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66 はた迷惑
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胸を騒がせた根源は着信通知だ。公衆電話からかけてきている。
昨今の公衆電話はマイナンバーを提示すると無料で時間制限なく使えるようになった。家族のマイナンバーと電話番号を紐づけておけばかかってきた時にわかるシステムになっているが、この時かけてきた相手は匿名。
と、ふたたび公衆電話から着信。
「もしもし・・・・・・?」
出なければいけないという強い衝動から冬次は応答した。
「よかった。繋がった。俺だ、座間だ」
「連絡よこして大丈夫なのか」
「だから公衆電話からかけてんだよ。緊急事態なんだ。涼くんが逃げた」
「どうしてそんなことになってんだよ。兄貴との関係は良好だったんじゃないのかよ」
「なぜだか急に涼くんの生家が俺らの隠れ家に現れて、こっちで面倒みるとかなんとか出張ってきたんだよ。奈良林のお兄さんが対応してる間に涼くんの姿が消えちまって。その様子だと奈良林のとこには行ってないみたいだな?」
「来てないよ」
これから来る可能性はどうだ。冬次の居場所を探しているとしたら。
「・・・・・・来ないでしょ。俺んとこには」
冬次はため息をつく。
「お前の他に涼くんが頼れる人が外にいるか?」
「わかんないけど、俺も探すよ」
「駄目だ。お前が匿ってんじゃなくてよかったよ。お兄さんがもうすぐそっち行くと思うからさ」
「はぁー? 早く言え!」
「やましいことがなけりゃ平気だろ。思い当たる場所があるなら素直に話せよ」
「はぁ、いやだな」
「涼くんのためだからな。頼んだぞ」
通話が切れた。
とにかく南雲の行方が心配でたまらない。
けれど今は七草とデート中だ。彼のために使う日だと決めてきた。座間にも動くなと言われた・・・・・・。
冬次はスマホをしまうとトイレに寄り、次々と湧きあがる探しにいきたいという衝動を洗い流すように水道水で顔を洗った。
冷静になろう。
冷たい水で頭を冷やし、鏡の前でクッと口角をあげ笑顔を作ってからトイレを出た。
南雲のことはいったん忘れて、七草のもとへ急ぎ足で戻っていたが キッチンカーの四角い車体が見えてきたなと思った時、余計なものを見てしまったせいで冬次の足は止まった。
兄貴がもう冬次の外出先を見つけ出していた。
ストーカー並みのスピードで自分を見つけられるなら南雲のことも瞬時に見つけてみせろよと唾を吐いてやりたくなる。
今回は七草経由で漏れたのだろうが、あまりいい気分じゃない。兄貴と顔を合わせたくなくて、冬次は何も知らないふりをして戻るかこの場を去るかの二択を後者を選び逃げた。
自分も南雲も兄貴の指し図を受ける所有物じゃない。
やっぱり自分は南雲の自由を守ってやるために南雲を探したい。助けば必要な時に彼のそばにいなければ力になってあげられない。南雲は金も連絡手段も持っていないだろう。すでにどこかで困っているかもしれないのだ。
誰に望まれていなくても自分が先に見つける。
自分勝手にそうしてやる。
そこでスマホが鳴った。七草からだ。冬次が戻らないことを不審に思いかけてきたのだ。兄貴からでは警戒されると踏んで。七草は本心で案じてくれているのだろうが、結果的に兄貴と結託した構図になっている今は話せない。
冬次はスマホの電源を落とし、駐車場へ急ぎ走る。すでに兄貴の手がまわっているのではと懸念していたが部下たちに待ち伏せされている様子はなかった。この機を逃してはならない。素顔を隠すように駆け足で駐車場を横切り、車を発車させた。
ハンドルを握りながら南雲の行きそうな場所を考え、最初に思い浮かんだのは藤井が入院中の病院、そして次に藤井家。しかしそのような場所は兄貴にも思いつき、あらかた探し尽くしたにちがいない。
そこにいないとなると、どこへ行った?
