64 / 139
64 選べない
しおりを挟む
〝昨日は強引に誘って嫌な思いさせちゃってごめんなさい。僕は冬次さんと過ごせるだけで楽しいし幸せなので、また部屋に来てくれますか?〟
冬次は仕事の片手間にメッセージを読み、おのれの髪をガシガシ掻きまわした。
「うおー・・・・・・俺が全面的に悪いのにいい子すぎるよ」
通りかかった金子が驚いて立ち止まる。
「社長、そんな強く頭掻いたら禿げますよ?」
「ねぇもう金子さんでいいから俺のことぶちのめして」
「急に、てかもう私でいいって何なんですか。ご飯ちゃんと食べてます? 熱中症で朦朧としてるとかじゃないですよね?」
泣き真似をした冬次は、あぁちょっぴりほんとに涙が出てきたかもしんない。泣きたいのは自分じゃないだろうに。
「お願い俺をぶって・・・・・・」
「病院に行ってください社長。セクハラ発言ですよそれ」
「セクハラ」
そう指摘されるとは考えておらず、おうむ返しする。
「キョトン顔しても駄目です。社長がどんな趣味してても尊敬してますから、プロにお任せしたらいいじゃないですかね」
これは別の意味に捉えられているらしいな?
好意的な発言とは対照的に金子の笑顔がやや引きつっているとうか、わざとらしい。弁解しようと冬次が口をひらきかけると、飛び込みで客が入ってきたようだ、出入り口に金子の視線が移った。
「ひー、あれヤクザですかね。それとも悪役レスラーかな?」
「どれどれ」
強面の飛び込み客はソノちゃんだった。筋肉質な二の腕をさらしたタンクトップ姿で今日は男性の格好だ。むだに裏稼業の人間ぽいサングラスをしてくるもんだから入店直後に社員たちは凍りついたが、しゃなりしゃなりと店内に入ってくる大男の足取りに動揺が走った。
冬次は立ち上がって彼を迎える。
「ソノちゃん、こっちです。みんなは、この人は俺の友人だから気にせず仕事に戻って」
「お仕事中に悪いわねぇ。慌てて家を出てきたのよ。だからこんな格好で恥ずかしいわ」
興味本位な社員たちの視線を散らし、ソノちゃんをお客様用のテーブルへ案内した。
「一応、確認なんですが、部屋を探しにきたわけじゃないですよね」
ソノちゃんは向かい合って座ると、パーテーションを気にするように前かがみになる。
「今は両隣ともお客さんはいません」
「ええ。ありがとう。あのねコレを見てちょうだい。啓から来たメッセージよ」
トークのやり取り画面が冬次に向けられる。
「拝見します」
トークは昨夜遅く届いた座間のメッセージで止まっていた。
冬次は声に出して読みあげる。
「〝この前の店の貸切予約の話ですがキャンセルでお願いします。他の店に決まってしまいました。急ですみません。心配していたコース内容については解決しそうです。料理がおいしいと評判の店でシェフは予算に合わせた相談にものってくれる話のわかる方だそうです。〟」
「どう? どう思うかしら。あの子ってばアタシの店の貸切予約なんてしてないのよ。もう意味がわかんなくって」
ソノちゃんは早口でまくしたて、オーバーに両手を広げてみせた後いきなりシュンと肩を落とした。テンションの高低差が激しい。座間のことを親心同然に心配しているのだ。
「座間は送る相手をまちがえてるとか?」
「だったらまちがえたって重ねて送ってくるなり取消すなりするじゃない。こちらは既読つけてだいぶ経ってるのよ。啓はあたしがこれを読んだって見てわかってるはずでしょ」
「確かにね。メッセージのこと俺以外にも話しました?」
「冬次くんだけよ」
スマホがホーム画面に切り替わる。サイドボタンを押す綺麗な爪のマニキュアに禿げている箇所がある。凡人より見た目に気をつかうソノちゃんがよほど急いできた証拠だ。
「へぇ。どうして先に俺に? 谷峨先輩には言ってないんですね」
この質問に答える前に、ソノちゃんは後ろめたそうにため息をついた。
「繋がらなかったのよ。まったく何してるのかしら・・・・・・あのお馬鹿さんは」
「谷峨先輩にした連絡は電話だけですか?」
冬次が確認を取ると、間を空けずにうなずく。
「そうよ」
「このことは今後も俺らだけの話にしてもらえますか」
「・・・・・・帯人は知らない方がいいのね」
柔軟に判断してくれる人で助かった。ある意味、谷峨より先に知れたことは良かったのかもしれない。
「はい。お願いします」
ソノちゃんはいつも落ち着いた余裕ある動作で体をくねらせ、まばたきする。
「それでどういう意味なのかしら」
つまりメッセージの意味とは。
「うーん。とりあえずは心配するなってことですかね。職場環境に変化があったようです」
