未来から来た天才オメガ研究者に恋したアルファ高校生の話

豆ぱんダ

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5 幽霊に遭遇

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「はっ、ウワッ」

 目に飛びこんできた光景の中に、ちゃんと人影があった。

「うるさ。ドアを閉めてくれる?」
「そうですよね。はい。すいません」
「何やってるの。挙動不審」

 そりゃ変な態度にもなる。だって、まず外部の人間だったこと。知らない大人だったこと。それより何より、とんでもない美人だったから。超ド級の。

「君がいきなり入ってくるからびっくりした」

 ああ、でも声は男だ。咄嗟にカーテンに包まって隠れたのだろうか、・・・・・・いや、隠れるとこなら他にもあったと思うけど・・・・・・。
 めちゃくちゃ美人なのに、ぐるぐる巻きのカーテンから顔がちょこんと出ているのはなんとも間抜けな絵面だ。

「今君は失礼なことを考えてるね」
「わっ、えっ、何も思ってないです」

 冬次はわけもわからず焦った。丁寧に丁寧に細筆書きされた繊細な顔立ちは、ほんのちょっと眉を顰めたりしただけで壊れてしまいそうで。

「顔の動きとか見たらわかるよ。嘘が下手だね。とりあえず座れば?」
「じゃあ、はい。失礼します」

 美術室はがらんとしている。部屋の前方の机は片付けられて空間があけられ、キャンバスを立てるための木製のスタンドがぽつんぽつんと並ぶ。しかしキャンバス不在のスタンドは使われておらず、壁に寄せられた雑多な物品たちがごちゃごちゃした印象を与えていた。置かれてる物ほとんどに布がかけられており、あれらの下には教科書で見かけたことがある筋骨隆々の裸の彫像があるのだろうか。
 一見乱雑だが捨て置かれたという点においては統一された静寂の部屋で、冬次が相対しているこの綺麗な人は、まるで一個の芸術作品かのようにそこに紛れ込んでいた。
 美術は選択教科のため、授業を取っていない冬次は美術室に足を踏み入れるのは入学したての時以来。
 美術室にこんな秘密があったなんて知らなかった。知っていたらもっと早くにここに足を運んでいた。

「君じゃなくて藤井克己かと思った」

 つい見惚れて黙り込んでいると、綺麗な人が丸椅子の上で足を抱えて膝のあいだから片目を覗かせていた。睨んでいらっしゃる。

「あははぁ、そうですよね」
「藤井克己以外は誰も来ないんじゃなかったの? 誰か来るかもってわかってたら出ていかなかったのに。そうすれば咄嗟に隠れる必要もなかった」
「ですね」

 なんだこの人は。カーテンに包まらなければならなくなった結果にすごく怒ってる。そして「不愉快だ」と呟くと、顔を膝に埋もれさせた。

「計算どおりにいかなかったことが気持ち悪い。想定にない答えCなんていらないんだ」
「あのぉ」
「藤井克己は僕と顔を合わせないために居候の君を寄越したんだろ」
「あれ、俺のことご存知? 克己さんが話したのかな」
「教えてもらわなくても僕は知ってるよ。君、奈良林冬次でしょ」
「ひぇ、さようでござんす」
「君さ」
「ごめんなさい」

 明らかに気に障った感じの声色だったので、返す刀で謝った。

「奈良林冬次くん。君ってプライドがないの?」

 プライド? 何ですかそれ。食べられる物ですかという感情が顔に出ていたのだろう、鼻白まれた挙句じろじろと観察される。

「あのすいません。名前訊いてもいいっすか」
「・・・・・・南雲涼なぐも りょう。今度はどうして驚いた顔してるの」
「や、いや、素直に教えてもらえると思わなくて」
「余計な押し問答が面倒なだけ。事前に情報を得ていなかったから訊いたんだろうし」
「あー。はい。っすね。南雲さんはこの学校の人じゃないっすよね?」
「ねぇ奈良林冬次くん」

 突然、観察中の目がすんと据わった。感情全てを削ぎ落とした無機質な声で名を呼ばれ、熱いと知らずに熱湯を呑み込んでしまったみたいにぎくりとする。

「はい。名前、冬次でいいですよ」
「冬次くん。その質問に意味はあるかな。僕が生徒でも教師でもないことは見ればわかる」

 なんで怒られたんだろうと思う。失礼なダメ出しにこちらも言い返したっていいだろうと思ったが、冬次はこくりと頷いていた。

「はい。すみませんでした」

 口が勝手に動いて謝罪までする。

「無意味な質問はやめてよね。有意義じゃない話って嫌いなんだ。でも許してあげる。冬次くんは観察対象としてとても面白いから。僕の時代じゃバース性因子保有者を研究できる機会なんてめっきりなくなってしまったからね」
「ん?」
「僕はね、生まれた時は男体型のオメガだった。今はバース性をもたない多数派マジョリティなんだけれど」
「・・・・・・待って。何言ってるか全然わかんない」
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