もともとオメガとしての開花が遅く、強い抑制剤を飲んでいるとはいえ、オメガの体で街中をうろついているのかと思うと冬次は気が気じゃなかった。
だから、頼む、あそこにいてくれよと一縷の望みを胸にハンドルを切った。
つばめの家に着くと、飛び出すように車をおり、建物を見上げた。
どうかここにうまく隠れていてくれよと、冬次はつばめの家で探索を始める。日が落ちて、建物内はお化け屋敷のようだ。まさか何度も足を運ぶことになろうとは思わなかった。
「あっ」
端から順番に部屋を覗いていき、冬次は声を洩らした。
「なんだあんたか」
壁で丸くなるように南雲が膝を抱えている。暗闇の中、スマホのライトが南雲の顔を照らしだす。警戒した目が冬至だとわかった途端にゆるんだ。
「よっし。いた・・・・・・」
冬次の思惑どおりいてくれたことにガッツポーズがでる。
南雲は着の身着のまま出てきており見たところ所持品はない。
「お金もないのにどうやってここまで来たの?」
「ん」
面倒くさそうに顔をしかめながら、南雲がポケットからクシャクシャの紙幣を出した。
「それ誰から・・・・・・。え、盗んだ?」
「家政婦からもらった」
ぶっきらぼうな返事に冬次は仰天する。
「まさか脅したのか」
「死ね」
南雲に睨まれる。なぜ家政婦が南雲の脱走に手を貸すのか疑問だ。
「家政婦って俺が通ってた時にいた女の人?」
「そうだけど」
冬次は家政婦の顔を思い出してみるが会話らしい会話などしておらずぼんやりした輪郭しか覚えていない。いつも淡々と仕事をこなしていた記憶があり、座間や冬次を避けていた印象だった。しかし特別変わった人じゃなかった。地下室で少年を幽閉するヤバい家と関わりたくない思うのは普通の思考である。
「仲がよかったんだね。知らなかったよ。いつから?」
南雲は喋り飽きたとばかりに目を伏せ、冬次に無言を返した。
冬次の質問には答える気がない。
座間に笑って否定したように、逃げてきた理由が冬次に会うためだとは最初っから期待していなかったものの、こうもつれない態度を取られると落ち込む。
たぶん次に喋りかけてくれる時は辛辣な言葉を吐かれる。
「おっさん、いつまでそこにいんの。僕は人を待ってるから早く帰ってくれない?」
ほらきた。聞き捨てならない。
「誰かに呼び出されたのか?」
「呼び出したのは僕。僕はおっさんとちがってちゃんと考えて行動してるんだって理解した? だからおっさんは帰りなよ」
そうは言われても引き下がれなかった。ここに呼び出したのなら病院を出られない藤井は候補から外れる。
「涼くんが呼び出したのは俺の知ってる人?」
「答えたくない」
「そこをなんとか」
「教えない」
「涼くーん」
「ウザ」
南雲は話してくれそうにない。頼れる人が自分以外にいてその人が来てくれるなら、客観的に考えれば自分でも退散すべきだと思ってはいる。邪魔者にしかなりえない状況だが、冬次は室内に残り、床にどすんと腰を下ろすと胸の前で両腕を組んだ。
直に床の上に腰を据えた冬次を、南雲がありえないものを見る目つきで睨めつけた。
「その人が来るまで待つ」
南雲の口がへの字に歪む。さぁ、暴言でも唾でも吐きかければいい。
「メンタルゴリラ」
南雲がぽつりと呟き、膝を抱えた。続けて「うんこ」と苦虫を噛むように罵倒する。
驚いた冬次は笑いが吹き出すのを堪えられなかった。
「ぶっ、ぶふふっ、どしたの急に年相応になっちゃって」
「うるさい。あんたみたいなの初めてなんだよっ」
「ははーん、なるほど、俺の強さにビビったわけね」
「しつこさにだよ! 少しはへこたれるかイラついて帰るかしろよ、うんこ!」
「まぁ鍛えられてますから」
「鍛えんなっ、あ・・・・・・」
言い返してきながら南雲の視線がドアの方へ流れた。
いつの間にか気づかないうちに女の人が立っている。四十代くらいのスーツを着た女性だ。
「かおる先生」
南雲が正座の姿勢に座り直したので、冬次もつられて居住まいを正した。
「ごめんなさいね。涼さんが楽しそうにお友達と話してるから驚いちゃった」
「ちがうし、こんなおっさん」
