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仲神舜一の場合
☆1
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僕は、そよ風から季節の移ろいを感じていた。冬が過ぎれば春になる。
新学年に上がり親友の小山勇治と一緒になった。そう、僕は勇治が喜ぶべきだと思っていた。しかも勇治の場合、彼女の姫岡綾香まで一緒のクラスになっていた。
当然のように、目の前で毎日のように二人はイチャイチャする。それを顔では笑いながら、複雑な思いで見守っていた。
ただ、今は野郎二人なので、勇治はスマホゲームに夢中だった。そのゲームは、パズル&ダンジョンと呼ばれる物で、パズルとオセロとおはじきが融合した何でもありの内容だった。
複雑怪奇な設定が受けて、長年に渡り愛されているゲームだった。
だが、勇治がパズダンに割く時間は異常で、通学途中にも関わらず、スマホから目を離さない。
僕、仲神舜一は、小山勇治に呆れていた。
「歩きスマホは危ないって知ってた?」
勇治に注意するが、彼は話を聞いていない。夢中で画面を見続けていた。
勇治とは、小学校の時からの付き合いで、昔は公園で駆け回ったりしていた。
勿論、今は高校生なので、無闇に駆け回りたい訳ではないが、ゲームばかりではつまらないと思っている。
僕は、勇治と違ってスマホのゲームをした事がない。
「勇治、聞いてる?」
勇治は、煩そうに返事をした。
「いま大事な所だから!」
眉間に皺がより、凄い形相で睨む。
僕は、仕方なく黙る事にした。
暫く二人とも無言になる。何となく気まずい。勇治は真剣な顔でスマホを睨んでいた。やがてキリが付いたのか、勇治が僕の呼び掛けに応じた。
「わるい、もう少しでクリアできそうだったんだ。けっきょく駄目だったけど……」
僕は、ゲームに対する勇治の真剣さに呆れていた。思わず、からかいたくなる。
「なに? お前はプロでも目指している訳?」
「プロって何だよ! ただ、欲しいキャラが有るんだよ」
「へぇ」
「なに、舜一、もしかして知らねぇの?」
「何を?」
「パズダンの超レアモンスター“バットマン”」
「何、試験に出るとか?」
「ちげぇよ、このモンスターは、指定した相手を殴り殺してくれるんだよ」
「ゲームのモンスターが敵を攻撃するのは当たり前だろ?」
「ちげぇよ、リアルでマジで物本の人間を攻撃するんだよ!」
僕は、勇治の言葉が信じられなかった。
「おいおい、子供かよ? ゲーム画面からモンスターが飛び出して人を襲うのか? 貞子かよ! スマホから出るんじゃ、手乗りモンスターだな」
僕は、勇治の言葉を真に受けない。
すると、勇治は哀れむような目で僕を見ていた。
「この話を知らないティーンが居たとはな? 何処のガラパゴス郡ヘビ村出身だよ。パズダンは、数年前から呪われたゲームなんだぜ。まず、運営している所がない」
「じゃぁ、何処が配信や管理をしているんだよ」
「悪魔じゃねぇの? とにかく、開発元で運営していたスタッフは、全て撲殺された。ニュースにもなった事は、YouTubeで見た。その後も、謎の撲殺事件は続いているんだぜ」
僕は、ある理由から勇治の話に惹かれていた。
「やろうかな……。パズダン」
噂が気休めなのは解っていたが、それに頼らざるを得ない程、今の僕は追い詰められてもいた。
「舜一、やろうぜ。バットマンを取得したスマホは、最低でも一千万で売れるぞ。闇の買い取り業者が居るんだよ。しかも行為自体は合法だから、捕まる心配はない」
僕は、人の生き死にを金に換算する勇治に呆れていたが、彼の事情も知っているので、何も言えなかった。
勇治の家は、お父さんが働けなくなり大変な状態だった。勇治は詳しい事情を言おうとしないが、何となく気付いていた。
さて、それぞれの家に帰る。
勇治はパズダン三昧な上、空いた時間はバイトに行くから放課後も忙しい。
一方の僕は、嫌な家に帰る。
「ただいま」
当然のように返事がない。
玄関に並んだ靴の様子から、母とアイツが居る事は解っていた。
存在を誇示するように物音でも立てようか? とも思うが、かえって虚しくなる気がした。
自分の部屋へ通じる階段の手前に居間があり、少し物音がした。
僕を誘うように襖が少し開いている。
そっと覗いて見ると、僕の野暮な行為を咎めるように般若が睨んでいた。
そうは言っても、鬼が居る訳ではなく、背中に描かれた絵だった。
つまり刺青で、ギョロリと睨みを効かせている。汗ばんだ鬼が上下に動き、母を女にする。
僕は、日の有る内からアイツと母さんがやっている事に嫌悪感を覚えた。
やりきれない思いを胸に、二階へ上がる。
僕は、部屋へ入っても気持ちが動揺していた。
勉強どころか、漫画すら読む気にならない。
「本当に、パズダンを始めるか」
そんな気になった。
スマホを取り出し、パズル&ダンジョンを検索する。
おそらく、正規のストアからは落とせないと思っていたのだが、大手の有名ストアからも落とせる事が解った。
「なんだ、安心じゃん」
僕は、勇治の話がただの都市伝説だと確信した。そんな危ない物を、公のストアが提供する筈がない。
早速ダウンロードをする。
登録名は、いぬがみ。
最初に選ぶ属性は火。
スタート。
初回にくじ引きで、モンスターが貰えるらしい。
五ヶ所あるアミダくじの出発点から、一ヶ所を選びスタートする。
左端が選ばれ、モンスターが出現した。
(超激レアモンスター バットマン)
正直な話、かなり驚いた。いきなり凄いのが出てしまった。
勇治が喉から手が出るほど欲しがっていたキャラが、初回で出たらしい?
