未来から来た天才オメガ研究者に恋したアルファ高校生の話

豆ぱんダ

文字の大きさ
16 / 139

16 埋められない差があることは知っている

しおりを挟む
 翌朝、納戸を開ける音で目が覚めた。暗闇に慣れた目に朝の陽光が刺さる。

「起きなさい」
「んあれ、克己さん?」
「寝ぼけてないで出てこい」

 冬次は立ち上がる前に横で眠っている南雲に視線を送った。

「それはほっとけ」

 早くしろと手を差し伸べられ、藤井の手を取る。

「克己さんいつから俺たちに気づいてたの?」
「帰ってきた時から。靴が普通に玄関にあったし」

 また靴か。この家の住人は玄関靴チェックの名人ばかりかよ。

「兄貴は?」
「とっくに帰ったよ。それより冬次に話がある」
「兄貴の話なら今度にして。耳タコ~」

 ふざけて両耳を塞ぐ真似をする。

「そうも言ってられなくなったぞ。お前、テスト全教科よくがんばったらしいな。採点途中の段階だが、おそらく夏休み明けからクラスランクが上がるかもしれないと聞いた」
「へへっ、やった。それが?」
「好結果をご両親が非常に喜ばれている。で、より高い教育を受けさせるために冬次を家に戻したいそうだ」
「は、なにそれ。一度は匙投げたくせに。俺にまたあの窮屈な暮らしに戻れっての? やだよ助けてよ克己さん」

 冬次ががんばったのは実の家族に口出しさせないためになのに、逆にロックオンされるとは心外にもほどがある。悪い冗談かのようだ。そうであれ。

「悪いな。今回は俺は助けない」
「なんで」

 藤井は一緒に怒ってくれないの?
 しかし欲しい救いの目は向けられず、冬次を見てくれなかった。

「南雲くん。起きたなら朝飯の用意できる?」

 納戸にいる彼は、いつから目を覚ましていたのだろう。

「できるけど、どういう風の吹きまわしかな」
「俺が避けてても意味がないと思っただけだ。自分ちなのにリラックスできないのは腹立つしな。だからもう気にしないことにした」
「おっけー」

 南雲が納戸から出てくると、藤井と並んで台所へ歩いていく。
 反発しあっていた二人がくっついた後ろ姿に冬次は立ちすくむ。運命の番が頭をよぎり、冬次の足を動けなくした。
 おさまりよく並んだ影に泣きそうになる。
 こえぇな。すごいな。運命の番だからそうなのか。運命の番だからそう思ってしまうのか。どちらでも変わりない。どちらだろうと冬次は部外者なのだ。


 ◇


 午前中からソーダ味のアイスをしゃぶり、縁側で涼んでいると、南雲がふらりとやってきた。

「学校は?」
「夏休みって単語知らねぇの」
「僕、学校通ったことないから」

 斜め上をいく答えにギョッとする。うろたえるな、どうせ日本ではとかいうオチだろう。天才の子供時代は神童って言うんだっけ。
 南雲は何を考えているのかわからない顔で縁側に腰かけた。
 こっちは潔く切なさに浸っているのに居座るつもりか。空気を読め・・・・・・ってのは無理な頼みか。せめてもの抗議に反対側に尻をずらし距離をとる。

「気持ちは変わった?」
「・・・・・・気持ちって何」

 あなたのことが好きって気持ちならノーコメントでお願いします。

「藤井克己を死なせないって話。冬次くんがあれだけ慕ってるのに突き放してさ、がっかりしたんじゃない?」

 そっちか、という安堵。

「あー。・・・・・・変わらないよ。死なせたくないって気持ちは変わらない。克己さんなりの考えがあるんだと思う」
「へぇ。彼は愛されてるんだね」
「痒くなる言い方すんなよ。普通だよふつう。克己さんはいい人なんだ、めちゃくちゃいい人」

 で、恩人だ。一番辛かった時に手を差し伸べてくれた人。今何をされたとしても、その過去は揺らがない。

「南雲さんは俺が見捨てられてへこんでるとでも思ったわけ?」
「よしよし忠犬。義理堅い冬次くんに指令がある」
「んだよ、藪から棒に」
「一ヶ月近く暇だろう?」

 しっかり夏休み知ってんじゃねぇか。

「何させる気。おつかいなら自分で行って」
「重要なミッションだよ」

 南雲は不敵に笑う。
 てなわけで来た場所は病院。おばさんのお見舞いだ。しかし解せない。南雲に言われるまでもなく定期的に見舞っているので、顔を見せにくるのは二週間ぶりくらいになる。