冬次にはそう読みとれ、どうにかして状況を伝えようとする座間の苦肉の策がうかがえた。安全だが行動を制限されている、もしくは外との連絡ツールを監視されているとか。兄貴なら今度こそやりかねない手だ。
「適当に返事をして、また送られてきたら見せてください」
「了解。お邪魔したわね」
「あっ、そうだ。婚約者と仲直りするのにプレゼントを買いたくて」
帰り際のソノちゃんがくるりと振り向いた。
「あらやだ」
口元に大きな手をあて、目は活き活きと輝く。
「いや、あー、まぁ、今んとこそれに近い人って意味なんですけど」
「んもう。早く言いなさいよ。今度はあたしが相談乗る番てことね!」
冬次は仕事の片手間にメッセージを読み、おのれの髪をガシガシ掻きまわした。
「うおー・・・・・・俺が全面的に悪いのにいい子すぎるよ」
通りかかった金子が驚いて立ち止まる。
「社長、そんな強く頭掻いたら禿げますよ?」
「ねぇもう金子さんでいいから俺のことぶちのめして」
「急に、てかもう私でいいって何なんですか。ご飯ちゃんと食べてます? 熱中症で朦朧としてるとかじゃないですよね?」
泣き真似をした冬次は、あぁちょっぴりほんとに涙が出てきたかもしんない。泣きたいのは自分じゃないだろうに。
「お願い俺をぶって・・・・・・」
「病院に行ってください社長。セクハラ発言ですよそれ」
「セクハラ」
そう指摘されるとは考えておらず、おうむ返しする。
「キョトン顔しても駄目です。社長がどんな趣味してても尊敬してますから、プロにお任せしたらいいじゃないですかね」
これは別の意味に捉えられているらしいな?
好意的な発言とは対照的に金子の笑顔がやや引きつっているとうか、わざとらしい。弁解しようと冬次が口をひらきかけると、飛び込みで客が入ってきたようだ、出入り口に金子の視線が移った。
「ひー、あれヤクザですかね。それとも悪役レスラーかな?」
「どれどれ」
強面の飛び込み客はソノちゃんだった。筋肉質な二の腕をさらしたタンクトップ姿で今日は男性の格好だ。むだに裏稼業の人間ぽいサングラスをしてくるもんだから入店直後に社員たちは凍りついたが、しゃなりしゃなりと店内に入ってくる大男の足取りに動揺が走った。
冬次は立ち上がって彼を迎える。
「ソノちゃん、こっちです。みんなは、この人は俺の友人だから気にせず仕事に戻って」
「お仕事中に悪いわねぇ。慌てて家を出てきたのよ。だからこんな格好で恥ずかしいわ」
興味本位な社員たちの視線を散らし、ソノちゃんをお客様用のテーブルへ案内した。
「一応、確認なんですが、部屋を探しにきたわけじゃないですよね」
ソノちゃんは向かい合って座ると、パーテーションを気にするように前かがみになる。
「今は両隣ともお客さんはいません」
「ええ。ありがとう。あのねコレを見てちょうだい。啓から来たメッセージよ」
トークのやり取り画面が冬次に向けられる。
「拝見します」
トークは昨夜遅く届いた座間のメッセージで止まっていた。
冬次は声に出して読みあげる。
「〝この前の店の貸切予約の話ですがキャンセルでお願いします。他の店に決まってしまいました。急ですみません。心配していたコース内容については解決しそうです。料理がおいしいと評判の店でシェフは予算に合わせた相談にものってくれる話のわかる方だそうです。〟」
「どう? どう思うかしら。あの子ってばアタシの店の貸切予約なんてしてないのよ。もう意味がわかんなくって」
ソノちゃんは早口でまくしたて、オーバーに両手を広げてみせた後いきなりシュンと肩を落とした。テンションの高低差が激しい。座間のことを親心同然に心配しているのだ。
「座間は送る相手をまちがえてるとか?」
「だったらまちがえたって重ねて送ってくるなり取消すなりするじゃない。こちらは既読つけてだいぶ経ってるのよ。啓はあたしがこれを読んだって見てわかってるはずでしょ」
「確かにね。メッセージのこと俺以外にも話しました?」
「冬次くんだけよ」
スマホがホーム画面に切り替わる。サイドボタンを押す綺麗な爪のマニキュアに禿げている箇所がある。凡人より見た目に気をつかうソノちゃんがよほど急いできた証拠だ。
「へぇ。どうして先に俺に? 谷峨先輩には言ってないんですね」
この質問に答える前に、ソノちゃんは後ろめたそうにため息をついた。
「繋がらなかったのよ。まったく何してるのかしら・・・・・・あのお馬鹿さんは」
「谷峨先輩にした連絡は電話だけですか?」
冬次が確認を取ると、間を空けずにうなずく。
「そうよ」
「このことは今後も俺らだけの話にしてもらえますか」
「・・・・・・帯人は知らない方がいいのね」
