未来から来た天才オメガ研究者に恋したアルファ高校生の話

豆ぱんダ

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46 難しいお年頃

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「なぜ早く言わなかった。克己は重症なのか」
明日・・、本人に聞けよ」

 ハイヤーの後部座席に兄弟仲良く並んで収まりながら、冬次はため息を漏らす。この真夜中に見舞いへ行こうとする兄貴をなだめるのは大変だった。
 てっきり藤井から相談を受けていたと思っていたが、兄貴より先に自分に連絡が来ていたとは、ぶっちゃけいい気味である。

「冬次も見舞いに行くんだろう。どこまで送ろうか?」
「行くよ。そこの公園で降ろして」
「置いてきた冬次の車を届けさせるついでに待ち合わせて行かないか。そこまででいいのか、家まで送るよ」
「断る」

 どちらの質問も。

「ここでいいから。明日は何時になるかわからないし、車は自分で取りに行く」

 冬次は公園わきに停車したハイアーを降りた。冬次を引き留め心変わりさせるべく兄貴が何やら唸っている。
 開いた時と同様にドアが静かに閉まりかけたその時、冬次はわずかな小骨のような喉の詰まりを吐き出してみることにした。

「なぁ兄貴、地下のあの子に何をさせたい」

 冬次の知っている未来へ向かっているなら、兄貴はやがて完成する薬を望んで援助していくのだ。

「それに関することなら兄貴に付き合ってくれるのかな?」

 兄貴が拗ねたように車内から覗き見上げてくる。

「えっ、マル秘事項だろ?」
「私個人の範囲内なら話せることもある。その調子だとどうせあの子が作ろうとしているものを知ってるんだろう。まさか知り合って間もないお前に話すとはね」
「まぁね・・・・・・信頼されてるからね」

 冬次がうそぶくと、兄貴は苦笑して眉間を揉む。

「また近々会おう。こっちから連絡するから電話に出ろよ」
「了解。ありがとう兄貴。連絡待ってる」
「やれやれ。いつもこうやって可愛げがほしいものだよ」

 兄貴が軽く手を掲げた合図でドアが閉まり、ハイアーは静寂の中を走り去る。心なしか酔って最高点にいる時の高揚した気持ちが盛り返していた。兄貴と顔を合わせて爽快な気分でいられるのも珍しい。
 ソノちゃんの店に戻る前に酔いを冷ましていこう・・・・・・。
 車が見えなくなるまで見送った後、しばらく立ちぼうけ、公園を散歩してから帰宅した。


 ◆


 次の日、冬次はがっつり寝坊した。
 昨晩の自分め。ふらふら散歩なんかして帰ったからだ。
 が、前もって座間に遅刻許可を得ていたのでセーフ。
 兄貴は早朝からいそいそと見舞いに行ったらしい。
 朝がた病室のベッドにいる藤井から必要品は全て兄貴に届けてもらったからもう平気だと連絡が来ていたので病院への往復予定はなくなって、申告していた時刻よりプラマイゼロどころか早く出勤できている。
 家政婦はすでに冬次を常駐スタッフと同じように扱い、おはようございます、おつれかれさまです、以外の声を聞いてない。もはや新入りに道端の石ころほども関心を示してこない。入れ替わりが激しいゆえか。

「おはよう奈良林、カッチャン先生の見舞いはどうだった。ゆっくりしてくればよかったのに」
「ゆっくりしてきたって」

 朝の経緯を話すのも面倒なので嘘をついた。

「座間にもよろしくってさ」

 何か言葉を欲しそうな顔をしていたので、期待に応えてやりながら冬次は肩をすくめる。

「元気そうで何よりだ。今度俺も花でも持っていくよ」
「そうしてやってよ。下の様子見てくるわ」
「了解。多分まだ寝てるぜ」

 地下階段をくだる冬次は頭で猶予の計算をした。本職も疎かにできないため、自由に使える日数は残り一週間と考える。いちにち一日を無駄にしない努力をすべきだ。
 第一段階として今日は南雲に確認しておきたいことがある。

