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99 君の顔で言わないで
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はっきり一言。
「聞きたいのは僕が知ってるかじゃないの?」
座間に聞かれていようがお構いなしという声で話す南雲。しかし理由あっての行動にも思えた。
「バース性の研究に前任者がいたのは知ってる。あいつも知ってる」
南雲が監視カメラを指差した。
「座間も知ってたのか?」
「ナナクサ製薬の研究施設は前任者が資金提供して作らせたんだよ。研究員の中ではわりと有名な話。ゲスい研究内容は秘匿されてたけど、バース性のよりよい未来のためにっていうコンセプトで色々してたみたいだね。でもまさか無関係じゃなくて親に体を提供されてたなんて夢にも思わないよね。カワイソ」
怒りを覚える言い方だったが、冬次は謝らせるより先に思いとどまる。
「涼くんも、その可哀想な子供の一員じゃないのか」
南雲は無情な唇に薄ら笑いを浮かべた。
「同じにしないでよ。僕は前任者の研究を完成させるために生まれた特別製だよ。おっさんもどうせそういう情報を聞いてきたんでしょ」
「・・・・・・」
「前任者の研究では効果にばらつきが目立ったみたい。望んだバース性に変えられたのは一割以下だったって。僕ならこの確率を百にできるよ。座間は失敗作ってとこじゃないかなぁ。うまくいった成功体も知ってるけどね」
「成功体は善光くんなんだろ」
「なんだわかってるんだ。元主任さんは早い段階で効果が出て、外見のオメガ化、子宮の形成まで確認できた優良個体だよ」
話を聞いて冬次は奥歯を噛みしめる。
「涼くん自身はちがうって言えるのか?」
「僕は細胞分裂する卵の段階でオメガとして設計されてる。オメガの体にアルファの脳みそを持たせてみたんだってさ。キメラみたいで笑える」
この直後、冬次は飄々と答える南雲の胸ぐらを掴む妄想に囚われた。顔見知りの人間の悲劇にも自身に降りかかった災難にも情をみせない冷酷な口を塞いでやりたかったからだ。自分の身を大事にしてくれない南雲に無性に腹が立っていた。
「誰から聞いた? いつから知ってたんだ?」
冬次は問う。
「母さんの手紙。本物の方」
「読んだんだな。だったらめちゃくちゃ最近じゃないか。どうしてそんなに達観していられるんだ? 涼くんの母親がこのせいで亡くなったとは考えられないのか⁈」
「考えられるよ。確実にそうだろうね。ていうか馬鹿だよ。逃げないで生んでれば適切なケアを受けられて長く生きられてたかもしれないのに」
南雲の口が吐いた忌々しさすら覚える言葉に絶句する。けれどもひどい言葉を吐く時は相応に弱さを隠したい時であり、少年の苦悩は察するに余りあるため胸ぐらに掴みかかろうとした冬次の気力を奪った。
命がけで檻から出した我が子が自分から檻の中に舞い戻ってしまったのだから彼の母親は天国で泣いているんだろう。
「大人になった僕もたいしたことじゃないって思ったから捨てないで僕に渡すよう指示したんでしょ。今の僕よりロボットかもね」
「それ以上言うな」
冬次の口調はきつく脅すような声になる。いくら本人でも南雲さんを悪く言うのは我慢ならない。
「僕のことじゃん」
南雲がむくれる。
「それでもやめてくれ。頼むから」
冬次は気持ちの整理がつかなかったので心を落ち着けるため地下室を出て階段で頭を冷まそうと思った。
階段には座間がいた。
「俺たちの会話聞いてたか?」
座間はうなずく。
「驚きが一周まわってむしろ冷静になったわ」
座間の疲れた顔は蒼白だが眼光には力がみなぎっていた。
「そんな感じだな」
「うん」
しかし声には多少の震えが混じっていることに気づく。
