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95 お兄ちゃんといっしょ
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車が止まったのは秘密の会合をする時に使うレストランだ。美世が働く店。
「ここかよ」
「どこなら喜んだんだ? 次はそこに行こうか」
面白おかしそうに言われ、冬次は口をつぐむ。ポジティブ思考の兄貴に苦手意識が加速するばかりでどこも楽しくない。視線を窓の外へやり、悪態を吐く汚い声が出た。入口で兄貴の子供らが待っているではないか。
「俺やっぱ遠慮したい」
冬次は歩道と反対の道路側のドアから出ようとしたが、兄貴に先を越され、子供らに聞こえる声で早く来なさいと名前を呼ばれた。
「悪魔かよ」
笑みを貼りつけて車をおりる。引きつった作り笑いを見て子供らが怯えようが知らんぞという気持ちだ。
兄貴の子供たちは冬次に礼儀正しく挨拶する。それもそのはずで小さかった彼ら彼女らも涼くんより歳上。今や立派な紳士淑女となり冬次の歪んだ笑みにも怯える素振りを見せなかった。
冬次の劣等感を家族ぐるみで刺激する兄貴親子は常連の貫禄があり、顔パスで席へ案内された。もはや当然ともいえるVIP専用の個室に連れていかれ、勤務上がりの美世が遅れて着席する。冬次はレストランに来てから薄々感じていたーーそうじゃなければいいと思っていたーー衝撃の事実を認めた。これが兄貴たち家族にとって恒例の行事だということだ。
兄貴と元妻と子供らは始終和やかで険悪なムードの欠片もない。離婚しているなんて言われても疑ってしまうほどに仲睦まじい家族だった。
食事の後、家族と別れた兄貴は冬次と共に再び運転手つきの車に乗った。むっつり黙りこむ冬次に兄貴がスマホを見せ笑いかける。
「もし叔父さんが良ければまたみんなで食事しましょうねだって」
冬次は適当にあしらう。
「また今度って返しとくよ」
とスマホに返事を打つ兄貴。冬次は眉間に不快感を滲ませ、兄貴に呼びかけた。
「ご自慢の元家族を見せびらかして満足した?」
兄貴はスマホをスーツのポケットにしまう。
「ああ楽しかったな」
冬次はカチンときて舌打ちした。
「克己さんはあんたが俺の思ってるような男じゃないと言うけどさ、俺からすれば今日の食事会すら偽物くさいとしか思わないね。そこまでして自分を完璧に創り上げるのはさぞ大変でしょうね? でも別に俺に見せてくれなくていいよ」
心で思ってることと逆のことを言い、冬次は兄貴を罵った。声に出しながら嘘偽りない美世と子供らの笑顔が浮かび、言い終えた冬次の顔はいつものように上手く煽れた片顔と青ざめた片顔で醜く歪む。
「すまないが、私個人のマンションに行ってくれ」
兄貴が運転手に告げた。
「俺は帰る」
冬次は声を荒げる。
「克己が兄弟で話せと言ったのはお前にだけじゃない」
「知らねぇからおろせよっ」
「冬次!」
兄貴が声を荒げ、ノブにかけた冬次の手がビクッと震えた。
「話をさせてくれ」
冬次は座席に体重を戻すしかなくなる。兄貴がプライベート用の隠れ家にしているマンションの部屋に入るのは兎沢と訪れた時以来だった。その頃と比べて室内の棚に飾られた雑貨類が増えている。
「何か飲むか?」
「いい」
冬次は兄貴から離れると棚の変な人形を手にとった。
「なんだこれ」
「どこかの部族に伝わる悪魔除けの人間らしいよ」
答える兄貴の横顔が優しくなる。
「趣味なの?」
「娘や息子が珍しいものを見つけるたび買ってくるんだ」
冬次は興味を失って人形を棚に戻す。仲良しエピソードはつまらない。だが兄貴は気づかないで別の雑貨を手にとる。
「これも、これもな。美世にはネックレスやらピアスやらを買って帰ってるらしいからきっとふがいない親父への嫌がらせだな。正直、寝室には置きたくない見た目だよな」
兄貴の横顔は楽しげだ。
「あっそ。じゃ捨てれば? 捨ててきてあげよっか?」
癇に障るので兄貴の宝物を雑につまんで投げる動作をすると、冬次は唇に弧を描き反応をうかがう。
「家族からもらったものを捨てられないよ」
気分を害した様子もなく兄貴は本気にしないで答えた。
「いっぱい捨ててきてんじゃん」
「大事なものはちゃんと手の中に残してるよ」
性格の悪い弟を演じても余裕そうな兄貴の態度に冬次は無表情になる。
「まじ嫌いだよ。あんた」
声に出すことで兄貴を最低なやつのままにしておこうとするようにつぶやき、腹をくくると椅子の一つに腰をおろした。
「話でしょ。ハイどうぞ」
兄貴に向かって肩をすくめる。兄貴がおもむろに取り出したのは写真アルバム。家族自慢の第二弾かとこめかみをひきつらせた冬次だが、アルバムの中身は冬次と兄貴が子供の頃の写真がひしめき合っていた。小学校低学年くらいまでは普通に仲のいい兄弟というふうに写っており、冬次は記憶ちがいを疑って写真を食い入るように凝視した。ページをめくっていくとパタリと冬次の写真がなくなり、無性にホッとする。
見終わったアルバムを雑な手つきで兄貴に返すと、兄貴と目が合ってしまい気まずくなった。
