未来から来た天才オメガ研究者に恋したアルファ高校生の話

豆ぱんダ

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23 夏休みと共に夏が終わったら、

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 長い夏が終わり、短い秋がすぐそばまで来ている匂いを、夏休み明け初日の通学路で感じた。名残惜しく居座る夏の空気をもっと浴びておきたくて、チャリを降りて押して登校していると、学生服の通行人の中にひときわ姿勢のいい後ろ姿を見つけた。
 普段なら自分が話したい時以外は声をかけないが、冬次と谷峨が店を出た後の座間っちが気がかりでいたので、追いつくように足を速めた。

「よっ、座間っち。なんつー顔してんのよ」

 振り返った座間は当然ながら地味学生くんで、あの日の垢抜けた感じを見事に消しており、ナチュラルシチサンにわけた前髪の下で気まずそうに下がる八の字眉毛。

「言わないで誘ってごめんって思ってて。あの後、店長にめっちゃ怒られた」
「座間っちは平気だったのかよ。大人のオニーサンオネーサンたちの餌食になったんじゃないの?」
「それはない。店長が奥で寝かせてくれてた。昔から知り合いなんだよね。帯人くんもいれて三人で」
「びっくりだわ。人は見かけによらねーな」
「帯人くんが奈良林とまた遊びたいって言ってるけど、僕から断っとく?」

 申しわけなさ全開でお伺いを立てられ、冬次は苦笑した。

「いいよ。遊ぼうって返事して」
「えっ!」

 目を丸くした座間は、「え?」と二度声に出した。彼自身の耳の具合を疑ったらしい。

「わかるわかる。俺も断ろうと思ってたけどいいよ」
「は? 意味わかんなくて怖い」
「気分転換だよ」

 最もしっくりくる言葉を当てはめて答えたら、座間は痛ましいものを見る顔つきになる。

「そんなに思いつめることがあったんだな」
「勝手に憐れむなよ」

 本気じゃなくムッとしかめ面すると、向こうも心得たようにへへッと笑った。それからは親戚に子供が増えてたとか、みんなで花火をしたとか、よくある夏休みの思い出話をして下駄箱の前で別れた。
 冬次は新学期のクラス編成で藤井の言っていたとおり所属クラスが変わった。ピラミッドの上から二番目に位置づけられた新しい教室に向かう。
 新しい教室の手前、順位表が張り出された掲示板を通り過ぎた。
 クラス編成のやり方は変則的に行われ、トップ十位が少人数制のAクラス、以下三十名ずつを成績ごとに振り分けられる。 
 成績なんざ別に上がろうが下がろうがどうでもいいんだけどと、これまでの冬次ならそう思っていただろう。クラス分けを見ただけでも、冬次はトップテンには入れなかったがまずまずの結果を残せたのだとうかがい知れるのだ。しかし、夏休みを経て、自分の中で多少なりとも変化があったらしい。ふと立ち止まり、順位表を見上げていた。
 冬次は上から目線を下げていき、〝十一位〟のところに奈良林冬次と名前を見つけて放心した。横で順位表を見上げていた元クラスメイトが〝惜しいな〟と冬次の肩を叩いてきたが、抱いていたのは反対の感想。
 惜しい? 惜しくないよ。ひとつ上の順位に届かなかったことを自分はむしろ残念に思ってしまっている。
 まだがんばれたはずだった。まだ上にいける。上にいきたい。
 自分の至らなさを痛感してしまったが、落ち込んでいないのが不思議だ。がんばろうと、そう考えるたびにゾクゾクしたのだった。
 放課後、今朝話題に出た谷峨がさっそく会う約束を取りつけてきた旨の報告を昼に受けていた冬次は、昇降口で座間っちと合流し、適当なファーストフード店でぐだぐだ喋りながら谷峨の到着を待っていた。
 夜遊びした日のアングラ感満載な店と異なり、この日はありきたりなチェーン店だったので気兼ねなくコーラを注文してくつろげる。慣れた場所ということで開放的な気持ちになった。今朝自分の中で芽生えた心境の変化を話すと、一瞬ぽかんとした座間が熱はないのかと訊ねてくる。

