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83 忘れたころに
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七草と誕生日を過ごした翌日、冬次が南雲の様子を見にいくと、いつもと状況がちがった。玄関をあけてくれたのは家政婦で、座間は監視用モニターの前にはおらず、モニターに座間と南雲がもみ合っている姿が映しだされている。
「いつから?」
「申しわけございません、私は邸内の掃除をしていたため先ほど気づいたところでして」
「誰か訪ねてこなかったの?」
「インターホンを鳴らした方は誰もいませんでした」
家政婦の返答に冬次は唇を噛んで頭を悩ませた。
「合鍵を持ってらっしゃる方ならインターホンを鳴らさず入ってこられるかと」
冬次はすがるように顔を上げる。
「誰が合鍵を持ってるかわかるのか」
「頻繁に出入りされる本社の方と仁科さんが持っていますよ」
「具体的な人数は?」
「そこまでは⋯⋯」
その時、モニターから騒音が響いた。南雲がガラス製の器具を投げつけている様子が見える。
「ヤバい。止めてくる」
冬次は階段を駆けおりると、ノックせずに地下室に押しいった。転がり込むようにして現れた冬次に不意をつかれ、南雲と座間は一時大人しくなったが長くは保たず、南雲は第三者の介入をおかまいなしに物を投げるのをやめずガラス器具は壁にあたって割れる。散らばったガラス片で歩くのも困難になった床を、座間が感情あらわな足取りで進んでいった。
近くに寄られるのを恐れ南雲はくるったようにまた投げる。座間がよけなかったため、飛んできた物は座間の肩をかすめ床に落ちた。
投げる物がなくなり、次に手にしたのが割れたガラス片だった。冬次は気づくのが遅れ、素手でガラス片を掴んだ南雲の手は切れて血がにじみ、ガラス片が直撃した座間の頬にも血が見えた。
「座間、一回俺と交われ」
声をかけた冬次に座間は手をあげて返事する。冬次が受けた印象より座間は冷静だった。威嚇する猫みたいに目だけを鋭くさせる南雲の前に膝をつき、怪我を増やさないため彼の周囲を片づけ、ガラス片で切った手を出すように彼を促した。
座間のおかげで少しずつパニックを軟化させた南雲は手を見せた。
震えて握りしめていた彼の手のひらは血だらけだ。
「⋯⋯救急セット」
冬次はハッとして取りにむかおうとしたが、ドアの外にはすでに救急セットが置いてある。それを座間に持っていき、消沈した南雲を見下ろした。
「涼くんらしくないんじゃない?」
破天荒にふるまうことはあってもヒートの時でさえ感情を丸出しにしない南雲がここまで暴れるなんてよっぽどのショックがあったのだろう。
「誰に何をされたか教えて」
南雲は冬次を無視してうつむく。
「答えたくないか。⋯⋯で、なんで報告してくれなかったんだ」
矛先を座間に向ける。
「報告するも何も、俺が涼くんを怒らせること言ったせいだから」
「本当なのか、涼くん?」
そう南雲にも確認したが、素直にうなずかれ余計に怪しかった。
冬次は座間に小声で頼みを言う。
「二人きりにしてくれないか」
「やめとこう。今はそっとしておいてあげよう」
「わかったよ⋯⋯」
ガラス片の掃除を手伝いながら諍いの原因に悶々とした。綺麗に片づけ終えて上の階にあがってから家政婦がコーヒーを淹れてくれたのでひと息つかせてもらったが、座間を質問責めにしたくてソワソワした気持ちは消えなかった。
だが嘘をついていると気づいてることに気づかれている気がしてならず冬次の口を封じさせた。
無言をつらぬいている座間と楽しいティータイムを過ごせるはずもないので、冬次は湯気が立ったコーヒーを熱いまま飲み干して帰ることにした。
「ひー、いてて」
熱湯みたいな珈琲を一気したせいで舌がピリピリする。冬次は車の座席にもたれると、疲れた目をギュッと閉じ、眉間を揉んだ。
ベロも痛いが頭も重い。
「なんか頭いてーな」
冬次は急に体が悲鳴をあげたので運転席で休眠を取りたくなったが、しばらく目をきつく閉じた後、体を起こしてエンジンをかけた。
だるい頭で車を発車させ、昼休憩のうちに会社に戻り仕事をした。この日は客の入りが穏やかでデスク業務を処理するだけで済んだため、なんとか終業時間まで持ちこたえたが、パソコンを閉じた時にはショボショボの目がさらにくっつきそうになり、寒気が襲ってきていた。
「先に上がらせてもらうから。お疲れさま」
冬次は社員に戸締りを頼み、フラフラしながら帰路につく。途中でスポーツドリンクなどを買い込んで自宅に帰りつくと玄関に倒れこんでしまった。
「絶対に熱ある」
冬次は恵まれて滅多に風邪をひかない頑丈な体だが、いざ熱を出したら慣れないしんどさに死にそうな気分を味わうことになった。
這うようにして室内を移動して着替えと検温を済ませると、やはり三十九℃の高熱。立つのもつらい体じゃ病院で診てもらうのも厳しい。タクシーを呼ぼうかとも考えたが、それすらもつらく、電話をかけるためのスマホが何十キロものダンベルに変わったかのように重たく感じた。
冬次は受信をあきらめてスマホを放る。眠る前に買い置きしていた風邪薬の残りがどこかにあるはずと思い出し、のろのろとベッドをおりた。
