未来から来た天才オメガ研究者に恋したアルファ高校生の話

豆ぱんダ

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2 ちょっと複雑な事情

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 くどくど続いた説教がやんだのは、部活動終わりの生徒がパラパラと校門をくぐり始めた時間帯だった。

「カッチャン先生の話長すぎ」

 冬次はすかさず文句を言う。カァーカァーいい子は帰りましょうと、外でカラスが鳴いている。

「ちゃんと聞いてたのか?」

 お説教たれる教師は座っているくせ、生徒はデスクの横で立たされなきゃいけないのは不公平だ。
 という恨みつらみを込めて返事をする。

「聞いてましたよ」
「じゃあ俺の話を聞いて何を思った」

 即座のカウンター。冬次は天を仰いだ。

「えー、んー、今日の夕飯何かなぁとか、寝る前のオカズは何にしようかとか・・・・・・」
「お前なぁ何を考えてるんだよ」
「だからオカズ」
「もういい。奈良林のモチベーションのためにはもっと厳しい条件があった方がいいみたいだな。次回の学力テストでさらに順位を下げたらご両親を呼ぶ」
「やめろよ」

 ギッと、椅子の背もたれが軋んだ。

「やっと真面目に俺の話を聞いたな」
「・・・・・・んで急に笑顔になんの。ドキッとしちゃうじゃん」
「そんなら授業もしっかり聞いてくれると嬉しいね。これで説教は終わりにするから気をつけて帰れよ」

 いつもの軽口は挨拶みたいなもん。
 先生さようなら。寄り道するなよ。
 へーへー。返事はハイ。
 ハイハイ、また明日。
 これらも軽口に含まれるわけで。
 わたあめよりも軽くて、見せかけの。空気を含んで大きく膨らんだ小さな砂糖は、じゅわと溶けて消えてしまう。中から出てきたのは果たして何でしょうか。

「おかえり。冬次」
「げ、なんでそっちのが帰り早いの」
「お前が寄り道してるからだろ」

 ぽこんと丸めた新聞紙で一発。可哀想な冬次のおでこは本日三度目のお仕置きを喰らったことになる。

「ってぇ、暴力教師反対。教育委員会にチクってやる」

 しかし心の底から睨みつけながらも若い食欲は現金だ。玄関まで漂ってくる味噌汁の匂いに釣られるように靴を脱ぎ、食卓を覗いた。そして当たり前に用意された夕食に勝手に嬉しくなってる。

「おじさんは?」
「母さんの病院。おい、食うより先に手洗いうがいしろ」
「そ。ほんと甲斐甲斐しいよね。おじさんとおばさん仲良すぎ」

 ウチの家族とは大違いだって、直接は言わないけど、冬次の気持ちはバレバレだった。
 慰めてくださいと言っているような不貞腐れた態度に思春期特有の刺々しさが追加装備され、ムッとした顔で食卓につこうとすると、藤井は慣れっこなもんで「手洗いうがい、着替えも」と洗面所の方を指差した。それはもうビシッと厳しく情け容赦ない。

「うるせーな」

 腫れ物を扱うみたいに優しくされたらそれはそれでムカつくのに、どうして子供っぽい態度を取ってしまうのか。幼く思われて当然だ。

「よしよし素直でよろしい」
「五分で着替えて戻る」
「了解。手洗いうがいもな」

 鍋を温め直す音を背に洗面所に向かう。なんだかんだ言いつけを守った後で自室でジャージに着替えて食卓に戻ると、藤井が誰かと電話をしていた。
 冬次の顔を見るや通話をやめ、スマホをしまう。
 わかりやすい。相手は冬次の兄貴だろう。

「五分で戻るっつったじゃん。電話すんなら終わらせとけよ」
「ごめんって。かかってきちゃったからさ」

 笑いながら、謝る気がない。

「無視すりゃいいじゃん。どうせ俺がちゃんとやってんのか親に言われて訊いてきたんだろ」
「違うよ。多分ね」
「やっぱそうじゃん」
「ははは、ごめんな」

 なんであんたが謝んの。さっきの〝ごめん〟は響かなかったのに、この〝ごめん〟は心をえぐった。
 もろくて面倒くさいガラスのハート。難解なお年頃を解明できる頭脳があったなら、思春期撲滅のためにあなたは力を尽くしますか。イエスorノーの答えすら、考えることが無駄だ。

「腹減った」

 冬次は食卓につく。

「亭主関白のおやじかって」
「うるせ」

 藤井が台所で味噌汁をよそい、茶碗に白米を盛る。座って待つだけの冬次は確かに亭主関白そのものだが、湯気の立った味噌汁がテーブルに置かれる瞬間が好きだ。まだまだ至れり尽くせりでいたい。親離れできない甘ったれた少年を、藤井は見て見ぬふりしてくれている。

「せめてありがとうくらい言えないと将来嫁さんに嫌われるぞ」
「・・・・・・ありがとう」
「どういたしまして」

 言わされて言ったのに何が嬉しいのか。満足そうにしながら冬次の正面の席につく藤井。
 冬次はしばらく黙々と箸を進めていたが、何食わぬ顔で味噌汁をすすっている藤井を覗き見た。すぐに目を逸らし、それから訊ねた。

「兄貴なんだって言ってた?」
「結局気になるんだ」
「まぁね」

 やっぱり訊かなきゃよかったかな。いつも訊いてから後悔する。刑の執行を待つ死刑囚の気持ち。きっと顔にも出てる。

「大したことじゃないよ。元気にしてるかとか。学校ではどうだとか」
「で、なんて答えたの」
「え~、秘密」

 藤井は立ち上がると、冷蔵庫から発泡酒の缶を取り出した。
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