年過ぎたばかりだった。即死の為、本人がいない中、男の子の両親が弁護士と共に謝罪し死亡者がいなかった事に安堵した様子だった。バス会社と乗っていた子供達や先生の補償問題も弁護士と保険会社との話し合いで誠意な心で接してくれた。

   世梨香はバスが横転した時、頭を強打し生死の堺をさまよった。なかなか目覚める事がなく半年眠ったままの状態が続いた為、小学校の卒業式は出席できなかった。卒業式後、担任の先生と仲良しだった数人の友達が病院へ来てくれて卒業証書を読み上げ卒業式をしてくれたのだ。

    その後、検査に検査を重ねMRIに1ヶ所ごくごく小さな血腫が見つかった。場所的にも手術が可能ということで手術にふみ切った。
    術後、一週間ほどで世梨香の意識が戻った。まだ、虚ろ気な感じだが先生の診察によって『もう命に別状はありません』と言われ、両親の緊張がとけた。
  「良かった·····良かった·····うぅ~うぅ」と母の泣き声がおぼろ気にも世梨香に届いていた。
  「先生、本当にありがとうございます」と父の声。
    そして、世梨香の第一声、 
  「パパ  ママ」やっと出せた声。そのままスーッと目を閉じ眠った。
  「このまま今夜は眠らせてあげましょう」と先生は言った。
    一夜明け次の日朝、太陽の光がカーテンの隙間から射し込んで世梨香を照らしている。その光の明るさで静かに目が覚めた。左手に重みを感じ温かかった。
    見ると、母の手が重なっていた。
  「マ·マ」と掛けた声にピクっと反応し顔を上げ世梨香の方を見た。
    身体を起こし、
  「世梨香!!世梨香!!世、世梨······良かった!良かった」ポロポロと泣き顔だ。
  「マ·マ···ここどこ?部屋じゃないよね?」
  「世梨香!?憶えてない?」
  「何が?」
  「何がって!·····ここ病院よ」
  「···びょ·····いん?」
  「そう。ちょっと待って、今 先生呼ぶね」
    それからナースコールを押して目覚めた事を伝え、先生を呼んでもらった。
 
    脳外と精神科の両先生から診察結果を聞く。
    世梨香は、一過性全健忘と診断された。自分や家族、年齢は憶えているが、、事故にあった事や事故以前の出来事の記憶が失われた。
    それからは、身体のリハビリと心のケアを中心とする入院生活が始まった。
    リハビリは順調で、手足の痺れなどもなくなり、歩行感覚も元に戻り車イスがなくても自分で歩けるようになった。
    心のケアの方も無理に事故以前の事は思い出さない方が良いと助言され前向きにこれからの生活をしていくよう勧められた。特に事故の時を思い出した時、急性ストレス障害の特徴の症状でフラッシュバッグになりかねない!からだと先生は言う。

    事故から一年、世梨香はやっと退院することになった。9月中旬 暑さの残る季節だ。

    毎月一度、事故を起こした息子さんの母親が花束を持ってお見舞いに来てくれていた。敢えて、退院の連絡は入れず病棟の看護師さんに来た時は退院したことを伝えて欲しいとお願いし、また、したためた思いの手紙を看護師さんから渡して欲しいとお願いし病院をあとにした。

    本当ならば中学1年生になっている。まだ通学は許可されなかった。先生からは月一度の通院で様子をみて順調ならば来年から通学に向けて考えようと言ってもらえた。
    世梨香の知らないところで父は当時の小学校の担任と中学校の教頭先生も交えて話しをしてくれていて入学する際の書類はすべて中学校へ提出してくれていた。そして中学1年用の教科書も世梨香の部屋の本棚に、キレイに収めてあった。
    
    父の会社の流通課の部長さんの娘さんが大学生で、世梨香の家庭教師を週2回引き受けてくれた。来年の新学期には通学したいと思っている。

   自宅療養中、月一度の通院と勉強を頑張り、世梨香はみるみる回復していった。記憶だけは思い出すことはなかった。
    そして、父と母は世梨香の幼児期、弟の和世が産まれる以前の写真や残しているDVDを世梨香自身から何か言ってくるまではダンボールに入れて封印した。
    ただ、潤哉くんからのプレゼントの絵本はずっと世梨香の宝物として大事にしていたので本棚に差し立てた。





