ダークイースター

仲神舜一の場合

☆16

　明らかにヤバそうな事務所へ、綾香は突撃する。
　しかも、屋号が燦然と輝く扉から、パンチパーマが出て来る。

　パンチは、襟つきの赤いシャツに豹柄の上着を着ていて、ピ○太郎でないとしたら、危険人物だと言う事になる。目付きが鋭いので、オコ太郎としよう。

　そもそも、オコ太郎は本質が優しい筈で、何故なら、自然界に置いて毒のある危険な生物は、派手な色で近付くなと警告する。それは、相手に対する優しさであろう。その優しさを無視するのは愚か者と言える。

　さて、愚か者の美少女とオコ太郎は、このままでは廊下で擦れ違ってしまう。
　僕には、綾香を制御する方法がなかった。彼女にリード線でも付いていれば良いのだが、人権上も物理的にも無理だった。
　そもそも、綾香の度胸の良さには感心する。いや、彼女の場合は何かが欠けていると思った方が良いのだろう。そうでなければ説明がつかない。

　さて、僕が戸惑っている間にも、綾香は臆せずオコ太郎に声をかける。

「あの、五十嵐亮太さんはいらっしゃいますか？」

　オコ太郎は、四十五度の角度が付いた色眼鏡をずらし、綾香を確認する。底辺が長い三角形の様な目が、鋭く光っている。
　僕は、声には出せないので、心の中で突っ込みを入れる。おいおい、女子学生を脅してどうする。どんなメリットが期待できる。

　さて、オコ太郎は意外に甲高い声で綾香に返事をした。

「オヤジに何か用か？ お嬢ちゃんは誰？」

　オコ太郎の問いに、綾香も応える。

「あっ、ご子息でいらっしゃる？ 私は姫岡綾香と申します。お父様のご著書の件で参りました」

　ソバカスの残る色白の顔が、満面の笑みを湛える。
　僕は、ちょっと目眩がしていた。