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黒の章
12.遺跡調査
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「今回君たちにやってもらう仕事は遺跡調査だ。ミラ、説明を。」
組合長から説明を促されたミラと呼ばれた秘書の女性が、仕事内容の概要が書かれた用紙を3人に配り説明する。
「先日、死の森を調査していた研究者団体が、新たな遺跡と思わしき場所を発見しました。場所は死の森の表層部分です。発見した研究者団体はよくその辺りを調査しているらしいのですが、彼らが言うにはそこはなだらかな傾斜地で元々大きな岩があったそうです。
半月ほど前に地震があったのはご存知でしょうか?恐らくその地震の影響で地滑りが発生し、大岩が動いたことで今回の発見に繋がりました。大岩の下には地下へと続く道があり、道は明らかに自然な物ではない、人工的な物であったと研究者団体の報告にあります。
彼らは遺跡と思わしき場所には立ち入っていません。その為、この遺跡の有用度、また危険度も未知数です。お三方にはこの場所の出来る限りの詳細な調査をお願いします。報酬はそちらの用紙に記載されておりますのでご確認ください。
以上になりますが、何かご質問はございますか?」
低すぎず、高すぎず、聞きやすい抑揚でミラが説明を終えるも、トウコら3人は揃って渋い顔で黙っている。
そんな3人を面白そうに眺めていた組合長が、
「どうしたのかな?ご不満かい?この仕事は。報酬は悪くないと思うのだけれども。」
と聞くと、
「どうしたもこうしたもないわよ。この仕事完全に外れじゃない・・。」
マリーが頭を抱えて呻くように言った。
組合から斡旋される遺跡関連の仕事は主に3つある。調査、探索、護衛。
そもそも遺跡は大きく2つに大別される。1つ目はその名の通り、過去に人間がその場所で活動していたことを現す旧跡だ。
2つ目は、見た目は通常の遺跡、例えば崩れかけた教会にも関わらず、その中が全く別の物―魔物が溢れる魔窟であったり、罠が満載の宝物庫、はたまた広大な迷宮であったり――に変わっている場所も遺跡と呼ぶ。
何故このような現象が起こるのかは分かっていないが、光と闇の女神が関連しているのだろうというのがこの世界の共通事項だ。
光の女神と闇の女神の逸話も、数々の遺跡から発掘された遺物から分かったことであり、遺跡から2人の女神にまつわる品がしばしば発見されることからも、そう考えられる一因となっている。
遺跡はこのように見た目ではどのような遺跡なのかが判別できないため、新たに発見された遺跡はまず調査が行われる。歴史的、学術的な価値が高く危険度のない、いわゆる旧跡なのか、価値はあるが迷宮化した危険度の高い遺跡なのか、はたまた何の価値もないただ悪意溢れる危険度の高い迷宮化した遺跡なのか、これを調査することを職業斡旋組合では遺跡調査と呼んでいる。
遺跡調査は、遺跡内部がどのような構造になっているか全く不明な状態で遺跡に入る必要があるため、場合によっては非常に危険度が高い。そのため、報酬は他の仕事よりも桁違いに高い。逆に、遺跡がただの旧跡だった場合は楽して大金を手にすることができる、ハイリスクハイリターンの仕事だ。しかし、受けたがる組合員はほとんどいない。
遺跡調査で危険度が高いと判断された遺跡は封印され、立ち入りが禁止される。
しかし、反対に迷宮ではあるが危険度が低く、有益な資源等が採取できると判断された遺跡は組合員に開放される。危険度が低いといっても魔物や罠などは存在するため死ぬ確率は高い。それでも、金になる品が手に入る遺跡は魅力的で多数の組合員が解放された遺跡へ入って行く。遺跡の中で入手した品は組合が買い取る仕組みになっており、組合員以外からは買い取らない。また、組合員以外が遺跡内部の品を所持することは禁止されており、所持していることが分かった場合は罰せられる(――が、遺跡の品が闇マーケットに流れていることから、何らかの手段で売買されていることは明らかだが。)
これを遺跡探索と呼んでいる。
ただし、解放されはしたものの、迷宮内部が突如変化し危険度が上がっていないか、または迷宮が広大で深層部分が不明な場合に未踏の箇所を探索し、調査すること等が本来の遺跡探索の主目的である。
