未来から来た天才オメガ研究者に恋したアルファ高校生の話

豆ぱんダ

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91 誰が悪い?

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「もっと来てるはずだよ」
「どうせ座間と上のモニター眺めてただけじゃん。僕には会っていかなかった」

 なんだこれは? 南雲が喋れば喋るだけ冬次に会いたいがために騒動を起こしたかのように聞こえる。冬次はやや考えを改めて地下室に留まった。

「帰る前に傷の手当てくらいしていくよ」

 救急セットは地下室に入る時に座間に持たされている。手に持っていたのを置いて出ていくつもりだったのだ。ドアに向かっていた足をくるりと反転させ、傷をみせるよう南雲に言う。けれど気分が回復したわけではないので、南雲の目を見ることをしなかった。
 感情を抑え傷つけられた箇所を治療していくと、すでに手首に巻かれた包帯が目につく。血で汚れてしまっているので清潔なものに交換しようと取り除くと、包帯の下に火傷の痕があった。今日作られた火傷ではなさそうだ。

「ここも自分でやったのか?」

 南雲は無表情で手を引っこめた。

「うん。どうだよ」

 冬次はとうとう頭が痛くなる。かまってもらいたいがためにする行動としては行き過ぎている。冬次が謝罪して言うことをきけば次はますますエスカレートするだろう。南雲には自分を大切にしてほしいと心から思っているが冬次が偉そうに説教する資格はもうない。黙々と手当てをし終えると南雲から離れた。

「痛むようだったら座間か家政婦さんに言ってね」
「帰っちゃうの?」
「そりゃ帰りますよ。大事な用をすっ飛ばして来たんだ。これでもめちゃくちゃ焦って会いにきたんだから」

 孤独に耐える七草を想像するとどちらからも逃避したくなり、冬次は投げやりな気分でネクタイをゆるめた。
 けれど今からでも帰らなきゃ。戻って土下座して、許されなくても誠意は伝えて去るべきだ。

「おっさん。またね」
「ああ。⋯⋯お大事にな」

 南雲にまた来るよと言えなかったことで冬次は余計に気が塞いだ。
 監視モニター前で待機する座間に帰ると声をかけると、玄関へと足を向ける。

「ありがとう。今回の件はまじでお前がいなければ大惨事になっていたかもしれなかった」

 追いかけてきた座間に一瞥をくれる。これ以上留まって長々とお喋りするつもりはなかった。

「モニター映像があれば報告はいらないよな」
「大丈夫だ。涼くんもお前の顔が見れて嬉しそうだったよ」
「ありえない」
「そうかな。俺が言うのも変だけどもう少し会ってやったらどうだ」

 うんざりと、冬次はかぶりを振る。

「医者は雇ってないのか。今日の傷もだが手首のあれはちゃんと治療しないと痕が残るだろ」
「手首?」
「自分でやったんだってな」
「なんのことだよ」

 ふり返って見た座間はキョトンとしており、冬次は混乱した。

「火傷だよ」
「⋯⋯ああ! それな」

 座間は知らないわけではなさそうだ。

「自分でやったって言ってたけど地下室に火傷する機器なんてあったか?」
「ドライヤーを当てたんじゃないかな」
「モニターで見てたんじゃないのか?」
「死角にいたんだ」

 どうにも歯切れが悪く、冬次は内心で眉をひそめる。外へ出てから家政婦に同じ内容を訊ねる文を送っておき、そうして助手席に乗りこんだ。
 七草の自宅に着いた冬次は車を飛びおり、インターホンを鳴らした。だが返答がなく、電話をかける。呼び出し音が続き、冬次の額に冷や汗が次々と浮きでた。
 何度かかけ直していると、合間に別の電話が滑りこみ女性の声で「家政婦」を名乗る。

「涼くんのとこの家政婦さんですよね。俺が送った件で電話してくれたんですか?」
「はい」

 電話を続けながら冬次がドアの取っ手をいじると、鍵がかかっていなかった。

「あっ」

 冬次は驚いて声を洩らす。足を踏みいれるとフェロモンの匂いが鼻に絡みついたが、薄く、残り香だとわかる。七草は自宅にいないのだ。

「なんでしょう?」
「申しわけありませんが日を改めてもらってもいいですか。手を離せないので」
「かしこまりました」

 冬次はスマホをおろし、すべての部屋を用心深く探す。体を冷やして熱を逃していたシャワーの痕跡が風呂場にあり、もっとも濃く匂いが残っている。寝室のベッド上と床には冬次の部屋着が落ちていた。
 一刻も早く、七草の行方を探さなければならない。
 嘘つき少年とちがって、七草はヒート中の体だ。

「俺のせいだ」

 冬次を探し求めて無防備に外へ出たのか。だが愛想を尽かして実家に帰ったという線もある。箱入りの七草は専用の運転手を呼ぶこともできるだろう。その場合、冬次にきついお灸が据えられるであろうが、そうあってくれた方がいい。安全なところにいるのならそれで。
 すぐ冬次は近所を走って探しまわり空振りに終わる。捜索の範囲を広げようとした時に兄貴から電話を受け、すでに弟の失態が耳に入ったために叱責の電話かと思って即座に取った。

「もしもし兄貴」
「今日は早いな。出てくれてありがとう」
「前置きはいいよ。言って」

 眉をよせた冬次は目をきつく閉じた。
 兄貴が続ける。

「うん。伝える必要があるかはわからないが、ナナクサ製薬の社内で善光くんを見かけたんだ。すれちがった際に異変を感じたんだが、それがヒート中のフェロモンの匂いをさせてたように思えてな。今お前は善光くんと一緒か?」
「いいや。兄貴が見かけたのはいつのこと?」

 七草の行方がわかり、冬次はヘナヘナとしゃがみ込んだ。

「一時間くらい前だ。これから会う予定があるのか?」
「まぁね。教えてくれてありがと。でも善光くんは何しに行ったんだろ」
「すまんが俺は見かけただけだから知らない」
「そうだよね。まぁいいや、時間ないから切るね」

 電話を切ると、冬次はナナクサ製薬へ行き、円滑に七草を探し出せはしなかった。
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