未来から来た天才オメガ研究者に恋したアルファ高校生の話

豆ぱんダ

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112 告白

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 まぎれのない南雲だ。年月のぶんやつれてしまったようだが、高校の美術室で初めて彼を見た時に覚えた感動をそのままにした美しい姿でクローゼットから這い出てきた。

「ふっ」

 冬次の口の端が上がり、笑みがこぼれる。

「南雲さんはまた隠れてたんですか?」

 あの時もそうだった。綺麗な顔を台無しにする隠れ方をして・・・・・・あまりにも懐かしくて、今度は泣けてくる。

「うううっ」

 豪快に涙をこぼす冬次。南雲は目を見張る。

「ねぇ、もう少し大人になったと思ったのに」
「なったよっ。でも南雲さんを前にしては無理だよ。ずっと会いたかった」

 谷峨が見ているから我慢しているが、いなければ抱きしめていたところだ。
 死刑宣告を聞きにいく囚人のような南雲の顔は一瞬で毒気を抜かれ、つられてクスクスと笑う。しかし自身の笑い声に気づいた途端にうつむき目元に影を落とした。

「僕は二度と会うつもりはなかった。早く帰って」

 南雲が姿を見せたので条件は満たされている。

「帰らないよ」

 涙が止まった冬次は先ほどまでと表情を変え、南雲をクローゼットに後ずさりさせた。

「谷峨先輩は外に出ててくれません?」

 悠然と見物している男を一瞥する。

「わかったよ。ご自由に」

 谷峨に取り残された南雲はヒトデナシとつぶやいた。

「姿を見せるんじゃなかった」
「おっと」

 冬次はクローゼットを体で押さえて閉じられなくし、腕をつっかえ棒にして脱出も阻む。
 狭い空間で罠にかけられた小動物のごとく逃げ場を失った南雲は簡単に降参するタマじゃない。クローゼットを力づくで閉めようと試みる。だが力で冬次に敵うわけがなかった。

「・・・・・・手をどけてよ冬次くん。君がそばにいるべき南雲涼は僕じゃないよ。僕は本来いちゃいけない人間なんだし、スマホの中身見たんでしょ?」
「ああ、見たよ」
「だったら、まだ修正できるうちに冬次くんの力で僕を止めてよ」
「はぁー、南雲さんは歳とって丸くなったんじゃないっすか?」

 長く息を吐き、冬次は手櫛で前髪を掻きあげる。

「十代のあなたが俺になんて言ったと思う? 返品するって。返品。おっさん呼ばわりはするし背中は蹴るし、ほんと生意気だよ」
「でも嫌そうじゃないね」
「うん。聞いて南雲さん」

 冬次は南雲の頰にそっと触れた。

「涼くんは誰に強制されるでもなく自分で研究を続けることを選んだよ。南雲さんがいた未来とはもうちがうよね?」

 話しかけながら冬次が指先をうなじへ滑らせると、南雲はくすぐったそうに肩をすくめる。

「俺を涼くんとこにやろうとしても無駄だよ」

 南雲は冬次の手に手を重ねたが、真正面から冬次を見ない。
 冬次は焦れて唇を噛んだ。南雲の気持ちはスマホの動画で話してくれたことが全てじゃないのか。あれは好きだという意味じゃなかったの?

「南雲さんを悩ませてる原因って何。もしかしてまだ克己さんが気になるの?」

 南雲の目が泳ぐ。

「ねぇ、そうなの?」

 そうだとしても冬次に遠慮する気は更々なかった。ここで強気にならなければ南雲に好きと言わせるチャンスは二度とこない。

「俺は南雲さんじゃなきゃ駄目なんだよ。他の誰かでも涼くんでもなくて、俺が好きなのは南雲さんなんだ」

 ストレートな告白が効いたのか、南雲の睫毛がぴくっと震えた。

「僕も、冬次くんが好きなんだと思う・・・・・・」

 小さな声で南雲が言う。しかし南雲は尻尾をふって喜んだ冬次を天国から地獄に突き落とした。

「でも無理。帰ってよ」

 冬次は南雲の腕を掴んで引き寄せる。

「せめて理由を教えて」

 ふらついた南雲を支えながら冬次は南雲の顎をもちあげ、こちらを見ない南雲と目を合わせようと躍起になる。

「南雲さん、俺のこと好きじゃないの?」

 南雲は悲痛な問いかけから逃げるために冬次の手をふりほどこうともがいていたが、意地でも逃がさない冬次に根負けしやがて大人しくなった。

「怖いんだ・・・・・・」

 南雲がつぶやく。

「恋愛感情を認めることが怖い。誰しもが当たり前に恋愛をしているのに、僕は一線を越えるのが怖くてこわくてたまらない。冬次くんを想って不安で苦しくなることへの対処法がいっこうに見つからないから・・・・・・」

 滅多に感情をあらわにしない南雲が語尾が震わせたので、冬次も泣きそうになりながら南雲を抱きしめた。

「そんなの簡単だよ。南雲さんが不安な時は言ってよ。いつでもこうして抱きしめに行く」
「それだけで解決する?」
「するよ。南雲さん俺の背中に手をまわしてみて」

 南雲の手がおずおずと冬次の背中に触れる。

「頭で考えないで。俺の体温だけ感じてて」

 冬次は南雲をすっぽり抱きすくめるように包みこみ、柔らかい髪に頬ずりした。クローゼットで冷えた南雲の体は最初こそ氷みたいにこわばっていたが、抱きあっているうちに冬次の体温と溶けあっていき、うなじからしないはずの甘い匂いがたちのぼる。
 自分の脳みそが都合よく創りだした幻覚臭だろうが、冬次の体は南雲を欲して反応していた。
 やっと長年の片思いが身を結ぶ。
 限界に近づいた冬次は南雲の首筋に熱い息を吐きかけた。

「んん・・・・・・」

 南雲が熱っぽい息に驚いて顎を反らせる。冬次は南雲を見つめ、唇が触れる寸前まで顔を寄せた。

「南雲さん、抱いてもい?」

 南雲の目がギョッと見開かれたが、余裕がない冬次の視線に元々なすすべをもたない南雲は身をだねる。
 好きすぎてどうにかなりそうだ。
 十数年の時を経て、冬次は南雲と唇を重ねた。高校生の冬次ができなかったキスは少しだけ冷たくてカサついている。だがそんなこともすぐに気にならなくなった。冬次は南雲の唇がふやけるほど舐めて吸うをくり返し、南雲が酸素を求めた瞬間を見逃さず口内へ舌を進める。

「ふ・・・・・・ン・・・・・・ん」

 逃げる舌を追いかけ、執拗に絡ませる。二人の唾液でチュクチュとぬかるんだ音が立ち、冬次が引けてきた南雲の腰を抱きよせると、南雲に冬次の昂りが押し当てられる格好となった。
 びくんっと南雲が驚いたのがわかり、冬次はわざと南雲の腰をがっちりと抱える。腰を軽く突き出すようにしながら、南雲の口内を擦ってやると、息を吸うのに必死だった声に濡れた響きが加わった。

「ン、ふあっ・・・・・・あん」

 南雲が洩らした喘ぎは冬次の脳天を突き抜ける。冬次は南雲を抱えあげ、後ろのベッドへ運び、じたばたする南雲をシーツにきつく縫いとめた。
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