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「どこにいるの?」
続けて居場所を聞きだそうとしたが、七草が唐突に喋りだす。
「僕は、外にいますよ」
「外? どこの外かな?」
「冬次さんは嫌々させられてるんですよね」
「うん? なんて言った? よく聞こえないよ」
「南雲涼に誘惑されて仕方なくそこにいるんでしょう?」
額をつぅと冷や汗が流れる。冬次はギョッとして訊ねた。
「もしかして善光くんがいるのって地下室がある邸宅の前?」
「はいそうです。だから安心して出てきてください。わがままっ子には僕がガツンと言ってやりますから」
声は冗談抜きのガチトーンだ。苦しげにあえぐ吐息と交互に吐きだされた声にしてはおそろしく冷徹で、冬次の背筋に寒気が走った。
「誤解だよ。俺はそこにいない。今から迎えに行くから動かないで待ってて」
冬次は言いながらすでに駐車場に駆けだしていた。車を出すとスピート違反を気にかける余裕もない荒い運転で邸宅まで走った。
七草はどこから冬次へ電話をかけていたのか。ハンドルを握っている時から探しているが、邸宅前の道に彼らしい人物は見当たらない。
「はぁ、はぁ、どこだ」
冬次は七草に電話しようと耳にあて、その瞬間に玄関から響いた座間の声を聞いた。
「嘘だろ」
のんびり電話をかけている場合じゃないと判断した冬次は声のところへ駆けつける。無施錠の玄関を走って通過し、見た光景に目を丸くした。
地下室へおりる階段の上部で、頭にフードを深く被った七草が座間と揉み合いになっている。七草の目は赤く血走り、普段の大人しい様子からは考えられないほど取り乱していた。強引に地下におりようとする七草を座間が止めようとして羽交い締めにする。ものすごい力で振りきった七草は座間に怒りの矛先を向けた。
「退いてよ。僕は冬次さんを連れて帰ろうとしてるだけなの。どうして邪魔するの?」
二人はまだ冬次に気づいてない。
「いやだから、奈良林ならいないんですって。困るんですよ」
座間は階段の中ほどで立ちふさがる。
「そう言えって命令されてるんでしょ。座間くんは僕より涼くんを優先するんだね。僕が主任だった頃からそんなふうだったよね」
「そんなことないですから」
冬次は自分に気づかない二人に声をかけることをせず、神妙に見つめた。無意識のうちに頭から外れていたが彼らが知り合いだったという事実と七草にとって馴染み深い場所であるという事実が考えたくない方向へ冬次を導こうとする。
だが息をひそめていた冬次は家政婦に見つかった。
家政婦が声をかけたことで冬次はついに七草と座間の目に留まる。
先に反応したのは座間。救世主を見るような泣きそうな顔で冬次を指した。
「見てくださいよ。俺は正直に話してたでしょう?」
七草は外から現れた冬次を目に映したくないのか顔を両手で覆うと床に膝をついた。
「え、そんな。僕、だって」
七草の言動は要領をえず明らかに混乱している。そうこうしているうちにヒッ、ヒッ、と横隔膜を痙攣させた。精神が限界をきたして笑っているのかと勘違いしかけたが、冬次は慌てて彼のそばに駆けより体を支える。七草の顔面は蒼白で手足が冷たい、しかし抱きかかえた肩と頭は異常なほど熱かった。さらに過呼吸を起こしており、すぐ医者に診せなければ危険な状態だった。
「とにかく俺が病院に連れてく」
◆
七草は緊急に医師から処置をほどこされて入院し、薬が抜けてヒートが完全におさまるまでは面会謝絶とされた。その期間は二週間におよび、冬次は会えなくても関係なく毎日欠かさず見舞いに訪れている。せめて来ていることが七草に伝わるようにと願って見舞い用の花を看護師に渡し、病床に飾ってもらえるよう頼み隔離病棟を去る。看護師たちの評判は半々で、毎日持ってこられても飾る場所がないので困るという意見と、とてもパートナー想いで優しい彼氏だという意見に割れていた。だがそもそも本当に彼のことを想っていたなら入院はしてない。そして見舞いの花は冬次の自己満足のために一部の看護師の悪評は聞こえないふりをする。
冬次は病院内を歩き、胸の内を聞いてもらいたい一心で藤井の病室を訪れる。
七草と藤井は同じ病院に入院することになったのだ。
「毎日まいにちよく来るなお前は」
藤井は苦笑いしているが冬次を追い返したりしない。
「善光くんの容態はどうなんだ」
「発情反応を鎮静剤で無理やり和らげてるせいでほとんど眠ってる」
「良くなるんだろう?」
「あと数日で鎮静剤は必要なくなるだろうって」
こんなふうに一緒に心配してくれるおかげで冬次は藤井の前では独りで悩まずにいられている。少しだけ言葉を交わし孤独な部屋に帰ると自分の部屋の天井に押しつぶされそうな気持ちなった。
七草が一般病棟に移ったと病院から連絡を受けた日は冬次は予定を全てキャンセルした。仕事を早引きして病院へ向かいナースステーションで病室を訊ねたが、はやる気持ちと不安な気持ちで喉がへばりついて上手く説明ができず、不審な顔をされてしまった。
「えーっと、七草善光さんの見舞いに来た者ですが」
「ああ」
看護師の顔が普通に戻った。
「部屋番号はこれ、こちらに名前を書いてくださいね」
「どうも」
受付用紙に名前を記入して病室に急ぐ。しかし追いかけてきた医師に呼び止められる。
冬次は自分と思わず足を止めなかったが、医師は走って後を追ってきた。
「お兄さんが奈良林さんかな。ちょっとお話したいんだけどいいかな?」
「俺?」
「そうです。あなたです」
