未来から来た天才オメガ研究者に恋したアルファ高校生の話

豆ぱんダ

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43 動き出す大人たち

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「遅い!」

 再び地下へおりて行くと、社員たちを悩ませる南雲の暴挙は恫喝から始まった。
 成長過程にある未成熟な体で手足も細い少年に大声を出されても怖くはない。初見ほどの驚きもないため、冬次は冷静に彼を観察することができた。知らないおっさんにじろじろ見られ、南雲がブチギレるまでそう時間はかからなかったが。

「あんた、まだいたのかよ!」
「俺がいたいだけいるつもりだけど?」
「気持ち悪いから来るなっ」

 一歩近づくだけで人嫌いの猫みたいに過剰な反応をする南雲。

「君はアルファが嫌い?」
「大嫌いだね。全滅しろ」
「んな殺生な。だからバース性の研究をしてるの?」

 南雲は目を丸くした。瞠目したのは南雲だけでなく、座間も愕然としている。

「奈良林、誰に聞いた?」

 どうやら口にしてはいけない極秘事項に触れてしまったらしい。

「なんのこと?」

 と冬次はシラを切るが苦しいか。いや、知りえるはずのないことを知っていることの方がずっと信じがたかったようで座間はしきりに目頭を揉みながら首をひねる。こっちは言い逃れられそうだが、問題はごりごりに興味を示しだした南雲少年だ。

「思いついちゃった。こいつを新しい家庭教師にして」

 こいつと指先が冬次をさす。しっかり距離を確保しつつ、南雲は汚物のように嫌っていたアルファを指名した。
 座間が二人の前に飛び出す。

「許可できるわけないでしょう? 天才の君に今さら教師なんて必要ないよね」
「うるさい。お前が勝手に部外者を連れ込んだことチクってもいいの」

 鋭くなった利口そうな瞳が座間に向いたのがわかり、巻き添えを喰って冬次の背筋まで寒くなった。やれやれ感動の再会が順調に台無しにされていく。

「働き口が増えるなら俺は構わないよ。自給いくらで雇ってくれます?」
「希望があるならそこの眼鏡と相談してよ」
「了解。確認だけどほんとに平気?」
「は。言ってくけど残念アルファの雑魚いフェロモンなんて臭いだけだし。あんたこそ変な気は起こさないでよね。もし僕にかすり傷ひとつ負わせたら後悔するよ。色んな意味で」

 デスヨネェと意識してヘラヘラ笑うと、魔法が解けるみたいに南雲の関心の外に追い出された。呼び出された理由そのものは何だったんだろうなと考えているうちに退出を許され、肩の力が抜けると同時に部屋を出ていく瞬間に残念な気持ちになる。
 好きな人に嫌われてるより興味をもってくれた方が嬉しいのは誰だってそう。
 今でもやっぱり同じように思うんだなと安心する。一秒でも多く、南雲の心の中にいたいのだ。それが自分の十数年ぶりの正直な想いだった。
 しかし勝手に家庭教師を引き受けてしまったために、駆け足で階段をのぼっていく座間の背中が怒っていた。

「座間だって俺を誘ってくれてたじゃないか」

 言いわけしながら隣に並ぶ。

「半日保たずやめてくってのその家庭教師らのことだからな。みんな南雲くんの言いなり奴隷にされんの。奈良林にはハウスキーパーの仕事を頼むつもりだった」
「暇を持て余した天才様の遊び相手ってわけでしょ。楽勝」
「お前が考えてる何倍もえぐいんだぞ、遠慮なくモルモットにされる。何にやけてんの」

 座間がムッとした。
 冬次の頬がニマッとゆるむ。

「いやぁ、なんか懐かしくて嬉しいなって」

 高校生の時のような自然体な会話がとても場違いで笑えた。座間は怒ったけども、高校生時代の気持ちに浸るという裏技で無敵感を呼び起こさせる。

「奈良林てめぇ、地味に一番大変なの俺なんだぞ」
「そうだな。ありがとう」

 後先考えない無茶でも実現できるのが大人で、ここだけはお子ちゃま高校生とは違う。やる気さえあればある程度の望みは形になり、代償はぶっ倒れるまでの鬼業務だ。

「やってやりますか」

 冬次の出した拳に、座間が拳をぶつける。ささやかなグータッチで狼煙はあがったのだ。そして初日の潜入を終えた後はソノちゃんのバーへ向かう。夏休みとしてとった休暇だが、残念ながらリゾートホテルに宿泊とはいかないわけで。寝泊まりに店の休憩室を貸してもらうことになっており営業中の扉を押し開けると、薄暗いライトの奥で女装を解いてキリッとしたソノちゃんがカウンター席に座った谷峨と何やら会話中。冬次は通夜のような空気の中に入っていく。

「おつかれさまです」
「こんばんは冬次ちゃん、お化粧の成果はどうだったのかしら」
「俺だってバレませんでした。すごいっす。・・・・・・この時間は他にお客さんいないんですね?」
「あら。外の照明を入れ忘れてたみたい。ありがとう」

 店内を眺める冬次がふと気づいたことを零すと、ソノちゃんが照明のスイッチを入れに外へ。
 どこで機嫌を損ねたのか知らないが谷峨が片肘をついて鼻を鳴らす。冬次に深い意味はなかったのだが。

「あのオカマめ、余計な気をつかいやがって」

 あー、そういうこと。複雑にギスギスしていても仲はよろしいようだ。

「座間に会えましたよ。内部事情も聞き出せて、助力を求められました。接触は成功です」
「みたいね。あの子から連絡が来たわ」

 この感じだと、連絡はソノちゃんだけにあったのだろう。

「実質は帯人にむけてじゃない」

 ソノちゃんが谷峨をからかう。

「どうかな」
「そうよ。私の口から帯人に伝わるってわかってるのよ」
「だったら直接俺にすればいい」
「それ自分に言ってるのかしら?」

 ぷっと、冬次はおかしくて吹き出す。

「ソノさんの言うとおりっすよ谷峨先輩」

「適当言うなよ。啓はソノちゃんを」

 いいえと、ソノちゃんが首を振った。

「そこが間違ってるの。あの子が私を好きだったことは一度もないわよ。あんたを忘れたかったからに決まってるじゃない。だけど今でもずっとずーっと引きずってるんだから」

 しかし谷峨は釈然としない顔だ。冬次は首をすくめ腕を組む。視線はソノちゃんに向けた。

「手のかかる子たち。けどねぇ、そうするしかなかったのよね。啓も難しい立場にいてかわいそうだった。どっちにもなれなかった苦悩ってのが根強く残ってる家だったから・・・・・・。うふふ、うちの家系のことはいいのよ。今大事な話をしましょう?」

 ソノちゃんは話を区切るように手をひらひらさせる。

「ええ。そっすね。迷惑かけるぶんきっちりやり遂げてみせます」

 と冬次は深く頷いた。
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