未来から来た天才オメガ研究者に恋したアルファ高校生の話

豆ぱんダ

文字の大きさ
65 / 139

65 まじめにデート

しおりを挟む
 仕事の休日、冬次は七草を誘ってデートした。気まずい別れ方をしてからやっとまとまった時間をとって向かい合うことができる。
 もっと早くに会うべきだったが、なんだかんだ仕事が立て込んでしまい一週間が経つ。
 お詫びのプランはソノちゃんおすすめのデートコースにした。
 近場の美術館で期間限定の光を使った展示をしており、カップルに評判らしい。名前だけは聞いていたが自分では立ち寄ろうと思わない場所なので、すすめられなければ行くことはなかっただろう。

「楽しみだね」

 七草が助手席でふふっとほほ笑む。

「だね。あそこ入るの俺も初めてなんだよなぁ」
「僕は小学生の頃に社会見学で行ったかな。あんまり覚えてないですけど」
「俺は小学校この辺じゃなかったから。お客さんの話でもたまに話題に出るよ」
「じゃあ余計楽しみですね。冬次さんのお仕事に活かせるのでは?」
「んー、そうかもね、次はうまくセールストークに使えるかも」
「でしょう。んふふ」

 機嫌よくしてくれる七草に冬次は何度目かわからない安堵のため息をこぼした。
 思うところは多くあるだろうに、あの日のすれちがいを引きずらず傷ついた顔も表に出さないで文句も言わない、よく躾けられた子という印象が罪悪感を加速させる。
 大人で明るい七草に、罪悪感だけじゃない感情もぽつりと芽生える。
 一緒にいると気持ちが和らぎ、何より冬次は気張らないで過ごせた。これも一つの恋愛の形と受け止めたいがまだ自分は諦めが悪く臆病だ。

「冬次さん、前向いて運転して?」

 いけない。七草の横顔を見つめすぎてしまった。

「大丈夫ですよ」
「えっ?」
「大丈夫です。僕は待てますよ。だからそんな顔しないでください。というか冬次さんが元気ないと僕が落ち込めないじゃないですか」
「うん。ごめん」

 律儀に謝る冬次に、七草がまた悪戯ぽくへそを曲げる。
「ははは、ごめんって」

 険が取れたように笑って謝ると、七草もつられて笑った。
 今日は七草を楽しませることだけを考えなければと、冬次は自分を戒める。
 美術館は平日だったため来場者がまばらで、のんびり見てまわるに最適な日だった。時折すれ違うのは老夫婦が多く、見てまわる途中に常連と思われる彼らを七草が目で追っていたのを冬次は幾度となく見かけた。
 おじいさんの腕におばあさんが寄り添いながら歩く老夫婦を見かけた時、ついに反応が顕著になる。冬次が展示物に夢中になっているあいだ、七草は頭ごと彼らの方を向いて羨ましそうに微笑んでいた。冬次が気づいてないと思っているからこそ見せた表情は本音。七草が健気に望むことを叶えてやりたくなった。

「あっちの展示も面白そうですね!」

 冬次の視線を知らずに、七草が次の展示スペースに移動する。最後の展示になるスペースは壁全体を使った体験型の作品で、はしゃぐような足取りで七草は色とりどりの光に手で触れる。

「冬次さんも。ほら一緒にやりましょ」
「いいね」

 冬次は跳ねる光のボールに手を触れた。光は途端に弾けて増え、縦横無尽に跳ねまわる。

「うわぁ、すごいですねぇ」
「ね、目がチカチカする」
「ちっちゃい子は好きそう」
「だね」

 しばらく最後の展示スペースで遊んでから外へ出ると、出口に店を構えたカフェで休憩をとった。今期の展示に合わせた限定のメニューを頼み、ひと息つく。

「この後なんだけど」

 冬次はテーブルの下でこっそりスマホをのぞいた。
 打ち合わせどおりソノちゃんからエールとディナーの後はうちにいらっしゃいというアドバイスが送られてきており、カンペがわりのメモアプリでスケジュールをチェックする。
 夕食用に予約した店はこれもソノちゃんおすすめの隠れ家レストラン。ちまちま調べた口コミの良さも折り紙つきだった。気に入ってくれるだろう。

