未来から来た天才オメガ研究者に恋したアルファ高校生の話

豆ぱんダ

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13 悩み相談するの巻

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 そっかぁ。そっかぁ。ァアアアアア。頭がヤバくなったんじゃなくて扇風機。扇風機の回転羽に向かって叫ぶのは夏の風物詩ですな。

「ねぇ座間っち。拙者、暇でござる」
「なんでござるか。拙者は暇ではないでござる」

 冬次は放課後の体育館にいる。

「寂しいでござる。かまってほしいでござる!」
「変な話し方やめーい。まじで暇つぶししたいだけなら帰らないと怒られるぞ」

 正論をぶちかましてくるのは卓球部の座間啓ざま ひろむ。広く浅くがモットーの冬次の交友関係において、イレギュラー的存在の気心の知れた友達だった。
 座間とは例に漏れず練習試合の助っ人として参加した時に知り合ったのだが、冬次と共通した過去があり馬が合う。座間は昔気質の家柄に生まれ、アルファ性を期待されて育てられ初等部までエスカレーター式の超エリート校に属していた。しかし凡庸なベータと判明し、公立中学に転属後、一般受験した高校で冬次と再会したのである。
 そう。冬次も超エリート校の生徒だった。冬次は中等部まで通った。
 そんなエリート主義家系で育った苦労のあれこれがわかる座間っちの自主練を横から眺めているわけで。
 卓球部はこう言っちゃなんだが、運動部の花形じゃない地味なところがいい。歓声と羨望に疲れてわずらわしさを感じた時、いつもここに来たくなるのだ。

「部活休みなのに座間っちはいいの?」
「僕は普段どおり運動する方が効率よく頭が働いて勉強が捗るからさ。先生に許可もらってるし、ベータの生徒にはそれほど厳しく言わないよ」
「まじかー」

 冬次は扇風機の前にごろんと寝転ぶ。座間が黙って壁打ちを始め、弾むピンポン玉の音が体育館内で唯一の音みたいに響きわたった。
 小気味よく心地いい打球音を無心で聞いていたが、冬次は不意に口を開いた。

「俺さ、失恋したかも」

 壁打ちを続けながら、座間がちらっと視線をよこす。

「テスト前にする話題じゃないね」
「もうね最初から負けてんのよ」
「あっ聞いてない」
「負けるとわかってる相手と戦わなきゃいけない場合のアドバイスをください!」
「知るか」

 けれど座間はすげなくしつつもラリーをやめてくれる優しいやつだ。

「まぁ、勝負しないに限る。こう言うだろ。

〝操舵者は舟の上に立たねばならない。でなければ舟を導けないから。舟は操舵者のあしうらに踏まれていなければならない。でなければ転覆しているのと同じだ。舟がなければ操舵者は操舵者であれず、操舵者がいなければ舟は本当の舟となれない。あるべき場所に二つがあって航行はできるのだ〟

って。このありがたい教えを守りたまえ」
「うははっ、〝操舵者と舟〟。授業でやったなー。懐かしい。小学生の道徳だ。けど急になんでその話?」
「勝てない相手ってそういう話じゃないの?」

 返ってきた問いに、冬次はぽかんと瞬きした。
 操舵者と舟は、強者と弱者を揶揄した詩。強者はアルファで、弱者は大衆とオメガのこと。バース性社会の階級ピラミッドはなるべくして成った形なのですよ~という啓蒙の一端だ。それをかつて通っていた超エリート校では当たり前に推奨し、まっさらな子供達に教育する。アルファ至上主義を堂々とよくもまぁ。

「ていうか奈良林には舟の上にのる権利が与えられてるんだけどね。勝てるかもよ」

 言外にお前はアルファだからと匂わせてくる。
 世界一しっくりこない励まし文句だ。

「うーん。でも俺はアルファとかよくわかんねぇんだもん。普通に生まれて成長してきただけなのにむしろ意識できる方が異常じゃね?」
「そうかな」
「漫画とかゲームのスキルみたいに可視化できればまだ理解のしようもあるけど、俺のどこが偉いのかなんてわかんないし」

 ほんとに、なぜみんな優秀さを自覚できるんだろう。生まれながらにそういった機能が備わってんのか。だとしたら自分は不良品なのかなと思う。

「難しいですなぁ」

 と座間はラケットをもてあそびながら、扇風機と冬次のあいだに割り込むように座った。

「ですなぁ。他人事のように言いやがって」
「実際これが他人事なんだな。いち抜けした身ですから」
「ずりー。でもさっきのはそういう話じゃねぇんだわ」
「違うのかよ」
「なんか、こう、・・・・・・やっぱりいいや」

 運命の番を気にしてるなんて相談するのは小っ恥ずかしい。今どき女子高生すらもっとドライな時代。うちの天然記念物もとい藤井は例外だが、運命うんぬんでキャーキャーするより、手近にいる相手と気軽にエキサイトする方が現実的で楽しめるという風潮が今のリアルだ。バース性による相手の縛りがなくなりつつあることも現代の恋愛を後押ししており、運命の番がドラマや映画などのたくさんの創作物で扱われたことで架空上の設定となり果てた。どこにいるかもわからない運命の番の存在を信じきれず出逢いを待てない若者が増え、一方で固定概念にとらわれないカップリングが幸せを掴んでいったので、もはや現実の色恋に劇的な要素は必要なくなったのである。
 南雲も言っていた、少数派と。時代が進むごとにさらに少数化し、その分団結が高まるのかもしれなかった。
 ここでモジモジしたら笑われて、世間知らずのお嬢様ですかとネタにされる。それは勘弁してほしい・・・・・・。

「相手がいるオメガの落とし方が知りたいなら他当たってよ。俺に訊いても無駄じゃない?」
「げっ」

 なんてこった。目敏すぎてびびってしまったじゃないか。もしやこいつも表情筋読むタイプだったのか?
 だが確かにベータはフェロモンを感知できない。抑制剤の質が毎年のようにメキメキ改善され、街中でヒートやラットのご乱心を目にすることもない。運命の番以前に彼らはずっとフェロモンなしで恋愛してきた人種なのだ。それって実はすごいことだよなと今さら思った。

「無駄ってこともないかもね。座間っちに相談してよかったわ」

 冬次は腹筋の力でびょいんと飛んで立ち上がる。

「ふぅん。じゃ相談料として片づけ手伝え」
「ちゃっかりしてますな。もう帰んの?」
「帰るよ。奈良林はまだぐだぐだしてくわけ?」
「・・・・・・いんや帰るよ」

 帰らなくちゃ。冬次が一人で勝手に気まずくなってるだけで、南雲は今日も夕飯の献立を考えながら待っている。
 いらないとは言えない。
 南雲が望む誰かさんのかわりに食卓に座るよ。
 つれない運命の番に勝てるとしたらそんなことくらいだから。
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