未来から来た天才オメガ研究者に恋したアルファ高校生の話

豆ぱんダ

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26 誕生パーティーに参加する

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 インターホンからまもなく、谷峨が二人を招き入れた。

「いらっしゃい。ふはは、でっかいケーキありがとね。上がってあがって、好きに寛いじゃって」

 ここは慣れた様子の座間っちに倣ってお邪魔する。さすが高級タワマンは防音設備も抜かりなく、通路はいたって静かだったにも関わらず、部屋の中はパーティーモード全開だった。
 男女入り乱れたお客様方々は夜の店で見かけた覚えがある顔と、まったくの知らない人がいる。見かけた覚えがあるといっても冬次が店で話したのは、ピアスじゃらじゃらのヤンキー①と谷峨だけなので、ほぼ全員が初対面みたいなもんだ。

「みんな気のいい人ばかりだから楽しんでって」

 座間の腕から谷峨に引き取られた箱は、キッチンの最新型冷蔵庫に格納される。
 身軽になった二人が二十畳は軽くあるリビングに入っていくと、すでに酔っ払ったハイテンションな声で歓迎された。

「カワイイ子たちが来た~」

 おおっ、華やかなお姉様(オネエさま・・・・・?)が両手を広げて駆け寄ってきたかと思えば、びっくりしている冬次に抱きついた。

「ボーッとしてる隙に食べちゃう~」

 危うく真っ赤なリップの犠牲になりそうだったが、頭を抱えるようにしてほっぺたを守る。

「ギャーッ、なんなのこの人っ、座間っちヘルプ! へールプ‼︎」
「この人、あの店の店長」

 と座間に耳打ちされ、かたまった。嘘でしょ。そこそこ男らしかった外見のうっすらした記憶しかない。

條太郎じょうたろうくん、抱きつくなら僕にハグして」

 座間が自分から手を広げる。

「この格好の時は下の名前で呼ばないで」
「うん。ごめんね。ソノちゃん」

 聞いていた話と、かなり異なる関係性の匂いがするのは気のせいだろうか。高校生の座間っちを叱る大人の店長のイメージが、酔っ払った店長を介抱するしっかり者の座間に書き換えられる。後者は座間っち改め座間さんという感じだ。
 唖然としている時に、谷峨が笑いを堪えて様子を見にきた。

「苗字がそのだから、ソノちゃん、冬次くんもそう呼んであげて」
「谷峨先輩と座間っちみたいに親しいわけじゃない大人をそうなふうには呼べないっす」

 いきなりソノちゃん呼びは尻込みする。

「いーんだよ。ソノちゃんは喜ぶから」
「じゃ、じゃあそのうち」
「うん。さて、そこの人たちはほっといて冬次くんは来て、部屋の場所を簡単に案内するよ」

 話が変わり、冬次は頷いて谷峨についていく。

「玄関に近いドアがトイレとこっちがお風呂、一番奥は寝室だから一応入るのは遠慮して、あとの二つの部屋は好きに入っていいけど何もないよ、そんで、ここがシアタールーム。使いたかったら言ってね」

 玄関からリビングまでは区切るドアはなく、途中に水まわり系の設備があり、リビングを経由した通路に部屋が三つとシアタールームがあるといった間取りだった。
 しかし大学生のひとり暮らしでシアタールームとは、冬次なら一生思いつきもしない部屋。日常に時間と感性のゆとりがあってこそ生まれる娯楽だろう。

「次、みんなに紹介してあげるからこっち」
「ありがとうございます」

 リビングのテーブルにはオードブルとかピザとか、豪勢に並べられ、グラスの中で輝くシュワシュワした液体は、見るからにシャンパンだなとわかった。
 多少惜しい気がするがアルコールは遠慮してジュースを頼む。むしろ、せずとも学生服姿の冬次に気安く酒を勧める人はいなかった。思っていたより堅実なグループでよかったと思う。見た目で判断してごめんなさいだ。
 飲み物が手に渡ると、谷峨はまず初めに学生層に声をかけた。谷峨が通う大学以外からも参加者がおり、どう知り合ったのか彼らの社交範囲には驚く。
 簡単に名前と所属学年を交わし終えると、次は社会人に移った。大人組は実業家、弁護士、医師、パイロット、商社マン、フリーランス、目移りする多種多様な職種が集まっている。三十代手前という人が多く、若手で気力に満ちあふれ、中にはアルバイトで金を貯めながらバックパッカーをし世界を巡っている最中である人もいた。

