未来から来た天才オメガ研究者に恋したアルファ高校生の話

豆ぱんダ

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67 南雲のこと

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「まだ半信半疑だけれど」

 探るように見られたので、冬次はわけもなく「すいません」と謝る。
 わけならあるか。鎌をかけたらまさかの仰天情報が飛び出してきた。

「ふぅ、私はあなたがおっしゃるとおり時々つばめの家に来てた。そうするように頼まれてたから」

 冬次は息を呑む。

「だ、誰に・・・・・・ですか」
「信じてもらえないと思いますが今よりもっと大人になった涼さんです」
「はっ」

 歓喜のため声にならない声しか出せなくなった冬次の感極まった反応に、長埜が自身の胸を押さえ目を閉じた。

「信じてくれたみたいね」
「はい、もちろん信じます。彼は、南雲さんは長埜さんに会いにきたんですね? 南雲さんはなんて?」
「母親が大きなお腹を抱えて逃げ込んでくるはずだから助けてほしいと頼みに」
「涼くんのお母様は存命でいらっしゃるんですか⁈」

 心臓の鼓動がどくりと跳ねる。だがこれに南雲が押しのけるように言葉を吐いた。

「死んでるよ」
「あ、涼くん・・・・・・」
「南雲南雲って僕はここにいるんだけど。かおる先生に教えてほしかったことは母さんの話じゃない」

 長埜には優しく冬次だけが睨まれた。

「ごめんなさいね、涼さんの宝箱に関係するのよ。聞きたかったのよね?」

 長埜が南雲の手を両手で包みこむ。南雲は無言で手を振りはらわないことで続きを促した。

「宝箱の中身を回収したのは私。お願いされたとおりやったのよ。涼さんは確信を得たから連絡をくれたんでしょう?」

 話の行方が掴めなくなった。冬次は眉をひそめる。

「何が入っていたんですか」
「母さんの手紙」

 答えたのは南雲だった。

「手紙だけ?」

 南雲がだからなんだよとガンつけてくる。
 冬次はそのとおりなのだと解釈したが手紙に書かれていたことが気になった。


「涼くんは子供の時から大人びてたんだね。俺だったらおもちゃとか当時好きだった戦隊シリーズのシールとか、綺麗な石とか入れてたな」
「そういえば涼さんは赤ちゃんの頃から幼児向けの玩具にあまり興味を持たなかったわね。好きだったのは私が弾くピアノと、お母さんの遺書だけを大切に持ってた」

 すると南雲がか細い声で遮る。

「やめてください。昔のことは」

 どうやら照れているらしい。

「ごめんなさいね」

 長埜が謝ると、南雲は目を伏せたまま首を横にふった。

「別にそんな怒ってるわけじゃ」
「お喋りが過ぎたことだけじゃないの。お母さんの遺書ね、あれは私がそう伝えて渡したんだけれど、実はお母さんは書いた手紙は別にあったのよ。涼さんに見せたのは大人になった涼さんから子供の涼さんに向けた手紙。騙してしまって本当にごめんなさい」

 深々と頭を下げる長埜に南雲は黙りこみ、伏せた目を上げた時、からっぽの宝箱を覗いた時と同じような顔をした。

「・・・・・・知ってた。母さんが書いたもんじゃないってことは感じてたよ」

 はっきりした声で言う。

「そうだったのね。全部彼の言ったとおりだわ。涼さんがいずれ私に連絡をとるだろうことも予測してた」

 長埜が腰を折ったまま声を震わせた。

「そりゃ自分自身の思考回路だもんね。かおる先生のことだから、母さんに事前に話して了承してもらってたんでしょ?」

 長埜は頭を上げると、こくりとうなずき、南雲の手に小綺麗で白い封筒を握らせた。

「こっちが本物のお母さんの遺書よ。私の前に現れた涼さんはこれから涼さんがしようとしていることその結果について私に明かし、私は明かされた未来をあなたのお母さんに包み隠さず話したわ。後はあなたのお母さんの判断に託したのよ」

 南雲はぼんやり手を見つめ、封筒を開けようとしない。

「読まないの?」

 冬次は訊ねる。

「実感がわかないんだよ。思い出が少ないから、子供ん時はただの手紙を大事にしてたけど今は」
「今さらお母さんの言葉なんていらないって?」

 南雲の片眉がつり上がった。
 ムッとした顔をして素直じゃない。もう大事じゃないなんて言うが律儀に覚えていたから宝箱を掘り起こしたくせに。

「宝箱に入れた手紙には何が書いてあったんだ?」
「独りになる僕の心配ばかりだった。僕がコロッと騙されるよう母が書きそうなことに寄せたんでしょ。〝いつかあなたの頭で解決できないぶ厚い壁にぶちあたったら、この手紙を思い出してほしい。それまでは誰にも見られないように隠しておいて。タイムカプセルにして埋めちゃうんだ〟」

 南雲が手紙の中身らしい文章をそらんじた。
 当時の幼い頭でどれくらい疑っていたかわからないが、一応は母親の言いつけどおりにした南雲の小さな背中を想うと胸が締めつけられた。
 冬次はつぶやく。

「南雲さんは残された時間でこれから生まれる自分がふたたび長埜さんに会いに行けるよう仕掛けをしてたのか」

 つばめの家を離れなければならない未来を知っていたから。
 しかしお母さんの遺書をもらうためにという目的にはしっくりこない。まどろっこしいだけだ。

「読んでも読まなくてもどっちでもいいのよ。涼さんがゆっくり考えればいいの」

 長埜が南雲に力強く諭す。そろそろとうなずく南雲を見やり、冬次はふと思った。

「長埜さんは大人の彼が現れた時、すぐに信じたんですか」
「だって母親にそっくりだったもの。涼さんのお母さんは涼さんと同じ男性体のオメガ。私たちは幼馴染だったのよ」

 遠い昔を懐かしみ、にっこり笑った長埜の目尻には涙が光っていた。
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