新学年に上がり親友の小山勇治と一緒になった。そう、僕は勇治が喜ぶべきだと思っていた。しかも勇治の場合、彼女の姫岡綾香まで一緒のクラスになっていた。
当然のように、目の前で毎日のように二人はイチャイチャする。それを顔では笑いながら、複雑な思いで見守っていた。
ただ、今は野郎二人なので、勇治はスマホゲームに夢中だった。そのゲームは、パズル&ダンジョンと呼ばれる物で、パズルとオセロとおはじきが融合した何でもありの内容だった。
複雑怪奇な設定が受けて、長年に渡り愛されているゲームだった。
だが、勇治がパズダンに割く時間は異常で、通学途中にも関わらず、スマホから目を離さない。
僕、仲神舜一は、小山勇治に呆れていた。
「歩きスマホは危ないって知ってた?」
勇治に注意するが、彼は話を聞いていない。夢中で画面を見続けていた。
勇治とは、小学校の時からの付き合いで、昔は公園で駆け回ったりしていた。
勿論、今は高校生なので、無闇に駆け回りたい訳ではないが、ゲームばかりではつまらないと思っている。
僕は、勇治と違ってスマホのゲームをした事がない。
「勇治、聞いてる?」
勇治は、煩そうに返事をした。
「いま大事な所だから!」
眉間に皺がより、凄い形相で睨む。
僕は、仕方なく黙る事にした。
暫く二人とも無言になる。何となく気まずい。勇治は真剣な顔でスマホを睨んでいた。やがてキリが付いたのか、勇治が僕の呼び掛けに応じた。
「わるい、もう少しでクリアできそうだったんだ。けっきょく駄目だったけど……」
僕は、ゲームに対する勇治の真剣さに呆れていた。思わず、からかいたくなる。
「なに? お前はプロでも目指している訳?」
「プロって何だよ! ただ、欲しいキャラが有るんだよ」
「へぇ」
「なに、舜一、もしかして知らねぇの?」
「何を?」
「パズダンの超レアモンスター“バットマン”」
「何、試験に出るとか?」
「ちげぇよ、このモンスターは、指定した相手を殴り殺してくれるんだよ」
「ゲームのモンスターが敵を攻撃するのは当たり前だろ?」
「ちげぇよ、リアルでマジで物本の人間を攻撃するんだよ!」
僕は、勇治の言葉が信じられなかった。
「おいおい、子供かよ? ゲーム画面からモンスターが飛び出して人を襲うのか? 貞子かよ! スマホから出るんじゃ、手乗りモンスターだな」
僕は、勇治の言葉を真に受けない。
すると、勇治は哀れむような目で僕を見ていた。
「この話を知らないティーンが居たとはな? 何処のガラパゴス郡ヘビ村出身だよ。パズダンは、数年前から呪われたゲームなんだぜ。まず、運営している所がない」
「じゃぁ、何処が配信や管理をしているんだよ」
「悪魔じゃねぇの? とにかく、開発元で運営していたスタッフは、全て撲殺された。ニュースにもなった事は、YouTubeで見た。その後も、謎の撲殺事件は続いているんだぜ」
僕は、ある理由から勇治の話に惹かれていた。
「やろうかな……。パズダン」
噂が気休めなのは解っていたが、それに頼らざるを得ない程、今の僕は追い詰められてもいた。
「舜一、やろうぜ。バットマンを取得したスマホは、最低でも一千万で売れるぞ。闇の買い取り業者が居るんだよ。しかも行為自体は合法だから、捕まる心配はない」
僕は、人の生き死にを金に換算する勇治に呆れていたが、彼の事情も知っているので、何も言えなかった。
勇治の家は、お父さんが働けなくなり大変な状態だった。勇治は詳しい事情を言おうとしないが、何となく気付いていた。
さて、それぞれの家に帰る。
勇治はパズダン三昧な上、空いた時間はバイトに行くから放課後も忙しい。
一方の僕は、嫌な家に帰る。
「ただいま」
当然のように返事がない。
玄関に並んだ靴の様子から、母とアイツが居る事は解っていた。
存在を誇示するように物音でも立てようか? とも思うが、かえって虚しくなる気がした。
自分の部屋へ通じる階段の手前に居間があり、少し物音がした。
僕を誘うように襖が少し開いている。
そっと覗いて見ると、僕の野暮な行為を咎めるように般若が睨んでいた。
そうは言っても、鬼が居る訳ではなく、背中に描かれた絵だった。
つまり刺青で、ギョロリと睨みを効かせている。汗ばんだ鬼が上下に動き、母を女にする。
僕は、日の有る内からアイツと母さんがやっている事に嫌悪感を覚えた。
やりきれない思いを胸に、二階へ上がる。
僕は、部屋へ入っても気持ちが動揺していた。
勉強どころか、漫画すら読む気にならない。
「本当に、パズダンを始めるか」
そんな気になった。
スマホを取り出し、パズル&ダンジョンを検索する。
おそらく、正規のストアからは落とせないと思っていたのだが、大手の有名ストアからも落とせる事が解った。
「なんだ、安心じゃん」
僕は、勇治の話がただの都市伝説だと確信した。そんな危ない物を、公のストアが提供する筈がない。
早速ダウンロードをする。
登録名は、いぬがみ。
最初に選ぶ属性は火。
スタート。
初回にくじ引きで、モンスターが貰えるらしい。
五ヶ所あるアミダくじの出発点から、一ヶ所を選びスタートする。
左端が選ばれ、モンスターが出現した。
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