「君は宏と同じ高校生かぁ。若くていいね」

 冬次と挨拶を交わした大人組はだいたいこう言って眩しそうな顔で握手したがった。若いパワーをもらうためらしい。この人たちも充分若い方だと思うのだけど、そう返すと、「いやいや、高校生からすればおじさんおばさんでしょ」だそうだ。
 しかしどちらかといえば彼らの元気に圧倒されたのは冬次の方で、ひととおり自己紹介を終えた頃にはへろへろだった。いただいた名刺と名前と顔をしっかり記憶に刻んでおくため、頭をフル回転させていたせいもある。
 谷峨が席を外しているあいだ、ソファの真ん中はつつしんで辞退してすみっこに腰を落ち着け、注いでもらったお代わりのジュースでひと息つく。

「そういやみなさん自分のバース性を言わないんですね」

 並んだ頭をなんともなしに眺めていると、ふとそんなことが口を突いていた。
 すると彼らは一瞬微妙な顔をしてから、目を見合わせ「必要なくない?」と肩をすくめる。

「でも懐かしいなぁ、訊いちゃう気持ちはわかるよ。高校生まではなぜか過剰にバース性で区別されてたよな」

 さらに別の人が反応する。

「間違いが起こらないように大人が管理しやすくするためじゃないの」
「そもそも訊いてどうするのさ。その質問の裏には、きっとアルファに違いないっていう無言の期待が含まれてるよね。アルファだったらやっぱりさすがだねって言って終われるけど、ここの僕たち半分くらいはベータだよ」

 そのように話すのを聞き、言うとおりだなと思った。馬鹿な質問をしてしまったことが恥ずかしくて頬がカッと熱くなる。

「アルファじゃないと成功しちゃいけない法律なんてないっしょ。ベータもだけど、今日参加してない友達で、オメガで社長やってるっていう人だっているしね。モデルとか俳優とか有名人でもちらほら聞くじゃん。オメガって顔立ち綺麗で目立つからけっこう活躍してる人知ってるよ」
「そう、ですよね」

 日常生活を送る中で今どきバース性の告知が必要なのは病院と役所くらいで、公の場に告知義務などない。しかしなかなか浸透は難しく、だが冬次がこのことを忘れて感心したのは社会の風潮のせいではなくて、アルファを上位とする実父の教えがこびりついていたから。
 平等に対する違和感と拒絶。父親が示すであろう、ここにいる人たちとの正反対の反応を安易に予測できてしまう自分も毒されているのだ。冬次はそんな父親の考えが嫌いだけど、真逆の考えは理想だという現実も理解できた。
 だって真の平等を実現させるために南雲が薬を開発したわけだろう?
 でもこの場で考え込んでしまったのがよくなくて、噛み砕ききれない思いが全部顔に出ていた。慣れない場所で感情を上手に隠せるほど大人じゃないのだ。

「すぐバース性を引き合いに出してくるのってアルファくらいじゃね?」

 チクリと聞こえてきた嫌味。言ったのは男にしては長めの黒髪をひとつ結びにした芸術家タイプの男。

「素直にバース性を教えたら見下すやつは見下してくるよ。君もそうなんじゃないの。だってあの奈良林だもんね」

 さらに便乗するコメントが飛ぶ。

「必要ないから言わないって人もいるけど、自分は言いたくないから言わない」
「私も同感。アルファじゃないなら言わない方が賢く立ち回れるってのいうのは一理あるね」

 問い詰められた気分で下を向けば、近くで聴き耳を立てていてくれたのか、そばを離れていた谷峨が会話の輪に舞い戻り、冬次の肩に手を置いた。

「どうしたの?」

 谷峨は巧みに話題を別の方向に持っていき、冬次に向けられていたひりついた視線と関心は逸れたようだ。おかげでバース性の話題は終わったものの、冬次はトイレに行くと言って席から逃げだした。
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