未来から来た天才オメガ研究者に恋したアルファ高校生の話

豆ぱんダ

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71 パーティー昼の部、夜の部

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 翌日のパーティーは特質すべき点はなく、つまらないの一言に尽きた。一応身内のみのお披露目会とされており、後日予定される結婚式とは趣向を変え、立食形式の自由な雰囲気で行われている。参加者たちは表向き楽しんでいる顔つきだがマネキンみたいな新郎新婦の顔はすでに見飽きたし、参加者の礼装にはいい加減に目がチカチカする。

「んー、最高級のシャンパンは味わいがちがうね」

 冬次はふるまわれたシャンパンに舌鼓を打ち、スタッフからおかわりのグラスを受けとる。

「飲みすぎないでくださいね」

 七草は冬次と腕を絡ませて、逆にエスコートしながらパーティーを練り歩いていた。オメガたちの厳格な作法にのっとり、挨拶を交わす順を間違えないようピリピリしてる。

「気をつけます。サンドイッチ貰ってきてもいい?」

 ローストビーフのサンドイッチがそばのテーブルにセットされている。

「それなら僕も」
「うん」

 サンドイッチをつまみ、冬次は会場の貴賓席の方に体を向けた。

「会長はいらっしゃらないね」

 用意された席に会長夫妻の姿はない。

「配偶者のお体の調子がよくないって聞いたことあるからそのせいかも」
「残念だな」

 クソみたいな組織のトップの顔をぜひ拝んでやりたかった。
 早く終わってくれることを願っていると、冬次は会場の後方に視線が止まった。
 集団から離れて女性が立ちすくんでいた。TPOに合ったフォーマルな服装をしているのに浮いて見えたのは、彼女がパートナーを連れていなかったことと、新郎に対して怒りと表現できそうな鋭い視線をぶつけていたからだ。

「あれヤバいんじゃない?」

 七草に耳打ちする。

「あれって、祥子さん・・・・・・」

 だとしたらあの危険な目つきはかなり物騒な展開が期待できる。
 祥子がポシェットに手を入れた。

「行こ」

 冬次は七草を引っ張り、客のあいだを縫って進む。人混みを掻き分けて後方にたどり着いた時にはまだ祥子はポシェットに手を入れたまま新郎を睨みつけていた。
 冬次は彼女の手を掴む。

「祥子さん」

 七草が声をかけると、祥子は肩の力を抜く。
 後方の扉からパーティーを一時退出し、誰もいない通路まで行き彼女の手を離した。七草と共に向かい合い、何をしようとしていたのか問い詰める。
 祥子は決まり悪そうにポシェットの中身を冬次たちに開いて見せた。

「信じてもらえますか?」

 七草が安堵のため息をついた。

「エミリと買ったペアネックレスなの。捨てておいてって頼もうと思ってきたのよ」

 七草の顔が蒼白になる。

「二人の関係は切れてないんじゃないの?」
「ええ。そういう約束でエミリは結婚を承諾したけど、関係を続けても私もエミリも苦しむだけ」
「そんな・・・・・・」

 しかし冬次には祥子の気持ちが理解できる。結婚すればエミリは久遠を受け入れなくてはならない。首筋を噛まれることを拒否できず、別のアルファの匂いをつけた愛する人と会い続けるのは苦行だ。
 愛し合っていればいるほど、エミリだって祥子の気持ちがわからんではないだろう。

「でもあなたたちが止めてくれて良かった。あの男の顔を見てたら私・・・・・・、あいつの首を絞めて殺してしまいそうだったから」

 祥子は聡明さをうかがわせるしなやかな柳眉を一瞬歪めたが、涙をこぼさないために斜め上を向く。
 こんな時アルファは損をするのだと初めて知る。素直になることを許さないアルファのプライドが人前の涙を堰きとめてしまっている。

「辛い時は泣いちゃった方が楽じゃないですか?」

 冬次は懸命に涙をこらえる彼女がいたたまれない。

「そうですよ。全部ぶちまけちゃったら少しは楽になります。もう戻るのも面倒ですからパーティーは抜けちゃいましょ。連れのオメガの体調がよろしくないと伝えれば察してもらえますし言い訳になります」

 七草がパンッと手のひらを合わせる。冬次と祥子はその提案に従うことにした。
 客室に避難してからは祥子の苦心を紛らわすために時間を費やした。聞き役をしている途中であったが冬次には昨日の約束があり、七草を祥子を頼んで出かけなければならない。身だしなみを整えて庄司を訪ね、部屋に着いたことを知らせると、彼はすでにできあがった赤ら顔で出てきた。

「やぁ、来たな。では行こうじゃないか」

 冬次はおやと思い、眉をひょいと上げる。

「会場はここじゃないんですか」
「当然! 上のラウンジにいい子を集めてあるんだよ」
「あー、そういう」

 冬次が難色を示したのに気づかず、庄司はご機嫌だ。
 ラウンジに上がってみればさらに驚いたことに久遠が参加しており、鼻の下を伸ばしながらコンパニオンの腰に腕をまわしていた。

「皆さま、本日は蕾会主催のパーティーにお集まりいただきありがとうございます」

 ドン引き地帯の中心で誰かが喋っている。

「おっ、タイミングちょうどだったな」

 喜ぶ彼に続いて輪に入っていくと、マイクを使って喋っている男の姿が見えた。

「会長を務めます座間葉羽ざま はばねでございます。夫は病により出席が叶いませんので、わたくしが皆さまを精一杯おもてなしさせていただきます」

 昼間のパーティーは欠席しておいてアルファの遊びには付き合う神経が信じられない、というのが最初の印象。
 葉羽というオメガは蕾会のトップだけあり目立つ和服美人である。しかし常人離れした美形が目につくのであり、長めに流した前髪しかり、雰囲気全体が翳りを帯びていた。

「彼を近くで見たいです」
「いいねぇ。近くに座ろう」

 葉羽が庄司に気づき、微笑む。

「お待ちしておりました」

 上座にはもう一方の副会長の夫がおり、手を軽く挙げて挨拶をかわした。

「庄司様、そちらの方は?」
「奈良林さんとこの次男坊だ」
「さようでございましたか。善光は粗相なくやっていますか?」

 問われた冬次は口をぽかんと開けたまま葉羽を見つめる。

「見惚れるのはわかるが葉羽さんには手を出すなよ。命と引き換えにヤりたいってなら一発誘ってみてもいいかもしれないけどねぇ」

 冬次と葉羽に挟まれた庄司は低俗な発言をする。
 葉羽は慣れているのかピクリとも表情を変えず、首をわずかに傾げた。

「奈良林様、いかがされましたか」
「すいません・・・・・・」

 目を合わせてくる葉羽に怖気づき目線を外す。

「知り合いに似てたので驚いて」

 冬次は声を震わせながら眉間を揉み、動悸を落ち着けた。
 葉羽は南雲と面影が非常に似ている。
 それにどちらかといえば昔出逢った方の南雲である。
 まるで生き霊を目の前にしているようだった。
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