未来から来た天才オメガ研究者に恋したアルファ高校生の話

豆ぱんダ

文字の大きさ
19 / 139

19 やられたと思った時にはもう遅い

しおりを挟む
「おー、座間! そっちが友達のアルファくん?」

 なるほど座間の申告どおり、店長とおぼしき男性から馴染み客扱いされ、カウンター席に通される。そこにはすでに数名の若者が集まっており、座間の表情からして全員と顔を合わせたことがあるのだと察せられた。

「君たちはノンアルね。サービス」
「ありがとうございます」

 座間が細足のカクテルグラスを二つ受け取る。揺れるオレンジ色の液体の上には着色されすぎた華美な赤色をしたさくらんぼ。
 ひと口舐めてみると、昔祖父にもらったカシスガムみたいな懐かしい味がした。ほとんどジュースと変わらない甘い味が、美味しいのか不味いのか判断はつかない。
 すぐ仲間うちの会話に加わってしまった座間の隣にぽつんと腰かけて店内を眺めていると、若者たちの輪から離れてきた男に声をかけられた。

「君誰? 初めて見るね」

 そちらこそどちら様ですか。
 明るい茶髪に耳たぶを埋めるピアスの数。こう言っちゃなんだが冬次からは声をかけないタイプの派手な見た目だった。
 返事に迷っていると、彼の後ろからまた別の金髪の男が輪を抜けてくる。冬次は最初の彼よりさらに明るく染められた髪の毛にギョッとする。しかし顔立ちと服装がモデルのように洗練されているおかげか全体のバランスがいい。かたやヤンキー、かたやブロンドモデルの違いといったところか。

「俺この子知ってるよ。冬次くんでしょ」
「ん?」

 冬次は声を詰まらせた。ごめんなさい、自分には覚えがありません。

「俺は谷峨帯人やが おびとっていうの。よろしくね」
「谷峨・・・・・・先輩は、どうして俺のこと知ってるんですか」
「アルファクラス在籍ってだけで目立っちゃうものだから」

 アルファを強調した言い方に、眉をひそめてしまった。

「俺の組にベータもいますけど」
「うん。でもクラス配分ほぼアルファだろ」

 はっきりと明言されているわけじゃないが、谷峨の言葉には挑発してくる響きがある。

「まぁまぁ、せっかく来てくれたんだから楽しく飲もう。てかお前もアルファだろうがよ」

 茶髪にピアスの方が冬次たちの間に入り、ごめんねと冬次の肩を軽く叩いた。冬次は短い会話だけでその手を払ってしまいたい気持ちに駆られた。

「俺は擬態してた組だから。そういうやつ生徒の中に結構いるよ?」

 谷峨が肩をすくめて笑う。

「冬次くんは知らなかったんだ」
「知らなくても困らないです」
「そう? いつもつまらなさそうな顔してたから堅苦しそうだなって思ってた」

 カウンターに肘をつき、谷峨は冬次を覗き込んでくる。

「俺はあっちで飲んでるわ」

 居心地悪そうに茶髪にピアスが席を立つ。冬次は谷峨と二人きりで話さねばならなくなった。お前も一緒にあっちに行って全然いいんだぞと、目を合わせないようにして自分に飽きてくれるのを待ったが、谷峨はそんな冬次の反応を見て愉しんでいる。
 南雲とはまた別種の綺麗な顔。アルファ性だと言われて納得だ。儚さに目を離せなくなるのが南雲なら、眩しさで周囲の人間を霞ませるのが谷峨だった。

「谷峨先輩の理由を訊いてもいいですか」
「理由って擬態の? だってうざいじゃん。俺たちといれば玉の輿、将来安泰とかいう空気出してこられるとさ」
「先輩はモテるからそんなふうに思うんじゃないですか。自分にはわかんないです。俺はベータと変わらないと思ってるので」
「本当にそう思ってるなら冬次くんって面白いね」
「えっ」

 喉からこわばった声が出る。

「怒らないでよ。自分の魅力は自分じゃわからないしね」

 その時、店内の様子がガヤガヤとこれまでにない活気を孕んだ。知らぬうちに照明が薄暗く落とされ、ガラス張りのウィンドウ一帯に全てシャッターが締まっていた。

「なんで」

 困惑を口にした冬次に、店長がドリンクのおかわりをくれながら答えてくれる。

「気にしないで~。夜の時間は貸切りになってるから」

 コースターにのったカクテルグラス。さくらんぼに浸ったオレンジの飲み物が、先ほどと同じノンアルコールなのかどうかすら怪しいと感じる危険な香りがした。

「帰ります」
「嘘でしょ。これからが楽しいところだよ」

 谷峨は微笑みながら冬次の手首を掴んだ。

「離してください。なぁ帰ろうよ座間っち?」

 だが座間は店内のボックス席で寝ている。暗いので定かでないがほんのり顔が赤い気がした。

「ノンアルって騙してお酒飲ませたんですか?」
「さぁね。俺は見てないから。けどさっきのはちゃんとノンアルだったでしょ。冬次くんも同じの飲んだんだから言いがかりはやめてほしいな。それよりあっち行こうよ。アルファくんは需要あるんだよ。おこずかいもたんまり貰えるかもね」
「は?」

 言われてる意味が呑み込めず、とりあえず〝あっち〟と示された方を見た。

「げっ」

 冗談じゃ済まされない身の危険を感じる光景が繰り広げられている。飲み食いのために訪れていた客はいなくなり、ボックス席、立ち飲み用のテーブル席共に、いかがわしい出会いの場と化していた。谷峨は唖然とする冬次にかまわず、「男がいい? 女がいい?」やら「ちなみにあそことあそこが金持ってる」やら喋っている。が、まったく耳に入らない。

「無理っす。こういう趣向の店だって知らなくて・・・・・・」

 夜の顔になった店内から目を逸らし、聞き分けのない子供のふりで逃げる。実際、子供だし、未成年だし!