否定するのが早い。
「じゃあ彼氏かしら」
「もっとありえないです。僕がそんなの作ると思ってるんですか」
南雲の態度からして余程親しくそれでいて南雲が一目置く間柄。そしてつばめの家が彼らの接点。
冬次は閃きを確かめるため声に出した。
「以前こちらで働いてた方でしょうか?」
女性はトートバッグにしまった名刺入れから中身を冬次に差しだす。
「所長の長埜かおるといいます。施設は別の地域に移設したんですよ」
「そう、でしたか」
名刺を受け取ると、県外の住所と施設名が書いてある。
「〝あかつき園〟ですか。施設の名前を変えられたのですね」
自身が名乗るのを忘れ、思わず口をつく。
「ええ」
長埜は頷いただけだった。
そこに南雲が割って入ってくる。
「かおる先生、あっちで話しましょう。おっさんは帰れよ」
「お、おう」
自分で断言した手前、そうだなと答える他ない。
しかし南雲を残していきたくない。
というのは建前で、除け者にされたくないのが本音。
こうなったらやけっぱちだ。
「あーのぉ・・・・・・あれよ、あー、そうそう、俺この前長埜さんがここで何してるの見たわ」
顔は見てないし明かりがついてるのを目撃しただけだが。
「はぁ?」
冷たい南雲の視線が刺さるが、冬次は長埜がショックを受けていたのに気づいた。そんでにっこり微笑んじゃ駄目でしょ。怪しいの確定。
「私がここへ来るのは閉鎖以来よ」
「そうだよ。時間の無駄だからやめろよおっさん」
いやいや、なんで嘘をついた?
「ええー! だとしたら誰だったんでしょうか。泥棒?」
冬次は大声で騒ぎたて、続ける。
「女性と子供だけだと危ないので話が終わるまで待ってますね。お二人だけで積もる話があるでしょうから俺は部屋の外にいます。俺に遠慮せず部屋を使ってください」
南雲の肩が今にも爆発しそうに震えていた。腕が上がり、中指が浮いたその瞬間。
「し」
「はぁ」
中指が突き立てられるより先に、長埜がため息をついた。
「わかりました。あなたも同席して構いませんよ」
「かおる先生、このおっさんは無視してください」
「大丈夫だからね」
長埜は昔のやり取りが思い浮かぶような優しい諭し方で南雲に笑いかけ、神妙な顔つきを冬次に向けた。
「まさか彼の言葉が現実になるとは思わなかった。あなたがきっとそうなのね」
昨今の公衆電話はマイナンバーを提示すると無料で時間制限なく使えるようになった。家族のマイナンバーと電話番号を紐づけておけばかかってきた時にわかるシステムになっているが、この時かけてきた相手は匿名。
と、ふたたび公衆電話から着信。
「もしもし・・・・・・?」
出なければいけないという強い衝動から冬次は応答した。
「よかった。繋がった。俺だ、座間だ」
「連絡よこして大丈夫なのか」
「だから公衆電話からかけてんだよ。緊急事態なんだ。涼くんが逃げた」
「どうしてそんなことになってんだよ。兄貴との関係は良好だったんじゃないのかよ」
「なぜだか急に涼くんの生家が俺らの隠れ家に現れて、こっちで面倒みるとかなんとか出張ってきたんだよ。奈良林のお兄さんが対応してる間に涼くんの姿が消えちまって。その様子だと奈良林のとこには行ってないみたいだな?」
「来てないよ」
これから来る可能性はどうだ。冬次の居場所を探しているとしたら。
「・・・・・・来ないでしょ。俺んとこには」
冬次はため息をつく。
「お前の他に涼くんが頼れる人が外にいるか?」
「わかんないけど、俺も探すよ」
「駄目だ。お前が匿ってんじゃなくてよかったよ。お兄さんがもうすぐそっち行くと思うからさ」
「はぁー? 早く言え!」
「やましいことがなけりゃ平気だろ。思い当たる場所があるなら素直に話せよ」
「はぁ、いやだな」
「涼くんのためだからな。頼んだぞ」
通話が切れた。
とにかく南雲の行方が心配でたまらない。
けれど今は七草とデート中だ。彼のために使う日だと決めてきた。座間にも動くなと言われた・・・・・・。
冬次はスマホをしまうとトイレに寄り、次々と湧きあがる探しにいきたいという衝動を洗い流すように水道水で顔を洗った。