「予約したレストランがあるから、時間まで買い物でもして過ごそうか?」
「そのレストランには冬次さんは行ったことあるの?」
「ないけど。おすすめらしいよ」
「そうなんですね」

 冬次は虚をつかれた気分になり、だんだん不安になってきた、七草があまり嬉しそうじゃないような気がする。
 七草は紅茶にミルクをくるくる混ぜてから、こう言う。

「冬次さんがよく行くお店に行きたいです」
「俺の? それだとラーメン屋とかチェーンのカレー屋とかになっちゃうけど・・・・・・ハンバーグがうまい店ならあったかな・・・・・・」

 すぐ出てきてがっつり食えればなんでもいいという男にありがちな食嗜好なもんで、デート相手を連れてくにはハードルの高い店しか思い浮かばない。

「いいよ。そこに行きたいです!」

 しかしながら七草は乗り気だ。

「うん。了解。いつも行くのはランチタイムだから夜もやってるか調べてみるね」

 内心で苦笑いしながら、にこやかに応じる。

「ごめん駄目だ」

 店舗のホームページを調べてみると今日は休み。だがよくよく読むと。

「今日の曜日は店じゃなくてキッチンカーやってるって」

 夜の時間帯もわりと近くの広場で営業している。

「どうする? ガヤガヤしたとこじゃない方がよければまた今度にして・・・・・・」
「んーん。行こうよ。そこにする」
「わかった。キャンセルの電話だけさせて」

 断りの連絡をして戻ると、七草は頼んでいたカフェメニューに手をつけずに待っていた。

「口に合わなかった?」
「いいえ。冬次さん、キャンセルさせちゃってごめんなさい」
「いいよーこのくらい。もっとひどいやつを知ってる」

 我儘を気にする七草に、思いがけずそんな言葉が滑りおちる。
 涼しい顔して冬次を振りまわした大人の南雲や口の悪い南雲少年と比べれば可愛いおねだりだ。むしろ言ってくれると罪悪感が軽くなる。

「仲がいいんですね。その人と」
「いつも遊ばれてるんだ」
「へぇ、いいな、楽しそう」
「そうかな?」

 そう言われると、南雲を褒められたみたいで嬉しい。
 冬次は無意識にニヤけながら顎を掻き、フォークで大きめに切り分けたケーキを口に放り込んだ。
 美術館の次は冬次たちはショッピングビルの専門店街でショッピングを満喫し、ソノちゃんに授けられた予定がくるってしまったことはさておいて普通のカップルのようにデートを楽しめている。

「買い物つきあってくへれてありがとう。おかげさまで仕事用の新しい靴が買えたよ。善光くんはこの辺に詳しいんだ?」

 今日きたショッピングビルは七草に教えてもらった商業施設で、数ある店舗の中に冬次が利用するスーツブランドの支店が入っていたのだ。

「実家がここに近くて」
「ああ、そうか。そうだったね。一人暮らし始めたのは最近だったの?」
「去年ですよ。許してもらえるまで大変でした」

 七草がその頃を懐かしがるように目をほころばせる。

「ナナクサ製薬を手伝い始めたのもその時くらいからで」

 不意に出てしまった仕事の話題に冬次はばつが悪くなりおざなりに相槌を返し、通りかかった雑貨店を指差して見ていこうかと誘う。店に立ち寄り時間潰しがてら商品を眺めていた時、カエルが傘を差したデザインのガラス細工のペーパーウェイトが目に入った。デフォルメされた大きな目の雰囲気がなんとなく七草に似ていたので手に取ろうとしたが、棚には傘を差した別の生き物も並らんでいて、七草が同じシリーズのペーパーウェイトから恐竜を選んで手にのせる。