しかし、遺跡探索は常に発注されており、また、遺跡内部の品の買い取りが厳密には、「探索の受注をした組合員」であること、さらに遺跡探索の報酬が最低レベルであり、「純粋な探索」だけでは稼げないことから、組合員はとりあえず探索を受注はするものの、本来の目的である探索はせずに、金目の物目当てで遺跡に入っている。トウコらもめぼしい仕事がなければ迷宮に潜り稼ぐこともままある。
本来の目的でいうところの探索を行っている組合員はほとんどいない。
3つ目の護衛は、迷宮化した遺跡内に歴史的・学術的な価値の高い遺物があるが、それらが壁画や大きな銅像等の移動できない品だった場合、研究機関が職員を遺跡に派遣することがある。しかし、職員には遺跡内を歩き回る術も戦う術もない者がほとんであることから、目的の場所までの護衛および調査中の護衛を組合員が行う、これを遺跡護衛と呼ぶ。
「これまでに見つかった地下にある遺跡で迷宮化していない物ってあったのか?」
リョウが誰に言うともなく聞くと、
「そのような事例はございません。地下にある遺跡は全て迷宮化が確認されております。」
秘書のミラが答えた
「マジかよ・・最悪じゃねーか」
「だから外れ仕事だって言ったのよ。間違いなく迷宮化してるわよ、ここも。」
「そもそも、どうして私らなんだい?迷宮探索を専門としているチームはいくつかあるだろう?そっちに頼んだ方が確実じゃないか。」
トウコが聞くと、
「僕も当初はそうしようと思っていたのだけれどね。依頼しようとしていたチームが先日壊滅してしまってね。めぼしい他のチームは別件で出払っているし、遺跡調査できそうなチームが残念ながら君たち破壊屋しかいなかったってわけだよ。」
組合長の答えにトウコら3人は顔を顰める。
「そもそも君たちはこれまでにも幾度か遺跡調査をしたことがあるし、遺跡探索でも未踏区域の探索で成果を出しているだろう?問題はないと思うけれど?」
「今までは明らかに迷宮化されていないと思われるものばかり選んで受けてたのよ!未踏区域の探索だって、リョウが表層部分の敵じゃ弱くてつまんないとか言って、どんどん奥に進んじゃうから仕方なくなのよ!」
「俺だけのせいにすんじゃねーよ。マリーだって表層の敵は殴り応えがないとか良く言ってんじゃねーか。」
「おだまりっ!」
「奥に進んで無事に帰還していることからも、君たちの実力は十分だということだよ。これでも君たちのことを評価しての依頼だよ?光栄に思ってほしいな。何と言おうと、君たちがこの仕事をするのは確定さ。先ほどの借りを返してもらわないといけないからね。」
マリーが頭を抱え呻く。
「貸しと借りが釣り合っていない気がするわ・・・」
「丁度良かったよ。絶対に君たちはこの依頼を受けてくれないと思っていたからね。どうやって受けさせようか悩んでいたんだよ。そうしたら君たちが商隊の護衛だなんてつまらない仕事を受けたって聞いてね。人材の無駄遣いだと思ってとりあえず君たちを確保しようと南門へ向かったらあの騒ぎというわけさ。光の女神はこちらに微笑んでいるね。」
組合長はそう言うと煙草に火をつけ、満足げに紫煙を吐き出した。
「それで、出発は急いだほうがいいのかしら?」
こちらは諦めたように大きく紫煙を吐き出した後、乱暴に煙草を揉み消したマリーが聞く。
「そうだね。急な話だから君たちも準備期間が必要だとは思っているけれど、久しぶりの遺跡の発見に、外野の雑魚が少々うるさくてね。なるべく早く出発してくれると助かるよ。」
満足げに目を細めて組合長が頷く。
「準備もそうだけれど、トウコとリョウが壊した部屋の片づけに修理もあるのよね・・・急いで4日・・・いえ3日後の早朝出発でどうかしら。」
「いいだろう、それで手配しておくよ。死の森までの移動手段と荷物持ちはこちらで用意するから安心するといい。」
「あら大盤振る舞いじゃない。」
「それだけ君たちに期待していると思ってくれていいよ。それじゃあ話は終わりだ。よろしく頼んだよ、破壊屋。」
席を立ったマリー、リョウが組合長室を出ていき、トウコも出ようとしたその時、組合長がトウコに声をかけた。
「トウコ。リョウのバカに愛想が尽きたら僕の所へ来るといい。君ならいつでも歓迎するよ。」
自分の足を跨ぐように秘書のミラを座らせ、ずり上がったスカートの中に手を差し込んだ組合長が微笑みながらトウコを見つめる。