冷静になろう。
冷たい水で頭を冷やし、鏡の前でクッと口角をあげ笑顔を作ってからトイレを出た。
南雲のことはいったん忘れて、七草のもとへ急ぎ足で戻っていたが キッチンカーの四角い車体が見えてきたなと思った時、余計なものを見てしまったせいで冬次の足は止まった。
兄貴がもう冬次の外出先を見つけ出していた。
ストーカー並みのスピードで自分を見つけられるなら南雲のことも瞬時に見つけてみせろよと唾を吐いてやりたくなる。
今回は七草経由で漏れたのだろうが、あまりいい気分じゃない。兄貴と顔を合わせたくなくて、冬次は何も知らないふりをして戻るかこの場を去るかの二択を後者を選び逃げた。
自分も南雲も兄貴の指し図を受ける所有物じゃない。
やっぱり自分は南雲の自由を守ってやるために南雲を探したい。助けば必要な時に彼のそばにいなければ力になってあげられない。南雲は金も連絡手段も持っていないだろう。すでにどこかで困っているかもしれないのだ。
誰に望まれていなくても自分が先に見つける。
自分勝手にそうしてやる。
そこでスマホが鳴った。七草からだ。冬次が戻らないことを不審に思いかけてきたのだ。兄貴からでは警戒されると踏んで。七草は本心で案じてくれているのだろうが、結果的に兄貴と結託した構図になっている今は話せない。
冬次はスマホの電源を落とし、駐車場へ急ぎ走る。すでに兄貴の手がまわっているのではと懸念していたが部下たちに待ち伏せされている様子はなかった。この機を逃してはならない。素顔を隠すように駆け足で駐車場を横切り、車を発車させた。
ハンドルを握りながら南雲の行きそうな場所を考え、最初に思い浮かんだのは藤井が入院中の病院、そして次に藤井家。しかしそのような場所は兄貴にも思いつき、あらかた探し尽くしたにちがいない。
そこにいないとなると、どこへ行った?
もともとオメガとしての開花が遅く、強い抑制剤を飲んでいるとはいえ、オメガの体で街中をうろついているのかと思うと冬次は気が気じゃなかった。
だから、頼む、あそこにいてくれよと一縷の望みを胸にハンドルを切った。
つばめの家に着くと、飛び出すように車をおり、建物を見上げた。
どうかここにうまく隠れていてくれよと、冬次はつばめの家で探索を始める。日が落ちて、建物内はお化け屋敷のようだ。まさか何度も足を運ぶことになろうとは思わなかった。
「あっ」
端から順番に部屋を覗いていき、冬次は声を洩らした。
「なんだあんたか」
壁で丸くなるように南雲が膝を抱えている。暗闇の中、スマホのライトが南雲の顔を照らしだす。警戒した目が冬至だとわかった途端にゆるんだ。
「よっし。いた・・・・・・」
冬次の思惑どおりいてくれたことにガッツポーズがでる。
南雲は着の身着のまま出てきており見たところ所持品はない。
「お金もないのにどうやってここまで来たの?」
「ん」
面倒くさそうに顔をしかめながら、南雲がポケットからクシャクシャの紙幣を出した。
「それ誰から・・・・・・。え、盗んだ?」
「家政婦からもらった」
ぶっきらぼうな返事に冬次は仰天する。
「まさか脅したのか」
「死ね」
南雲に睨まれる。なぜ家政婦が南雲の脱走に手を貸すのか疑問だ。
「家政婦って俺が通ってた時にいた女の人?」
「そうだけど」
冬次は家政婦の顔を思い出してみるが会話らしい会話などしておらずぼんやりした輪郭しか覚えていない。いつも淡々と仕事をこなしていた記憶があり、座間や冬次を避けていた印象だった。しかし特別変わった人じゃなかった。地下室で少年を幽閉するヤバい家と関わりたくない思うのは普通の思考である。
「仲がよかったんだね。知らなかったよ。いつから?」
南雲は喋り飽きたとばかりに目を伏せ、冬次に無言を返した。
冬次の質問には答える気がない。
座間に笑って否定したように、逃げてきた理由が冬次に会うためだとは最初っから期待していなかったものの、こうもつれない態度を取られると落ち込む。
たぶん次に喋りかけてくれる時は辛辣な言葉を吐かれる。
「おっさん、いつまでそこにいんの。僕は人を待ってるから早く帰ってくれない?」
