Boy meets girl

ひろせこ

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 異質な色無しの少女―トウコと引き合わされた後、ミツルは寝起きしている部屋替わりの小さな物置にトウコを案内した。
トウコは荷物を何1つ持っていなかった。
助けられた時に団員の誰かに着せられたのであろう、ぶかぶかのシャツの下は薄い布地で作られたひらひらしたワンピースのようなものを着ていたが、それも土と埃そして血で汚れている上に、ぼろぼろだった。
ミツルは、少し小さくなった着古したシャツとズボンを1度手に取ったが、少しだけ考え込んだ後にそれを置くと、代わりに比較的新しいズボンとシャツをトウコに手渡した。
「…その格好じゃ仕事できないから。これやるよ」
トウコは小さな声で「ありがとう」と言ってそれを受け取った。
「俺、部屋の外に出てるから。着替えたら出てこい。家の案内と仕事を教える」

色無しは皆、美しい整った容姿をしていると言われており、事実、ミツルがこれまで見たことがある色無しは、男も女も、大人も子供も例外なく美しかった。
しかしトウコは、愛らしい顔立ちはしているものの、それは子供特有の可愛らしさであり、色無しの際立った美しさではなかった。
ミツルのシャツとズボンを着て部屋から出てきたトウコは、黒髪に紫の瞳という事を除けば、どこにでもいる痩せた孤児の少女にしか見えなかった。
それはミツルを安堵させ、そして少しの親近感を覚えさせた。

ミツルが寝起きしている部屋代わりの小さな物置で、トウコと一緒に寝起きするようになって1週間が経った。
初日にミツルが服を渡した際に「ありがとう」と言って以降、トウコは一言も声を発しなかった。
家の中を案内し、しなければならない仕事をミツルは教えていったが、トウコは頷くだけで何も言わなかった。
ミツルは当初、何も言わないトウコに困惑し苛立った。
「何か言えよ」と何度も声を荒げたが、トウコはその大きな紫の瞳でじっとミツルを見るだけで何も言わなかった。
感情の浮かばないその紫の瞳で見つめられるたびに、心の奥底を見透かされているようで、ミツルは落ち着かない気分になった。
しかし、トウコは何も言わないだけで、1度教えたことはきちんと覚え、黙々と働いた。そのため、ミツルはトウコに話させることを次第に諦めた。

朝から晩まで。起きてから眠りにつくまで。
ミツルとトウコは1日中働いていた。
起きたらすぐに朝食の手伝い。団員たちが食べ終わると、自分たちも素早く済ませて後片付け。
それが終われば、家中の掃除に洗濯。そして昼食の手伝い、後片付け、夕食の手伝い、後片付け。その合間に団員から細々としたことを言い付けられることもあった。
食事の準備は団員が交代で行っていたし、団員たちが仕事に出ている時とそうでない時の差はあれど、それでも自由時間はほとんどなかった。
しかし、午後のほんの少しの時間。
昼食の後片付けが終わり、夕食の準備が始まる前まで。
短い間だが、何も仕事をしなくていい空白の時間があった。
ミツルはその時間、いつも中庭にいた。
それはその時間、仕事に出ていない団員が、中庭で鍛錬をしていることが多かったからだ。
中庭の隅にある木の下で、鍛錬に励む団員を見るのがミツルは好きだった。
トウコには、「お前は見てもつまらないだろうから、好きにしてていいぞ」と言ったが、トウコもミツルの隣で膝を抱えて座り、じっと団員たちを見つめていた。

最初は無言で団員たちを見ていたミツルだったが、トウコが隣に座るようになってから数日が経った頃、ぽつりぽつりとトウコに話しかけるようになった。
あいつはいつも嫌なことを言ってくる奴、でも剣の腕はすごい。
あの人はそんなに強くないけど、嫌なことは言ってこない。
あの人は魔力は高くないはずなのに、なぜか結構強い。
そんなことをミツルは取り留めもなく話した。
相変わらずトウコは何も言わなかったが、聞いていないわけではないようで、団員たちをじっと見つめながらミツルの言葉に小さく頷いたり、たまに小首を傾げたりしていた。
たとえ返事が返ってこなくとも、トウコと話すのは楽しかった。

ある日、いつものようにミツルのシャツとズボンを身に着けたトウコと2人、黙々と団員たちの汚れた服を洗っていると、いつもミツルのことを色無しと馬鹿にしてくる男たちがやってきた。
ミツルが顔を俯かせ、小声で囁く。
「…あいつら嫌なことばっかり言うけど、気にするなよ」
2人の元へやって来た男たちが、いつものように汚れた服と下着を投げつけて来た。
汚れた服がミツルの体に、下着がトウコに当たって地面にぽとりと落ちる。

「色無しのガキの次は、本当の色無しの忌み子を拾ってくるなんて団長もどうかしてるよな」
「あの人は人がいいからなあ。でも、忌み子のガキを拾ってくるなら、もう少しでかい色無しの女を拾ってきた方が、色々使い道があんのによ」
「ガリガリのガキで、おまけにこいつ色無しの癖にブスだしな。でかくなっても期待できねえ」
男たちが言いあいながら遠ざかっていくと、ミツルはトウコの側に落ちた下着をかき集めて自分の洗濯桶の中に入れ、自分の側に落ちていた服を1枚だけトウコの桶の中に入れると、残りは全て自分の桶の中に入れた。
「…あんなの気にしちゃだめだ」
ミツルが俯いたまま横目でトウコを窺うと、トウコは男たちの背中をじっと見ていた。
男たちが見えなくなると、トウコは視線を手元に戻し、また手を動かし始めたので、ミツルもまた黙って汚れ物を洗い始めた。

そのまま黙々と洗っていると、突然隣から「ありがとう」と小さな声が聞こえた。
何が起こったのか分からず、ミツルが固まる。
トウコが言葉を発したのだと気づき、慌てて隣を見ると、トウコは下を見たまま手を動かしていた。
そのまましばらくトウコを見ていたが、それ以上は何も言わなかった。
諦めたミツルがまた手を動かし始めると、再びトウコが口を開いた。
「いつも下着をあらってくれる。」
再びトウコが言葉を発したこと、そして気づかれていないと思っていた自分の行動が、気付かれていたことに狼狽えながらも、「お、お前は一応女だからな。野郎の下着なんか…洗わせられないだろ。」とミツルがそう言うと、トウコが唇をほんの少しだけ動かした。

その動きの意味が分からず、一瞬ポカンとしたミツルの顔が次の瞬間真っ赤になった。
熱を持った顔を見られないよう、ミツルは慌てて顔を伏せると必死に下着を洗い出す。
ほんの少し上がったトウコの唇。
初めて見たトウコの微かな笑顔に、ミツルの心臓がうるさいくらいに鳴った。
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