「涼くん失礼しますよ」

 電気を消された室内は真っ暗。だが奥の方で物陰に埋もれたデスクライトが淡い光を放っていた。
 そこに突っぷす形で南雲が寝息を立てている。
 冬次は壁を指で探り照明をつけた。目覚ましに使える太陽光がないのだからこうするしかない。

「おはようございます。今すぐ起きるんだ!」
「あーうるせぇ・・・・・・」

 南雲は目をしょぼつかせ、頭を腕で隠そうとする。光を遮るポーズだ。

「中途半端に寝落ちするよりしっかりベッドで休め。良質な睡眠が取れてないから朝も起きれないんだぞ」
「朝とか夜とか気にしてない。僕が眠くなったら寝んだよ」
「羨ましい生活だがそのうち体を壊すよ」
「うっせ。おっさんと違って若いから」

 口の悪さはともかく不機嫌になりつつも返事をしてくれるあたりが可愛い。昨日は怒らせてしまったが、まだ拒絶される段階でなく安心した。

「何をやっていたの?」

 南雲の肘の下にあるたくさんの走り書きを覗く。

「おっさんじゃ見たってわかんないよ」
「頭がいいって聞いてたけどすごいね」
「ふん。一生理解できっこないだろうね」

 顔を腕で囲っているせいで南雲の声がくぐもって聞き取りにい。ひどく孤独そうに聞こえたのは思い違いではないだろう。
 早く外へ連れ出してやりたい。
 兄貴がなんと言おうと、南雲がこんな場所に閉じ込められてていいわけがない。そのためには、この子が、南雲自身が外に出たいと望むことが求められる。
 今日は南雲の本心を訊くために来たのだ。

「そうでもないかもしれないぞ。見せてみろよ」
「ああ? やだね」
「わかったわかった。じゃ小学生にもわかるよう易しく説明してくれ」
「なんでだよっ! くそっ、おっさんのせいで目が覚めちゃったじゃんか!」

 冬次はしてやったりと唇を笑ませ、昨日の続きというか同じ行動をなぞり始める。床には決まったように服は落ちているし丸めた紙屑が散らばっており、前日の部屋と比べた間違い探しができそうだった。
 汚部屋から面白いもんでも出て気やしないか、少しばかり宝探し気分を漂わせながら室内をうろうろする冬次の背に刺々しい視線がぐさぐさ刺さった。冷たい視線が熱心に注がれ、あつく、ひりつく。奇妙な心地だ。
 ——おっと。背中に蹴りの衝撃。膝こそつかなかったが、さすがによろけた。裸足なので痛くはない。

「頭が高ぇんだよ」

 どの国の王子様かな?

「生憎男にひざまずく趣味はないんだ」

 冬次は蹴られた背中の埃をはたいた。南雲がその仕草を睨む。こりゃ相当こちらの背中が憎らしいと見た。

「おっさんの仕事は俺のオモチャになること!」
「遊び相手がほしいんだね?」

 南雲は頬を赤らめた。発言の幼稚さに気づいてくれたらしい。

「勘違いすんなよ。能無しにできることが他にあんの?」

 冬次は天井を仰ぎ、両手を掲げる。好きにしたらいい。南雲と距離を縮めるために従おうと決めた。煮るなり焼くなりしてくれ。
 南雲が目で座れと言う。冬次は近場の椅子を引き寄せた。

「やる気あんのかよおっさん」

 丸めたシャツが飛んでくる。王子様はどうしても床が好きなようだ。椅子を戻し、大人しくその場に尻を落ち着ける冬次。
 目線の高さが逆転すると、南雲の表情が和らぐ。捕まえた熊を見下ろすみたいな目つき。誇らしげで、やや怯えもある。
 これからさて何をしてくれるのかと思いきや、南雲のは一定の距離から踏み込もうとせず、机に戻り背を向け忙しい作業を再開した。黙々と。
 冬次は放置。そして無視。沈黙。
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