‥留学··
    
      月日が流れ悲劇の事故から8年が過ぎ、世梨香は今日、8月31日 20歳の誕生日を迎えた。
    現在、地元横浜TE女子大学の2年生になっている。学部は国際社会部国際社会学科で学んでいる。
    そして今回、1年間の語学留学でカナダのVA大学に留学する。
    VA大学はブリティッシュ·コロンビア州の公立大学でバンクーバー島の南端、州郡ビクトリアに位置する。

    通院も今では一年に一度となっており、夏休み前に留学の相談もして来た。世梨香の主治医 片平先生のはからいで知人がビクトリアに住んでいるという事で、お世話になることも決まった。またお世話になる人も医師で留学中の主治医を努めてくれる事にもなった。とても心強い環境だ。
   今までの治療のデータをすべて送ってくれている。
     
    9月1日、留学先に向けて旅立つ。過保護な両親だ。父が一緒に同行する。
    世梨香が住むビクトリアまでは直行便がなくバンクーバー経由で行く。成田からバンクーバーまで8時間、バンクーバーからビクトリアまで約30分。乗り換え時間が2時間半ほどかかるので10時間半~11時間で到着する。なので、両親が心配するのもよく分かっている。
    世梨香は正直、独りだと心細いと思っていたから父が一緒なのは嬉しかった。今回ビクトリアでの留学生は世梨香と学部が違う人らしいとは聞いたが誰とは知らない。だから一緒に行くという選択はなかった。

    長い時間のフライトだった。成田を16時に出発しバンクーバーに着いたのが9時過ぎ、、8時間以上の所要時間。
   バンクーバーの街の中にあるコールハーバーまで行き水上飛行機でビクトリアのインナーハーバーまで来た。
    インナーハーバーは街の中心にある。
    空からの眺めは最高だった。
    乗り場で今日からお世話になる坂下先生と奥様のみどりさんが迎えに来てくれていて待っていた。
     簡単に挨拶をして坂下先生の運転する車で自宅まで、、やっと着いた。
     ビクトリアの気候は次第に木々の紅葉が始まり秋めいてくる。服装は日本の秋の服装そのままで良くて安心して過ごせる気温らしい。
    冬は日本よりは長い冬となるらしく4月中旬までは日本の2月の終わりから3月中旬の気温で雨が多い季節となる。冬の服装も日本の冬用をそのまま使えば寒さ対策としては十分だという。

    世梨香の生活は、大学と坂下先生の自宅を往復する生活が日課となる。
    そして、坂下先生の娘さんである雪さんと仲良くなれればと思っている。雪さをは17歳の高校生、世梨香の通学するVA大学の前にMDスクール学校があり、そこに通学している。時間が合えば一緒に通学できたらと考える。

     次の日、父 一世と一緒に坂下先生が勤める病院へ来た。簡単な検査をした。脳にも異常は見られず良好だった。
    病院を出て近くのカフェに入りランチした。
  「パパ、ありがとう」
  「ん?どうした?改まって」
  「う~ん?お礼言いたくなっただけ·····えへへ」
  「そうか。ここは空気も澄んで静かだし、良い所だ。楽しく過ごせばいいよ。」
  「うん。明日から大学だから見送り行けないけど·····」
  「ああ、気にするな」
  「うん。ママと和くんによろしくね」
  「ああ、みどりさん待ってるから帰るか」
  「うん。」
    カフェを出て街並みを見ながら途中、一世はお土産を買い、世梨香もみどりさんや雪ちゃんと一緒に食べようと思いチョコレートを買い、坂下先生の自宅へと帰って来た。

    一世が帰国の途に着いた。世梨香も本格的に学校生活が始まった。学部は生涯教育部で外国人の為の英語学校が付属し留学生を受け入れている。
    世梨香は生涯教育部で英語を学びつつ社会学の勉強にも勤(いそ)しみたいと思っていた。自分にとっては当たり前の事が他の人もそうとは限らない。一つの現象でも人によって見え方は変わる。
    社会を様々な角度から捉えることで人々の多様性を認め多様な人々が生きやすい社会を模索していく事の大事さを学びたいとも思っている。『自分がどう生きるか』を考える事にも繋がっていく気がした。
    生涯教育部は色々な国から留学生が多数、クラスが27クラスあり1クラス15~18名である。日本人も他の大学からの留学生が多数いた。
    世梨香は驚くばかりだった。