「大丈夫なのかよ。お前、本当に奈良林?」
「ひどすぎんか。泣くわ」
「だって急にやる気なんて見せてくるから。あっ、もしかしてついに実家の会社を継がされることになったとか?」

 その予想に冬次は首を横に振った。

「そういうことは考えてない」
「うへぇ、勿体ね」

 鼻に皺を寄せ露骨に苦い顔をされるが、奈良林家の会社に興味のカケラもない。
 冬次は天井の蛍光灯をぼんやりと見やった。

「うるせーの。俺はさぁ、ただあの人と早く肩を並べられたいいなって思うわけ」

 途端に座間が豆鉄砲を喰らったように冬次をまじまじと見つめる。
 何もわかってない顔つきだ。別にわからないままでいいので、冬次は誰かに聞いてほしい気持ちで続ける。

「まぁ、あとは褒められたい」
「誰に?」
「言わねー」

 意地が悪いと思いつつ、くくっと笑う。
 そこへ谷峨が現れて、ごく自然に冬次の隣を選んで座った。

「当てようか。歳上の美人?」

 いったいどの辺から聞かれていたのか。自分なら人の内緒話に立ち入る度胸はないが、耳に入った話は全部俺のモノと言わんばかりのどこぞのアニメのガキ大将のような所業。
 しかも面倒なことに谷峨は正鵠を要ており、冬次の目が泳いだ。

「あー、谷峨先輩コンニチワ」

 どうする、誤魔化すか、正直に言うか。

「この前駅にいたあれ・・・・・・冬次くんはすぐ顔に出ちゃうんだね」

 わかりやすいねと、デフォルトに弧を描く唇。

「あれなんて名前の人知りませんけど」
「あの綺麗な人はオメガでしょ。めちゃくちゃタイプだから紹介してもらおうかな」
「駄目! 絶対駄目!」

 キャンキャン威嚇モードで冬次は吠える。

「そう言わずにさ、知り合いなら頼むよ」
「・・・・・・っ、だから南雲さんは俺がいつか」

 勢いで口を滑らせてしまったので慌てて唇を引き結んだ。だけど事実。声に出したおかげで踏ん切りがつき、焦燥を息と共に吐き出してから全部声にする。

「いつか落とす予定だから。手出ししないでください」

 これで自分の想いはもう曲げられない。勢いついでに谷峨を睨むと、予想外に微笑まれてものすごくびびらされた。

「うん。そうだよね了解」

 返事が軽い。その程度でよかったと安堵すればいいのか、しかし言わされた感が半端じゃない。

「ごめんね。冬次くんのベクトルがどっちに向いてるのか確認したくなっちゃって」

 開いた口が塞がらずアホ面の冬次の隣席から、谷峨が席を立った。

「腹減ってたんだったわ、秋の満腹デカ盛りバーガーセットと芋ペチーノ買ってくるね」
「あー・・・・・・はい」

 無茶苦茶な人でごめんなと、座間っちが茫然自失の背中をさすってくれる。

「帯人くんいつもあんな感じだから。で、僕だけ蚊帳の外だったからちゃんと説明しろな?」
「え」
「えっ?」
「いやー、そこは知らんふりするとこじゃん」
「しないしない。はいどうぞ」

 座間っちはニコニコしながら引かない感じで、強制的に洗いざらい白状させられた。とはいっても言えることは少なく、大まかな部分をオブラートに包み、家に帰れない事情があり住む場所がなかった南雲を藤井家に居候させているというざっくばらんな説明にしかならなかったのだが。
 谷峨が戻ってくると、〝年上オメガの居候に片想いする冬次〟の図でしばらく盛り上がり、さすがに飽きてくると大学の話を聞いたり、夜蛾に学生服を懐かしまれたりしてなんだかんだ楽しく解散した。
 店で別れた後は心地いい疲労感に浸りながらチャリを押し、帰路についた。藤井家に帰ろう。
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