「あら冬次ちゃん。テストは終わったの?」

 花を買って病室に出向くと、まろやかな笑みで迎えられた。体調はよさそうだ。いつぞやは青白く血色の失せた顔で横たわっていた時もあったから、おばさんが元気そうに出迎えてくれると心から嬉しい。

「うん。今日から夏休み」
「あらぁ。せっかくだからお友達と遊びに行ってきたらいいのに」
「俺が来たかったの。調子はどう?」
「ええ。経過はとっても良好らしくて今年いっぱいで退院できるかもってお医者様がおっしゃってたわ」
「えっ、本当?」
「うふふ。ありがとうね冬次ちゃん。早く新しい家族にも会いたいわ」
「家族って、南雲さんのこと?」
「そうよ。一緒に暮らしてるなら家族じゃないの!」

 つまり冬次も家族だと、間接的に伝えてくれている。冬次が不安定だった時期から時間が経っても、面倒がらずに何度でも安心する言葉をくれるのがおばさんの美点。まさに、えびす顔の良き夫にしてこの妻ありだ。
 すっかり落ちてた気持ちをわずかながら取り戻し家路につくと、冬次はさっそく見舞いに行ったと南雲に報告した。

「ご苦労。じゃ明日はおじさんの職場に行ってね」
「は?」
「僕に協力したいって冬次くんがお願いしてきたんでしょ。忘れちゃったの?」
「は・・・・・・」

 あ。思い出した。ガチで忘れていたがホテルの一件で間違いなく言った。でもお願いしたっていうのは誇張表現だろうに。

「それは南雲さんのためになるんだな?」
「なるよ。すごく助かる」

 いいように転がされているのが目に見えているけど逆らえない。というより悦ばしい。駄目だ、だめだ、気持ちよくなってんなよ俺!

「わかったよ。行けばいいんだろ。何してくればいいわけ?」
「明日になったら指示する」

 南雲は暢気にスナック菓子を喰みながら笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

久しぶりの発情期に大好きな番と一緒にいるΩ

いち
BL
Ωの丞(たすく)は、自分の番であるαの かじとのことが大好き。 いつものように晩御飯を作りながら、かじとを待っていたある日、丞にヒートの症状が…周期をかじとに把握されているため、万全の用意をされるが恥ずかしさから否定的にな。しかし丞の症状は止まらなくなってしまう。Ωがよしよしされる短編です。 ※pixivにも同様の作品を掲載しています

とろけてまざる

ゆなな
BL
綾川雪也(ユキ)はオメガであるが発情抑制剤が良く効くタイプであったため上手に隠して帝都大学附属病院に小児科医として勤務していた。そこでアメリカからやってきた天才外科医だという永瀬和真と出会う。永瀬の前では今まで完全に効いていた抑制剤が全く効かなくて、ユキは初めてアルファを求めるオメガの熱を感じて狂おしく身を焦がす…一方どんなオメガにも心動かされることがなかった永瀬を狂わせるのもユキだけで── 表紙素材http://touch.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=55856941

氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。

水凪しおん
BL
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。 オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。 過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。 「君はもう、頑張らなくていい」 ――それは、運命の番との出会い。 圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。 理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!

学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました

こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

再会した男は、彼女と結婚したと言った

拓海のり
BL
高校時代、森と園部は部活も一緒で仲が良かったが、副部長の菜南子と園部の噂が立ち、森は二人から遠ざかった。大学を卒業して森は園部と再会するが、その指には結婚指輪があった。 昔書いたお話です。ほとんど直していません。お読みになる際はタグをご確認の上ご覧ください。一万五千字くらいの短編です。

君と運命になっていく

やらぎはら響
BL
母親から冷遇されている町田伊織(まちだいおり)は病気だから薬を欠かさず飲むことを厳命されていた。 ある日倒れて伊織はオメガであり今まで飲むように言われていたのは強い抑制剤だと教えられる。 体調を整えるためにも世界バース保護機関にアルファとのマッチングをするよう言われてしまった。 マッチング相手は外国人のリルトで、大きくて大人の男なのに何だか子犬のように可愛く見えてしまい絆されていく。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

処理中です...