柔軟に判断してくれる人で助かった。ある意味、谷峨より先に知れたことは良かったのかもしれない。
「はい。お願いします」
ソノちゃんはいつも落ち着いた余裕ある動作で体をくねらせ、まばたきする。
「それでどういう意味なのかしら」
つまりメッセージの意味とは。
「うーん。とりあえずは心配するなってことですかね。職場環境に変化があったようです」
冬次にはそう読みとれ、どうにかして状況を伝えようとする座間の苦肉の策がうかがえた。安全だが行動を制限されている、もしくは外との連絡ツールを監視されているとか。兄貴なら今度こそやりかねない手だ。
「適当に返事をして、また送られてきたら見せてください」
「了解。お邪魔したわね」
「あっ、そうだ。婚約者と仲直りするのにプレゼントを買いたくて」
帰り際のソノちゃんがくるりと振り向いた。
「あらやだ」
口元に大きな手をあて、目は活き活きと輝く。
「いや、あー、まぁ、今んとこそれに近い人って意味なんですけど」
「んもう。早く言いなさいよ。今度はあたしが相談乗る番てことね!」
0
あなたにおすすめの小説
久しぶりの発情期に大好きな番と一緒にいるΩ
いち
BL
Ωの丞(たすく)は、自分の番であるαの かじとのことが大好き。
いつものように晩御飯を作りながら、かじとを待っていたある日、丞にヒートの症状が…周期をかじとに把握されているため、万全の用意をされるが恥ずかしさから否定的にな。しかし丞の症状は止まらなくなってしまう。Ωがよしよしされる短編です。
※pixivにも同様の作品を掲載しています
とろけてまざる
ゆなな
BL
綾川雪也(ユキ)はオメガであるが発情抑制剤が良く効くタイプであったため上手に隠して帝都大学附属病院に小児科医として勤務していた。そこでアメリカからやってきた天才外科医だという永瀬和真と出会う。永瀬の前では今まで完全に効いていた抑制剤が全く効かなくて、ユキは初めてアルファを求めるオメガの熱を感じて狂おしく身を焦がす…一方どんなオメガにも心動かされることがなかった永瀬を狂わせるのもユキだけで──
表紙素材http://touch.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=55856941
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。
水凪しおん
BL
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。
オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。
過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。
「君はもう、頑張らなくていい」
――それは、運命の番との出会い。
圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。
理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!
学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました
こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。
再会した男は、彼女と結婚したと言った
拓海のり
BL
高校時代、森と園部は部活も一緒で仲が良かったが、副部長の菜南子と園部の噂が立ち、森は二人から遠ざかった。大学を卒業して森は園部と再会するが、その指には結婚指輪があった。
昔書いたお話です。ほとんど直していません。お読みになる際はタグをご確認の上ご覧ください。一万五千字くらいの短編です。
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
君と運命になっていく
やらぎはら響
BL
母親から冷遇されている町田伊織(まちだいおり)は病気だから薬を欠かさず飲むことを厳命されていた。
ある日倒れて伊織はオメガであり今まで飲むように言われていたのは強い抑制剤だと教えられる。
体調を整えるためにも世界バース保護機関にアルファとのマッチングをするよう言われてしまった。
マッチング相手は外国人のリルトで、大きくて大人の男なのに何だか子犬のように可愛く見えてしまい絆されていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる