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128 タブレット
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「ひっ」
まずは体から。快楽に弱い南雲が離れがたく感じるくらいに愛してやるつもりで、冬次は南雲の手首をつかんでソファに押さえつけた。掴んだ力が強かったようで南雲が悲鳴を漏らす。怯えた顔が「やめて」と口走った。可哀想だと思う気持ちを塗りつぶす勢いで支配欲が広がった。
しかしその時、タブレットの画面が白く光った。なんらかの通知が入り落ちていた電源がついたのだ。
冬次の意識はタブレットに向き、押さえつけていた手がゆるむ。南雲は自力で冬次を振り払いたかったみたいだが諦めて脱力した。
「メールが来たんだよ」
吐息のような声で教えてくれる。そう言われギョロっと動いた冬次の視線とかち合ったせいでうつむいた南雲。「見たら?」とうながしてくる。
冬次は逡巡してからタブレットを操作してメールをひらいた。
「冬次くんが考えてるのとはちがうと思うけど、どう?」
その問いかけには答えず、冬次は何度も画面を上下にスライドさせメールに目を通す。おのれの考えていたこととちがうとかいう次元ではないことを読みとり、額に汗がじわりと浮かんだ。結局どうしたらいいのかわからず、解放された手首をさする南雲にタブレットを渡した。
南雲はメールには一応目を通したが、すぐに閉じてタブレットを置いた。
「返事をしなくていいの?」
「僕宛に送られたメールじゃないからね」
もう南雲はタブレットに見向きもせず、爪をつまらなさそうにいじっているだけだった。演技なのかもしれないが、南雲にとってメールはたいして重要なものじゃないとわかると、阿呆みたいにだだ漏れしていた怒りが見事にしぼんだ。頭が冷えると暴走した自分が恥ずかしくなる。
バース性のせいで自我を失ってしまうのはヒート中のオメガに限らずだ。アルファのさがのせいで扱いきれないほどの支配欲や暴力的な思想が頭を占拠し、自分であって自分じゃない、自分のなかのアルファ因子に乗っ取られてしまってるみたいだった。抑えこめなかったのは冬次自身の未熟さゆえだが、相手が南雲だと心をかき乱されて押し負けてしまった。
自由に生きる権利を奪われてきた南雲をまたも身勝手に閉じ込めたいなどと、死んでも考えてはならないことだ。南雲は触れようと伸ばした冬次の手を怯えた様子で払った。指先に叩かれた痛みが走り、胸に絶望感がドバッとあふれる。南雲が心を閉ざしてしまったらどうしようかと怖くなった。
「冬次くん」
「はい」
おそるおそる返事をした。僕の前からいなくなってと言われたら素直に聞きいれる自信はない。今は首の皮一枚繋がってる状態だろうか。彼のパーソナルスペースを犯しつづけて嫌いになられる前に冬次は自分からドアあたりまで移動した。
「冬次くん」
「はい」
反省を申しつけられた犬のように主人にヨシと言ってもらえなければ動けない。
「おいで」
冬次は床に張りついた足裏を強引に剥がして近づいた。先ほどの失敗が尾を引いて、距離半ばから近づくことができなくなった。しかし今度は南雲が手を差し伸べてくれたので、亀の歩みでそばに寄る。
「もうあんなことしないって約束する」
許された範囲で指を絡めた。南雲の方から胸にもたれかかってくる。
「僕も、少し考えさせられたよ。冬次くんを暴走させないように行動を改めようと思う。隠したくて言わなかったわけじゃないけど、今からは積極的になんでも打ち明けるようにするよ。そっちの方がトラブルを防げて合理的だよね」
南雲はタブレットを起動させ、メール受信箱の受信履歴をさかのぼった。
「このタブレットさ、僕のじゃなくて谷峨の持ち物なんだよね。アカウントもそのまま。言いたいことわかるよね。でも連絡手段を作るために僕にアカウントを貸してるとも考えられるから自分の目で確認してみてよ」
こちらより疑い深くこちらの心境をきづかってくれてありがたい。だが多少なりとも皮肉が混じって聞こえたので冬次は苦笑した。
「見せてもらうね」
タブレットを覗きこむと、並んでいる日付は十八年前までさかのぼられていた。そこから以前の日付にもメールは送られてきているようだが、南雲がこの日付にさかのぼって見せたのには意味がある。
おかしなことに気づいた。あるメールを境にして差出人のアドレスが変わっている。変わった後のアドレスは皆似ているがところどころが微妙にちがった。アドレスが変わるひとつ前のメールを選んでタップする。指に力がこもった。
『緊急連絡:南雲がT1試作機体を使用して肉体ごとそちらに飛んだ。座標は〝XXXX/XX/XX〟身柄確保を求む。』
冬次はもうひとつ前のメールをひらく。そのもうひとつ前も、そのもうひとつ前も、緊急連絡ではなくて定期連絡だった。
「谷峨先輩もタイムスリップ的なことをしてたのか」
「タイムスリップは僕だけの専売特許じゃないよ。肉体の時空転送はあらゆるリスクを考慮しなければいけないから、頭のイカれた人間しかしないよねって話。谷峨はリスクの少ない方法で確実な業務遂行のために未来過去の自分と連絡を取りあってたんだよ」
「じゃあ俺と接触したのは⋯⋯」
「僕の情報を得るためだろうね」
「そっか。そう聞くと結構ショックだね」
敵か味方かという問題を抱えながらも冬次個人とは親しかった人だっただけに、最初から全て打算的な目的あっての行動だったとは知りたくなかった。心の底では昔みたいに普通の友人に戻れたらと思っている。当然そこには座間とソノちゃんもいるのだ。
シュンとしてしまったが、南雲が裏切っていないことは証明された。受信欄を新しい日付へスクロールしていくとアドレスが延々と変わるのは南雲のタイムスリップを境に未来が変動し続けているから。アドレスが座標の役割りを果たすため、同じアドレスに送っても消えてしまった未来には届かないかわりに、変化した未来でその座標に届く。そうして未来の自分からメールが戻ってくるたびに谷峨は望まぬ方向に進み続ける未来に頭を抱えた。というようなことらしい。
望まない未来とは知るには新着ほやほやのメールを見ろ、と。
まずは体から。快楽に弱い南雲が離れがたく感じるくらいに愛してやるつもりで、冬次は南雲の手首をつかんでソファに押さえつけた。掴んだ力が強かったようで南雲が悲鳴を漏らす。怯えた顔が「やめて」と口走った。可哀想だと思う気持ちを塗りつぶす勢いで支配欲が広がった。
しかしその時、タブレットの画面が白く光った。なんらかの通知が入り落ちていた電源がついたのだ。
冬次の意識はタブレットに向き、押さえつけていた手がゆるむ。南雲は自力で冬次を振り払いたかったみたいだが諦めて脱力した。
「メールが来たんだよ」
吐息のような声で教えてくれる。そう言われギョロっと動いた冬次の視線とかち合ったせいでうつむいた南雲。「見たら?」とうながしてくる。
冬次は逡巡してからタブレットを操作してメールをひらいた。
「冬次くんが考えてるのとはちがうと思うけど、どう?」
その問いかけには答えず、冬次は何度も画面を上下にスライドさせメールに目を通す。おのれの考えていたこととちがうとかいう次元ではないことを読みとり、額に汗がじわりと浮かんだ。結局どうしたらいいのかわからず、解放された手首をさする南雲にタブレットを渡した。
南雲はメールには一応目を通したが、すぐに閉じてタブレットを置いた。
「返事をしなくていいの?」
「僕宛に送られたメールじゃないからね」
もう南雲はタブレットに見向きもせず、爪をつまらなさそうにいじっているだけだった。演技なのかもしれないが、南雲にとってメールはたいして重要なものじゃないとわかると、阿呆みたいにだだ漏れしていた怒りが見事にしぼんだ。頭が冷えると暴走した自分が恥ずかしくなる。
バース性のせいで自我を失ってしまうのはヒート中のオメガに限らずだ。アルファのさがのせいで扱いきれないほどの支配欲や暴力的な思想が頭を占拠し、自分であって自分じゃない、自分のなかのアルファ因子に乗っ取られてしまってるみたいだった。抑えこめなかったのは冬次自身の未熟さゆえだが、相手が南雲だと心をかき乱されて押し負けてしまった。
