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18 最適な夏休みの過ごし方
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ジジジ——ミーンミーン——シャクシャク・・・・・・。
木に張りついた蝉を観察しているとうっかり時間を忘れてしまい、火照った首筋に流れる汗粒が膝小僧に落ち、驚いてふと下を向く。
「あ・・・・・・」
かろうじて棒にまとわりついていたアイスが陥落した。
べちゃりと土に落下した爽やかなソーダ色に、たくさんの蟻が染み出してくるように群がってきた。よきよき。たんとお食べ。
ダラダラしてなんぼの夏休みの昼過ぎ。順調に邪魔者扱いされるようになって一週間が経過した。おじさんの職場でアルバイトして、おばさんのとこお見舞いに行って。部活のヘルプして。南雲の指令によって高二の夏休みは忙しない。ていよく厄介払いされているのだと、なんとなくわかってきた今日この頃である。
蟻を見てぼんやりし、久しぶりの暇を謳歌していると、スマホの着信だ。
「はい」
「もしもし冬次くん、悪いんだけど急ぎで大家さんとこ行って契約書回収してきてもらえるかな。この前同行してもらったお家覚えてる?」
「わかります」
「頼むね。事務所に来たら冷蔵庫に頂き物のゼリーとクッキーあるから食べてって」
ありがとございますと電話を切る。さてと、縁側から腰を上げた時また着信があった。
画面表示は座間っちだった。
「うっす。座間っちから連絡くれるの珍しいじゃん。何事ですかな」
「おう奈良林。終業式ぶりだね。今日暇?」
「唐突。今日の何時ごろかによる。今すぐには無理よ」
「あー、バイトしてんだっけ。暇かどうかは夜の話!」
「夜?」
訝しむ声を出したので、座間が苦笑する。
「ごもっともな反応。考えてるとおりだよ。だからカッチャン先生には内緒で、たまにはハメ外そうぜ」
「えっ、なんで俺なの。遊ぶにしても座間っちの友達と知り合いじゃないし」
「アルファが来てくれると場が盛り上がるらしいんだ。まぁ、つーか、だからごめん。ちょっと付き合ってくれない?」
即答はできない。
「やっぱ教師が家にいちゃうと厳しい?」
しかしそう訊かれ、電話だから座間には見えないのに、激しくかぶりを振っていた。
「や。そうでもないかもしれない」
最近はちっちゃな理由をつけて家から追い出されてるし、冬次のすることはきっと彼らの眼中にない。
「てことで、ま、いっか。座間っちのために行きましょう」
「サンキュー。まじ感謝。あとで場所と時間連絡する」
「ん」
通話を終えた冬次は居間にいる南雲と藤井に声をかけないで家を出て行く。
藤井が気づき玄関先に出てきた。
「父さんのおつかい?」
「うん。帰りは外で勉強したいから遅くなるかも」
「そうか。わかった」
ほらね、あっさり納得して引いた。保護者として一応って感じが滲み出てる。冬次は微かによぎった落胆をおくびにも出さないで「いってきます」と言って出かけた。
おじさんの事務所につくと営業は出払っており、事務のスタッフがいるだけだった。非番のアルバイトの手も借りたいわけだ。
「おつかれさまです。頼まれていた契約書です」
事務員に契約書の入ったファイルを手渡す。
「ありがとう冬次くん。冷蔵庫にお菓子あるから食べてって」
「はい。いただきます」
オフィスの奥には簡素な流しがあり、三畳ほどのスペースには冷蔵庫とポット、電子レンジが置かれている。冷蔵庫を開けてありがたくゼリーを頂戴し、立ったまま平らげると、どこかの土産物らしいクッキーを口に放り込んだ。
箱の中にクッキーは余るくらいたくさんあるので、座間の分も持っていてやることにしてポケットにしまい、その間にパラパラと戻ってきていたスタッフたちに挨拶してから事務所を後にした。
待ち合わせまで冷房の効いた図書館で時間を潰している時に、スマホに時間と場所の連絡が入る。座間と合流したのは閉館時刻の後だ。
「よ」
「おう」
ゆるい挨拶を交わし、座間の服装に目を留める。
「座間っち気合い入ってんじゃん」