    冬期は夏期と比べ100名少ない400名の留学生がいる。
    世梨香は一週間遅れで授業に参加。25クラスに入った。世梨香を入れて15名だ。
    このクラスで親しくなったのは有名大学、T大の佐々岡さんと韓国人のイ·ミンソさんだ。ミンソさんは日本語を話せた。知人のお兄さんに習ったと教えてくれた。
    この時はまだ、日本へ帰国しても佐々岡さんとミンソさんと深く関わりあいになるとはこれっぽっちも思ってはいなかった世梨香だった。

    大学生活もあっという間に半年が過ぎた。友人の佐々岡さんもミンソさんとも親友と言っていいくらいの仲良しになった。二人共、真面目で勉強もよく出来る。当然の事ながら有名大学からの留学生なのだから。
    佐々岡さんはT大の法学部、将来は弁護士を目指しているそうで語学に堪能な弁護士を目指している。
    ミンソさんは韓国でも有名なK大の看護学を学んでいる。国際社会なので語学が必要と考え留学したそうだ。
    基本留学生は皆、真面目だ。各大学を代表して留学しているからだ。

    クラス内での話しも英会話が板についてきた。ミンソさんは特に発音がキレイだ。佐々岡さんも大学に通学しながら英会話教室に行ってたので、これまた発音も然(さ)ることながら英文を書かせるとキレイなスペルだ。
    世梨香は2人が羨ましかった。
  「佐々岡さんもミンソさんも上達が早くて羨ましい·······はァー」とため息が出た。
  「セリちゃんだって!上達したよ。って、それよりも何度も言うけどミンソさんっていつまでさん付けで言うつもり?」
  「ほんと!!私のことも佐々岡さんだし·····他人行儀過ぎるよ。」
  「だって······!!」
  「だってじゃない!!」と佐々岡さんこと、真美に一喝されてしまった。
  「呼び捨てはイヤなんだもん」
  「私は世梨香って呼び捨てにしてるのに!!」
  「それは気にならないから大丈夫。······じゃあ真美って呼ぶね。う~~ん」
  「うん。それでよし!····で、ミンソのことは?」
  「うぅ~~ん!セリちゃんって呼んでくれているからミンちゃんって呼ぶ。どう?」
    ニコニコ笑って、親指と人差し指で○を作り『OK』と言った。
    真美とミンソはお互い顔を見ると『やっとだね』とアイコンタクトをして頷いていたのである。

    6月、ビクトリアの夏到来。一年で最も快適に過ごせる季節となった。
    留学期間まであと2か月、8月の下旬には帰国する。留学して9か月、身体の体調も問題なく脳波の検査も良好だった。
    今から少しづつ提出するレポートをやり始めた。すべて英文だ。家に帰って寝る1時間前、パソコンに辞書を引用しながら打ち込んでいく。
    帰国したら留学の体験記をレポートにまとめ大学へ提出しなければならない。有意義な1年間になったと思う。

    ーコンコンー 部屋のドアをノックする音が聞こえた。
  「はい」
  「セリちゃん、ちょっといいですか?」
  「ん?雪ちゃん?」世梨香はイスから立ち上がりドアを開けた。
  「雪ちゃん、どうしたの?」
  「セリちゃん、土曜日 用事ある?」
  「ううん。家でレポートするくらいだから出かけないよ」
    雪ちゃんは、嬉しそうに目を輝かせた。
  「あのね。一緒に行ってほしいところがあるの?」
  「どこ?」
  「ソルトスプリング島」
  「島?遠いの?」
  「フェリーで35分くらい」
  「私でいいの?」
  「実は友達と2人で行こうと思ったんだけど、パパにダメって言われちゃって····それでセリちゃんが一緒だったらいい?って聞いたら、そうだなって」
  「行く目的は何?」
  「ロケがあるの」とテンションMAXの笑顔な雪ちゃん。
  「ロケ?」
  「うん。好きな俳優さんが来るの。ひと目見たくて。それとサタデーマーケットをやってるから買い物もしたいんだ。」
    世梨香も行ってみたくなった。
  「分かった。一緒に行こう!」
    雪ちゃんは、また目を輝かせ『ヤッター』と大喜び。
  「セリちゃん、ありがとう。よろしくお願いします。友達にも知らせなきゃ!」と言って部屋を出て行った。