「その時は私がリョウに殺されてるか、リョウを殺して1人になるだけさ。」
何のてらいもなくトウコは答え、組合長のくつくつと笑う声を聞きながらトウコは組合長室の扉を静かに閉めた。
組合長から説明を促されたミラと呼ばれた秘書の女性が、仕事内容の概要が書かれた用紙を3人に配り説明する。
「先日、死の森を調査していた研究者団体が、新たな遺跡と思わしき場所を発見しました。場所は死の森の表層部分です。発見した研究者団体はよくその辺りを調査しているらしいのですが、彼らが言うにはそこはなだらかな傾斜地で元々大きな岩があったそうです。
半月ほど前に地震があったのはご存知でしょうか?恐らくその地震の影響で地滑りが発生し、大岩が動いたことで今回の発見に繋がりました。大岩の下には地下へと続く道があり、道は明らかに自然な物ではない、人工的な物であったと研究者団体の報告にあります。
彼らは遺跡と思わしき場所には立ち入っていません。その為、この遺跡の有用度、また危険度も未知数です。お三方にはこの場所の出来る限りの詳細な調査をお願いします。報酬はそちらの用紙に記載されておりますのでご確認ください。
以上になりますが、何かご質問はございますか?」
低すぎず、高すぎず、聞きやすい抑揚でミラが説明を終えるも、トウコら3人は揃って渋い顔で黙っている。
そんな3人を面白そうに眺めていた組合長が、
「どうしたのかな?ご不満かい?この仕事は。報酬は悪くないと思うのだけれども。」
と聞くと、
「どうしたもこうしたもないわよ。この仕事完全に外れじゃない・・。」
マリーが頭を抱えて呻くように言った。
組合から斡旋される遺跡関連の仕事は主に3つある。調査、探索、護衛。
そもそも遺跡は大きく2つに大別される。1つ目はその名の通り、過去に人間がその場所で活動していたことを現す旧跡だ。
2つ目は、見た目は通常の遺跡、例えば崩れかけた教会にも関わらず、その中が全く別の物―魔物が溢れる魔窟であったり、罠が満載の宝物庫、はたまた広大な迷宮であったり――に変わっている場所も遺跡と呼ぶ。
何故このような現象が起こるのかは分かっていないが、光と闇の女神が関連しているのだろうというのがこの世界の共通事項だ。
光の女神と闇の女神の逸話も、数々の遺跡から発掘された遺物から分かったことであり、遺跡から2人の女神にまつわる品がしばしば発見されることからも、そう考えられる一因となっている。
遺跡はこのように見た目ではどのような遺跡なのかが判別できないため、新たに発見された遺跡はまず調査が行われる。歴史的、学術的な価値が高く危険度のない、いわゆる旧跡なのか、価値はあるが迷宮化した危険度の高い遺跡なのか、はたまた何の価値もないただ悪意溢れる危険度の高い迷宮化した遺跡なのか、これを調査することを職業斡旋組合では遺跡調査と呼んでいる。
遺跡調査は、遺跡内部がどのような構造になっているか全く不明な状態で遺跡に入る必要があるため、場合によっては非常に危険度が高い。そのため、報酬は他の仕事よりも桁違いに高い。逆に、遺跡がただの旧跡だった場合は楽して大金を手にすることができる、ハイリスクハイリターンの仕事だ。しかし、受けたがる組合員はほとんどいない。
遺跡調査で危険度が高いと判断された遺跡は封印され、立ち入りが禁止される。
しかし、反対に迷宮ではあるが危険度が低く、有益な資源等が採取できると判断された遺跡は組合員に開放される。危険度が低いといっても魔物や罠などは存在するため死ぬ確率は高い。それでも、金になる品が手に入る遺跡は魅力的で多数の組合員が解放された遺跡へ入って行く。遺跡の中で入手した品は組合が買い取る仕組みになっており、組合員以外からは買い取らない。また、組合員以外が遺跡内部の品を所持することは禁止されており、所持していることが分かった場合は罰せられる(――が、遺跡の品が闇マーケットに流れていることから、何らかの手段で売買されていることは明らかだが。)
これを遺跡探索と呼んでいる。
ただし、解放されはしたものの、迷宮内部が突如変化し危険度が上がっていないか、または迷宮が広大で深層部分が不明な場合に未踏の箇所を探索し、調査すること等が本来の遺跡探索の主目的である。
