未来から来た天才オメガ研究者に恋したアルファ高校生の話

豆ぱんダ

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〝昨日は強引に誘って嫌な思いさせちゃってごめんなさい。僕は冬次さんと過ごせるだけで楽しいし幸せなので、また部屋に来てくれますか?〟

 冬次は仕事の片手間にメッセージを読み、おのれの髪をガシガシ掻きまわした。

「うおー・・・・・・俺が全面的に悪いのにいい子すぎるよ」

 通りかかった金子が驚いて立ち止まる。

「社長、そんな強く頭掻いたら禿げますよ?」
「ねぇもう金子さんでいいから俺のことぶちのめして」
「急に、てかもう私でいいって何なんですか。ご飯ちゃんと食べてます? 熱中症で朦朧としてるとかじゃないですよね?」

 泣き真似をした冬次は、あぁちょっぴりほんとに涙が出てきたかもしんない。泣きたいのは自分じゃないだろうに。

「お願い俺をぶって・・・・・・」
「病院に行ってください社長。セクハラ発言ですよそれ」
「セクハラ」

 そう指摘されるとは考えておらず、おうむ返しする。

「キョトン顔しても駄目です。社長がどんな趣味してても尊敬してますから、プロにお任せしたらいいじゃないですかね」

 これは別の意味に捉えられているらしいな?
 好意的な発言とは対照的に金子の笑顔がやや引きつっているとうか、わざとらしい。弁解しようと冬次が口をひらきかけると、飛び込みで客が入ってきたようだ、出入り口に金子の視線が移った。

「ひー、あれヤクザですかね。それとも悪役レスラーかな?」
「どれどれ」

 強面の飛び込み客はソノちゃんだった。筋肉質な二の腕をさらしたタンクトップ姿で今日は男性の格好だ。むだに裏稼業の人間ぽいサングラスをしてくるもんだから入店直後に社員たちは凍りついたが、しゃなりしゃなりと店内に入ってくる大男の足取りに動揺が走った。
 冬次は立ち上がって彼を迎える。

「ソノちゃん、こっちです。みんなは、この人は俺の友人だから気にせず仕事に戻って」
「お仕事中に悪いわねぇ。慌てて家を出てきたのよ。だからこんな格好で恥ずかしいわ」

 興味本位な社員たちの視線を散らし、ソノちゃんをお客様用のテーブルへ案内した。

「一応、確認なんですが、部屋を探しにきたわけじゃないですよね」

 ソノちゃんは向かい合って座ると、パーテーションを気にするように前かがみになる。

「今は両隣ともお客さんはいません」
「ええ。ありがとう。あのねコレを見てちょうだい。啓から来たメッセージよ」

 トークのやり取り画面が冬次に向けられる。

「拝見します」

 トークは昨夜遅く届いた座間のメッセージで止まっていた。
 冬次は声に出して読みあげる。

「〝この前の店の貸切予約の話ですがキャンセルでお願いします。他の店に決まってしまいました。急ですみません。心配していたコース内容については解決しそうです。料理がおいしいと評判の店でシェフは予算に合わせた相談にものってくれる話のわかる方だそうです。〟」
「どう? どう思うかしら。あの子ってばアタシの店の貸切予約なんてしてないのよ。もう意味がわかんなくって」

 ソノちゃんは早口でまくしたて、オーバーに両手を広げてみせた後いきなりシュンと肩を落とした。テンションの高低差が激しい。座間のことを親心同然に心配しているのだ。

「座間は送る相手をまちがえてるとか?」
「だったらまちがえたって重ねて送ってくるなり取消すなりするじゃない。こちらは既読つけてだいぶ経ってるのよ。啓はあたしがこれを読んだって見てわかってるはずでしょ」
「確かにね。メッセージのこと俺以外にも話しました?」
「冬次くんだけよ」

 スマホがホーム画面に切り替わる。サイドボタンを押す綺麗な爪のマニキュアに禿げている箇所がある。凡人より見た目に気をつかうソノちゃんがよほど急いできた証拠だ。

「へぇ。どうして先に俺に? 谷峨先輩には言ってないんですね」

 この質問に答える前に、ソノちゃんは後ろめたそうにため息をついた。

「繋がらなかったのよ。まったく何してるのかしら・・・・・・あのお馬鹿さんは」
「谷峨先輩にした連絡は電話だけですか?」

 冬次が確認を取ると、間を空けずにうなずく。

「そうよ」
「このことは今後も俺らだけの話にしてもらえますか」
「・・・・・・帯人は知らない方がいいのね」

 柔軟に判断してくれる人で助かった。ある意味、谷峨より先に知れたことは良かったのかもしれない。

「はい。お願いします」

 ソノちゃんはいつも落ち着いた余裕ある動作で体をくねらせ、まばたきする。

「それでどういう意味なのかしら」

 つまりメッセージの意味とは。

「うーん。とりあえずは心配するなってことですかね。職場環境に変化があったようです」

 冬次にはそう読みとれ、どうにかして状況を伝えようとする座間の苦肉の策がうかがえた。安全だが行動を制限されている、もしくは外との連絡ツールを監視されているとか。兄貴なら今度こそやりかねない手だ。

「適当に返事をして、また送られてきたら見せてください」
「了解。お邪魔したわね」
「あっ、そうだ。婚約者と仲直りするのにプレゼントを買いたくて」

 帰り際のソノちゃんがくるりと振り向いた。

「あらやだ」

 口元に大きな手をあて、目は活き活きと輝く。

「いや、あー、まぁ、今んとこそれに近い人って意味なんですけど」
「んもう。早く言いなさいよ。今度はあたしが相談乗る番てことね!」
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