スタンダードな学生服と校則に従った髪型でいる時は目立たない印象の座間っちだが、私服だとなかなかイケていた。育ちの良さというか、隠せないサラブレッド感がある。先にベータと言わなきゃアルファだと簡単に騙せてしまいそうだ。
「もしかして狙ってる子が来んの? 俺めちゃくちゃアシストするよ?」
「そんなんじゃないよ、これ先輩のおさがり」
「ふぅん。てか座間っちの先輩ってどんな人なの?」
「どんなって普通に卓球部の先輩。去年卒業した」
「まじでか。卓球部って夜遊びするイメージないんだけど」
真剣な顔して言うと、ケラケラ笑われる。
「偏見じゃね?」
「いやないでしょ。俺の中では素朴で清らかなイメージ」
「清らかってなんだよ。男だぞ。大学生だし変わるよ」
「まぁね」
喋りながら移動し、放課後の延長的な気分で夜の街に足を踏み入れた。
夜といっても、夏の日は長く外はまだ明るくて行き交う人も多い。冬次たちはチャリを押して駅をぐるりと迂回する。普段使わない駅の反対側の出口は見慣れたもう反対側に比べて栄えており、駅前に並んだ建物を境にして少しだけ街の趣向が変わった。
建物の陰になった路地裏に飲み屋とパチンコ店が軒を連ね、それに伴なって出歩いている人々の層が変化する。いかにも治安の悪そうな連中ともすれ違った。
「来て大丈夫なとこ?」
今さらではあるが、冬次は高校生である自分の立場をおもんばかる。
「平気だよ。立地が微妙だけど意外と店は落ち着いた感じだから。高校生も出入りしてるし俺は何度も行ったことある」
意外や意外。目を丸くして本音を洩らす。
「座間っち大人だなぁ」
「なんだよ。もっと言え」
そうこうしながらじゃれているうちに目的の店についた。外観は、よかった、悪くなかった。
「いい感じだろ」
うんと、座間に賛同して頷いた。むしろかなり好みかも。
暗がりの階段を地下へと降りていくスタイルだったら怯んでいたかもしれないが、階段の上り下りは不要そうだ。
入り口を開け放ったオープンな造りで、道路沿いが透明なガラス仕様になっており、そちらからも中の様子がうかがえた。海外チックで小洒落たハンバーガーショップを思わせる店内に、感化されて陽気な気分にさせられる。
木に張りついた蝉を観察しているとうっかり時間を忘れてしまい、火照った首筋に流れる汗粒が膝小僧に落ち、驚いてふと下を向く。
「あ・・・・・・」
かろうじて棒にまとわりついていたアイスが陥落した。
べちゃりと土に落下した爽やかなソーダ色に、たくさんの蟻が染み出してくるように群がってきた。よきよき。たんとお食べ。
ダラダラしてなんぼの夏休みの昼過ぎ。順調に邪魔者扱いされるようになって一週間が経過した。おじさんの職場でアルバイトして、おばさんのとこお見舞いに行って。部活のヘルプして。南雲の指令によって高二の夏休みは忙しない。ていよく厄介払いされているのだと、なんとなくわかってきた今日この頃である。
蟻を見てぼんやりし、久しぶりの暇を謳歌していると、スマホの着信だ。
「はい」
「もしもし冬次くん、悪いんだけど急ぎで大家さんとこ行って契約書回収してきてもらえるかな。この前同行してもらったお家覚えてる?」
「わかります」
「頼むね。事務所に来たら冷蔵庫に頂き物のゼリーとクッキーあるから食べてって」
ありがとございますと電話を切る。さてと、縁側から腰を上げた時また着信があった。
画面表示は座間っちだった。
「うっす。座間っちから連絡くれるの珍しいじゃん。何事ですかな」
「おう奈良林。終業式ぶりだね。今日暇?」
「唐突。今日の何時ごろかによる。今すぐには無理よ」
「あー、バイトしてんだっけ。暇かどうかは夜の話!」
「夜?」
訝しむ声を出したので、座間が苦笑する。
「ごもっともな反応。考えてるとおりだよ。だからカッチャン先生には内緒で、たまにはハメ外そうぜ」
「えっ、なんで俺なの。遊ぶにしても座間っちの友達と知り合いじゃないし」
「アルファが来てくれると場が盛り上がるらしいんだ。まぁ、つーか、だからごめん。ちょっと付き合ってくれない?」
即答はできない。
「やっぱ教師が家にいちゃうと厳しい?」
しかしそう訊かれ、電話だから座間には見えないのに、激しくかぶりを振っていた。
