Ω×Ω/弱虫だったオメガが異世界からきた後天性オメガに恋して好きな人のために世界を変えちゃうかもしれないっていう話。

豆ぱんダ

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第一章『放り込まれてきた堕天使』

33 ハワードの見解

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「ハワード様、それにジーンとフィルも。寮の外にまで足を運んでいただくなんて、どうされましたか。用事があれば僕の方から出向きましたのに」
「すみませんね。アルトリアさんの一件を知っているメンバーだけにお伝えしたいことがあります。そのためにご友人に声をかけさせてもらったのです」

 来訪に気づいた琥太郎とジェイコブが、馬を降りて駆け寄ってくる。

「では揃ったみたいですので早速。このベンチでは席が足りないのであちらへ」

 ハワードが皆に観覧席の方へ座るよう促し、全員が従った。

「教えてください、僕が狙われる理由がわかったんですよね?」

 ジョエルは場所を移して早々に待ちきれずに問う。
 ハワードが姿を見せた時点でその話であると検討がついていた。

「ええ」

 頷いたハワードは眉間に皺を刻んだ。憂いを帯びた表情で口を開く。

「私の見解ではアルトリアさんをシスターにさせたくない何者かの仕業であると考えています」

 ハワードの考えではテストを裏で書き換えて成績を落とさせたのは、ジョエルをシスターにさせないことが目的。シスターになる道を閉ざされたジョエルはスヴェア皇国のオメガの責務を果たすため、卒業後は何処かしらの家に必ず嫁ぐ。
 ジェイコブが反応早く額を押さえる。

「ジョエルを欲しがっている者がいるということですか」
「そうです。しかしどんなに手に入れたくともアルトリアさんが学園に籠っているうちは不可能ですから」
「ひでぇな」

 琥太郎も舌打ちをする。ジョエルは怒ってくれる友人たちに慰められたが、訂正しておかなければならない。

「僕がというより、三大貴族家の血が欲しいのかも」
「それもあるでしょう。学園の人間を買収できるだけのある程度の金を持ち、フローレス侯爵家に人脈を作りたい人物で犯人象を絞り込めます。私は引き続き主犯格探しに尽力しますので、皆さんはアルトリアさんとできるだけ行動を共にし、彼をひとりにしないよう気をつけてくださいね。我々に狙いが露呈した以上、今後は何をしてくるかわかりませんから」

 全員が受諾すると、ハワードはジョエルひとりに話を戻した。

「アルトリアさんは再試験の準備をしておくようにと学園長から伝言です」
「日取りが決まったんですか?」
「はい、二日後、休日明けに行います。アルトリアさん用に難易度が上がるそうですよ、油断しないで臨んでくださいね」
「わかりました」

 琥太郎を始め全ての目が同情的に変わったものの、ジョエルは気に留めない。正しく採点してもらえるのならば、多少難しいテストくらいどうとでもなる。
 襲ってこないテスト用紙よりも、いつ現れるか読めない刺客の方が恐ろしくてジョエルは気が重くなった。



 × × ×



 休日の残り二日、ジョエルはテスト勉強を名目に寮室に篭ることにした。休日は朝礼も休み。監督生の見まわり当番はハワードが調整してくれ入っていない。自分が何処にも行かなければ、友人たちにかける迷惑は最小限で済む。
 横に椅子をつけた琥太郎から、至近距離で喧嘩を売るよう見られていること以外はまぁまぁ自分の考えた理想的な過ごし方だ。

「落ち着かないんだけど」

 そう言いながらもジョエルはペンを走らせる手を止めない。

「腹減ってないの?」

 まるで噛み合わない返答をされ、ペン先がノートの表面にぐりんと食い込んだ。

「コタロー・・・今は僕を見張っててくれなくても平気だよ? せっかくの休日なんだし好きに過ごしてよ」
「ならメシ、昼を食べ損ねてる」
「僕は極力外に出る行為は避けたいから、ひとりで食べておいで。ごめんね」
「ふぅん、わかった」

 最後は予想に反してスムーズに会話がまとまった。
 ほっとしていると琥太郎が立ち上がる。

「行ってくる」
「あ、いってらっしゃい」

 琥太郎は寮室を出て行った。カフェテリアに向かったのだろう。

(食後は談話室にでも行くのかな?)

 談話室は通りがかりにあるので、中でお喋りしている学園生たちがいれば、そちらに引き寄せられて行くだろう。

(これでいい。集中しよ)

 ジョエルは一度大きく伸びをした。
 ご飯を食べ損ねたと言えば、近頃は髪を切り損ねていて少し鬱陶しい。首まわりにかかった金髪を手で掬って後ろでくくり、気持ちを入れ替えると再び机に向かった。
 ジョエルの意識は瞬く間に教科書とノートに吸い込まれる。室内が静かだと、カリカリとペンが走る忙しない、けれどささやかな音が耳に届いて心地いい。
 そのまま数時間ほど没頭していた、やはり琥太郎は別の場所で自由に過ごしているみたいだ。
 何故なら寮室内はずっと静かなままなのだ。
 ———カリカリ、カリカリ、パラ・・・。ペンの音、ページをめくる音。それらのみがジョエルの世界を占領し、時間を埋め尽くす。

「お前さ、無防備じゃね?」

 忽然と割って入ってきた声。ジョエルを包んでいた音が止まる。

「いつからいたの?!」

 琥太郎がドアに寄りかかって自分のうなじを掻いている。
 手に持っているのはカフェテリアのトレー。
 載せられた皿にはサンドイッチとドーナツ、果実水のグラスの氷はすっかり溶けて、周囲に水滴が溜まっていた。

「ずっとドアのところで見てたの? 悪趣味」
「うっせ!」

 苛立ったように琥太郎が歩いてくる。
 目の前に立つと、自身のうなじからジョエルの後頭部に手をまわした。手のひらで押しつぶされた髪がほどけ、一筋の金糸が首筋に垂れる。

「・・・・・・コタロー、何を」
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