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16 埋められない差があることは知っている
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翌朝、納戸を開ける音で目が覚めた。暗闇に慣れた目に朝の陽光が刺さる。
「起きなさい」
「んあれ、克己さん?」
「寝ぼけてないで出てこい」
冬次は立ち上がる前に横で眠っている南雲に視線を送った。
「それはほっとけ」
早くしろと手を差し伸べられ、藤井の手を取る。
「克己さんいつから俺たちに気づいてたの?」
「帰ってきた時から。靴が普通に玄関にあったし」
また靴か。この家の住人は玄関靴チェックの名人ばかりかよ。
「兄貴は?」
「とっくに帰ったよ。それより冬次に話がある」
「兄貴の話なら今度にして。耳タコ~」
ふざけて両耳を塞ぐ真似をする。
「そうも言ってられなくなったぞ。お前、テスト全教科よくがんばったらしいな。採点途中の段階だが、おそらく夏休み明けからクラスランクが上がるかもしれないと聞いた」
「へへっ、やった。それが?」
「好結果をご両親が非常に喜ばれている。で、より高い教育を受けさせるために冬次を家に戻したいそうだ」
「は、なにそれ。一度は匙投げたくせに。俺にまたあの窮屈な暮らしに戻れっての? やだよ助けてよ克己さん」
冬次ががんばったのは実の家族に口出しさせないためになのに、逆にロックオンされるとは心外にもほどがある。悪い冗談かのようだ。そうであれ。
「悪いな。今回は俺は助けない」
「なんで」
藤井は一緒に怒ってくれないの?
しかし欲しい救いの目は向けられず、冬次を見てくれなかった。
「南雲くん。起きたなら朝飯の用意できる?」
納戸にいる彼は、いつから目を覚ましていたのだろう。
「できるけど、どういう風の吹きまわしかな」
「俺が避けてても意味がないと思っただけだ。自分ちなのにリラックスできないのは腹立つしな。だからもう気にしないことにした」
「おっけー」
南雲が納戸から出てくると、藤井と並んで台所へ歩いていく。
反発しあっていた二人がくっついた後ろ姿に冬次は立ちすくむ。運命の番が頭をよぎり、冬次の足を動けなくした。
おさまりよく並んだ影に泣きそうになる。
こえぇな。すごいな。運命の番だからそうなのか。運命の番だからそう思ってしまうのか。どちらでも変わりない。どちらだろうと冬次は部外者なのだ。
◇
午前中からソーダ味のアイスをしゃぶり、縁側で涼んでいると、南雲がふらりとやってきた。
「学校は?」
「夏休みって単語知らねぇの」
「僕、学校通ったことないから」
斜め上をいく答えにギョッとする。うろたえるな、どうせ日本ではとかいうオチだろう。天才の子供時代は神童って言うんだっけ。
南雲は何を考えているのかわからない顔で縁側に腰かけた。
こっちは潔く切なさに浸っているのに居座るつもりか。空気を読め・・・・・・ってのは無理な頼みか。せめてもの抗議に反対側に尻をずらし距離をとる。
「気持ちは変わった?」
「・・・・・・気持ちって何」
あなたのことが好きって気持ちならノーコメントでお願いします。
「藤井克己を死なせないって話。冬次くんがあれだけ慕ってるのに突き放してさ、がっかりしたんじゃない?」
そっちか、という安堵。
「あー。・・・・・・変わらないよ。死なせたくないって気持ちは変わらない。克己さんなりの考えがあるんだと思う」
「へぇ。彼は愛されてるんだね」
「痒くなる言い方すんなよ。普通だよふつう。克己さんはいい人なんだ、めちゃくちゃいい人」