「あれだな、俺がオメガになって七草主任のようだったかもしれなかったってことなんだよな」
冬次は優しい言葉で慰めるよりふざけた顔でふざけたポーズをとった。
「そして俺を好きになっちゃってたかもってか?」
舞台役者のような顔でキメる冬次を座間が顔をしかめて見る。
「やめろ」
座間は気持ち悪そうな顔をして一階へあがっていき、冬次はやっと一人になるとしばらく階段で佇んでいた。
「⋯⋯時間だし行くか」
ふと時計を確かめた冬次は電池を入れ直したおもちゃのように動きだした。今日は次の予定があり、このまま直帰してベッドで瞑想の続きというわけにもいかないのだ。
予定の前に病院に寄ろうと思い、その時間も考慮に入れて車を走らせる。病院につくと同時に藤井へメッセージを送ると数秒も待たずに返事がきた。了解のスタンプが画面の中で可愛くウィンクしている。
藤井とは病院併設の飲食スペースで待ち合わせており、看護師の付き添いなしで入院病棟の外へ出てこられた藤井の顔は日に日に健康な頃の血色を取り戻していた。
「元気そうだね。安心した」
「会ったばかりなのにもう心配になったか?」
「ごめん。今日は来る予定じゃなかったもんな」
「善光くんの様子聞きにきたんだろう」
「ん。もちろん克己さんの顔も見にきたよ」
七草は未然として一人暮らしの家に帰せないと診断され入院している。実家に帰っての療養を拒否して入院の継続を選んだそうだが、ナナクサ製薬と懇意の病院なので実家に庇護されてることに変わりない。
「克己さんこれスタンプどしたの。こういうの使ってたっけ?」
他愛ない会話のあいだに思い出して訊ねる。
「たまにはいいかと思って」
「自分でやったの?」
「いいや善光くんが」
冬次は自然と微笑んだ。
「やっぱり。仲良くしてくれてんだね。じゃ俺そろそろ行くね」
「忙しないな。もう行くのか」
「兄貴に頼まれてっからさ」
そう返すと藤井の顔もほころぶ。
「わかった。気をつけろよ」
「おう。いってきます」
「聞きたいのは僕が知ってるかじゃないの?」
座間に聞かれていようがお構いなしという声で話す南雲。しかし理由あっての行動にも思えた。
「バース性の研究に前任者がいたのは知ってる。あいつも知ってる」
南雲が監視カメラを指差した。
「座間も知ってたのか?」
「ナナクサ製薬の研究施設は前任者が資金提供して作らせたんだよ。研究員の中ではわりと有名な話。ゲスい研究内容は秘匿されてたけど、バース性のよりよい未来のためにっていうコンセプトで色々してたみたいだね。でもまさか無関係じゃなくて親に体を提供されてたなんて夢にも思わないよね。カワイソ」
怒りを覚える言い方だったが、冬次は謝らせるより先に思いとどまる。
「涼くんも、その可哀想な子供の一員じゃないのか」
南雲は無情な唇に薄ら笑いを浮かべた。
「同じにしないでよ。僕は前任者の研究を完成させるために生まれた特別製だよ。おっさんもどうせそういう情報を聞いてきたんでしょ」
「・・・・・・」
「前任者の研究では効果にばらつきが目立ったみたい。望んだバース性に変えられたのは一割以下だったって。僕ならこの確率を百にできるよ。座間は失敗作ってとこじゃないかなぁ。うまくいった成功体も知ってるけどね」
「成功体は善光くんなんだろ」
「なんだわかってるんだ。元主任さんは早い段階で効果が出て、外見のオメガ化、子宮の形成まで確認できた優良個体だよ」
話を聞いて冬次は奥歯を噛みしめる。
「涼くん自身はちがうって言えるのか?」
「僕は細胞分裂する卵の段階でオメガとして設計されてる。オメガの体にアルファの脳みそを持たせてみたんだってさ。キメラみたいで笑える」
この直後、冬次は飄々と答える南雲の胸ぐらを掴む妄想に囚われた。顔見知りの人間の悲劇にも自身に降りかかった災難にも情をみせない冷酷な口を塞いでやりたかったからだ。自分の身を大事にしてくれない南雲に無性に腹が立っていた。
