未来から来た天才オメガ研究者に恋したアルファ高校生の話

豆ぱんダ

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73 葉羽と

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 葉羽から連絡を受け取った時、冬次は残業の休憩中にコンビニアイスを食べていた。

「んー。来たきた。少々お待ちください~」

 むぐむぐとアイスを丸呑みにし、電話に出る。

「はい奈良林です」
「こんばんは。今夜時間が空きました」
「急ですね」
「一時間後これから伝える住所まで来てください。ではお待ちしてます」

 通話が切れた。

「こっちの話なんか聞いちゃないな。やれやれ」

 冬次は帰り支度をして席を立つ。戸締まりの確認後に車に乗り込み、送られてきた住所をナビに入力した。
 そして夜道のドライブを済ませて目的地に車を停車させた冬次の口が塞がらなくなった。

「なんだよここ、座間んちじゃん」

 招かれたことはないが、年季が入った表札に堂々と記してある。全盛期を過ぎようとも屋敷の門構えは冬次の実家より格が高い。
 インターホンを鳴らす前に門が開いた。
 門に取りつけられた監視カメラがいい仕事をするようだ。
 続けてスピーカーから葉羽の声がした。

「入って」
「お邪魔します・・・・・・」

 もたもたしているとスピーカーから再び急かされ、冬次は門をくぐって進む。
 葉羽は冬次が敷地内に入ったのを見てとった後、屋外へ出迎えにきてくれたらしく、庭園の池の付近で待っていた。

「よく来てくれましたね」

 彼の微笑みは月夜の下でえらく妖艶であり、これ以上に近づくのを躊躇わせる。

「当主にご挨拶させてください」

 冬次は立派な屋敷を見まわしながらそう願いでた。

「現在はいません。夫は別邸で療養中なのですよ」
「そうですか。あなたは付き添われなくてもよろしいのですか」
「看病は妾がしておりますから」

 葉羽は冬次の懸念をさらっと受けながす。

「そんなものですよ。あなたも慣れてくださいね」

 そして冬次に屋内へ上がるよう促した。冬次を先導しながら言う。

「私は主人の留守を預かりやることがありますからね」

 例えばこの前の行事に参加するなど当主宛てに依頼された仕事を代わりに処理しなければならない。

「お忙しいんですね」
「ええ、なので看病を自分以外に任せられるのはむしろ負担が減って私にとってもプラスなことなのです」
「はぁ・・・・・・」

 そうですか。わかるような、わからないような。異次元な世界の常識に冬次は曖昧な相槌をうつしかなかった。
 屋内は和室に通され、葉羽が茶道のやり方にのっとり、茶を点ててくれた。
 茶道に関してはまるで経験のない冬次は正座の姿勢のまま緊張し、運ばれた茶碗を震える手で持ち、茶を飲み干す。

「えっと、なんて言うんでしたっけ」

 あたふた悩んだが頭が真っ白で、背中が汗で濡れた。

「固くならなくていいですよ。お味はどうでしたか」
「美味しかったです。なんと言うかこう、心が落ち着く感じで」
「ありがとうございます」

 呼吸を整えたのち、葉羽は続ける。

「では、あまりお引き留めしてしまっては申しわけないのでさっそく。以前のお話ですが、奈良林様が私に似ているとおっしゃっていた人物はこの男ではないですか?」

 懐から取り出された一枚の写真。
 日常の風景を切り取った写真にはカメラのレンズから視線を外し控えめに微笑む男の姿が。

「この青年はどなたですか」
「おや。ちがいましたか」

 葉羽が片眉を上げた。彼が写真を懐に戻してしまう前に、冬次は声を張る。

「あ、いや、ちがうような、ちがわなくないような」

 と内容はまったく不明瞭であったが。
 葉羽の片眉が下がり、しまわれなかった写真が差し戻される。

「奈良林様、どういうことでしょう? 詳しく説明願います」

 冬次はごくりと唾を呑み込んだ。

「・・・・・・多分なんですけど、この青年が俺の予想どおりなら、実際にお会いしたことはないですが、多分知ってます。俺が葉羽さんと似てるって言ったのはこの人の息子だからです」

 途端に、葉羽が目を瞠った。

「子供を、どこでっ」

 声は冷静さを失い、勢い余って舌を噛み目を白黒させる。

「落ち着いて」

 冬次は咄嗟に飲み干した後の茶碗を勧めようとして、寸前で拳を握った。しかしすぐに葉羽は胸に手をあてながら深呼吸をくり返し、平静を取り戻した。

「ごめんなさい。取り乱してしまいました」

 これは思うに冬次がまったくの誤解をしていたことになるのか。

「失礼をお詫びします」

 冬次が口元を覆って黙りこむと葉羽が頭を下げたので止めてやり、首を横に振ってみせた。

「写真の男と葉羽さんはどういった関係だったんですか。教えてください」
だった・・・とおっしゃるということは死んだ人間であるとご存知なんですね」

 冬次はうなずく。

「その人の息子から直接聞きました」
「そう。子供は元気に暮らしているんですね。少なくとも私はこの男といがみ合っていたわけではない。親しい間柄ではありませんでしたが、この男は身籠ったまま消息をたち、胸のわだかまりが消えずにいたのです。私たちは血を分けた兄弟ですから、無視することなんてできないのです」

 葉羽が写真の男の顔を指でなぞった。

「奈良林様が似ているとお感じになられたのも当然でございます」

 南雲の母の兄弟、つまり南雲涼の叔父にあたると知り、冬次の気持ちは決まった。

「すいません、暑いので冷たいお茶をいただけますか」
「ええ、すぐお持ちしましょう」

 葉羽に持って来てもらった冷茶で喉をうるおしてから、冬次は口をひらく。

「ご兄弟の子供に会いたいですか」

 問いに葉羽が即答する。

「会いたいですよ」

 冬次はこの答えに破顔した。
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