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98 お前もだとは思わなかった
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南雲の様子を見に座間に会いに行った冬次はわざわざ兄貴を笑いものにするためにコーヒーをもらって居座り、暇な学生のようにダラダラとお喋りに興じた。しつこく話しかけ、迷惑そうな座間に返事をさせる。
「そうかい。兄貴と関係修復できそうでよかったな」
冬次は社畜モードの座間に不満な顔をした。
「さては俺の話聞いてなかったな? もっと笑え。爆笑しろ」
「聞いてねーし人様の兄貴を笑えるか。お前の兄貴はプロジェクトの偉い人だぞ」
「つまらん」
「だったらお帰りください」
自分の仕事をしつつ呆れて聞いている座間が時計を見やり、地下の監視モニターに顔を向ける。
「しかしまぁ奈良林が葉羽さんと親しかったとは驚いた。七草主任のことでか?」
「え、んー」
冬次は返答に窮して頬の肉を噛む。断片的に話をしたので藤井の時とまるで同じような状況である。ただ座間の場合は彼自身が片足を突っ込んでいる立場のため、うなずけば言いわけが立ちそうだった。
「うん、そうなんだ」
座間は暗い表情になり胸の前で腕を組んだ。
「七草主任はその後どうなの?」
事件の日に現場にいた当事者としてショックを引きずっているような顔だ。
「体の方は平気そう。心の方はゆっくりって感じかな」
「そっか。そうだよな」
座間の曇った横顔に冬次は問いかける。
「⋯⋯座間ってさ、子供の頃に病院に連れてかれたり薬飲まされてた時期とかあった?」
「なんで?」
「ほらお前の健康を心配してさ。体弱くなかったかなぁって。倒れた時もあったじゃん」
座間は軽く眉をひそめたが、冬次の説明に納得して口をひらく。
「俺は健康優良児だったよ。風邪もあんまひかなかったし」
「おお、良かったなぁ!」
「おう?」
座間は怪訝そうだが、冬次は安堵したため心の声がでてしまった。
「あ、そういえば、身長を伸ばすサプリメントを飲んでた時期はあったかな」
冬次は急転直下に凍りつく。
「座間が飲みたくて飲んでたんじゃなくて?」
「親から飲むように言われてだった。で、それが何。そのわりに身長伸びてないって言いたいのか。ほっとけ」
この世の終わりのようなひどい顔つきだったのだろう、座間に指摘され、冬次は無理に笑って暗澹とした心を濁した。苦笑いにしかならなかったが。
「俺よりチビなのにな。全然効いてないサプリだね」
「うるせ。うちはナナクサ製薬と昔っからつき合いあったからよく試作中の薬やらサプリやらをもらってきてたんだよ。治験とかモニターみたいなことで協力してたんだと思うよ。七草主任もいろいろ試されたって言ってたわ」
「彼も」
「そりゃ製薬会社の息子だからね。変な共通点で盛り上がったの覚えてるわ」
ふざけた顔を保とうとしたがついに限界になり、冬次はうつむいて額に手をあてた。こめかみの血管が太く膨らんで指の腹に脈打つ様子が伝わる。
「お、涼くんが動いたぞ」
座間が冬次の腕をゆさぶった。
監視モニターを見ると、南雲が監視カメラに向かって手を振っている。超がつくほど可愛い仕草をすると思ったら、途端に口をイーと引き伸ばした煽り顔で中指を立てた。
「そこにいるならこっちに来いって言ってんだな。つーか、これか、マイクが入ったままだった」
冬次はギョッとした。だからこちらの会話が筒抜けのような反応速度だったわけだ。
「いつから入ってたんだ。もっと早く教えてくれたらいいのに」
ぶつくさ文句を垂れながら座間がマイクのスイッチを切る。それとほぼ同時にモニターに映る南雲がベェと赤い舌を見せた。
「ムカつく~」
座間はオフしたマイクに言いかえす。呑気な座間を見ていると冬次は心が塞ぐほど焦りを覚えた。
「俺が地下室行ってくる」
ふらっと立ち上がり、地下室前におもむく。冬次の頭の中では葉羽から得た情報が反芻され最悪の気分だった。数分前までは兄貴のくだらないエピソードでケラケラ笑えていたのに、事情の闇深さが冬次の背にのしかかり、ひどく足が重い。
「何してんのさ。おっさんはドアの開け方忘れたの?」
あまりにもぼんやりし過ぎていたため、内側から南雲がドアを蹴った。南雲が通常運転でいてくれるおかげか冬次も気持ちがいくぶん上向きになる。ドアをあけると、生意気な少年に挨拶した。
「俺に会いたいからって乱暴はやめてください」
「はい死ね~」
「それもなし」
南雲は怠そうにスウェットの裾を引きずりながら机に戻る。
しかし二十四時間机にかじりついている南雲が手をとめて、そこを離れて待っていただけでも南雲が冬次を気にしていたことが充分うかがえた。正確には冬次がしていた会話をだろう。
南雲は椅子を後ろ向きに回転させ、冬次の方を向いて座った。意地悪くこちらの出方を待ち、硝子細工のような美しく涼しい顔で見つめてくる。
