未来から来た天才オメガ研究者に恋したアルファ高校生の話

豆ぱんダ

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107 あいつの仕業

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 冬次は座間のところに殴り込む。それこそ七草の時以上に危険な雰囲気だったろう。
 座間はギョッとし、冬次が南雲でなく自分に用があると察して、にわかに青ざめた。
 冬次は意識して冷静な口調を心がけた。

「教えてほしいことがある」
「おお。来るなら連絡くらい先に入れてほしいよ」
「悪い。する余裕がなかった」

 時間的な余裕もだが心の余裕もない。冬次を避けてする必要のない作業をしに行こうとする座間の前に先回りして立ちはだかり、座間より恵まれた身長を使って壁になる。座間をこうして一方的に見下ろすことはしたくないが、逃げ道を塞がなければ座間は本気で向き合ってくれない。

「答えてくれ座間。涼くんに嫌がらせをしてたのは誰なんだ?」

 冬次は心の底から懇願する。自分の忍耐が残っているうちに答える気になってくれなければ、力任せの方法に出てしまうかもしれないと恐れたからだ。

「知ってるはずだ。頼むから教えてくれ」
「・・・・・・」
「知らないとは言わないんだな?」

 冬次がにじり寄ると、座間は少しずつ後ろに下がり、テーブルに衝突した衝撃で飲みかけの栄養ドリンクが落下した。頑丈な瓶は床を転がり、中身をこぼしながら冬次のつま先で止まる。
 座間は瓶が落ちた瞬間に音にびくつき、神経質に怯えて見せたかと思うと、ワッと頭を抱えてしゃがみこんだ。

「すまん。俺は言えないわ」

 座間が震える声を出す。
 じりじりと忍耐袋の緒が切れそうで冬次は眉をひそめる。家政婦が様子を見にこなければ、縮こまっている座間の肩を激しく揺すぶっていた。
 そして直後、違和感に気づき、冬次の頭が冷えていく。
 いつもこの時間に家政婦はいない。

「私から説明いたします」
「説明って涼くんに嫌がらせした犯人について? それとも家政婦さんがこんな時間までのんびりしてた理由?」

 挑発的に冬次が問いつめても家政婦はまるで動じず、座間を優先して助け起こし、気づかう言葉をかける。

「なぁ」

 冬次は苛々して声を荒げた。

「私がこんな時間に戻ってきた理由は座間さんに急遽辞めることになったとお伝えするためです」

 家政婦は恭しく頭を下げ、続ける。

「私が嫌がらせをしていました。責任をとって辞めさせていただきます」

 家政婦の声色に微塵の変化もなく、抑揚の薄い口調はAIロボがインプットされた音声を読み上げているようだ。

「なんで?」

 冬次は呆気に取られ、そう絞りだすのに精一杯になる。

「私は谷峨の指示どおりにやっただけです。疑問はご本人に直接お尋ねください」

 谷峨だと? 
 冬次は女性である彼女に遠慮して、怖がらせるふるまいをためらう。彼女の腕を掴み損ねているうちに、お世話になりましたと座間に頭を下げて帰っていった。

「谷峨先輩の仕業だから座間は黙ってたんだな」

 返事がほしくてこぼした言葉じゃないため、冬次は座間に投げかけた問いの答えを待たずに地下室へ足を運ぶ。家政婦が実行犯だとわかった今、南雲には早急にスマホを解除してもらわねばならない。家政婦がタイミングよく現れたことはこの際どうでもよく、冬次の記憶では彼女は南雲さんの指示で家政婦の仕事をしていたはずではなかったか?
 地下室で寝ていた南雲は冬次の訪問を歓迎せず、布団にこもり怨念じみた悪態をついた。

「三日ぶりくらいに寝れたのに。無理だって言ったのに」

 冬次は南雲のつぶやきを無視してベッドに膝をつき、有無を言わさぬように顔を近づける。

「最近は嫌がらせを受けてないか?」
「急に来てなんなの・・・・・・。退いてくんないかな」
「家政婦が危害を加えてたこと君は気づいてなかったの?」

 矢継ぎ早に問いただす冬次を、南雲は白けた目で見つめ、細い腕で大きな体を押しやった。

「邪魔。暑苦しい」

 布団から出ると冬次から離れて座りなおす。

「おっさんのお願いきいてやんないよ」

 南雲にギロリと睨まれ、冬次は慎重にベッドからおりた。

「その件で来たんだ。今この場でスマホをあけてほしい」
「ずいぶん焦ってるじゃん」
「南雲さんに何があったか知りたいんだ。今すぐ」

 考えられるのは、南雲さんは何らかの手段で谷峨と知り合って、自分自身に危害を加えていたということ。それはやっぱり自分の発明を悔いて、研究をやめさせようとしたのか?

「涼くんの声で、自分の名前を言えばあくから」

 冬次はスマホを南雲のそばに置く。南雲は長い沈黙のあとでため息をつき、スマホを手にとった。

「座間が見てると思うけど隠さないでいいわけ?」
「あいつは何もしない」
「そ。じゃ」

 南雲は谷峨がやっていたようにスマホにパソコンを繋げ、スマホ本体に声を吹きこんだ。

「南雲涼」

 冬次が息を呑んで見守るなか、黒い背景のロック画面がひらきホーム画面に切りかわる。
 ホーム画面は電話やカメラなどの標準機能が並ぶだけで、これといって気になるアプリは入っていない。

「ンー。たぶん、動画が入ってる」

 パソコンを操作する南雲が遠隔でスマホの動画ファイルを立ち上げて再生し、その映像をパソコン上に映した。「見て」と冬次へ見えるようにパソコンをまわし向ける。
 動画は南雲さんの全身像からはじまった。椅子に座った南雲さんがカメラに映しだされる。映像の中の懐かしい人は冬次の記憶よりもやつれた姿で綺麗な顔がいっそう儚さを増していた。
 南雲さんはカメラから視線を逸らすようにうつむいており、再生してしばらくは無言の映像が続いた。
 映像の外から撮影者と思われる人物から声をかけられ、ようやくカメラを見つめ、喋りはじめようという気配になった。

「誰かいるね」

 そばで涼くんがつぶやく。

「しっ」

 映像の音声を聴き漏らさないよう、冬次は口に指をあて耳をそばだてた。

『えーっと、冬次くん、それと僕。こんな映像撮って意味があるかわからないけど、だって君たちがこれにたどり着けるとは思えないし。もしこの映像を見ることができてるならおめでとう』

 そこまでで南雲さんがまた黙りこむと、そばにいる涼くんがつぶやく。
 
「なんかムカつくね」

 冬次は苦笑しながら、耳の中を掻いた。

「これも君だよ。頭混乱するから交互に喋るのやめて」

 そうしているうちに映像の中の南雲が喋りだす。
 
『・・・・・・んーん、ちがうな。冬次くんなら僕のことを探しだしてくれると思ってた。そんな冬次くんにご褒美をあげる。僕の秘密を教えるね』

 冬次は一言ひとことに吸い寄せられ、画面から目を逸らせなくなる。ことさら南雲さんの口から聞く「ご褒美」には大きく反応してしまった。

『君に言いそびれてしまったことがあってね』

 心の中でハイと返事する。

『僕は冬次くんに殺されかけてタイムマシンのスイッチを押したみたいなんだ。君は名乗らなかったし、顔を隠していて声も雰囲気も全然ちがっていたから、気づいたのは過去に来てからだよ』
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