獣神の愛憎闘記

あめ。ー店主ー

呼びかける声がした、不意にその店員はやってきた。

白面をつけていて、何となく………“同じだ”と感じたりしたけれど。
あめー、あめはいかがですかー………。

あめー、あめはいかがですかー………。

んんっ、あめー、あめはいかがですかー………。

あめー、あめはいかがですかー………。

あめー、あめはいかがですかー………。

ん？こんなところにいるのは感心しませんねー……。

そうしてその人物は俺に飴をくれた。
最初は断ったさ。
『あめ…………？それは食べ物か？』
お菓子の一種、ですね。
『…………それはありがたいが、俺は腹減ってないんだよ。
……それでもお恵みをくれるんってなら。
他のひもじい奴らにそれやりな、それじゃ。』

ぴくり、と耳が動くことも無く歩いていってしまう灰色の髪をした、獣人の男の子がいた。

たまたまここに来てみましたが……これで。
………。
さて。お眼鏡にかなうものを、あげてみますかね。
それにきっと……。
ああっ、皆さん？！それらは別の方に差し上げる分ですのに………。

男の子、というより青年ではあったけれども。
ナニカと『使い易い』ために、誘ってみたくなったのである。
そして、男の子の方は興味も惹かれなかったため、さもありなん。

それがですね……皆さん、もう食べてしまっていて……在庫があまりないんです。

『そうかよ、もういいか？それじゃ。』
すっ、と店主に背を向けたまま歩いていく。
一つ、あなたにお聞きしても……。

『……』
ぴたり、とその足が止まった。
あなたには似合わない様子だ。

次の瞬間には、怒っているのか様子が違って見えた。
……そのままでいいですから、どうぞ。
ごそごそと棚から取り出したのは、包み紙に包まれたものだ。

『ポォン……』

………開いてみたらやけに、赤い飴だと思ったけど……気にする暇もなくて……とっても甘い匂いがしてたから。
『……うん、ありがとな。………“貰うよ”｡』

お気になさらず、私はこれで。

店主の耳に届いたのは呟きだ。

『もう死んじまったよ』