で、恩人だ。一番辛かった時に手を差し伸べてくれた人。今何をされたとしても、その過去は揺らがない。
「南雲さんは俺が見捨てられてへこんでるとでも思ったわけ?」
「よしよし忠犬。義理堅い冬次くんに指令がある」
「んだよ、藪から棒に」
「一ヶ月近く暇だろう?」
しっかり夏休み知ってんじゃねぇか。
「何させる気。おつかいなら自分で行って」
「重要なミッションだよ」
南雲は不敵に笑う。
てなわけで来た場所は病院。おばさんのお見舞いだ。しかし解せない。南雲に言われるまでもなく定期的に見舞っているので、顔を見せにくるのは二週間ぶりくらいになる。
「あら冬次ちゃん。テストは終わったの?」
花を買って病室に出向くと、まろやかな笑みで迎えられた。体調はよさそうだ。いつぞやは青白く血色の失せた顔で横たわっていた時もあったから、おばさんが元気そうに出迎えてくれると心から嬉しい。
「うん。今日から夏休み」
「あらぁ。せっかくだからお友達と遊びに行ってきたらいいのに」
「俺が来たかったの。調子はどう?」
「ええ。経過はとっても良好らしくて今年いっぱいで退院できるかもってお医者様がおっしゃってたわ」
「えっ、本当?」
「うふふ。ありがとうね冬次ちゃん。早く新しい家族にも会いたいわ」
「家族って、南雲さんのこと?」
「そうよ。一緒に暮らしてるなら家族じゃないの!」
つまり冬次も家族だと、間接的に伝えてくれている。冬次が不安定だった時期から時間が経っても、面倒がらずに何度でも安心する言葉をくれるのがおばさんの美点。まさに、えびす顔の良き夫にしてこの妻ありだ。
すっかり落ちてた気持ちをわずかながら取り戻し家路につくと、冬次はさっそく見舞いに行ったと南雲に報告した。
「ご苦労。じゃ明日はおじさんの職場に行ってね」
「は?」
「僕に協力したいって冬次くんがお願いしてきたんでしょ。忘れちゃったの?」
「は・・・・・・」
あ。思い出した。ガチで忘れていたがホテルの一件で間違いなく言った。でもお願いしたっていうのは誇張表現だろうに。
「それは南雲さんのためになるんだな?」
「なるよ。すごく助かる」
いいように転がされているのが目に見えているけど逆らえない。というより悦ばしい。駄目だ、だめだ、気持ちよくなってんなよ俺!
「わかったよ。行けばいいんだろ。何してくればいいわけ?」
「明日になったら指示する」
南雲は暢気にスナック菓子を喰みながら笑った。
「起きなさい」
「んあれ、克己さん?」
「寝ぼけてないで出てこい」
冬次は立ち上がる前に横で眠っている南雲に視線を送った。
「それはほっとけ」
早くしろと手を差し伸べられ、藤井の手を取る。
「克己さんいつから俺たちに気づいてたの?」
「帰ってきた時から。靴が普通に玄関にあったし」
また靴か。この家の住人は玄関靴チェックの名人ばかりかよ。
「兄貴は?」
「とっくに帰ったよ。それより冬次に話がある」
「兄貴の話なら今度にして。耳タコ~」
ふざけて両耳を塞ぐ真似をする。
「そうも言ってられなくなったぞ。お前、テスト全教科よくがんばったらしいな。採点途中の段階だが、おそらく夏休み明けからクラスランクが上がるかもしれないと聞いた」
「へへっ、やった。それが?」
「好結果をご両親が非常に喜ばれている。で、より高い教育を受けさせるために冬次を家に戻したいそうだ」
「は、なにそれ。一度は匙投げたくせに。俺にまたあの窮屈な暮らしに戻れっての? やだよ助けてよ克己さん」
冬次ががんばったのは実の家族に口出しさせないためになのに、逆にロックオンされるとは心外にもほどがある。悪い冗談かのようだ。そうであれ。
「悪いな。今回は俺は助けない」
「なんで」
藤井は一緒に怒ってくれないの?
