ラブドール

倉藤

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軟禁調教生活のはじまり

27 駄目だとわかっているのに

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 入浴時間は苦心したものの、ロマンの機械的な態度と、本格的な幽霊話に救われた。
 譲はすぐに寝ると言ってロマンを部屋から追い出し、ベッドに潜り込んだ。身体が火照っているのは湯のせいか。違うに決まっている。

「くそ・・・・・・っ」

 落ち着いて寝ていられなくて、夕食に薬を仕込まれたのかもしれないと考えてしまった。
 もしかしたらホワイトムスクの匂いそのものに、理性を惑わす効果があったのかもしれない。
 けれど、そんなものは馬鹿げた思い込みだ。
 ヴィクトルがいない日にロマンがそれを行う動機はなく、匂いだけで人間の身体をおかしくさせる魔法のような代物があるなら、軍兵器に取り入れられて拷問用で使用されているはずだ。
 譲は熱を持った下半身を持て余しながら、うつ伏せになった。
 身体とシーツの間に挟まれたペニスは嫌というほど固くなって膨らんでいる。

「ぅう、触りたいっ」

 譲は若く健康な男なので、定期的に処理が必要になるのは当たり前といえば当たり前の反応である。
 気持ち良かった時の経験を思い出して勃起してしまうのも正常な男子である証拠。
 問題は、今そうなってしまったことだ。
 ヴィクトル不在の今。
 譲は自慰を禁止されている。だから触りたくても触れない。発狂したいくらいに辛いのに、性器をいっぱい擦って、扱いて、精液を吐き出してすっきりさせることができないのだ。

「酷い。こんな・・・辛い」

 心が揺れた。
 ヴィクトルはああ言って脅したが、ひとりで出したってわかりっこない。どうやって調べるというんだ。
 不安と興奮で板挟みになった股間をスーツに擦りつけると、ズボンの中ではち切れそうな先端が痛いほど気持ち良かった。
 譲は迷いながらも腰がカクカクと動いて止まらなかった。
 このまま射精してしまっても、きっと気づかれない。
 気づかれたとしても、寝ているうちに起きたことだと説明しよう。ヴィクトルも同じ男ならわかってくれる。淫らな夢を見てしまったのだと信じて疑わないだろう。

「は、ぁ・・・、くっ」

 でもあと少し。あと少しの刺激が足りなかった。
 譲がズボンに手を入れると、すでに先っぽはぬかるんでいた。くびれをキュッと握り、亀頭に向かって扱く。
 腰が震えるくらい気持ち良くて、譲は唇を噛んで射精を耐えた。

「あ、はっ、ぁ、ぁ・・・・・・」

 声をひそめて禁じられた行為をしている。その背徳感すらも興奮材料になってしまい、譲の手はくちゅくちゅと水音を立てて快感を貪った。

「ぁ、出る、イク」

 我慢がピークに達した時、ズボンの中で耐えていた熱が弾けた。
 複数回ビクビクと腰をひくつかせて、譲はペニスの先端から飛沫を放つ。

(公爵に隠れてするの、やば、きもちい———・・・・・・) 

 落ち着かなかった下半身の疼きが抜けて、全身が心地の良いだるさに包まれている。
 譲は呼吸を整えながら寝返りを打った。
 ズボン、特に下着はぬるぬるして最悪な感触だけれど、朝には乾いていると思うし、たくさん汗をかいたことにしてロマンに着替えを準備して貰えばいい。
 脱力するとたちまち眠たくなり、譲は目を閉じた。


 ◇◆


 また犬が唸って暴れている?
 うるさい。
 夢から覚めないまま譲は耳を塞ごうとした。
 だができない。腰の上に重たいものが乗っていた。

(重い、邪魔だ)

 今度は手を動かそうとして阻まれる。身動きが取れないのは、手脚を短い鎖で拘束されているからだ。

(なんだよ・・・くそが)

 嫌な夢だ。さっさと覚めたい。犬の鳴き声はここ最近聞き慣れている。現実のものだろう。それなら自分は半分は覚醒しているのだ。
 譲はもがきたくて、力を入れて腕を動かそうと試みる。

「っ、くっ」

 拘束は頑丈で声が漏れる。
 耳に響くのはリアルな鎖の音。夢にしては、音も感覚も鮮明に感じた。
 譲は夢の中で冷や汗をかいた。

(夢じゃない)
 
 じっとりと濡れた額を拭われる。
 手のひらは本物だ。

「公爵・・・なにして?」

 譲は完全に覚醒した頭で目を開けた。

「おはよう譲」

 ヴィクトルは譲の三肢を拘束し、腰を跨いで上に乗っかっている。
 
「・・・怒っていますよね」
「思い当たることがあるのかい? 譲が敬語を使う時は、身を守るための咄嗟の行動だと思うけれど、私に怖いことをされる自覚があるのかな?」
「いや、その」
 
 昨晩約束を破って今朝タイミング良く帰ってくるなんて、あるだろうか。
 見張っていなければ無理だろう・・・。

「俺を、試した? ずっと見てた?」
「そうだとして、譲は慌てるようなことをしていたの? この世の終わりみたいな顔して」

 ヴィクトルは依然として譲の上に居座り、見下ろしながら微笑んだ。

「素直に白状するなら許してあげようか」
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