監視カメラに拾われないよう冬次は机の近くにまわり声を落として話した。
「涼くんは自分の出生について興味ある?」
南雲も監視カメラを見やる。
「まわりくどい」
「そうかい。兄貴と関係修復できそうでよかったな」
冬次は社畜モードの座間に不満な顔をした。
「さては俺の話聞いてなかったな? もっと笑え。爆笑しろ」
「聞いてねーし人様の兄貴を笑えるか。お前の兄貴はプロジェクトの偉い人だぞ」
「つまらん」
「だったらお帰りください」
自分の仕事をしつつ呆れて聞いている座間が時計を見やり、地下の監視モニターに顔を向ける。
「しかしまぁ奈良林が葉羽さんと親しかったとは驚いた。七草主任のことでか?」
「え、んー」
冬次は返答に窮して頬の肉を噛む。断片的に話をしたので藤井の時とまるで同じような状況である。ただ座間の場合は彼自身が片足を突っ込んでいる立場のため、うなずけば言いわけが立ちそうだった。
「うん、そうなんだ」
座間は暗い表情になり胸の前で腕を組んだ。
「七草主任はその後どうなの?」
事件の日に現場にいた当事者としてショックを引きずっているような顔だ。
「体の方は平気そう。心の方はゆっくりって感じかな」
「そっか。そうだよな」
座間の曇った横顔に冬次は問いかける。
「⋯⋯座間ってさ、子供の頃に病院に連れてかれたり薬飲まされてた時期とかあった?」
「なんで?」
「ほらお前の健康を心配してさ。体弱くなかったかなぁって。倒れた時もあったじゃん」
座間は軽く眉をひそめたが、冬次の説明に納得して口をひらく。
「俺は健康優良児だったよ。風邪もあんまひかなかったし」
「おお、良かったなぁ!」
「おう?」
座間は怪訝そうだが、冬次は安堵したため心の声がでてしまった。
「あ、そういえば、身長を伸ばすサプリメントを飲んでた時期はあったかな」
冬次は急転直下に凍りつく。
「座間が飲みたくて飲んでたんじゃなくて?」
「親から飲むように言われてだった。で、それが何。そのわりに身長伸びてないって言いたいのか。ほっとけ」
この世の終わりのようなひどい顔つきだったのだろう、座間に指摘され、冬次は無理に笑って暗澹とした心を濁した。苦笑いにしかならなかったが。
「俺よりチビなのにな。全然効いてないサプリだね」
「うるせ。うちはナナクサ製薬と昔っからつき合いあったからよく試作中の薬やらサプリやらをもらってきてたんだよ。治験とかモニターみたいなことで協力してたんだと思うよ。七草主任もいろいろ試されたって言ってたわ」
「彼も」
「そりゃ製薬会社の息子だからね。変な共通点で盛り上がったの覚えてるわ」
ふざけた顔を保とうとしたがついに限界になり、冬次はうつむいて額に手をあてた。こめかみの血管が太く膨らんで指の腹に脈打つ様子が伝わる。
「お、涼くんが動いたぞ」
座間が冬次の腕をゆさぶった。
監視モニターを見ると、南雲が監視カメラに向かって手を振っている。超がつくほど可愛い仕草をすると思ったら、途端に口をイーと引き伸ばした煽り顔で中指を立てた。
「そこにいるならこっちに来いって言ってんだな。つーか、これか、マイクが入ったままだった」
冬次はギョッとした。だからこちらの会話が筒抜けのような反応速度だったわけだ。
「いつから入ってたんだ。もっと早く教えてくれたらいいのに」
ぶつくさ文句を垂れながら座間がマイクのスイッチを切る。それとほぼ同時にモニターに映る南雲がベェと赤い舌を見せた。
「ムカつく~」
座間はオフしたマイクに言いかえす。呑気な座間を見ていると冬次は心が塞ぐほど焦りを覚えた。
「俺が地下室行ってくる」
ふらっと立ち上がり、地下室前におもむく。冬次の頭の中では葉羽から得た情報が反芻され最悪の気分だった。数分前までは兄貴のくだらないエピソードでケラケラ笑えていたのに、事情の闇深さが冬次の背にのしかかり、ひどく足が重い。
「何してんのさ。おっさんはドアの開け方忘れたの?」
あまりにもぼんやりし過ぎていたため、内側から南雲がドアを蹴った。南雲が通常運転でいてくれるおかげか冬次も気持ちがいくぶん上向きになる。ドアをあけると、生意気な少年に挨拶した。
「俺に会いたいからって乱暴はやめてください」
「はい死ね~」
「それもなし」
南雲は怠そうにスウェットの裾を引きずりながら机に戻る。
しかし二十四時間机にかじりついている南雲が手をとめて、そこを離れて待っていただけでも南雲が冬次を気にしていたことが充分うかがえた。正確には冬次がしていた会話をだろう。
南雲は椅子を後ろ向きに回転させ、冬次の方を向いて座った。意地悪くこちらの出方を待ち、硝子細工のような美しく涼しい顔で見つめてくる。
監視カメラに拾われないよう冬次は机の近くにまわり声を落として話した。
「涼くんは自分の出生について興味ある?」
南雲も監視カメラを見やる。
「まわりくどい」
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