しかし欲しい救いの目は向けられず、冬次を見てくれなかった。
「南雲くん。起きたなら朝飯の用意できる?」
納戸にいる彼は、いつから目を覚ましていたのだろう。
「できるけど、どういう風の吹きまわしかな」
「俺が避けてても意味がないと思っただけだ。自分ちなのにリラックスできないのは腹立つしな。だからもう気にしないことにした」
「おっけー」
南雲が納戸から出てくると、藤井と並んで台所へ歩いていく。
反発しあっていた二人がくっついた後ろ姿に冬次は立ちすくむ。運命の番が頭をよぎり、冬次の足を動けなくした。
おさまりよく並んだ影に泣きそうになる。
こえぇな。すごいな。運命の番だからそうなのか。運命の番だからそう思ってしまうのか。どちらでも変わりない。どちらだろうと冬次は部外者なのだ。
◇
午前中からソーダ味のアイスをしゃぶり、縁側で涼んでいると、南雲がふらりとやってきた。
「学校は?」
「夏休みって単語知らねぇの」
「僕、学校通ったことないから」
斜め上をいく答えにギョッとする。うろたえるな、どうせ日本ではとかいうオチだろう。天才の子供時代は神童って言うんだっけ。
南雲は何を考えているのかわからない顔で縁側に腰かけた。
こっちは潔く切なさに浸っているのに居座るつもりか。空気を読め・・・・・・ってのは無理な頼みか。せめてもの抗議に反対側に尻をずらし距離をとる。
「気持ちは変わった?」
「・・・・・・気持ちって何」
あなたのことが好きって気持ちならノーコメントでお願いします。
「藤井克己を死なせないって話。冬次くんがあれだけ慕ってるのに突き放してさ、がっかりしたんじゃない?」
そっちか、という安堵。
「あー。・・・・・・変わらないよ。死なせたくないって気持ちは変わらない。克己さんなりの考えがあるんだと思う」
「へぇ。彼は愛されてるんだね」
「痒くなる言い方すんなよ。普通だよふつう。克己さんはいい人なんだ、めちゃくちゃいい人」
で、恩人だ。一番辛かった時に手を差し伸べてくれた人。今何をされたとしても、その過去は揺らがない。
「南雲さんは俺が見捨てられてへこんでるとでも思ったわけ?」
「よしよし忠犬。義理堅い冬次くんに指令がある」
「んだよ、藪から棒に」
「一ヶ月近く暇だろう?」
しっかり夏休み知ってんじゃねぇか。
「何させる気。おつかいなら自分で行って」
「重要なミッションだよ」
南雲は不敵に笑う。
てなわけで来た場所は病院。おばさんのお見舞いだ。しかし解せない。南雲に言われるまでもなく定期的に見舞っているので、顔を見せにくるのは二週間ぶりくらいになる。
「あら冬次ちゃん。テストは終わったの?」
花を買って病室に出向くと、まろやかな笑みで迎えられた。体調はよさそうだ。いつぞやは青白く血色の失せた顔で横たわっていた時もあったから、おばさんが元気そうに出迎えてくれると心から嬉しい。
「うん。今日から夏休み」
「あらぁ。せっかくだからお友達と遊びに行ってきたらいいのに」
「俺が来たかったの。調子はどう?」
「ええ。経過はとっても良好らしくて今年いっぱいで退院できるかもってお医者様がおっしゃってたわ」
「えっ、本当?」
「うふふ。ありがとうね冬次ちゃん。早く新しい家族にも会いたいわ」
「家族って、南雲さんのこと?」
「そうよ。一緒に暮らしてるなら家族じゃないの!」
つまり冬次も家族だと、間接的に伝えてくれている。冬次が不安定だった時期から時間が経っても、面倒がらずに何度でも安心する言葉をくれるのがおばさんの美点。まさに、えびす顔の良き夫にしてこの妻ありだ。
すっかり落ちてた気持ちをわずかながら取り戻し家路につくと、冬次はさっそく見舞いに行ったと南雲に報告した。
「ご苦労。じゃ明日はおじさんの職場に行ってね」
「は?」
「僕に協力したいって冬次くんがお願いしてきたんでしょ。忘れちゃったの?」
「は・・・・・・」
あ。思い出した。ガチで忘れていたがホテルの一件で間違いなく言った。でもお願いしたっていうのは誇張表現だろうに。
「それは南雲さんのためになるんだな?」
「なるよ。すごく助かる」
いいように転がされているのが目に見えているけど逆らえない。というより悦ばしい。駄目だ、だめだ、気持ちよくなってんなよ俺!
「わかったよ。行けばいいんだろ。何してくればいいわけ?」
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南雲は暢気にスナック菓子を喰みながら笑った。
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