「じゃ俺と逃げよ」
「へ?」

 聞き間違いかと思ったけれど、谷峨の目は間違いなく冬次を見つめていた。

「あ、でも」

 寝転がされて放置された座間を探す。

ひろむは自分で帰れるよ。あの子はこの店初めてじゃないしね。店長が見張っててくれるし寝てるとこ襲ったり無理強いはしないルールだから」
「置いてって大丈夫なんですか。高校生に酒飲ませる店は信用できませんけど」
「冬次くんが信用しなくても啓はこの店が好きだと思うよ。お酒を口にしたのは啓の意思かもしれないじゃない? 自分の身の振り方くらい啓は自分で決められる。君が必要以上に心配しても、きっと余計なお世話ってやつだよ」
「そこまであなたに言われたくないっ」

 かちんときた。なぜ今日会ったばかりの人に精神的にぶん殴られなきゃいけないのだ。
 ・・・・・・何が一番腹が立つって、谷峨が座間をよく理解していたこと。冬次の知る座間っちではなくて、素の座間啓。あいつも自分と同類だと思っていたのに、どうやら思い違いだったらしい。

「店長、この子は俺が貰うね」

 手首を引かれるまま、店の外へ出る。

「もしかして座間っちにおさがり服あげたのってあなたですか」
「そうだけど。今それ訊く?」

 谷峨は酔っ払いの横行した路地を物怖じせず突き進む。
 たった二つ歳上なだけで自分とは別次元のオーラを放つ谷峨。こんなに堂々と歩いていれば酔った勢いで絡んでしまえとは思わない。惨めな感情すら湧かない歴然とした差を感じると、冬次は黙ってついていくという判断しかできなかった。同じ土俵に立っていないことを再確認し安堵してしまう自分は矮小なのかもしれないが、今より頼りがいのある素晴らしい人間になんか簡単になれないのだ。

「はい。さよなら」

 ぽいと、手を離されたのは駅の改札口。

「あれ?」

 拍子抜けした声が口を突いて出てしまった。

「お持ち帰りされるかもって期待した?」

 谷峨がニヤリと唇に弧を描く。

「期待とかしてないし・・・・・・」
「いいね。面白いけどアルファに興味なし」
「俺もないですよ!」

 強い口調で言い返す。ここはムキにならなければならないところ!

「だろうね。さ、お子様は帰った帰った」

 にっこりと手を振られ、しぶしぶ拳を収めた。苛立ちと羞恥心には蓋をして、冬次は改札に入らず、屋内駐輪場に体を向ける。

「チャリで来たんで」
「あっそう。もう暗いから家につくまで気をつけてね。また遊ぼ」
「わかってますよ! 多分もう遊びません!」

 家に帰るまでが遠足みたいなことを言ってんじゃねぇと、引率の教師みたいな真似をする谷峨にしかめ面を返した。
 あーあ、教師の真似なんかしちゃうから、現実に引き戻された。頭に浮かんだ藤井の顔が怒りに震える。今夜は絶対にバレちゃいけない秘密ができてしまった。
 谷峨と別れた後、墓場まで秘密をもっていくことを心に誓って冬次はチャリに鍵を差す。
 ぐいっとスタンドから前輪を引き抜いた時、名前を呼ばれて固まった。

「冬次くん」

 と呼んだのは南雲だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

久しぶりの発情期に大好きな番と一緒にいるΩ

いち
BL
Ωの丞(たすく)は、自分の番であるαの かじとのことが大好き。 いつものように晩御飯を作りながら、かじとを待っていたある日、丞にヒートの症状が…周期をかじとに把握されているため、万全の用意をされるが恥ずかしさから否定的にな。しかし丞の症状は止まらなくなってしまう。Ωがよしよしされる短編です。 ※pixivにも同様の作品を掲載しています

とろけてまざる

ゆなな
BL
綾川雪也(ユキ)はオメガであるが発情抑制剤が良く効くタイプであったため上手に隠して帝都大学附属病院に小児科医として勤務していた。そこでアメリカからやってきた天才外科医だという永瀬和真と出会う。永瀬の前では今まで完全に効いていた抑制剤が全く効かなくて、ユキは初めてアルファを求めるオメガの熱を感じて狂おしく身を焦がす…一方どんなオメガにも心動かされることがなかった永瀬を狂わせるのもユキだけで── 表紙素材http://touch.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=55856941

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。

水凪しおん
BL
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。 オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。 過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。 「君はもう、頑張らなくていい」 ――それは、運命の番との出会い。 圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。 理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!

学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました

こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。

再会した男は、彼女と結婚したと言った

拓海のり
BL
高校時代、森と園部は部活も一緒で仲が良かったが、副部長の菜南子と園部の噂が立ち、森は二人から遠ざかった。大学を卒業して森は園部と再会するが、その指には結婚指輪があった。 昔書いたお話です。ほとんど直していません。お読みになる際はタグをご確認の上ご覧ください。一万五千字くらいの短編です。

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

君と運命になっていく

やらぎはら響
BL
母親から冷遇されている町田伊織(まちだいおり)は病気だから薬を欠かさず飲むことを厳命されていた。 ある日倒れて伊織はオメガであり今まで飲むように言われていたのは強い抑制剤だと教えられる。 体調を整えるためにも世界バース保護機関にアルファとのマッチングをするよう言われてしまった。 マッチング相手は外国人のリルトで、大きくて大人の男なのに何だか子犬のように可愛く見えてしまい絆されていく。

処理中です...