「や。そうでもないかもしれない」
最近はちっちゃな理由をつけて家から追い出されてるし、冬次のすることはきっと彼らの眼中にない。
「てことで、ま、いっか。座間っちのために行きましょう」
「サンキュー。まじ感謝。あとで場所と時間連絡する」
「ん」
通話を終えた冬次は居間にいる南雲と藤井に声をかけないで家を出て行く。
藤井が気づき玄関先に出てきた。
「父さんのおつかい?」
「うん。帰りは外で勉強したいから遅くなるかも」
「そうか。わかった」
ほらね、あっさり納得して引いた。保護者として一応って感じが滲み出てる。冬次は微かによぎった落胆をおくびにも出さないで「いってきます」と言って出かけた。
おじさんの事務所につくと営業は出払っており、事務のスタッフがいるだけだった。非番のアルバイトの手も借りたいわけだ。
「おつかれさまです。頼まれていた契約書です」
事務員に契約書の入ったファイルを手渡す。
「ありがとう冬次くん。冷蔵庫にお菓子あるから食べてって」
「はい。いただきます」
オフィスの奥には簡素な流しがあり、三畳ほどのスペースには冷蔵庫とポット、電子レンジが置かれている。冷蔵庫を開けてありがたくゼリーを頂戴し、立ったまま平らげると、どこかの土産物らしいクッキーを口に放り込んだ。
箱の中にクッキーは余るくらいたくさんあるので、座間の分も持っていてやることにしてポケットにしまい、その間にパラパラと戻ってきていたスタッフたちに挨拶してから事務所を後にした。
待ち合わせまで冷房の効いた図書館で時間を潰している時に、スマホに時間と場所の連絡が入る。座間と合流したのは閉館時刻の後だ。
「よ」
「おう」
ゆるい挨拶を交わし、座間の服装に目を留める。
「座間っち気合い入ってんじゃん」
スタンダードな学生服と校則に従った髪型でいる時は目立たない印象の座間っちだが、私服だとなかなかイケていた。育ちの良さというか、隠せないサラブレッド感がある。先にベータと言わなきゃアルファだと簡単に騙せてしまいそうだ。
「もしかして狙ってる子が来んの? 俺めちゃくちゃアシストするよ?」
「そんなんじゃないよ、これ先輩のおさがり」
「ふぅん。てか座間っちの先輩ってどんな人なの?」
「どんなって普通に卓球部の先輩。去年卒業した」
「まじでか。卓球部って夜遊びするイメージないんだけど」
真剣な顔して言うと、ケラケラ笑われる。
「偏見じゃね?」
「いやないでしょ。俺の中では素朴で清らかなイメージ」
「清らかってなんだよ。男だぞ。大学生だし変わるよ」
「まぁね」
喋りながら移動し、放課後の延長的な気分で夜の街に足を踏み入れた。
夜といっても、夏の日は長く外はまだ明るくて行き交う人も多い。冬次たちはチャリを押して駅をぐるりと迂回する。普段使わない駅の反対側の出口は見慣れたもう反対側に比べて栄えており、駅前に並んだ建物を境にして少しだけ街の趣向が変わった。
建物の陰になった路地裏に飲み屋とパチンコ店が軒を連ね、それに伴なって出歩いている人々の層が変化する。いかにも治安の悪そうな連中ともすれ違った。
「来て大丈夫なとこ?」
今さらではあるが、冬次は高校生である自分の立場をおもんばかる。
「平気だよ。立地が微妙だけど意外と店は落ち着いた感じだから。高校生も出入りしてるし俺は何度も行ったことある」
意外や意外。目を丸くして本音を洩らす。
「座間っち大人だなぁ」
「なんだよ。もっと言え」
そうこうしながらじゃれているうちに目的の店についた。外観は、よかった、悪くなかった。
「いい感じだろ」
うんと、座間に賛同して頷いた。むしろかなり好みかも。
暗がりの階段を地下へと降りていくスタイルだったら怯んでいたかもしれないが、階段の上り下りは不要そうだ。
入り口を開け放ったオープンな造りで、道路沿いが透明なガラス仕様になっており、そちらからも中の様子がうかがえた。海外チックで小洒落たハンバーガーショップを思わせる店内に、感化されて陽気な気分にさせられる。
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