しかし、遺跡探索は常に発注されており、また、遺跡内部の品の買い取りが厳密には、「探索の受注をした組合員」であること、さらに遺跡探索の報酬が最低レベルであり、「純粋な探索」だけでは稼げないことから、組合員はとりあえず探索を受注はするものの、本来の目的である探索はせずに、金目の物目当てで遺跡に入っている。トウコらもめぼしい仕事がなければ迷宮に潜り稼ぐこともままある。
本来の目的でいうところの探索を行っている組合員はほとんどいない。
3つ目の護衛は、迷宮化した遺跡内に歴史的・学術的な価値の高い遺物があるが、それらが壁画や大きな銅像等の移動できない品だった場合、研究機関が職員を遺跡に派遣することがある。しかし、職員には遺跡内を歩き回る術も戦う術もない者がほとんであることから、目的の場所までの護衛および調査中の護衛を組合員が行う、これを遺跡護衛と呼ぶ。
「これまでに見つかった地下にある遺跡で迷宮化していない物ってあったのか?」
リョウが誰に言うともなく聞くと、
「そのような事例はございません。地下にある遺跡は全て迷宮化が確認されております。」
秘書のミラが答えた
「マジかよ・・最悪じゃねーか」
「だから外れ仕事だって言ったのよ。間違いなく迷宮化してるわよ、ここも。」
「そもそも、どうして私らなんだい?迷宮探索を専門としているチームはいくつかあるだろう?そっちに頼んだ方が確実じゃないか。」
トウコが聞くと、
「僕も当初はそうしようと思っていたのだけれどね。依頼しようとしていたチームが先日壊滅してしまってね。めぼしい他のチームは別件で出払っているし、遺跡調査できそうなチームが残念ながら君たち破壊屋しかいなかったってわけだよ。」
組合長の答えにトウコら3人は顔を顰める。
「そもそも君たちはこれまでにも幾度か遺跡調査をしたことがあるし、遺跡探索でも未踏区域の探索で成果を出しているだろう?問題はないと思うけれど?」
「今までは明らかに迷宮化されていないと思われるものばかり選んで受けてたのよ!未踏区域の探索だって、リョウが表層部分の敵じゃ弱くてつまんないとか言って、どんどん奥に進んじゃうから仕方なくなのよ!」
「俺だけのせいにすんじゃねーよ。マリーだって表層の敵は殴り応えがないとか良く言ってんじゃねーか。」
「おだまりっ!」
「奥に進んで無事に帰還していることからも、君たちの実力は十分だということだよ。これでも君たちのことを評価しての依頼だよ?光栄に思ってほしいな。何と言おうと、君たちがこの仕事をするのは確定さ。先ほどの借りを返してもらわないといけないからね。」
マリーが頭を抱え呻く。
「貸しと借りが釣り合っていない気がするわ・・・」
「丁度良かったよ。絶対に君たちはこの依頼を受けてくれないと思っていたからね。どうやって受けさせようか悩んでいたんだよ。そうしたら君たちが商隊の護衛だなんてつまらない仕事を受けたって聞いてね。人材の無駄遣いだと思ってとりあえず君たちを確保しようと南門へ向かったらあの騒ぎというわけさ。光の女神はこちらに微笑んでいるね。」
組合長はそう言うと煙草に火をつけ、満足げに紫煙を吐き出した。
「それで、出発は急いだほうがいいのかしら?」
こちらは諦めたように大きく紫煙を吐き出した後、乱暴に煙草を揉み消したマリーが聞く。
「そうだね。急な話だから君たちも準備期間が必要だとは思っているけれど、久しぶりの遺跡の発見に、外野の雑魚が少々うるさくてね。なるべく早く出発してくれると助かるよ。」
満足げに目を細めて組合長が頷く。
「準備もそうだけれど、トウコとリョウが壊した部屋の片づけに修理もあるのよね・・・急いで4日・・・いえ3日後の早朝出発でどうかしら。」
「いいだろう、それで手配しておくよ。死の森までの移動手段と荷物持ちはこちらで用意するから安心するといい。」
「あら大盤振る舞いじゃない。」
「それだけ君たちに期待していると思ってくれていいよ。それじゃあ話は終わりだ。よろしく頼んだよ、破壊屋。」
席を立ったマリー、リョウが組合長室を出ていき、トウコも出ようとしたその時、組合長がトウコに声をかけた。
「トウコ。リョウのバカに愛想が尽きたら僕の所へ来るといい。君ならいつでも歓迎するよ。」
自分の足を跨ぐように秘書のミラを座らせ、ずり上がったスカートの中に手を差し込んだ組合長が微笑みながらトウコを見つめる。
「その時は私がリョウに殺されてるか、リョウを殺して1人になるだけさ。」
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