    6月13日土曜日、ソルトスプリング島に行く日。朝6時、みどりさんとお弁当作りをしている世梨香。おにぎりとたまご焼き·ウィンナー。フェリーの中で食べる朝食だ。6時45分、みどりさんがフェリーターミナルまで車で送ってくれた。助手席に世梨香、後部座席には雪ちゃんと友人の朋代ちゃん。
    
    7時半、スワッツベイフェリーターミナルに着いた。帰りは坂下先生が迎えに来てくれる。
    ターミナルで往復のチケットを3枚購入し出発ロビーへとエスカレーターで一つ下の階へと下りる。出発は8時半、乗船まで時間があったのでロビーで朝食を食べることにした。

    ソルトスプリング島はバンクーバーとバンクーバー島の間にあるガルフ諸島で一番大きく最も人口の多い島。
    ビクトリアのスワッツベイからフェリーでフルフォードハーバーまで35分くらいで到着する。
     4月から10月まで毎週土曜日にサタデーマーケットが開催されている。
    出発20分前、乗船が始まり世梨香達もフェリーに乗った。
   時間通り35分、9時05分にフルフォードハーバーに到着。それからバスでサタデーマーケットの開催しているガンジスという街に向かった。
    終点まで乗りダウンタウン内のセンテニアル·パークに着いた。すでに賑わいがすごかった。
    新鮮な野菜や果物、地元の職人さんが作ったパンやチーズ、手作りのかわいい洋服や帽子·アクセサリーなどなど、ワクワクする物がいっぱい!
    雪ちゃんや朋代ちゃんに負けないくらい世梨香の目も輝いていた。
    みどりさんに頼まれた天然酵母パンとチーズをゲットした。午前中には売り切れてしまいそうだ。
    それから3人で楽しく見て回りアクセサリーや遠くからわざわざ買いに来るというパームオイルを原料としたカマソープの石けんなどを買った。
    世梨香はもう一度来たいなぁと思った。

    
    それからロケが行われるというラックル州立公園へと車で10分だと言うのでタクシーで向かった。
    キャンプ場で有名らしく海へと続くハイキングコースもあるらしい。
    ロケはキャンプ場で行われる。友人達とキャンプに来ている設定。一般の見学者の為に縄が張られている。
    全然と言う程世梨香は芸能には興味がなかった。なので世梨香は後ろの方で見ていた。
    雪ちゃんと朋代ちゃんは!!最高の笑顔で今か今かと待っている。
    そして····世梨香は遠いながらも人と人の間の隙間から初めて芸能人·俳優さんを見た。(日本人!?なの?)
    前の方の若い子達、雪ちゃんや朋代ちゃんも叫んでいた。『ジュンヨンさま~~~』と···················
    簡単に監督さんらしい人が挨拶し主役であるジュンヨンさんが次に挨拶し、一般の見学者の方を見てファンの子達に頭を下げた。縄の張られている側のスタッフさんが『これより撮影が開始されますのでお静かに見学のほう宜しくお願いします』と声をかけている。
    正直、世梨香は興味がなかったので公園内の散歩へと行くことにした。ところどころテントが張ってある。海が一望できてきれいな景色だ。
    少しの時間 腰をおろし座って海を眺める事にした。気持ちがいい。(来て良かったなぁ~)

