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仲神舜一の場合
☆4
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僕は気を取り直すと、二点目の疑問を聞く。
「この学校にバットマンの被害者が居るのかい?」
「佐藤美咲の事件を知らねぇ?」
勇治の言う事件は、僕も知っていた。帰宅中の女子学生が顔面を潰された悲惨な事件で、クラスは違うが同学年の訃報にショックを受けた。
「綾香は美咲と友達だったよな」
勇治の振りに、綾香は頷いた。彼女としてはトラウマになっている事件なので、複雑な表情をしている。
僕は、綾香が落ち込んでいる姿を思い出し、胸が痛んだ。大切な人を奪われる喪失感は、近親者の死で経験している。
「じゃ、美咲はバットマンに殺されたのか?」
僕の質問に勇治は真剣に答えた。
「噂ではな。うちの学校の裏サイト、あっ、斎藤先生は関係ないぞ」
勇治が僕をからかう。
「それくらい知っているよ!」
「いや、舜一は疎いからな」
僕は、勇治が悪のりし過ぎだと思っていた。先ほどの敬語が嘘のよう。だが、それは勇治も実際の所はバットマンを信じていない事を意味している。おそらく、自分が対象になるのが気味悪いだけだったのだろう。
「勇治、それで裏サイトウがどうした?」
「ああ、裏サイトに事件が起きる三日前に予告が有ったんだ。掲示板に三日後に美咲の顔を壊す。そんな書き込みがあった。それで、凶器は鈍器による殴打だろ。バットマンを使ったとしか思えないだろ?」
「その書き込み元を辿れなかったの?」
「さぁ、警察が調べたのかどうかは解らないな」
僕の疑問に勇治が答えた直後、スマホが着信を告げる。
「まさかね」
思わず呟いた。
勇治の緊張した面持ちが、僕の動作をぎこちなくさせる。
スマホを落としそうになった。
着信は母からだった。通話を許可すると、悲しみの洪水が耳を襲う。
「しゅ、舜一ぃ~、しゅ、舜一ぃ~、」
それは、冷静さを失った叫びで、僕の心を締め付けた。その先の展開を予想できるのが、限りなく嫌だった。
「あの人が、あの人が、死んでしまったよぉぉ」
僕は、母の台詞を想定していたが、彼女の取り乱し様にはショックを受けた。
とは言え、今は考えるより先に行動するしかない。
「すぐに帰る」
僕は、母との通話を切り、帰り支度をする。
「ごめん、急用」
「解った。気を付けてね」
僕の言葉に反応したのは、事情が飲み込めていない綾香で、勇治は無言だった。
僕と同様に、勇治も責任を感じているのだろうか?
僕は、教師に説明をしに行った後、家路についた。
僕は、帰り道の足取りが重かった。自分がバットマンを使った事が原因では無いと思いたかったが、偶然とは考えられない。勇治や綾香には、後で口止めをする必要があった。
勿論、アプリを使っただけなので、罪に問われる事はないが、もし母の耳に入ったら面倒な事になる。
僕の行為に成政の死との因果関係が無くとも、藁人形に五寸釘を打ち込んだ様な印象を持たれるだろう。
ふと僕は、警察官の伯父を思い出す。実の父方の人で、親しくして貰っていた。
伯父に聞けば、他殺か否かが解るかも知れない。
「あっ、伯父さん、僕だけど……」
「マサさんの事か?」
伯父は僕の用件を察していたようで、これで他殺の線が濃くなった。
勿論、それも気になるが、伯父が気軽に放った「マサさん」も気になる。何時の間に親しくなったのだろう? 伯父の蟹江敬二は強面の刑事で、僕は秘かに平家蟹とあだ名を付けていた。強面同士引き合うのか?