「なんだよ」
「冬次。お前が急に家族に反発するようになった理由を教えてくれないか」
「ここかよ」
「どこなら喜んだんだ? 次はそこに行こうか」
面白おかしそうに言われ、冬次は口をつぐむ。ポジティブ思考の兄貴に苦手意識が加速するばかりでどこも楽しくない。視線を窓の外へやり、悪態を吐く汚い声が出た。入口で兄貴の子供らが待っているではないか。
「俺やっぱ遠慮したい」
冬次は歩道と反対の道路側のドアから出ようとしたが、兄貴に先を越され、子供らに聞こえる声で早く来なさいと名前を呼ばれた。
「悪魔かよ」
笑みを貼りつけて車をおりる。引きつった作り笑いを見て子供らが怯えようが知らんぞという気持ちだ。
兄貴の子供たちは冬次に礼儀正しく挨拶する。それもそのはずで小さかった彼ら彼女らも涼くんより歳上。今や立派な紳士淑女となり冬次の歪んだ笑みにも怯える素振りを見せなかった。
冬次の劣等感を家族ぐるみで刺激する兄貴親子は常連の貫禄があり、顔パスで席へ案内された。もはや当然ともいえるVIP専用の個室に連れていかれ、勤務上がりの美世が遅れて着席する。冬次はレストランに来てから薄々感じていたーーそうじゃなければいいと思っていたーー衝撃の事実を認めた。これが兄貴たち家族にとって恒例の行事だということだ。
兄貴と元妻と子供らは始終和やかで険悪なムードの欠片もない。離婚しているなんて言われても疑ってしまうほどに仲睦まじい家族だった。
食事の後、家族と別れた兄貴は冬次と共に再び運転手つきの車に乗った。むっつり黙りこむ冬次に兄貴がスマホを見せ笑いかける。
「もし叔父さんが良ければまたみんなで食事しましょうねだって」
冬次は適当にあしらう。
「また今度って返しとくよ」
とスマホに返事を打つ兄貴。冬次は眉間に不快感を滲ませ、兄貴に呼びかけた。
「ご自慢の元家族を見せびらかして満足した?」
兄貴はスマホをスーツのポケットにしまう。
「ああ楽しかったな」
冬次はカチンときて舌打ちした。
「克己さんはあんたが俺の思ってるような男じゃないと言うけどさ、俺からすれば今日の食事会すら偽物くさいとしか思わないね。そこまでして自分を完璧に創り上げるのはさぞ大変でしょうね? でも別に俺に見せてくれなくていいよ」
心で思ってることと逆のことを言い、冬次は兄貴を罵った。声に出しながら嘘偽りない美世と子供らの笑顔が浮かび、言い終えた冬次の顔はいつものように上手く煽れた片顔と青ざめた片顔で醜く歪む。
「すまないが、私個人のマンションに行ってくれ」
兄貴が運転手に告げた。
「俺は帰る」
冬次は声を荒げる。
「克己が兄弟で話せと言ったのはお前にだけじゃない」
「知らねぇからおろせよっ」
「冬次!」
兄貴が声を荒げ、ノブにかけた冬次の手がビクッと震えた。
「話をさせてくれ」
冬次は座席に体重を戻すしかなくなる。兄貴がプライベート用の隠れ家にしているマンションの部屋に入るのは兎沢と訪れた時以来だった。その頃と比べて室内の棚に飾られた雑貨類が増えている。
「何か飲むか?」
「いい」
冬次は兄貴から離れると棚の変な人形を手にとった。
「なんだこれ」
「どこかの部族に伝わる悪魔除けの人間らしいよ」
答える兄貴の横顔が優しくなる。
「趣味なの?」
「娘や息子が珍しいものを見つけるたび買ってくるんだ」
冬次は興味を失って人形を棚に戻す。仲良しエピソードはつまらない。だが兄貴は気づかないで別の雑貨を手にとる。
「これも、これもな。美世にはネックレスやらピアスやらを買って帰ってるらしいからきっとふがいない親父への嫌がらせだな。正直、寝室には置きたくない見た目だよな」
兄貴の横顔は楽しげだ。
「あっそ。じゃ捨てれば? 捨ててきてあげよっか?」
癇に障るので兄貴の宝物を雑につまんで投げる動作をすると、冬次は唇に弧を描き反応をうかがう。
「家族からもらったものを捨てられないよ」
気分を害した様子もなく兄貴は本気にしないで答えた。
「いっぱい捨ててきてんじゃん」
「大事なものはちゃんと手の中に残してるよ」
性格の悪い弟を演じても余裕そうな兄貴の態度に冬次は無表情になる。
「まじ嫌いだよ。あんた」
声に出すことで兄貴を最低なやつのままにしておこうとするようにつぶやき、腹をくくると椅子の一つに腰をおろした。
「話でしょ。ハイどうぞ」
兄貴に向かって肩をすくめる。兄貴がおもむろに取り出したのは写真アルバム。家族自慢の第二弾かとこめかみをひきつらせた冬次だが、アルバムの中身は冬次と兄貴が子供の頃の写真がひしめき合っていた。小学校低学年くらいまでは普通に仲のいい兄弟というふうに写っており、冬次は記憶ちがいを疑って写真を食い入るように凝視した。ページをめくっていくとパタリと冬次の写真がなくなり、無性にホッとする。
見終わったアルバムを雑な手つきで兄貴に返すと、兄貴と目が合ってしまい気まずくなった。
「なんだよ」
「冬次。お前が急に家族に反発するようになった理由を教えてくれないか」
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