時間をかけてようやく見つけたが必要量には一粒足りない。けれど仕方ないのである分を飲み、スポーツドリンクで流しこみ、ベッドに倒れた。横になった途端に眠りに落ちるというより意識を失い、目が覚めたのは明け方の四時だった。
「いつから?」
「申しわけございません、私は邸内の掃除をしていたため先ほど気づいたところでして」
「誰か訪ねてこなかったの?」
「インターホンを鳴らした方は誰もいませんでした」
家政婦の返答に冬次は唇を噛んで頭を悩ませた。
「合鍵を持ってらっしゃる方ならインターホンを鳴らさず入ってこられるかと」
冬次はすがるように顔を上げる。
「誰が合鍵を持ってるかわかるのか」
「頻繁に出入りされる本社の方と仁科さんが持っていますよ」
「具体的な人数は?」
「そこまでは⋯⋯」
その時、モニターから騒音が響いた。南雲がガラス製の器具を投げつけている様子が見える。
「ヤバい。止めてくる」
冬次は階段を駆けおりると、ノックせずに地下室に押しいった。転がり込むようにして現れた冬次に不意をつかれ、南雲と座間は一時大人しくなったが長くは保たず、南雲は第三者の介入をおかまいなしに物を投げるのをやめずガラス器具は壁にあたって割れる。散らばったガラス片で歩くのも困難になった床を、座間が感情あらわな足取りで進んでいった。
近くに寄られるのを恐れ南雲はくるったようにまた投げる。座間がよけなかったため、飛んできた物は座間の肩をかすめ床に落ちた。
投げる物がなくなり、次に手にしたのが割れたガラス片だった。冬次は気づくのが遅れ、素手でガラス片を掴んだ南雲の手は切れて血がにじみ、ガラス片が直撃した座間の頬にも血が見えた。
「座間、一回俺と交われ」
声をかけた冬次に座間は手をあげて返事する。冬次が受けた印象より座間は冷静だった。威嚇する猫みたいに目だけを鋭くさせる南雲の前に膝をつき、怪我を増やさないため彼の周囲を片づけ、ガラス片で切った手を出すように彼を促した。
座間のおかげで少しずつパニックを軟化させた南雲は手を見せた。
震えて握りしめていた彼の手のひらは血だらけだ。
「⋯⋯救急セット」
冬次はハッとして取りにむかおうとしたが、ドアの外にはすでに救急セットが置いてある。それを座間に持っていき、消沈した南雲を見下ろした。
「涼くんらしくないんじゃない?」
破天荒にふるまうことはあってもヒートの時でさえ感情を丸出しにしない南雲がここまで暴れるなんてよっぽどのショックがあったのだろう。
「誰に何をされたか教えて」
南雲は冬次を無視してうつむく。
「答えたくないか。⋯⋯で、なんで報告してくれなかったんだ」
矛先を座間に向ける。
「報告するも何も、俺が涼くんを怒らせること言ったせいだから」
「本当なのか、涼くん?」
そう南雲にも確認したが、素直にうなずかれ余計に怪しかった。
冬次は座間に小声で頼みを言う。
「二人きりにしてくれないか」
「やめとこう。今はそっとしておいてあげよう」
「わかったよ⋯⋯」
ガラス片の掃除を手伝いながら諍いの原因に悶々とした。綺麗に片づけ終えて上の階にあがってから家政婦がコーヒーを淹れてくれたのでひと息つかせてもらったが、座間を質問責めにしたくてソワソワした気持ちは消えなかった。
だが嘘をついていると気づいてることに気づかれている気がしてならず冬次の口を封じさせた。
無言をつらぬいている座間と楽しいティータイムを過ごせるはずもないので、冬次は湯気が立ったコーヒーを熱いまま飲み干して帰ることにした。
「ひー、いてて」
熱湯みたいな珈琲を一気したせいで舌がピリピリする。冬次は車の座席にもたれると、疲れた目をギュッと閉じ、眉間を揉んだ。
ベロも痛いが頭も重い。
「なんか頭いてーな」
冬次は急に体が悲鳴をあげたので運転席で休眠を取りたくなったが、しばらく目をきつく閉じた後、体を起こしてエンジンをかけた。
だるい頭で車を発車させ、昼休憩のうちに会社に戻り仕事をした。この日は客の入りが穏やかでデスク業務を処理するだけで済んだため、なんとか終業時間まで持ちこたえたが、パソコンを閉じた時にはショボショボの目がさらにくっつきそうになり、寒気が襲ってきていた。
「先に上がらせてもらうから。お疲れさま」
冬次は社員に戸締りを頼み、フラフラしながら帰路につく。途中でスポーツドリンクなどを買い込んで自宅に帰りつくと玄関に倒れこんでしまった。
「絶対に熱ある」
冬次は恵まれて滅多に風邪をひかない頑丈な体だが、いざ熱を出したら慣れないしんどさに死にそうな気分を味わうことになった。
這うようにして室内を移動して着替えと検温を済ませると、やはり三十九℃の高熱。立つのもつらい体じゃ病院で診てもらうのも厳しい。タクシーを呼ぼうかとも考えたが、それすらもつらく、電話をかけるためのスマホが何十キロものダンベルに変わったかのように重たく感じた。
冬次は受信をあきらめてスマホを放る。眠る前に買い置きしていた風邪薬の残りがどこかにあるはずと思い出し、のろのろとベッドをおりた。
時間をかけてようやく見つけたが必要量には一粒足りない。けれど仕方ないのである分を飲み、スポーツドリンクで流しこみ、ベッドに倒れた。横になった途端に眠りに落ちるというより意識を失い、目が覚めたのは明け方の四時だった。
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