    そろそろ1時間が経つところだ。
    世梨香は立ち上がり、ロケの場所へと戻る事にした。
    戻ってくると見学の人が、すごく少なくなっていた。地元の人達が帰って行ったらしい。残っているのはキャンプに来ている人とファンの子達くらいだ。
    世梨香は雪ちゃんに近づいて声をかけた。
  「雪ちゃん、たのしんでる?」
  「セリちゃん!!どこか行ってた?」
  「うん。私、興味ないから散歩して来たよ。えーっと ジョンヨンさんだったけ?」
  「そう~~ジョンヨンさま。すごくかっこいいの!私の王子様だよ。もう~最高!!」
  「そっかぁ。会えて良かったね。」
  「うん。セリちゃんのおかげ、ありがとう」
  「何もだよ。帰国前に来れて私も良かった。いい思い出になったよ。もう少し見ていく?」
  「うん。あと海辺を歩いているシーンだけだから、いい?」
  「うん。」
  「セリちゃんも一緒に見よう!」
  「うん。」
     世梨香も雪ちゃんの隣に立ち、海辺の方へと視線を移した。
    生まれて初めて俳優さんを近くで見た。雪ちゃんが耳元で静かに教えてくれる。日本人と韓国人のハーフだという。年齢は29歳。
    見入っているうちに監督さんが『はいOK』と声が聞こえた。
    世梨香が隣の雪ちゃんを見ると目が♡マークになって、うっとりとしている。そしてその隣の朋代ちゃんも·········
    一緒に来て、連れて来てあげて良かったと思った。
  「雪ちゃん、朋代ちゃん、ガンジスにもどろうか」と声をかけた。
    すると········俳優のジュンヨンさんがこちらに向かって歩いて来る。
  「Thank youevery oneforeverything」(みなさん、いつもありがとう)と言って、頭を下げた。
  『ジュンヨンさま······』と雪ちゃんや朋代ちゃん、そして他のファンの子達も嬉しそうだ。
     世梨香も驚いてる。こんな真近くで····見ると、ほんとに背が高くて鼻筋がスーッと通って、すごくかっこいい人だ。雪ちゃんがファンになるのも分かる。
     世梨香は見入ってしまい目が離せなかった。
    ジュンヨンさんが頭を上げた時に世梨香と目が合った。ニコッと笑顔を向け、去って行った。
  「セリちゃん、セリちゃん!今、セリちゃんの顔 見てたよね!!あ~ジュンヨンさまに見てもらえて羨ましい!」
   
    俳優ジュンヨンこと潤哉は歩きながら呟いていた。
  『セリ』と·······(まさかいる訳ないよな?)しばらく出番がない為、休憩のテントの中に入った。
    日本を離れ16年だ。セリは元気でいるのかな?20歳になっているんだよな。
    潤哉はふっと息を吐き、人違いだよな···どう見ても!3人で来てたみたいだけど高校生くらいだったし、セリちゃんって呼ばれてたしな。
    潤哉は、世梨香が生まれた時からずっと『セリ』って呼んでいただけでほんとはセリカだしな。と納得した。
    人違いで済ました潤哉と小さい頃の記憶のない世梨香の二人だった。

    8月下旬、留学生活にピリオドが来て、いよいよ日本に帰国する日が来た。
  「坂下先生、みどりさん、雪ちゃん、1年間お世話になりました。」
  「セリちゃん、今度はゆっくり遊びに来てね。」と涙声の雪ちゃん。
  「ありがとう雪ちゃん。いつでもラインして、お喋りしましょ」
  「うん。気をつけてね」
  「世梨香ちゃん行こうか。インナーハーバーで友達と約束してるんだったんだよね!」
  「はい。」
    坂下先生にインナーハーバーまで送ってもらい、先生は病院へと出勤した。
    インナーハーバーで真美とミンちゃん、二人と合流した。
    バンクーバーから成田行きの飛行機に真美と二人で搭乗する。
    ミンちゃんは知人のお兄さんがバンクーバーに来ていたということで空港で待ち合わせをして一緒に韓国に戻ることになっているので搭乗口で見送ってくれた。ちょうど、手を振って別れた所に知人のお兄さんがミンソに声をかけた。
  「ミンソ!」
  「ジュン兄さん」
  「友達か?」
  「うん。同じ留学生だった人達。」
  「そっかぁ。」と言いながら搭乗口へと目を向けた。
  「うん?あの子?」
  「ジュン兄さん?どうかした?」
  「いや、何でもないよ。行こうか!ハユンさん待ってるよ。」
    ミンソと潤哉も韓国へと帰国した。
    世梨香と真美も成田空港へ無事到着、到着ロビーでは それぞれの家族が待っていて、お互いの両親を紹介し真美と別れた。
     父、一世の運転する車で横浜の自宅へと帰って来た。