それはそうと、成政は母とはラブラブで平家蟹とも親しく、勇治も手なずけていた。僕は、自分の偏見が強すぎた気がしていた。あの行為が極悪に思えて来る。
気を取り直し、伯父に事情を聞く。
「亡くなった原因をはなせる?」
「どうせ後で解る事だから話すが、誰かに鈍器で殴られたのが死因だ。犯人は必ず捕まえる。気を落とすなよ」
「この学校にバットマンの被害者が居るのかい?」
「佐藤美咲の事件を知らねぇ?」
勇治の言う事件は、僕も知っていた。帰宅中の女子学生が顔面を潰された悲惨な事件で、クラスは違うが同学年の訃報にショックを受けた。
「綾香は美咲と友達だったよな」
勇治の振りに、綾香は頷いた。彼女としてはトラウマになっている事件なので、複雑な表情をしている。
僕は、綾香が落ち込んでいる姿を思い出し、胸が痛んだ。大切な人を奪われる喪失感は、近親者の死で経験している。
「じゃ、美咲はバットマンに殺されたのか?」
僕の質問に勇治は真剣に答えた。
「噂ではな。うちの学校の裏サイト、あっ、斎藤先生は関係ないぞ」
勇治が僕をからかう。
「それくらい知っているよ!」
「いや、舜一は疎いからな」
僕は、勇治が悪のりし過ぎだと思っていた。先ほどの敬語が嘘のよう。だが、それは勇治も実際の所はバットマンを信じていない事を意味している。おそらく、自分が対象になるのが気味悪いだけだったのだろう。
「勇治、それで裏サイトウがどうした?」
「ああ、裏サイトに事件が起きる三日前に予告が有ったんだ。掲示板に三日後に美咲の顔を壊す。そんな書き込みがあった。それで、凶器は鈍器による殴打だろ。バットマンを使ったとしか思えないだろ?」
「その書き込み元を辿れなかったの?」
「さぁ、警察が調べたのかどうかは解らないな」
僕の疑問に勇治が答えた直後、スマホが着信を告げる。
「まさかね」
思わず呟いた。
勇治の緊張した面持ちが、僕の動作をぎこちなくさせる。
スマホを落としそうになった。
着信は母からだった。通話を許可すると、悲しみの洪水が耳を襲う。
「しゅ、舜一ぃ~、しゅ、舜一ぃ~、」
それは、冷静さを失った叫びで、僕の心を締め付けた。その先の展開を予想できるのが、限りなく嫌だった。
「あの人が、あの人が、死んでしまったよぉぉ」
僕は、母の台詞を想定していたが、彼女の取り乱し様にはショックを受けた。
とは言え、今は考えるより先に行動するしかない。
「すぐに帰る」
僕は、母との通話を切り、帰り支度をする。
「ごめん、急用」
「解った。気を付けてね」
僕の言葉に反応したのは、事情が飲み込めていない綾香で、勇治は無言だった。
僕と同様に、勇治も責任を感じているのだろうか?
僕は、教師に説明をしに行った後、家路についた。
僕は、帰り道の足取りが重かった。自分がバットマンを使った事が原因では無いと思いたかったが、偶然とは考えられない。勇治や綾香には、後で口止めをする必要があった。
勿論、アプリを使っただけなので、罪に問われる事はないが、もし母の耳に入ったら面倒な事になる。
僕の行為に成政の死との因果関係が無くとも、藁人形に五寸釘を打ち込んだ様な印象を持たれるだろう。
ふと僕は、警察官の伯父を思い出す。実の父方の人で、親しくして貰っていた。
伯父に聞けば、他殺か否かが解るかも知れない。
「あっ、伯父さん、僕だけど……」
「マサさんの事か?」
伯父は僕の用件を察していたようで、これで他殺の線が濃くなった。
勿論、それも気になるが、伯父が気軽に放った「マサさん」も気になる。何時の間に親しくなったのだろう? 伯父の蟹江敬二は強面の刑事で、僕は秘かに平家蟹とあだ名を付けていた。強面同士引き合うのか?
それはそうと、成政は母とはラブラブで平家蟹とも親しく、勇治も手なずけていた。僕は、自分の偏見が強すぎた気がしていた。あの行為が極悪に思えて来る。
気を取り直し、伯父に事情を聞く。
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