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◆第一話◆

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「さようなら」

 その一言で全て終わった。呆気なさ過ぎて、状況を理解するのに一日を費やしたほどだ。付き合った期間は二年とちょっと。この先もずっと続くんだと思っていた。
 結婚という明確なゴールが無かったとしても、生涯を終えるその時まで傍で支え合って生きていきたいと、そんな未来を描いていた。君は最愛のパートナーだった・・はずなのに。
 緒方 裕臣オガタ ヒロオミ、先月四十歳の誕生日を迎えた。誕生日の日はひと回り近く歳下の恋人、須藤 祥太スドウ ショウタに心ゆくまで祝ってもらい、そして愛された。皮肉にも、二人が別れるに至ったのはその後すぐ。何度も愛し合った余韻がまだ身体に残っていて、未だにジクジクと下半身が熱くなる。寒々しい部屋で一人、自身を慰めるたびに、虚しさと悲しみで心がいっぱいになる。
 彼は同じ不動産会社の支店に勤める後輩で、直接の指導係ではなかったが、なんせ狭い職場だ、数少ない喫煙者同士という事もあり、仲が深まるのに時間はかからなかった。
 自身のセクシャリティーを暴露し合ったのは、三度目の飲みの席。その頃にはすでに祥太に対して恋愛感情を抱いていて、酔いが回った勢いでうっかり『ゲイ』なんだと口走ってしまったのだ。期待などしていなかったし、共に仕事が出来ればそれだけで満足していた。
 だが予想外に、俺の話を聞いた祥太の顔は真っ赤に染まっていて、まさかと思ったら、『俺もそうなんです』と、『ずっと緒方さんが好きでした』と、告白をされる結果となった。
 入社三年目にして営業成績トップの我が支店きってのエース。常にフレッシュ感漂う、爽やかなルックス。年相応に見られないんだと愚痴をこぼしていたけれど、ビジネスシャツの襟元をゆるめながら汗を拭う姿は、たまらなく色っぽくて男らしいと密かに思っていた。何事にも真摯な姿勢で取り組む彼は、男女問わず、どんな相手にも可愛がられる存在だった。
 セックスも同様にとても健気で優しかった。それでいて逞しい彼の雄に貫かれる瞬間はいつも最高だった。並以上の大きさの彼のモノは、刺激されたことの無い、奥の奥まで届いてしまう。そこをこじ開けるように下から突き上げられると、いつもあっという間に果ててしまっていた。
 心地よい律動と情熱的なキスの嵐、祥太とのセックスは間違いなく『幸せ』と呼べるひと時であった。何一つ、不満など感じていなかった。不満な訳ではなかった。けれど。
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