‥記憶のない再会··

     世梨香の大学生活が始まった。
     帰国後、留学の体験記を大学へ提出。
     そして10月から、インターシップで実習が始まる。
     世梨香の行き先は海外産業人材育成センターの横浜支部。10日間の日程である。
     真美とは時間がある時にラインで話している。真美も同じ頃にインターシップで希望の法律事務所に一週間の日程で決まったと言ってきた。お互いのインターシップが終わったら会う約束をした。
    10月5日から始まったインターシップ、来日した外国人対象の日本語や専門科目のクラスの準備をしたり、アシスタントを務めたり、通訳や講師の予約の手配などを体験した。週2回計4回は研修生と一緒に授業を受けグループワークをした。たくさんの研修生と交流する機会もあり留学していた頃を思い出し異文化を体感した。
    研修旅行に行く準備の実習では、スケジュールを組み立てる際に行く企業について知る事が出来たので企業の研究にも繋がったと思った。
    この実習での関わった研修生の人達は、ほとんどがアジア圏の人達だったので余計に新鮮さを感じ留学して語学勉強できて良かったと世梨香は しみじみ思った。

     無事インターシップを終え、真美との約束で世梨香が東京へ行く事になった。
     10月下旬の土曜日、父、一世に横浜駅まで送ってもらった。
     東急東横線で渋谷駅まで行き山手線に乗り換えて新宿駅まで行った。
     東口の改札前で真美が待っていてくれた。
  「真美、おまたせ」
  「世梨香~ぁ!久しぶり!」
  「うん。久しぶり!····ねぇ、ホントに真美の家に泊めてもらっていいの?」
  「うん。父も母も楽しみにしてるんだよ。だから大丈夫」
  「分かった。じゃあ遠慮なくお邪魔するね」
  「取り敢えず、お腹空いたからランチしようよ」と、、
     真美と入った店はイタリアンバルの店。ランチメニューは2コースがあり、料理4品とドリンクのコースにした。楽しくお喋りをしながら料理を堪能する。
  「世梨香は東京へ遊びによく来るの?」
  「ううん。実は1人で来たのは今日が初めてなの」
  「えー!?そうなの?」
  「うん。家族で何回かは来た事あるけど、横浜で買い物とかは充分だしね。東京へ用事ある訳じゃないから」
  「そっかぁ~就職はどうするの?」
  「多分、地元横浜の企業で考えている。真美もこれからが大変だよね。国家試験もあるし!」
  「うん。頑張るわ一発合格出来るように········」

    美味しいランチを食べ、新宿駅内のデパートを見てデパ地下でお土産のお菓子を買った。
    新宿駅の京王線で真美の自宅のある八王子へ向かった。
    真美はT大近くにマンションを借りて住んでいる。週末は必ず八王子の自宅に帰る。
    八王子駅では真美の母が迎えに来てくれていた。
    真美の家では夕食をご馳走になり買って来たお土産のお菓子を真美の部屋で紅茶を飲みながら食べた。
    真美の父母も世梨香の父母と一緒でとても仲が良い。そして5歳離れた姉が北海道釧路市に住んでいると話してくれた。
  「真美のご両親もすごく仲が良くていいね。うちもすごく仲が良いけど」
  「うん。こっちが恥ずかしいくらい仲が良くてさ。今でも新婚気分で、、20代の子供が2人いるのにね」
  「あー!それわかる。うちは逆に5歳下の弟がいるんだけど、高校生の息子の前でもイチャイチャだよ。留学中は弟からラインがきてお姉ぇ早く帰って来てくれってね!」
    真美と2人顔を見合わせ笑った。

    次の日、朝食後、真美の母が多摩動物公園へ連れて行ってくれた。珍しい動物もいて見所の多い動物園でとても楽しく過ごせた。園内で昼食を食べて、また見て廻った。
    帰りは真美と真美の父母が横浜まで車で送ってくれた。
    一緒に中華街で夕食をと誘ってくれたので世梨香は母に連絡を入れてみた。
    世梨香の父母と合流し楽しい夕食となった。一度成田空港で挨拶を交わしただけのお互いの父母もすっかり意気投合し、和気あいあいと話しをしている様子に世梨香と真美は顔を見合わせクスッと笑い合った。

    12月下旬大学も冬休みに入る前、インターシップでお世話になった海外産業育成センターから大学の就職課に連絡が入り、卒業後ぜひ入社して欲しいと言ってきた。年明けに一度センターの方に来て欲しいと··········
    とても楽しく、やり甲斐のある職場だった。と世梨香は思っていた。就職課の主任さんと話しをして冬休みの終わる2日前の1月5日に訪問する事に決め就職課の方から折り返し連絡してくれる事になった。
    インターシップ最終日に教育係をしてくれた社員さんから2月に説明会があるから良かったら参加しないかと言われていたので時期が来たら申し込んでみようと思っていたところだった。