「恐竜好き?」

 こちらも可愛いデザインだが、大きな口が前面に出た肉食恐竜、ティラノサウルスを彷彿とさせた。七草は指で牙のギザギザした凹凸をなぞり、うなずいてみせた。

「幼稚園くらいまで世界で一番大好きだったんですよ」
「男の子だもんな、わかるよ、俺も好きだった。兄貴の図鑑をこっそり借りて見てたなぁ」

 昔から気に入らなかった兄貴の大事な持ち物を借りパクしてた記憶がよみがえり、冬次はニヤッとした。

「俺はスピノサウルスが好きだったんだけど善光くんは?」

 背中に帆のような突起がある巨大な恐竜だ。

「ごめんなさい。どんな恐竜かわからない」
「いや、忘れちゃってるよね。恥ずかしいな俺」

 しかし七草は首を横にふる。

「恐ろしい生き物は好きになっちゃいけませんって言われてから世界一好きでいることをやめたので、詳しくないんです」
「なんだそりゃ・・・・・・子供相手にひどいな」
「普通ですよ。僕たちにとっては。僕もそれほど疑問に思ってこなかったですし」

 あっさりそう言うと、七草は恐竜のペーパーウェイトを棚に戻した。

「いらないの? ほしいなら買ってあげるよ」
「いりません。もう好きじゃないので」

 さりげない言い方だったが冬次は背筋がゾッとした。
 それからそろそろハンバーグを食べに行こうという話になり、キッチンカーが停まっているショッピングビル前の広場に向かう。
 くだりのエスカレーターに一段差ちがいで乗り、前に立った七草が振りかえって口を開く。

「美術館でけっこう食べちゃったからお腹がすくか心配だったけど、時間がたてばぺこぺこになるもんですね。大盛りにしちゃおうかな」
「俺も。買い物するので歩いたからだな」

 冬次は返事をしたが、頭の中ではさっきのペーパーウェイトのことを考えていた。

「ごめん。先行って並んでてくれる?」

 雑貨店に走った。
 渡すか渡さないかは買ってから考えればいいし。
 冬次は恐竜のペーパーウェイトをレジに持っていく。
 プレゼント用に包んでもらい走って戻ろうとすると、スマホの通知に気づいた。後で見ればいい話なのだが、この時は無性に気になり確認せずにいられなかった。

「え・・・・・・」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

久しぶりの発情期に大好きな番と一緒にいるΩ

いち
BL
Ωの丞(たすく)は、自分の番であるαの かじとのことが大好き。 いつものように晩御飯を作りながら、かじとを待っていたある日、丞にヒートの症状が…周期をかじとに把握されているため、万全の用意をされるが恥ずかしさから否定的にな。しかし丞の症状は止まらなくなってしまう。Ωがよしよしされる短編です。 ※pixivにも同様の作品を掲載しています

とろけてまざる

ゆなな
BL
綾川雪也(ユキ)はオメガであるが発情抑制剤が良く効くタイプであったため上手に隠して帝都大学附属病院に小児科医として勤務していた。そこでアメリカからやってきた天才外科医だという永瀬和真と出会う。永瀬の前では今まで完全に効いていた抑制剤が全く効かなくて、ユキは初めてアルファを求めるオメガの熱を感じて狂おしく身を焦がす…一方どんなオメガにも心動かされることがなかった永瀬を狂わせるのもユキだけで── 表紙素材http://touch.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=55856941

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。

水凪しおん
BL
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。 オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。 過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。 「君はもう、頑張らなくていい」 ――それは、運命の番との出会い。 圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。 理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!

学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました

こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。

再会した男は、彼女と結婚したと言った

拓海のり
BL
高校時代、森と園部は部活も一緒で仲が良かったが、副部長の菜南子と園部の噂が立ち、森は二人から遠ざかった。大学を卒業して森は園部と再会するが、その指には結婚指輪があった。 昔書いたお話です。ほとんど直していません。お読みになる際はタグをご確認の上ご覧ください。一万五千字くらいの短編です。

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

君と運命になっていく

やらぎはら響
BL
母親から冷遇されている町田伊織(まちだいおり)は病気だから薬を欠かさず飲むことを厳命されていた。 ある日倒れて伊織はオメガであり今まで飲むように言われていたのは強い抑制剤だと教えられる。 体調を整えるためにも世界バース保護機関にアルファとのマッチングをするよう言われてしまった。 マッチング相手は外国人のリルトで、大きくて大人の男なのに何だか子犬のように可愛く見えてしまい絆されていく。

処理中です...