ほらきた。聞き捨てならない。
「誰かに呼び出されたのか?」
「呼び出したのは僕。僕はおっさんとちがってちゃんと考えて行動してるんだって理解した? だからおっさんは帰りなよ」
そうは言われても引き下がれなかった。ここに呼び出したのなら病院を出られない藤井は候補から外れる。
「涼くんが呼び出したのは俺の知ってる人?」
「答えたくない」
「そこをなんとか」
「教えない」
「涼くーん」
「ウザ」
南雲は話してくれそうにない。頼れる人が自分以外にいてその人が来てくれるなら、客観的に考えれば自分でも退散すべきだと思ってはいる。邪魔者にしかなりえない状況だが、冬次は室内に残り、床にどすんと腰を下ろすと胸の前で両腕を組んだ。
直に床の上に腰を据えた冬次を、南雲がありえないものを見る目つきで睨めつけた。
「その人が来るまで待つ」
南雲の口がへの字に歪む。さぁ、暴言でも唾でも吐きかければいい。
「メンタルゴリラ」
南雲がぽつりと呟き、膝を抱えた。続けて「うんこ」と苦虫を噛むように罵倒する。
驚いた冬次は笑いが吹き出すのを堪えられなかった。
「ぶっ、ぶふふっ、どしたの急に年相応になっちゃって」
「うるさい。あんたみたいなの初めてなんだよっ」
「ははーん、なるほど、俺の強さにビビったわけね」
「しつこさにだよ! 少しはへこたれるかイラついて帰るかしろよ、うんこ!」
「まぁ鍛えられてますから」
「鍛えんなっ、あ・・・・・・」
言い返してきながら南雲の視線がドアの方へ流れた。
いつの間にか気づかないうちに女の人が立っている。四十代くらいのスーツを着た女性だ。
「かおる先生」
南雲が正座の姿勢に座り直したので、冬次もつられて居住まいを正した。
「ごめんなさいね。涼さんが楽しそうにお友達と話してるから驚いちゃった」
「ちがうし、こんなおっさん」
否定するのが早い。
「じゃあ彼氏かしら」
「もっとありえないです。僕がそんなの作ると思ってるんですか」
南雲の態度からして余程親しくそれでいて南雲が一目置く間柄。そしてつばめの家が彼らの接点。
冬次は閃きを確かめるため声に出した。
「以前こちらで働いてた方でしょうか?」
女性はトートバッグにしまった名刺入れから中身を冬次に差しだす。
「所長の長埜かおるといいます。施設は別の地域に移設したんですよ」
「そう、でしたか」
名刺を受け取ると、県外の住所と施設名が書いてある。
「〝あかつき園〟ですか。施設の名前を変えられたのですね」
自身が名乗るのを忘れ、思わず口をつく。
「ええ」
長埜は頷いただけだった。
そこに南雲が割って入ってくる。
「かおる先生、あっちで話しましょう。おっさんは帰れよ」
「お、おう」
自分で断言した手前、そうだなと答える他ない。
しかし南雲を残していきたくない。
というのは建前で、除け者にされたくないのが本音。
こうなったらやけっぱちだ。
「あーのぉ・・・・・・あれよ、あー、そうそう、俺この前長埜さんがここで何してるの見たわ」
顔は見てないし明かりがついてるのを目撃しただけだが。
「はぁ?」
冷たい南雲の視線が刺さるが、冬次は長埜がショックを受けていたのに気づいた。そんでにっこり微笑んじゃ駄目でしょ。怪しいの確定。
「私がここへ来るのは閉鎖以来よ」
「そうだよ。時間の無駄だからやめろよおっさん」
いやいや、なんで嘘をついた?
「ええー! だとしたら誰だったんでしょうか。泥棒?」
冬次は大声で騒ぎたて、続ける。
「女性と子供だけだと危ないので話が終わるまで待ってますね。お二人だけで積もる話があるでしょうから俺は部屋の外にいます。俺に遠慮せず部屋を使ってください」
南雲の肩が今にも爆発しそうに震えていた。腕が上がり、中指が浮いたその瞬間。
「し」
「はぁ」
中指が突き立てられるより先に、長埜がため息をついた。
「わかりました。あなたも同席して構いませんよ」
「かおる先生、このおっさんは無視してください」
「大丈夫だからね」
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