    その日の夜、世梨香は真美にラインした。
     {真美こんばんは。報告したい事があるんだぁ~} すぐに既読になった。
     {こんばんは。世梨香!何?何?}
     {インターシップで行ったセンターから連絡が来て入社してほしいって♡}
     {え!ホント!やったね~世梨香}
     {うん。年明け5日に訪問する事になった}
     {おめでとう}
     {ありがとう。真美も頑張ってね}
     {うん。って、実は私も·····}
     {真美?}
     {インターシップで行った法律事務所から連絡来たの}
     {わぁー真美も!!おめでとう。良かったね}
     お互いに内定をもらい、大喜びで、最後、笑顔マークの絵文字を送ってスマホを机に置いた。

     またたく間に1年が終わる。師走と言う通り忙しくバタバタと12月が過ぎて行った。
    世梨香の1年間留学から戻りあっという間だった。12月31日の夜、つくづく家族っていいなぁと思いながら、普段からテレビを観ない世梨香だったが今夜は母世津子の大好きな紅白歌合戦を年越しそばを食べながら観ている世梨香だった。

     1月5日 海外産業人材育成センターに行く日、リクルートスーツに身をつつみ準備完了である。

     月日が流れ、早めに取り掛かっていた卒論も提出終えた。
    大学4年の1年間は週2日、就職先のセンターにアルバイトに行きながらの生活となった。真美も世梨香と同じで法律事務所にアルバイトに行っていた。お互い忙しい1年間だった。
    そして3月、いよいよ卒業シーズン。
    世梨香の卒業式は3月6日土曜日、真美の卒業式は翌7日日曜日が卒業式だ。
    卒業式前日の5日の夜、思いがけない人からラインが来た。留学時代、もう一人仲良くしていた韓国人のイ·ミンソことミンちゃんからだった。
     {セリちゃん、久しぶり元気でしたか?卒業式終わりましたか?私は2月が卒業式でしたよ}
     {ミンちゃん久しぶり、元気でしたよ笑 ミンちゃんも元気そうで良かった。卒業式2月に終わったんだね。私は明日が卒業式だよ}
     {わぁ~明日、卒業式なのね!実は知らせたい事があってラインしたの。今月中に日本に行く事になりました}
     {えー!!ほんと!!}
     {うん。研修として日本の病院で看護士の仕事をする事になったの}
     {ミンちゃん、すごい!!で、どこの病院?}
     {あのね。うふふ!横浜の市立病院なの}
     {へっ??······横浜!!}
     {うん。それでセリちゃんにラインしたの!}
     {きゃぁぁぁ~めちゃくちゃ嬉しい♡ミンちゃんが近くに来るなんて!楽しみ!!}
     {私もセリちゃんに会うの楽しみ!!はっきりと行く日にちが決まったら連絡するね}
     {うん。待ってる。住む所とかどうするの?}
     {病院の寮に入ることにした}
     {そうなんだね。連絡待ってるからね。真美には教えたの?}
     {ううん。まだ}
     {じゃあ、私から伝えておくよ}
     {ありがとう。お願いする。日にちが決まったら真美にも連絡するから、よろしく伝えて}
     {了解!じゃあね}
     {うん。セリちゃん、おやすみ}
     {ミンちゃん、おやすみ}
    世梨香はスマホを机に置き、嬉しさが込み上げてきた。楽しみで興奮してきたが明日は卒業式、着付け、羽織り袴を着る為、朝 早起きしなければならない為、布団にもぐりこんで眠った。