白衣の医師は冬次をナースステーションの手前まで連れ戻した。
続けて居場所を聞きだそうとしたが、七草が唐突に喋りだす。
「僕は、外にいますよ」
「外? どこの外かな?」
「冬次さんは嫌々させられてるんですよね」
「うん? なんて言った? よく聞こえないよ」
「南雲涼に誘惑されて仕方なくそこにいるんでしょう?」
額をつぅと冷や汗が流れる。冬次はギョッとして訊ねた。
「もしかして善光くんがいるのって地下室がある邸宅の前?」
「はいそうです。だから安心して出てきてください。わがままっ子には僕がガツンと言ってやりますから」
声は冗談抜きのガチトーンだ。苦しげにあえぐ吐息と交互に吐きだされた声にしてはおそろしく冷徹で、冬次の背筋に寒気が走った。
「誤解だよ。俺はそこにいない。今から迎えに行くから動かないで待ってて」
冬次は言いながらすでに駐車場に駆けだしていた。車を出すとスピート違反を気にかける余裕もない荒い運転で邸宅まで走った。
七草はどこから冬次へ電話をかけていたのか。ハンドルを握っている時から探しているが、邸宅前の道に彼らしい人物は見当たらない。
「はぁ、はぁ、どこだ」
冬次は七草に電話しようと耳にあて、その瞬間に玄関から響いた座間の声を聞いた。
「嘘だろ」
のんびり電話をかけている場合じゃないと判断した冬次は声のところへ駆けつける。無施錠の玄関を走って通過し、見た光景に目を丸くした。
地下室へおりる階段の上部で、頭にフードを深く被った七草が座間と揉み合いになっている。七草の目は赤く血走り、普段の大人しい様子からは考えられないほど取り乱していた。強引に地下におりようとする七草を座間が止めようとして羽交い締めにする。ものすごい力で振りきった七草は座間に怒りの矛先を向けた。
「退いてよ。僕は冬次さんを連れて帰ろうとしてるだけなの。どうして邪魔するの?」
二人はまだ冬次に気づいてない。
「いやだから、奈良林ならいないんですって。困るんですよ」
座間は階段の中ほどで立ちふさがる。
「そう言えって命令されてるんでしょ。座間くんは僕より涼くんを優先するんだね。僕が主任だった頃からそんなふうだったよね」
「そんなことないですから」
冬次は自分に気づかない二人に声をかけることをせず、神妙に見つめた。無意識のうちに頭から外れていたが彼らが知り合いだったという事実と七草にとって馴染み深い場所であるという事実が考えたくない方向へ冬次を導こうとする。
だが息をひそめていた冬次は家政婦に見つかった。
家政婦が声をかけたことで冬次はついに七草と座間の目に留まる。
先に反応したのは座間。救世主を見るような泣きそうな顔で冬次を指した。
「見てくださいよ。俺は正直に話してたでしょう?」
七草は外から現れた冬次を目に映したくないのか顔を両手で覆うと床に膝をついた。
「え、そんな。僕、だって」
七草の言動は要領をえず明らかに混乱している。そうこうしているうちにヒッ、ヒッ、と横隔膜を痙攣させた。精神が限界をきたして笑っているのかと勘違いしかけたが、冬次は慌てて彼のそばに駆けより体を支える。七草の顔面は蒼白で手足が冷たい、しかし抱きかかえた肩と頭は異常なほど熱かった。さらに過呼吸を起こしており、すぐ医者に診せなければ危険な状態だった。
「とにかく俺が病院に連れてく」
◆
七草は緊急に医師から処置をほどこされて入院し、薬が抜けてヒートが完全におさまるまでは面会謝絶とされた。その期間は二週間におよび、冬次は会えなくても関係なく毎日欠かさず見舞いに訪れている。せめて来ていることが七草に伝わるようにと願って見舞い用の花を看護師に渡し、病床に飾ってもらえるよう頼み隔離病棟を去る。看護師たちの評判は半々で、毎日持ってこられても飾る場所がないので困るという意見と、とてもパートナー想いで優しい彼氏だという意見に割れていた。だがそもそも本当に彼のことを想っていたなら入院はしてない。そして見舞いの花は冬次の自己満足のために一部の看護師の悪評は聞こえないふりをする。
冬次は病院内を歩き、胸の内を聞いてもらいたい一心で藤井の病室を訪れる。
七草と藤井は同じ病院に入院することになったのだ。
「毎日まいにちよく来るなお前は」
藤井は苦笑いしているが冬次を追い返したりしない。
「善光くんの容態はどうなんだ」
「発情反応を鎮静剤で無理やり和らげてるせいでほとんど眠ってる」
「良くなるんだろう?」
「あと数日で鎮静剤は必要なくなるだろうって」
こんなふうに一緒に心配してくれるおかげで冬次は藤井の前では独りで悩まずにいられている。少しだけ言葉を交わし孤独な部屋に帰ると自分の部屋の天井に押しつぶされそうな気持ちなった。
七草が一般病棟に移ったと病院から連絡を受けた日は冬次は予定を全てキャンセルした。仕事を早引きして病院へ向かいナースステーションで病室を訊ねたが、はやる気持ちと不安な気持ちで喉がへばりついて上手く説明ができず、不審な顔をされてしまった。
「えーっと、七草善光さんの見舞いに来た者ですが」
「ああ」
看護師の顔が普通に戻った。
「部屋番号はこれ、こちらに名前を書いてくださいね」
「どうも」
受付用紙に名前を記入して病室に急ぐ。しかし追いかけてきた医師に呼び止められる。
冬次は自分と思わず足を止めなかったが、医師は走って後を追ってきた。
「お兄さんが奈良林さんかな。ちょっとお話したいんだけどいいかな?」
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