自由に生きる権利を奪われてきた南雲をまたも身勝手に閉じ込めたいなどと、死んでも考えてはならないことだ。南雲は触れようと伸ばした冬次の手を怯えた様子で払った。指先に叩かれた痛みが走り、胸に絶望感がドバッとあふれる。南雲が心を閉ざしてしまったらどうしようかと怖くなった。
「冬次くん」
「はい」
おそるおそる返事をした。僕の前からいなくなってと言われたら素直に聞きいれる自信はない。今は首の皮一枚繋がってる状態だろうか。彼のパーソナルスペースを犯しつづけて嫌いになられる前に冬次は自分からドアあたりまで移動した。
「冬次くん」
「はい」
反省を申しつけられた犬のように主人にヨシと言ってもらえなければ動けない。
「おいで」
冬次は床に張りついた足裏を強引に剥がして近づいた。先ほどの失敗が尾を引いて、距離半ばから近づくことができなくなった。しかし今度は南雲が手を差し伸べてくれたので、亀の歩みでそばに寄る。
「もうあんなことしないって約束する」
許された範囲で指を絡めた。南雲の方から胸にもたれかかってくる。
「僕も、少し考えさせられたよ。冬次くんを暴走させないように行動を改めようと思う。隠したくて言わなかったわけじゃないけど、今からは積極的になんでも打ち明けるようにするよ。そっちの方がトラブルを防げて合理的だよね」
南雲はタブレットを起動させ、メール受信箱の受信履歴をさかのぼった。
「このタブレットさ、僕のじゃなくて谷峨の持ち物なんだよね。アカウントもそのまま。言いたいことわかるよね。でも連絡手段を作るために僕にアカウントを貸してるとも考えられるから自分の目で確認してみてよ」
こちらより疑い深くこちらの心境をきづかってくれてありがたい。だが多少なりとも皮肉が混じって聞こえたので冬次は苦笑した。
「見せてもらうね」
タブレットを覗きこむと、並んでいる日付は十八年前までさかのぼられていた。そこから以前の日付にもメールは送られてきているようだが、南雲がこの日付にさかのぼって見せたのには意味がある。
おかしなことに気づいた。あるメールを境にして差出人のアドレスが変わっている。変わった後のアドレスは皆似ているがところどころが微妙にちがった。アドレスが変わるひとつ前のメールを選んでタップする。指に力がこもった。
『緊急連絡:南雲がT1試作機体を使用して肉体ごとそちらに飛んだ。座標は〝XXXX/XX/XX〟身柄確保を求む。』
冬次はもうひとつ前のメールをひらく。そのもうひとつ前も、そのもうひとつ前も、緊急連絡ではなくて定期連絡だった。
「谷峨先輩もタイムスリップ的なことをしてたのか」
「タイムスリップは僕だけの専売特許じゃないよ。肉体の時空転送はあらゆるリスクを考慮しなければいけないから、頭のイカれた人間しかしないよねって話。谷峨はリスクの少ない方法で確実な業務遂行のために未来過去の自分と連絡を取りあってたんだよ」
「じゃあ俺と接触したのは⋯⋯」
「僕の情報を得るためだろうね」
「そっか。そう聞くと結構ショックだね」
敵か味方かという問題を抱えながらも冬次個人とは親しかった人だっただけに、最初から全て打算的な目的あっての行動だったとは知りたくなかった。心の底では昔みたいに普通の友人に戻れたらと思っている。当然そこには座間とソノちゃんもいるのだ。
シュンとしてしまったが、南雲が裏切っていないことは証明された。受信欄を新しい日付へスクロールしていくとアドレスが延々と変わるのは南雲のタイムスリップを境に未来が変動し続けているから。アドレスが座標の役割りを果たすため、同じアドレスに送っても消えてしまった未来には届かないかわりに、変化した未来でその座標に届く。そうして未来の自分からメールが戻ってくるたびに谷峨は望まぬ方向に進み続ける未来に頭を抱えた。というようなことらしい。
望まない未来とは知るには新着ほやほやのメールを見ろ、と。
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