    卒業式が終わって一週間、泊まりで真美の家へ遊びに来た。一緒に卒業旅行の事も考えたが何気に真美の家へのお泊まりでこと済んでしまった。
    きっと就職したら、なかなか会えなくなるという事もあって ゆったりおしゃべり出来るという事で真美の母の手料理をご馳走になっている。お風呂にも一緒に入り真美は自分のベッド、世梨香はベッド横に布団を敷いて、それぞれ横になっている。その時、ほぼ同時にスマホが鳴った。
    ミンちゃんからのラインだった。世梨香は起き上がり真美の顔を見た。お互い頷いてミンちゃんのラインを見た。
     {こんばんは。日本へ行く日が決まりました。3月27日の土曜日に決まりました。到着時間は13時45分ですよ~}
  「真美、27日羽田行く?」
  「うん。土曜だし事務所休みだから行ける。世梨香は?」
  「私は仕事あるけど···休めるか聞いてみる。行きたし!」
     ミンちゃんには羽田に迎えに行くとラインを送った。

    今の時間12時10分、世梨香と真美は羽田空港のカフェで軽く昼食を食べていた。予定通りの時刻でミンちゃんが到着するのを待っている。
    世梨香はタマゴ·ハムのミックスサンドとジャスミンティーのセットを、真美はカツサンドとカフェモカのセットを注文し、2人でサンドイッチを頬張っている。
    世梨香は20日から入社前の研修で出勤しはじめた。26日前日は仕事を終わらせ、真っ直ぐ真美の家に来て泊めてもらった。
    真美も同じく20日から法律事務所に行っている。基本、土日は休みらしい。
    そして今朝、京王八王子駅から9時30分発の羽田行きのバスに乗車し11時45分羽田第3ターミナル(国際線)に着いて、このカフェにいるのだ。

    13時35分、世梨香と真美は到着ロビーのイスに座って待っていると韓国発の飛行機が到着したと知らせるランプが点灯した。予定時刻より5分程早い到着だ。お互い顔を見合わせ笑顔になった。
    それから15分くらい経って、ぞろぞろと人の姿が見えて来た。真っ直ぐ到着ロビーに来る人、荷物待ちでそのままその場に残る人。
    世梨香と真美は今か今かとミンちゃんの姿を探した。
    そして真美が
  「世梨香、あそこ!ミンソじゃない?」
  「あっ!そうだね。ミンちゃんだぁ~····ねぇ誰かと一緒だよ」
  「ほんと!!めちゃ背が高くて、すごいイケメンだよ!」
  「カレシ?」「カレシかな?」とハモリ、顔を見合わせた。
    先にキャリーバッグを引いてミンちゃんが出て来た。
  「真美!セリちゃん!」笑顔で声をかけてきた。
  「ミンソ!」「ミンちゃん!」と同時に声をかけた。
    留学後、3人での再会。嬉しさが込み上げる3人!
    3人で再会を浸っている時、
  「ミンソ!」
    ミンソは振り返り、
  「ジュン兄さん」
  「お友達か?」
  「うん。留学していた時に知り合って、それから仲良くなったの。紹介するね、こちらが佐々岡真美ちゃんで隣が有城世梨香ちゃん。真美、セリちゃん、この人は母の友人の息子さんでソ·ジュンヨンさんです」
  「初めまして佐々岡真美です。ミンソ!!めちゃかっこいい人だね!彼氏じゃないの?」
    ミンソは首を横に振り、
  「違う違う、カレシじゃないよ。お兄さん的存在の人」
    この時、潤哉(ジュンヨン)は世梨香を見てくぎ付けになっていた。
    そして呟くように 
  「セリ!?···················」
    そして、
  「初めまして有城世梨香と言います。ミンちゃんには留学の時、本当に親切にしてもらいました。」笑顔になった。
    潤哉(ジュンヨン)は小さい頃の、セリの面影のある笑顔と名前········同姓同名じゃない!本当にセリだ!!
    おもわず潤哉(ジュンヨン)は、世梨香の両肩に手を置き、
  「セリ!!セリだよな?」
    世梨香は潤哉(ジュンヨン)の行動にびっくりし両目が見開かれ後ずさりかけたが、両肩に手を置かれ しっかりと掴まれてしまっていたので、できなかった。
  「あ·····あの!!えっ?」世梨香はパニックだ。頭の中がぐるぐると回っている。(何で?セリって呼ぶの?)
    ミンソが潤哉(ジュンヨン)の腕を掴み、
  「ジュン兄さん!!セリちゃんの事、知ってるの?」
  「ああ!」
  「でもセリちゃんは知らないようだよ。驚いてる!」
     この時、潤哉(ジュンヨン)の手が緩んだ隙に世梨香は後ろに逃げた。
    
    
    
    
    

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