「誰から聞いた? いつから知ってたんだ?」
冬次は問う。
「母さんの手紙。本物の方」
「読んだんだな。だったらめちゃくちゃ最近じゃないか。どうしてそんなに達観していられるんだ? 涼くんの母親がこのせいで亡くなったとは考えられないのか⁈」
「考えられるよ。確実にそうだろうね。ていうか馬鹿だよ。逃げないで生んでれば適切なケアを受けられて長く生きられてたかもしれないのに」
南雲の口が吐いた忌々しさすら覚える言葉に絶句する。けれどもひどい言葉を吐く時は相応に弱さを隠したい時であり、少年の苦悩は察するに余りあるため胸ぐらに掴みかかろうとした冬次の気力を奪った。
命がけで檻から出した我が子が自分から檻の中に舞い戻ってしまったのだから彼の母親は天国で泣いているんだろう。
「大人になった僕もたいしたことじゃないって思ったから捨てないで僕に渡すよう指示したんでしょ。今の僕よりロボットかもね」
「それ以上言うな」
冬次の口調はきつく脅すような声になる。いくら本人でも南雲さんを悪く言うのは我慢ならない。
「僕のことじゃん」
南雲がむくれる。
「それでもやめてくれ。頼むから」
冬次は気持ちの整理がつかなかったので心を落ち着けるため地下室を出て階段で頭を冷まそうと思った。
階段には座間がいた。
「俺たちの会話聞いてたか?」
座間はうなずく。
「驚きが一周まわってむしろ冷静になったわ」
座間の疲れた顔は蒼白だが眼光には力がみなぎっていた。
「そんな感じだな」
「うん」
しかし声には多少の震えが混じっていることに気づく。
「あれだな、俺がオメガになって七草主任のようだったかもしれなかったってことなんだよな」
冬次は優しい言葉で慰めるよりふざけた顔でふざけたポーズをとった。
「そして俺を好きになっちゃってたかもってか?」
舞台役者のような顔でキメる冬次を座間が顔をしかめて見る。
「やめろ」
座間は気持ち悪そうな顔をして一階へあがっていき、冬次はやっと一人になるとしばらく階段で佇んでいた。
「⋯⋯時間だし行くか」
ふと時計を確かめた冬次は電池を入れ直したおもちゃのように動きだした。今日は次の予定があり、このまま直帰してベッドで瞑想の続きというわけにもいかないのだ。
予定の前に病院に寄ろうと思い、その時間も考慮に入れて車を走らせる。病院につくと同時に藤井へメッセージを送ると数秒も待たずに返事がきた。了解のスタンプが画面の中で可愛くウィンクしている。
藤井とは病院併設の飲食スペースで待ち合わせており、看護師の付き添いなしで入院病棟の外へ出てこられた藤井の顔は日に日に健康な頃の血色を取り戻していた。
「元気そうだね。安心した」
「会ったばかりなのにもう心配になったか?」
「ごめん。今日は来る予定じゃなかったもんな」
「善光くんの様子聞きにきたんだろう」
「ん。もちろん克己さんの顔も見にきたよ」
七草は未然として一人暮らしの家に帰せないと診断され入院している。実家に帰っての療養を拒否して入院の継続を選んだそうだが、ナナクサ製薬と懇意の病院なので実家に庇護されてることに変わりない。
「克己さんこれスタンプどしたの。こういうの使ってたっけ?」
他愛ない会話のあいだに思い出して訊ねる。
「たまにはいいかと思って」
「自分でやったの?」
「いいや善光くんが」
冬次は自然と微笑んだ。
「やっぱり。仲良くしてくれてんだね。じゃ俺そろそろ行くね」
「忙しないな。もう行くのか」
「兄貴に頼まれてっからさ」
そう返すと藤井の顔もほころぶ。
「わかった。気をつけろよ」
「おう。いってきます」
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